127 そういうことか
メイはペンダントを下ろすと、三つをばらばらにして再びテーブルに置いた。
一つはシャーリンに戻され、ミアのペンダントはカレンに渡された。
それを受け取ったカレンが、ペンダントを両手に持って眺めていると、ぼーっと赤く光るのが見えた。
シャーリンは思わず息を呑んだ。全員がカレンの持つペンダントを凝視していた。
「えっ?」
カレンの小さな声が静寂を破った。
「ねえ、カル。それ、もう一度見せて」
ペトラが手を突き出した。
「あ、はい」
カレンは赤く光るペンダントを差し出した。
ペトラが受け取っていろいろな角度から調べているうちに光は消えた。
「そうか、なるほどねえ……」
目が異様にキラキラしている。これは……。
「何がなるほどなんだい?」
ペトラはこちらを向くと、勝ち誇ったような顔を見せた。
「ねえ、シャルはカルのペンダントを見たことないの?」
「カルの? そりゃ知ってるけど、あれはこれとは全然違うよ……」
「カレンもペンダントを持っているんですか?」
メイの上ずった声が割り込んだ。
ペトラはくるっとカレンに向き合うと、手を差し出した。
カレンは一瞬ペトラの顔を見つめたが、右手を服の内側に入れた。もう一度出てきた手には二重リングのペンダントを握りしめていた。
メイが少しがっかりしたような声を出した。
「ああ、それのことなの」
そうだ、カレンのペンダントだ。ロイスに来た時に唯一身につけていたもの。
「そうか!」
やたら大声になってしまって自分でもびっくりする。
カレンのペンダントをひと目見たペトラは言い切った。
「やっぱりね」
メイのほうを向いて続ける。
「メイ、何度もすみません。もう一度あなたのを貸してください」
「はい、どうぞ」
ペンダントを受け取ると、すぐ、違う手をこちらに突き出してきた。その手の上に自分のを置く。
ペトラは再びペンダントを合わせて左手で持つと、右手に持ったカレンのリングを端っこにはめ込んだ
「ぴったりだわ」
そうつぶやくと、ついで、反対側にもう一方をはめ込む。
できたペンダントの一体となった塊をカレンに差し出した。
カレンがおそるおそる手を伸ばすと、ペトラがその手をつかんで、ペンダントを手のひらに置いた。それから体を引いて結果を待った。
すぐに、三色の光がそれぞれのペンダントから浮かび上がり、続いてまばゆい白光に包まれた。思わず目を細める。その光はしだいに落ち着いた輝きとなり、ついで模様を変えた。部屋の壁や天井に光が描く絵がうっすらと踊った。
シャーリンは立ち上がると、窓に近づきブラインドを次々と下ろした。夕日が遮られるにつれて部屋の中に描かれた光の模様がはっきりとしてきた。
フィオナとマヤが声もなくポカンと見とれている。そのそばでは、リンがテーブルに足をかけて顔を上に向け、そのしっぽはふるふると動いている。
「すごい。よくできてるわ」
見上げたペトラが感嘆の声を上げた。
カレンはペンダントをゆっくりと回していた。
「そこで止めて」
シャーリンがそう言うとカレンがこちらを見た。
「その状態でそれを立ててみて」
「こう?」
「うん、ほら、そこの右上、あの赤いところがウルブ5、その右下の白い点がこの前行った場所だよ」
ペトラに顔を向ける。
「これで、わかった?」
しかし、ペトラはソファに深く座り直し、黙ったままでいた。何か熱心に考え事をしている。
壁の地図に見入っているカレンを眺めた。やはり、ペンダントは四つで一つだったのか。もっと早く気づくべきだった。
でも、カレンがひとりで地図を出せることはわかったけれど、それは三人でやったことと同じだ。何の意味があるのだろう?
もしかして、別の……。
「ねえ、これ、みんなが前に見た地図と同じなの?」
そう、それだ。
「見たところ、同じようですけど」
メイがそう言ったが自信なさげだった。
「それは、リングをはめたときとそうじゃないときの違いだろ? ペト」
「はずして見ればわかるのじゃないかしら?」
そう言うメイを見てペトラは首を横に振った。
「わたしの推理が正しければ、きっと別の目標点が記されてるはずよ。ねえ、カル、場所を変えて、壁に地図の全体が正しく映るようにして」
皆で椅子の向きを変えるとカレンの両側に集まった。
カレンの肩に手をかけて話す。
「カル、さあ、ゆっくり回して」
「あ、そこで止めて。あそこ、右下に別の白い点がある」
ペトラの声にうなずく。本当だ。きっとこれに違いない。ここはどこだ?
