皇室会議(3)
皇室会議の主題の内二つである、第四代皇帝陛下と今上皇帝陛下の対面と、皇太子の治定は終わったが、もう一つ、この皇室会議には主題が設定されていた。
即ち、
「私はセヴァストポーリ・ノ・ウォロディミローヴナ・レイと申します。
隣は夫のサンドル、後ろに控えておりますのは私共の子で、右から順にエリーナ、ケイジ、ニコールと申します」
「あいっ、わたち、ナディーヤ・ワカコよっ」
「あああありがたやありがたや……」
という様な、核家族単位での各皇族との謁見である。
皇室の藩屏である皇族は、当然乍ら篤い(熱い)皇室の信奉者でもあり、特にムリーヤ国初期の皇帝に対する態度は、いっそ神格化のそれに近い。
そこに、いきなり実物が現れればどうなるか、というのを如実に物語る光景が繰り広げられていた。
これは酷い、と彗依と美雪は内心思っていたが(実際酷い)、一応表出させることはなく、穏便に、ナディーヤ・ワカコ陛下の後見人としてその場に立ち会っていた。
機嫌を悪くすることなくニコニコと、次々に入れ替わり立ち替わり謁見する者らに、元気良く挨拶するナディに、皇族の人々は額ずいて有り難がって辞去していく。
それは謁見を口実にした、次の皇太子に治定された彗依と美雪との、次の皇帝の藩屏となるべき皇族との顔合わせでもあったので、二人は休むことなくそれに付き合って、顔と名前、家族構成を覚えねばならなかった。
その数、凡そ一〇〇〇家。
これだけの皇族が居て、「正式な皇位継承権を持つ皇族」の数が細るのは、一種の才覚だ、というのが二人の感想だった。
果たしてその永遠にも思える引見の連続が、ようやっと終わりを迎えたのは、昼食休憩・三時の休憩を挟んだ、「こすもす」標準時の夕暮れ時の事だった。
最後に三人を訪ったのは、京都からやって来た泰時と里伽子率いる都鴇宮家一党だったので、ナディの元々良かった機嫌は天元を突破して、
「バーバ! ジージ! ネーネ!」
と、彗依と美雪が制止する間も無く、それまで大人しくしていたのが嘘の様に駆け出して、一番近かった里伽子に飛び付いたものだから、これには一同仰天することになった。
三歳の幼児のすることだから仕方が無いとも言えたが、万一危険人物だったらどうするのか、ちゃんと彗依と美雪がうんと言ってからにしなさい、と教え諭した泰時と里伽子に対し、ナディは不思議そうに、
「ジージとバーバとネーネよ?」
と今一通じていない様子だったので、これはもっと周囲が気を遣ってやらねば(使命感)、と居合わせた全員が危機感を覚えた。
そんなハプニングはあれど、これで公式の主題は全て終えたので、では親族一同、「こすもす」議会議事堂食堂で夕食を、となった。
最も近しい親族となる都鴇宮家一同との親交を深めるのに、彗依と美雪も否やは無かった。
無かったが、係の者に案内された議事堂の食堂に、その親族として、最初の対面と皇太子治定宣言以降出番の無かった今上皇帝御夫妻が臨席していたのは、流石にその不意討ちは狡くないか!? と思った。
尤もそれは、最初に家族写真で奇襲攻撃したのは自分達の側なのを、完全に棚に上げた思いだった。
因果応報だったと言えるだろう。
「このクソ兄貴、何しに来た!?」
「何、ちょっと甥っ子一家との親交を深めにだな……」
「か、帰れー! 皇帝ともあろう者がそう簡単にウロチョロ他所様の家族団欒に首突っ込むな!」
「そんな殺生な、俺とお前の仲だろう」
泰時と口論している今上皇帝陛下を放っぽり出し、今上皇后殿下が里伽子に抱き上げられたナディに、優雅に一礼して、
「二度目まして、第四代皇帝陛下。今上皇帝陛下の后、ナジェージダと申します。貴方様のパーパの伯母です」
「う? 大伯母ちゃま?」
三歳にして続柄という概念を理解している様子のナディが、今上皇后殿下をそう呼ぶと、
「はい、左様でございます」
と、目を細めて穏やかに微笑んだ。




