ボツ小説「異世界転生したら人生軽すぎて無双①」
1話「オレも異世界転生デビューしました!」
苛立ち混じりの黒く混濁した気持ち。
「狩石。何度言えば気が済むんだ。本当にお前は薄っぺらい人間だな。中身空っぽで軽すぎだ」
つい先ほど、会社の上司からそう罵られたからだ。
いや、間違ってないよ。オレには何にもない。人見知りで、彼女はおろか友達でさえいない。
フルタイムのパートで出世もなにもなく、ゴールのない単純作業だけの灰色な社会生活。
そして年ももう四十路のオッサンだ。もはや人生詰んでる。
死ね、……そう吐き出したかったが、周囲に良からぬ印象を与えるのは好きではない。
言いたい事も言えない我慢するしかない不満だらけの人生。
孤独死するまで、ずっと灰色なんだろうか……?
こうして気が沈みながら、トボトボと帰宅していた。
突然現れた二つのライトの眩しさと急ブレーキの音。慌てる上司と車が視界に焼き付く。
「うわああ!! 狩石どけえええええ!!!!」
ドンッ!
気付いたら、パトカーや救急車が集まっているところを俯瞰で眺めていた。
「コイツが悪いんだあぁ!!! 俺は悪くねぇ!!!」
「署で詳しく聞こうか」
「は、離せえええええ!!!」
暴れたパワハラ上司が警察を殴った為、取り押さえられて手錠をかけられて連行されていく。
それでも暴れる上司。
これではやつの人生は詰んだも同じ、いい気味だと安らぐ。
ざまぁ……。
すると徐々に地球が遠ざかっていく。太陽も、火星も、木星も。
しまいに太陽系がちっちゃい点になっていったよ。今度は周りの星々が集まっていく。渦を巻く銀河系になっちゃった。今度は銀河系たくさんの景色。
────死ぬってこう言う感じか? 初めて見た。
もはや銀河系たくさんは黒い球。周りに黒い球があちこち。
その黒い球は大小色々で衛星のように周回しているようだ。オレのいた世界は小さい球だったんだな。ちっぽけだ。
周回する黒い球の中心の、ヒビ割れて隙間ボコボコの卵の殻。その中に神殿があった。
「ようこそ。軽い人生のまま死んだあなた。ちょっと異世界転生してみませんか?」
目の前の綺麗な女神様が座して、そんな事を言ってきた。
マジで異世界転生だよ……。夢でも見てんのか?
あるいは全て植物人間になったオレの作り出した夢の世界か?
「あ、心の声聞こえてますからね。大丈夫。ちゃんとトラックに轢かれてバラバラになってますから」
「おい!」
「さておき、そちらの世界でもそういう系の文庫が流行ってるそうだから、説明は要らないと思いますが一つだけ『チート』能力を選んで転生してもらいます」
「チート?」
「分かってるでしょう? どんな敵も打ち倒せたり、多くの美少女にモテたり、自分の思いのままにできるスキルって事です」
テンプレ化したような美味しい話の流れ。甘んじてやってみたい。だが!
「いいのか? その様子だと、色んな人をそんな風に異世界転生させてきたようだが」
「イエーッス!」
明るい笑顔で手をあげる女神様。軽いな。
「オレがチート持って、世界一つをメチャメチャにしちゃっていいのか? 神様として許されるのか?」
女神様は首を振る。
「大丈夫! 大丈夫! 無量大数より多い不可説不可説転より多い数の世界が数多。更にその一つの世界でさえ、無量大数より多い並行世界が存在しています。あなたが歩んできた一筋などたかが知れています。安心してメチャメチャにしていいですよ」
都合が良過ぎるというか、こんなちっぽけな一人の人間だと改めて思い知らされる。
これまで異世界転生した人は多いかもしれない。
それでも並行世界の一つを進んでるだけに過ぎないんだな。
「さてどんなチートを御所望ですか?」
にっこりする女神にオレはある事を告げた。眩い光が全てを覆っていく。
緑生い茂る草原。木々。透き通った水流の川。青々とした空に白い雲。
オレは一人、立っていた。
しかも目の前に町があった。門を通る時、中世にいそうな鎧を纏う兵士に呼び止められたが「そんな丸腰で外を歩くな! さっさと入れ!」と検閲された後、危険がないと認められて町に入れられた。
路地を歩くと、馬車が走り駆け抜ける。人間だけではなく、エルフや獣人まで普通に闊歩している。
建物の看板の文字は知らない字形だったが、なぜか読める。
女神様の粋な計らいなのだろうか、ある程度の知識はすでに頭にインプットされていた。
「まずはギルドで登録か」
木造りの大きな建物。周囲に屈強な人達がいる。鋭い目線が感じられる。
「今日は何かご用ですか?」
潜るとカウンターの女性が業務スマイルでにっこり待ち受けていた。
やはり肩と胸の谷間があらわになった露出度の高い服だ。しかも現実……いや前世の世界より美人の人がここには多い。
