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今世の両親(6)

 場を収めるためとは言えども、些か直截に過ぎる惚気を宣って、ナディだけが、


「きゃー!」


 とはしゃいでいるという、少々気まずい空気が流れたところで、一同の中から、


『ず、ズルい!』


 という声が上がった。


『こら、亜矢!』


 咎める声を上げたのは、画面の向こうに控えていた親族一同の、初老の女性だったが、声の主は制止に従わず、


『だって、だって、私だってお(にい)のこと好きなのに!

 あんなにカッコ良く「好き」だなんて言い切れないもん!

 こんな人に、勝てるわけないじゃん!』


 と叫んだのは、活発なのかよく日焼けした浅黒い肌の、吊り目に涙を浮かべたボブカットの少女だった。歳の頃は、中学校ぐらいだろうか。

 多分、童顔の自覚がある美雪より、更に二、三歳ぐらいは若く見える。


「あら、まあ……」


 一波乱二波乱ぐらいは波風立つかな、とは思っていたが、ちょっと想定していたのとは違う反応だったので、美雪は横目でちらりと彗依を見遣った。

 彼はバツが悪そうに、


「いや、お前のことは妹としか見とらんし、好きとか言われても「断る」って前から言ってるだろ」

『もっと断り方ってもんがあるでしょ!?

 いっつも素気無いの!

 お兄のアホ、ボケ、朴念仁!』


 どこからどう見ても兄妹喧嘩のそれが微笑ましくて、つい美雪は口を挟んでしまった。


「貴女、お名前は何と仰るの?」

『えっ……、あ、あの、瀬戸・亜矢、です……』

「母方の又従妹だ。中学二年生」


 彗依がそう補足したのに頷いて、美雪は亜矢という少女に語り掛けた。


「亜矢さん、とお呼びしても?」

『は、はい、大丈夫です』


 事の成り行きを周囲がハラハラと見守る中で、美雪は穏やかに述べる。


「殿下はとっても素敵な男性ですから、この方に惹かれる気持ちというのは、大変良く分かります。

 私の見る所、貴女はきっと、二、三年後、私と同じ歳にもなれば、殿下も思わず振り向くような女性に成長することと思います。

 それまで、その心を真っ直ぐ、大切に磨き上げて、自分が見ている世界を広げて、それでもどうしても諦めがつかないようなら、その気持ちを率直に、伝えに来てください。

 きっとまた、違う答えが出ると思いますよ?」

「おい、俺はお前一筋なんだが」


 彗依の抗議を華麗にスルーして、美雪は続ける。


「勿論、殿下が私を想ってくださるお気持ちも、私が殿下を想う気持ちも、揺らぐとは微塵も思っておりませんけれど、その頃には殿下との間に子供が生まれていて、もしかしたら私は出産時に儚くなっているかもしれないでしょう?

 その時、殿下をお支えする女性が居たら、とても心強いと思うのです。

 もし、私が儚くなった時、その後を託すのなら、私は亜矢さんのような、真っ直ぐで、純粋な気持ちで殿下をお慕い申し上げている方が良いと思いました。

 ですから、殿下もどうか、素気無く間口を閉ざさずに、真剣に彼女の話に耳を傾けてあげてください」


 それを言われたら、反論する術が無いじゃないか、と彗依は絶句した。

 自分が今現在の彼女を想っているのに対し、彼女は自身が死んでいるかもしれない未来の自分(彗依)のことも考慮に入れて、その時傍に侍っているべき人材をリクルートしようとしているのだ。

 その考えが相手の意に沿っているかは置いといて、昨日今日再会したばかりの彼女が、早くも自分が死んだ場合の事を考えていることが、彗依は衝撃だった。


「それに、」


 と続けられた言葉の方は、もっと衝撃的だった。


「女が産める子供の数は限りがありますけれども、殿方が作れる子供の数は、限りないでしょう?

 私、子供は野球チームを二つ作って対抗戦が出来るぐらい欲しいのですけれど、現代医学でも流石にそれは無理難題ですから、そこは殿下と他の方にも協力してもらおうかと思っているのです。

 殿下の血を引く御子なら、分け隔てなく愛せる自信がありますし、その方が効率的に皇族を増やせますでしょう?

 ね、ナディ?」

「あいっ」


 飽く迄も本気の本気でそう考えているとしか思えない、満面の笑みで、よく分からないけれども概ね母の言うことにイエスと言うウーマンと化した娘に同意を求める美雪を、彗依は初めて怖いと思った。


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