ep24. 正義は強者の理屈……②
「あー……なんだ、仲良くしろとは言わねぇけどさ……今は止めてくれよ? なっ? えっと……名前なんだっけ? キューイさん?」
「お前ら……ワザとか? そんなに俺のプライドを逆撫でして楽しいか??」
そんなつもりは毛頭ないんだが……だいたい、わざわざ撫でなくても端から逆だってるしな。とはいえ……
「撫でてない。そんな硬そうな毛皮は、こっちからのーさんきゅー」
「き・さ・ま!!」
俺も悪かったが……ミューもちょっと調子に乗りすぎだな。
このまま彼女が暴れてミューとの接触が断たれてしまえば、“遊戯編集者”が構築しているこの“灰色の世界”から弾き出されてしまうだろう。相手の位置も分からないフロアへ無防備なままに……だ。
正体も目的も分からないが……あの女が何者であったとしても、ギルドの酒場に危険物を投げ込んだのは間違い無い。そんなところに無防備な彼女が現れたら……そのまま無事で居られる可能性はかなり低いだろう。
しかも……俺達の至近にいた彼女が健在だとしたら、その事実から俺達の生存までバレてしまうかも知れない。今のところ広範囲攻撃への対抗策がミューの“遊戯編集者”しかない俺達にとって……それは甚だまずい。
「分かった。分かったから今は暴れるのを止めてくれ。でないと、無防備なまま爆弾抱えたプレイヤーキラーの前に戻る事になるぞ? あんただってそんなのは困んだろ?」
俺の忠告で元のフロアで起こった事を思い出したのだろう。元々クール系の美女の顔が……目に見えて青ざめた。
「クソ!! せめて尻尾を踏むのはやめろ!! それと……俺の名はエブリンだ。覚えておけ!!」
「最初からそう言えば良い……さあ……お姉サンがおててを繋いであげる」
― ビキビキビキッ ―
……勘弁してくれ。
「おい……マジでそれくらいにしとけよ?」
一瞬だが……二人を見る視線に殺気を込めてやる。
「「わ……分かった」」
流石に俺が本気で言ってると理解したのか……今度こそ二人はいがみ合いをやめて大人しくなった。
「まったく……二人とも俺より年上なんだろうに──しっかりしてくれよな。で、ミューに聞きたいんだが……ココから離脱するまでスキルを保たせる事は出来そうか?」
「スキルの持続時間? コストは嵩むけど可能……だけど離脱するのは無理」
「……?? なんでだ?」
「スキルの発動中、オブジェクトには干渉不可能だから。当然エレベーターも動かせないし……非常階段を使いたくてもドアが開けられない」
なんてこった……
「仕方ねえ……全員でカウンターの裏に隠れるぞ?」
――――――――――
カウンターの裏に身を潜めた俺達は、ひとまずミューのスキルの影響下から元の空間へと戻った。
相当な威力の爆発があったんだろう。カウンターは爆片に晒されてボロボロ。フロアに居たギルドマスター達が俺達に気付かなかったのは……単に運が良かっただけだな。
俺達は無言のままカウンターに開いた穴から身を隠し……そっとフロアの様子を伺った。
西武開拓時代のバーを模したフロアは、爆発の影響でテーブルや椅子は吹き飛び、あちこちが焼け焦げている。
(そこかしこに積み上がっているコインとアイテムの山は……フロアに居たプレイヤーの成れの果てって奴か。それに……)
「馬鹿な! 賭け屋は何を考えている? 彼は我々の《システム》には相当の資金を注ぎ込んでいる筈だぞ? それを回収もせずに……洗濯物を放置すると言うのか?」
「そんなのは俺の知ったこっちゃねえよ。それに……ダムが命じられたのは、あのルーキーを“どんな犠牲を払ってもPKしろ”って事と……お前にソレを渡せって事だけだそうだ」
半ば予想していた事だが……あの厄介な殺し屋が、耐爆ドレスの女とここのマスターと話していた。
耐爆ドレスを着た女が、薄いケースみたいな物をギルドマスターに手渡す。と、即座にケースを開いたドクタース◯レンジは……中に入っていた手紙らしき物に目を通している。