「この通り、一般人だが登録してクエストこなしたい」
「かしこまりました。ではお手を」
言われるままに手を差し出すと、女職員の柔らかい手に触れられた。
慣れないスキンシップにドキッとさせられる。
なんか小さい装置に乗せられ、魔法陣が宙に描かれる。次に白紙のカードを手に乗せられる。すると自分の名前と職業とステータス、スキルなどが浮かび上がっていく。
「……重量無効? 見た事ないスキルですね。もしかしてユニークスキルかも?」
「かもな」
それオレが頼んだチートだ。
「ステータスとしては、どうですか?」
「普通ですね。レベル1ですし、初期の職業なのでみんな似たり寄ったりですかね」
「ありがとう」
「あ、それと一人のようですが、仲間は募った方がいいですよ。幸い、この町は初心者の旅人向けですし」
仲間か……。聞くだけでもプレッシャーだ。
前世じゃ、友達いなかった。できても喧嘩別れする。会社の同僚にすら会話はほとんどしない。本当にコミュニケーション苦手なんだ。
それも一重に自分の人生経験に無さによるものだ。
「わ、分かった……」
「ご武運を祈ります」
営業スマイルとは言え、勘違いさせられそうな綺麗な笑顔だ。
ギルドを出て、食堂へ向かう。ちょうど昼になりそうだし、腹減ったし。
幸い、この世界の通貨が数万円分、懐にあった。これも女神様の恩恵様々だ。
「きゃあ────!!」
少女の悲鳴がつんざく。
三人の大男に囲まれて、少女は建物の隙間へと引きずり込まれていく。思わず追いかけていく。
「おい!」
「なんだ、てめぇ!? 見せもんじゃねーぞ!」
一人の大男が握った拳で歩み寄ってくる。二人の男は少女を囲んでニヤニヤこちらを見ている。
バキッと頬を殴られる。
「ん?」
「はぁ? なんで平然としてんだよ?」
今度は腹を殴ってくる。ボスッとする。軽い。
あ、これが重量無効か。
軽い人生を歩むオレにふさわしいと思って適当に望んだけど、これ凄いな。
まるで紙人形に殴られてるみたいに、ぺしぺしだ。
その大男の首を片手で握って持ち上げる。軽い。まるで発泡スチロールを持ち上げてるみたいだ。いやそれ以上に軽いかもしれない。
「は、離せ!! うぐぐぐ……」
「てめぇ!!」「このやろう!!」
二人の大男も殺気立って駆け寄ってくる。掴んでる大男を押し出すように離す。ドンッと二人の大男を薙ぎ倒して三人横たわる。
「く、くそっ! 覚えとれ────!!」
みっともなく敗走する三人の大男。はたからみると滑稽だが、前世じゃそうはいかなかった。ボコボコにされていただろう。これがチートか……。
「ありがとうございます! 礼がしたいでございます!」
ぺこぺこ笑顔でおじぎする少女。銀髪のおかっぱ。くりっと丸い目。肩があらわになっているワンピース。よく見てみれば幼いではないか。
無遠慮に手首を掴まれて引っ張られる。と言うより、引っ張られてあげた。なんか立派な店に入ってしまった。しかし誰もいない。
「ごめんでございます……。ちょっと前にお父さんお母さん亡くなったでございます」
テーブルで飲み物を差し出され、少女改めて幼女はぺこぺこしてくる。
このご時世モンスターとかいるから、よくある事かもしれない。
「礼これくらいしかできないけど、一晩泊まってくださいでございます!」
なんか縋ってきて頭を下げてくる。ちょっと涙目だ。
一人でどうすればいいか分からない状況で、不安いっぱいなんだろうな。こんな冴えない男でも頼りたいんだろう。
「……分かった。その言葉に甘えるよ」
パッと幼女の笑顔が明るくなった。
とは言え、女神様からちょっとインプットされてる分じゃ、その幼女ほど知識面で詳しくはないだろう。利用するようで悪いけど色々教えてもらおう。
「名前はなにでございます?」
「あ、うん……。オレは狩石英蔵だ」
「かるいしええぞー?」
首を傾げる幼女。かわいいな。
「エイゾーでいいよ。エイゾー・カルイシ」
「エエゾー! よろしくでございますっ!!」
無垢な笑顔で、こちらの手を握ってブンブン振る。
「あ、あたしはハレバレ・アカリでございますっ!」
「アカリ……」
こんな四十路オッサンにもったいない幼女……。なぜ親は先に逝った?
「エエゾー兄ちゃん! あたし頑張るでございますっ!!」
「え?」
鏡見たら高校生ぐらいの若々しい青髪のイケメンになってました。
女神様よ。何も頼んでないのにどうもありがとうでございます!
どっか大空で女神様がグッと親指を立てた気がした。
2020年5月11日から書き始めた小説です。
パッとしないなと思って、蔵入りした小説です。供養の意味で投稿しましたー。