「これは、ウルブとオリエノールの国境付近ですね。ウルブ6から近い……」
メイが考え込むように言った。
ここに、別の家か何かがある? 今度は何だろう?
そうだ、カレンに関連ある場所に違いない。うん、きっとカレンの過去に関係ある何かだ。
いや、まてよ。ケイトの家にカレンの写真があった。ということはあっちで暮らしていたはずだ。いや、そうとも限らない。ああ、よくわからない。むずむずしてきた。
我慢できずに大声を出す。
「今すぐそこに行くべきだ!」
「いま?」
メイが素っ頓狂な声を出した。
「ああ、ごめん。つまり、できるだけ早くってこと」
ほら、やっぱり、カレンが要だった。
「ねえ、クリス、あそこまで空艇で連れていってもらえる?」
「今からかい? シャーリン、今日と明日は難しいな。いま壁の調整に手間取っているんだ。船は全部出払っているはずだ。川のところに分隊を常駐させただろ? ナタリアとザナがいろいろやってくれているが、混成軍から来た連中以外はこういう多国間の連携を取るのは初めてなんだよ」
「ねえ、シャル、これはわたしたちの問題だし、軍はトランサーの相手で忙しいのよ。そっちがもちろん優先すべきこと。わたしたちで何とかすべきだわ」
「ああ、確かに。それで、カル、どうやって行く? 空艇が使えなければ川艇しかないけど。ウィルたちをすぐに帰さなきゃよかったな。ムリンガも預けてしまったし。こりゃ大失敗だ」
「あら、船なら大丈夫よ、父がここに置いていった川艇があるわ」
「そうか。それに、メイの部下もいる」
そう言うと、メイは顔をしかめた。
「あの人たちは部下じゃないの。まあ、彼らはちょっと規律にうるさいけど、ロメルのためなら何でもする。それに、こっちに置き去りにされて暇そうだから、喜んで付き合ってくれると思うわ。ウルブ6に着いたらそこまで車で行く必要があるわね。彼らに手はずを整えてもらいましょ」
「それはすごく助かる」
ペトラの妙に遠慮がちな声がした。
「わたしも行っていい? 部外者だけど」
「ペトが部外者だなんて誰もそんなこと考えてないよ。それに次なる目的地の発見者だし」
「ありがと。でも、明日の仕事がなければ……だけど」
そう言いながら自信なげにクリスを見た。
「ペトラ、残念ながら、明日の昼前に四軍の会議があるんだが。例の、前線の再構成のことで」
大きなため息が聞こえた。
「ああ、そうだったわ。思い出した。とっても残念」
「しかたない。それじゃあ、わたしたちだけで……」
「ちょっと待て。この前、襲われたばかりだから、護衛もなしに出かけるのはだめだ」
クリスが首を横に振った。
「エムが一緒ならいいでしょ?」
「すまない、シャーリン。彼女は参謀室の大事な戦力なので、明日も一日仕事をしてもらいたい」
「うーん。メイの川艇なら、ムリンガと違って目立たないし、やつらがこの目的地を知ってるわけでもない。姿を見せなければ問題ないと思うけど。カレンがいれば誰が来ても事前にわかるし、いざという時はメイに遮へいしてもらえる。わたしだってみんなを守れる。護衛はいなくても大丈夫」
「うちの船には作用者がふたり乗っていますけど。もちろん護衛もしてくれます」
クリスは諦めたように首を振った。
「わかりました。でも、十分に気をつけてくださいよ。また、襲われる可能性がありますから」
「わかった」
あたりを見回してから言う。
「この件はアレックスとザナ以外には口外しないように」
まだ、静かに座ったままのフィオナの肩を叩く。
「フィオナ?」
ビクッとしたフィオナは慌てて立ち上がった。
「かしこまりました」
彼女はマヤの手を引き出ていった。
ペトラがクリスに向かって主張した。
「会議がかたづいたら、わたしも行きたい。何とかしてよ、クリス」
クリスはため息をついた。
「わかりました。会議が終わったらあとの処理はエムとディードで何とかしてもらいましょう。ウルブ7からになるので、空艇の件はアレックスとザナに相談してみます」
「お願いね」
「それじゃあ、わたしたちは、これから準備をして今夜にも出発しよう。夜のほうが目立たない。そうすれば、明日の午前中にはあの目的地にたどり着ける」
「わたしは連絡を取ってすぐに準備させてこっちに船を回してもらうわ」
メイはぱっと立ち上がるとパタパタと部屋をあとにした。




