ep9. “殺気”って具体的になんだと思う?……②
辵○流……無明○相翫?
「あんたさ……確かに速いけど……殺気が素直過ぎるぜ」
(なんで?? いったい何をされた?)
先程と同じ攻撃を受けて……またしても硬直してしまう。この闘技場のルールはノックダウン制を採用していない。つまり……硬直した身体に追撃をかける事も可能だ。そして今も……
(なんで??)
刹那の疑問……だが今回も追撃は来ず、硬直が解けた直後も相手は私の前から一歩も動いて居ない??
「……何のつもり??」
「え〜と……もう止めにしねぇ??」
(????……?)
「だから……とりあえず知りたかった事は分かったからもう止めに…」
「馬鹿にするな!!」
今度こそ……正真正銘の全力!! しかも今度は、
「くそ……まじかよ……」
(もう初心者とは思わない!)
今の少ないやり取りから推察するに……少なくとも彼のジョブは魔法職ではない。ならば杖が届く範囲の外から……しかも彼の認識の外からの攻撃なら!!
(スキル “遊戯編集者”!!)
瞬間……私の視界に映る世界が灰色に固定される。そして、私のスキルはイメージした行動に関する経過時間の間だけこの世界から認識されない(ただし発動中は私からも世界を観測出来なくなる)。
このスキル……普通ならお互いの行動が噛み合わず戦闘が成立しなくなる可能性が高い。だが……
(スキルの発動を極短時間に圧縮し、敏捷性特化のビルドと組み合わせれば……相手の認識に映る私は……それこそ“コマが飛んだ”様にしか見えない!!)
スキルを発動した瞬間、私は自分の出せる最大速度まで加速し、彼の残像の背後を捉える!
(殺った!!)
彼の背後を取った刹那、彼が動いていた場合の誤差に備え、斬撃ではなく正中線への刺突を選択してスキルを解除した……
― ヒュンッ! ―
(なっ???)
私は……スキル解除後に戻って来た視界に激しく動揺してしまった。何故なら……
(どうして?? 何で闘技場から消えてるのよ!? そんなの有り得な
― ガンッ ―
…………
………
……
――――――――――
― You Win ! ―
俺の眼前に……気を失って倒れる女剣士の姿と、それに重なって勝利を告げる文字が表示される。
「……勝ったか」
まあ一瞬はヒヤッとしたが……問題なく勝てたのは良かった。これで色々と予測してた事のウラが取れた。この戦いの結果から得た収穫で、とりあえずはこの闘技場に来た意味があっただろ。
― ROUND 2 READY?? ―
って……もう2ラウンド目が始まるのか。流石ゲームだ。インターバル無しとかハードすぎるだろ。
― FIGHT!!! ―
――――――――――
「どういう事なのよ?? 説明してくれるんでしょうね??」
私は、二回の対戦を当たり前みたいに勝利して帰ってきたレンくんに詰め寄ったのだが……
「え〜と……説明しなきゃ駄目か?」
「当然でしょ!」
そりゃあ説明されないと納得出来ない様な事をしたからね!!
「でもなぁ……あれは一応ウチの流派の秘伝というか……」
「その秘伝とやらを“振るう機会”は誰のおかげで出来たのかしら?」
もちろん……彼は私が貸していた対戦料に加えて、対戦相手から支払われる同額の勝利報酬、更に“自分の勝利”に賭けた手持ちコインでかなりの額の配当を受け取った筈だ。私が建て替えたコインくらい簡単に返せるだろう。だが、
「なんの担保も無い君に……コインを用立てた“貸し”は返して貰ってくれてもいいんじゃない?」
「それを言われると弱いな……」
「それ……私が払ってもいい。但し私にも説明してくれるなら」
闘技場のロビーで話してた私達の会話に割り込んできたのは……たった今、彼に敗れてしまった、このコロッセオの序列7位“フレームジャンパー”ことmyurae-@!だった!
「えっと……みいゆらえあっとさん……」
「みんなはミューと呼んでる」
「あ〜、じゃミューさん。俺とあんたはたまたま対戦しただけの赤の他人だろ? その赤の他人にどうして俺が……」
「お金なら払う。それに……」
急に話し掛けられたのも驚いたが……この人、何でこんな片言なのかしら?
