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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第1部 第5章

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137 迫る気配

 外に出ると何かが焦げているようなにおいが鼻を刺激した。


 カレンが生け垣の角を曲がると目の前に黒っぽい空艇が現れた。出入り口があったと思われるあたりにぽっかりと穴があいて、見るも無残な姿をさらけ出していた。

 周辺に散乱している残骸を踏まないように注意して歩く。


 カイルは船の近くにいた人たちと話をしたあと、こちらを向いて合図するなり先に進んだ。船の乗員と思われる作用者たちが続き、一行はかなりの人数になった。


 ジャンは、衝撃銃を軽く振って合図した。カレンはおとなしく乗員に続いて歩き始める。背後から、ジャンとソフィーの土を踏みしめる音が響いた。


 建物から離れたところですばやく振り返ると、建物の向こう側に灰色の空艇が降下してくるのが見えた。その背後から白い空艇が急に現れ、攻撃を加える光景に体がビクッと震えた。


 ジャンに背中を押されよろめきながらも、建物のこちら側に回り込んだ船から三人ほどが飛び降りたのを確認する。

 そのあとは前を向いて早足で歩くようにした。


 いくらも進まないうちに、背後から爆発音が聞こえる。慌てて振り返ると、カイルの船から黒煙が上がっているのが見えた。

 アレックスの船ではなかったことに安堵(あんど)の胸をなで下ろす。


 しばらくすると、後ろからザナとクリスが追ってくるのを感じた。アレックスは、シャーリンとメイのところに残ったようだ。彼女たちは大丈夫かしら?


 一瞬だけ振り返って、小声で何やら話をしているソフィーとジャンを見る。遮へい者がいないからジャンには追跡者のことがすぐわかってしまう。どうしよう?




 カレンは歩調を少し緩めると、ジャンとソフィーの間に入った。

 ソフィーがうさんくさそうにこちらを見つめる。

 ジャンのほうを向いて話しかける。


「あの強制者は誰ですか?」


 答えはなく、銃の先端で背中を押された。


「カイルはどこの国の人?」


 当然、答えはなかった。


「あなたたちも、彼の支配下にあって話は禁じられているのね」


 ジャンがこちらをちらっと見たのを目の隅で捉えた。話を続ける。


「つまり、彼の言いなりってわけね。あなたたちふたりは、あの人たちとは雰囲気が違うわね。雇われたの?」


 突如、ソフィーから反応があった。


「どうして、そう思うんだい?」


 カレンはソフィーのほうに顔を向けた。


「ここには、強制者がいて対抗者はいない。つまり、強制者の影響を排除できない」

「なるほど。まあ、あたしたちはそんなことは思ってもいないけどね」


 カレンはソフィーの顔色をうかがった。話をするのはジャンだと思っていたけれど、ソフィーのほうなのかも。




「わかってないわね、カレン。強制者が誰も彼も支配下に置くと思ったら大間違いよ。そんなことをしても、ただの力のむだ使い。それに、いざという時にはまったく役に立たないから、力を使う理由がない」

「でも、頭の中に埋め込まれているかもしれない。アリシアを襲った時のように。あなたたちも」

「それはないだろ」


 突然ジャンが会話に参加した。


「カイルは助けを借りてたしな」


 ああ、そういうこと。どうやら誰にでも簡単にできることではないらしい。きっとイオナの手助けでカイルがダンに指令を埋め込んだ。ザナがイオナだと確信を持っていたのにはちゃんと理由があった。


 前を向くと、カイルが立ち止まってこちらを見ているのに気がついた。


「何をやってる? もっと早く歩け。すぐに船が来る」


 慌てて振り返ったが、どちらの船も視界に入らなかった。大丈夫かしら。あの白いのはイオナの船だわ。大型のわりには動きが速く、アレックスの船は苦戦しているようだった。やられていなければいいけれど。


 首を回して前方を見ると、ずっと先のほうにふたり見えた。

 イオナとクレア。ふたりは尾根の近くの平坦な場所に近づいていた。



***



 少し下りになった。この谷を抜けてその先を少し上ると尾根に着く。たぶんあそこが国境。イオナたちはすでに到着してこちらを待っている。

 後ろからザナたちが急速に近づいてくるのを感じた。どうするつもりなのだろう?


 突然、ジャンが声を上げた。


「後ろからふたり追ってきます」


 カイルは立ち止まると三人が追いつくのを待った。


「どんなやつだ?」

「対抗者に防御者」

「対抗者か。ほっとけ。追いつかれる前に尾根まで行く。急げ」


 その時、ザナからファセシグの高まりを感じた。横目でジャンを見る。すぐに反応があった。


「破壊!」


 カイルがすぐに問いただす。


「なに? どっちだ?」

「対抗者のほう」


 カイルがうなり声を上げた。

 突然、気づいた。この人、ザナと同じ組み合わせ。


「やっかいなことになったな。もういい。防御に専念しろ。ソフィー、何とかしろ」


 ソフィーは肩をすくめると後ろを向いた。ほかの人たちが集まってきた。

 こちらは谷底にいる。ザナとクリスはもうすぐ見えてくるはずだ。ザナは破壊力を使うつもりらしい。


 あたりを見回す。ここは草原で隠れられるような場所がまるでない。それでも、作用力の応酬が始まったらすぐに逃げるのがよさそう。

 ザナとクリスもそれを期待しているはず。


 少なくともジャンが持っているのはただの衝撃銃だ。何とかなるかもしれない。

 カイルはまた力を使うだろうけど、クリスは遠距離なら楽に防げるはず。




 もう一度振り返ると今度は、ザナとクリスが丘の上に見えた。ふたりは立ち止まるとさっとしゃがみ込んだ。すぐに、ソフィーと何人かが攻撃を始める。


 カレンは少しずつ後退する。

 どうするつもりなの? まだ、どちらも破壊作用は使っていない。


 いきなり、カイルからシグが押し寄せてきた。手を振っただけに見えたが、ザナたちの手前で空気が一瞬光り、ついで霞がかかったように曇った。


 視界が晴れると、斜面の一部がえぐられているのが見えた。そこに向かって斜面の土がどっと崩れていく。

 防御を破れなくても足元は崩せる。


 次の瞬間、ザナが何かを持ち上げるのが見えた。

 すぐに悟った。ザナは物理的な攻撃をするつもりだ。そうすれば、防御を貫ける。


 カレンは走り出した。

 すぐに後ろから声が上がる。思わず、横に飛んで地面に伏せたが、足に痛みを感じた。せっかく治ってきたところだったのに。


 かわしきれなかったらしい。熱を受けて少しただれた足首を押さえて、そのまま地面にはいつくばる。

 後ろで、銃の発射音が何度か響き渡った。続いて悲鳴が聞こえる。


「防御に集中しろ」


 怒鳴り声に続いて、別の射撃音が聞こえた。ここはなぜか妙に音が響き渡る。

 体を起こすと、密集隊形のままかがむ一団と、丘の上から見下ろすザナが見えた。


 その後ろの空に、白い空艇が急接近してくるのが見える。アレックスの船は見当たらなかった。

 急いで立ち上がり、ザナたちに向かって走る。大声を出す。


「ザナ! 後ろ! クリス!」


 声が届かないのはわかっていた。遠すぎる。

 後ろからも叫び声が聞こえるが、とにかく全力で走った。手を振り回す。気がついて、ふたりとも。


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