― ピロリン ―
と、唐突に俺の頭にシステムからの音声案内が鳴り響く。視界の端に浮かぶメッセージ……
『緊急度:中 モニター対象〔藤堂凛〕→数値異常検出。要状態確認!』
――――――――――
「えっ……」
突然だった。ボロボロのカウンターの後ろで息を潜めていた男が……その場から立ち上がったのは。
当然、フロアに立つ三人の視線は即座に男の姿を捉える。その反応は……
「な……何故生きている??」
「おう、やっぱり生きてやがったか。お前がアレで死んだとは思えなかったが……まさか無傷だとはな?」
マスターと……そのマスターが管理する幹部専用室に訪れていた陰気な男がそれぞれの反応を示す中……
「……………………」
あの耐爆ドレスの女だけが無言で動いた。
― ガチャ ―
両手に持った大口径自動拳銃をミューの仲間に向け、狂った様に連続でトリガーを引き絞る女……
― ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ………… ―
この世界の銃火器の弾薬は爆発魔法を付与した炸薬を封入した薬莢に、用途に合わせた素材を加工した弾頭をセットするのがオーソドックスな製法だ。
自然、発射台たる拳銃は爆発魔法を抑え込む強度を持った金属で製作される。つまり、強力な炸薬を使うほど巨大になるか……もしくは超高額なファンタジー金属を大量に使用して製作する事になる。
カウンターの隙間から見えた女の銃は……巨大な上に金と黒?!
(最悪だ! 全身防爆装備にオリハルコンとアダマンタイトの二丁拳銃?! 間違いねぇ! あいつ……“爆弾貴婦人”だ!!)
― ズガッ ズガッ ズガッ ……… ―
この世界でも有数の高火力個人装備から放たれる弾丸が、削岩機を思わせる着弾音を響かせる度に……
俺達が隠れているカウンターに、マッチョの腕が入りそうなトンネルが量産されてゆく。
「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜?!?!」」
俺とミューは、カウンターの中で更に低く身を伏せ、大砲の様な破壊力の弾丸をやり過ごす。
もう少し広い場所でなら弾丸に当たらない自信はあるが……こんな場所では加速する前に撃ち落とされてしまうかもしれない。フレームジャンパーのスキルなら退避は出来るだろうが……結局この場から逃げられない。
「おい!! お前も伏せろ!!」
俺は夢中で男に怒鳴る。が、横目に見える男は……何を思っているのか棒立ちのままだ??
(駄目だ! この男がどれほどシビアな戦闘技術とメンタルを持っているとしても……大口径拳銃の斉射を真正面から受けて耐えられるDEFやスキルなど持っているハズがない!)
― カシィンッ ―
― カシィンッ ―
“爆弾貴婦人”の手の中で……全ての弾丸を打ちつくした銃のスライドがオープン状態でホールドされる。
(……………??)
俺は……立ち尽くす男が、今にもその身体をコインとアイテムに変えて崩れ去ると思った。もし……万が一デスペナルティを回避出来たてしても、瀕死のダメージを喰らったのは間違い無いと……だが……
「………はぁ?」
男は……ほとんど崩れ去ったカウンターを蹴散らしながらフロアへと進み出た。
しかも……無傷で???
「……事情が変わった。大人しく帰ってやる。だから……俺に構うな。もし余計な事をしたら……次の警告は無いぞ?」
警告? 警告って……???
その時、ミューと俺だけじゃなく……マスターと陰気な男を含めた四人が初めて気付いた。
ホールドアップした両手の拳銃を震わせる爆弾貴婦人の姿に。
(なっ???……なんで?!? なんで爆弾貴婦人のマスクにあいつのスローイングナイフが刺さってんだよ? しかも……また両目に?? あいつ……人間の急所を狙うのに躊躇いが無さすぎるだろ!!!)
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