「多分さっきの試合……私が申請すれば“不正プログラム使用の疑い”で調査を受ける」
「おいおい……マジかよ?」
彼が当惑してこっちに視線を送ってきたが……確かにあの内容なら調査はあり得る。私は力なく首を横に振った。
「まあ……あれはそういうのじゃなくて本当に“人間が取得出来る術理”なんだが……まあ、いいぜ。そもそもウチの道場じゃ普通に教えてる事だしな」
そう言えば剣術とか古武術をやってるって言ってたわね。確かにG.O.DがVRMMOである以上プレイヤースキルの依存度はかなり高いけど……
「ウソ……それだけで私とのステータス差が埋まるとは思えない」
「うーん……そいつは……って、詳しい話の前にちょっと落ち着ける場所に移らねえか? ここはどうも落ち着かねぇわ」
彼の言葉に、改て周囲を伺うと……
「確かに……これじゃあ落ち着かないわね」
ロビーに居た観客や対戦待ちのプレイヤーが……あからさまにこちらを注視している。
「OK……私の部屋に来るといい」
――――――――――
「どうぞ、くつろいで」
「お邪魔します……」
俺とフローは……闘技場からルームマスターに与えられる特典の一つ“専用個室”に通され……その豪華な内装に驚きつつ勧められたソファーに座った。
「コーヒー? 紅茶? 」
「……水でいいよ」
「あっ……あたしは紅茶で!」
凄いなフロー……
「……そう? 遠慮は要らない」
「えっと……御気遣いなく(¯―¯٥)」
何というか……VR世界なのに凄いよな。何が凄いって、飲んだ水の感触や味まで再現されてるのがさ。
「で、早速本題に入るけど……」
「ああ……さっきの試合……何で負けたかが分からないんだな……」
「まず一番最初、どうして私の背後からの攻撃が当たらなかったのか?」
「そりゃあ躱したからさ」
「え〜……でも観戦してた私から見ても全然動いてた様に見えなかったけど??」
フローの感想にミューも頷いた。
「動いてたさ。但し、ほんの僅かに……だけどな。具体的には軽く前後にスタンスを取って後ろにあった重心を前に動かした程度にな」
「……ホントに? そんな素振り、全然見えなかった!!」
フローが受けた驚きと同じく……
「……納得いかない。それに……その後、私が踏み込んだ時受けた攻撃も不可解。君……私の認識だと……確かに動いて無かった」
彼女も釈然としないらしい。
「あ、それは私からは見えてた。あれ……踏み込みの直前にレンくんが投げ上げた杖が当たったのよ」
「ウソ?! そんな動き見逃す筈ない!」
「そりゃ、あんなブレブレの視線から隠すのくらい訳ないさ」
「それ本気で言ってるの? じゃあ彼女は杖が上に投げられた事自体見えて無かった?」
「その通り。ついでに言うと二回目の打撃も同じ」
あまりにも単純な俺の説明に……彼女は目を白黒させている。
「確かに二回目は背後に居たから見えなくても当然、だけど……振り向いた時の斬撃が全く届いてなかったのは何故? それに……二回とも上に投げ上げただけならどうして動いてる私の頭に当たった?」
そりゃあ当事者の彼女には解らなくて当然だろうな。まあ観戦してたフローには一目瞭然だろうが……俺はフローに目配せをして話してくれる様に促した。多分第三者の視点の方が分かりやすいだろう。
「あー……間合いの件は私にも分かるよ。あれはね……レンくが首筋に杖を当ててた様に感じたろうけど、本当は杖の先がミューさんの肩に置かれて……反対側をレンくんが伸ばした足で支えてただけなんだ」
「で……あとは簡単、あんたが振り向く直前に足先に乗ってた杖の重心部分(端に向かって太くなってる部分)を蹴り上げてやれば一回転した後に頭頂部に激突するって寸法だよ。これなら俺が遠くにいたのは当然だって分かるだろ?」
ほらな、俺がやったのはちょっとしたトリックでそんな大した事じゃない。
「……理屈は分かる。でも……一番大事な質問に答えてない。そう……どうして私が行動した先に杖が落ちて来たのかが解らない」
……やっぱり気になるか……まあ当たり前だよな。
「そりゃあ最初に言ったよ『あんたの殺気は素直過ぎる』って」
おい……そんな怖い顔すんなって。
「じゃあ逆に質問するけどな……俺みたいな武術関連の人間がよく口にする“殺気”って奴だが……殺気って具体的になんだと思う??」
「それは……相手に攻撃する時の雰囲気っていうか……??」
俺からの質問を聞いたミューさんとフローは、改て聞かれた内容に考えこんでしまった。
「まあ、そんな難しく考えなくてもいいよ。簡単に言えばフローが言った雰囲気ってのは間違いでもないからな」
「ちょっと待って……そんなあやふやな答えじゃ納得出来ない!」
「つまりさ……殺気ってのは『生き物が攻撃体制に入る時に無意識に現れる身体的行動』なんだ」
俺の言葉を聞いた二人の……頭の上にハテナマークが浮かんで見えるな。
「もっと具体的に言うと……相手に踏み込もうとする重心、身体に現れる筋肉の緊張と弛緩、視線の向きや手足の場所……もっと細かく言えば……闘争心を引き出すアドレナリンや昂ぶった気持ちを落ち着けようと働くセロトニンなんかの神経伝達物質が醸し出す臭いまで……ありとあらゆる攻撃的サインの事をまとめて“殺気”って呼んでるのさ」
俺の説明に……二人は目を丸くして無言になっている。そして……何故かミューがぷるぷると震えだして……??
「つまり……」
「そう……つまり、」
「私が臭いってこと?」
いや、そうじゃねえよ!!
もしも……もしも気に入ってもらえたなら!!
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