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皇紀九九九九年の世界(6)

 それで、と彗依は続ける。


「この娘が行方不明になっている時間と、この娘が体感している時間には結構大きなズレがあるみたいで、数分の行方不明の間に、この娘の主観では数日をこの皇紀九九九九年の世界で過ごしていることが分かった。

 年齢が上がるに連れて、段々とこの娘が未来(現代)に行くことは少なくなっていったし、行き先も分かったから、心配要素は減ったんだが、だからと言って安心って訳じゃないだろう?

 タイムリープ先が遥か未来のお前か俺の近辺に限られてるみたいなのはまだ良い事だけど、必ずしもその時代や場所が安全だとは限らないし」

「ああ……、それで、第三代皇帝に生き写しでその系譜に連なってること以外は、皇統も継承順位も末端も末端の私に、それとなく警護がついてたりした訳ね……。

 変だとは思ったのよ。こっちに干渉もして来ないから、放置してたけど」


 放置していたというか、態々どうこうするだけの気力が萎えていたとも言う。

 まあつまり、皇紀九九九九年頃を生きる、第三代皇帝かその皇配に生き写しの人間の近くに、ほぼ必ず若かりし頃のナディーヤ・ワカコが出現するのだから、その身辺を守っていれば保護し易かったという事だ。


「それだけじゃないけどな」

「そうなの?」

「まあ、今の本題じゃないから、それは一旦横に置いとくが。

 そういう訳で、まあ長い事俺かお前のところを見張ってたら、ナディが今日、俺の目の前に出現したってことだ」

「……それが今日の今日で、貴方とこの娘が同時に、私の前に現れるなんてことある?」


 そう美雪が言えば、彗依はバツが悪そうに目を逸らした。


「あー……」

「何隠してるの? どうせしょうもないことなんでしょう」


 半目になりつつ訊ねると、膝上のナディーヤが顔を上げた。


「マーマ? パーパ、めっ?」

「そうねえ、内容次第ね」

「パーパ、めーよっ」


 ナディーヤ・ワカコがそう言って無邪気にキャッキャと笑うので、美雪の方も思わず破顔した。


「もう……話が全然シリアスにならないわ」

「子供の前でシリアスに話をされても困るんだが」

「それはそうだけれど……それで?

 話を総合すると、今日がこの娘がこの時代に初めてやってきたんだってことは理解るんだけど、それだとこんなにすぐ、私たち三人が一堂に会するなんてこと起きないんじゃないの?」


 大体の経緯は薄々と想像が出来ているが、それは本人が認めない限り、事実ではなく推測に過ぎない。

 それを確かなものにしたくて、美雪は再度質した。


「――……ら、だ」

「聞こえない、もう一回」

「生まれ直したお前があんまり美人なもんで、悪い虫がつかないか心配で、今年になってからずっとお前の近くで暮らしてて、今日もお前を尾行(つけ)てたから、って言ったんだよ!」

「……もしもし、ポリスメン?

 ちょっと男に付き纏われてるんですけど」

「後生だからやめろください」


 ノータイムで腕時計型携帯電話(スマートウォッチ)で緊急通報する素振りを見せると、彗依は深々と頭を下げて懇願したので、美雪は溜飲を下げた。


「まあ?

 そのストーキングのお陰でこんな可愛い可愛い娘に会うことが出来たから?

 それに免じて?

 赦してあげても良いけど?」

「一応これでも皇位継承権上位の皇族なんで、警察沙汰は洒落にならないんで勘弁してください……」

「私も、今も惚れてる男がこんなしょうもないことで捕まるのは、御免蒙るわよ」


 美雪がそう言うと、彼はバッと顔を上げた。


「今、なんて言った?????」

「今も貴方のこと愛してる、って言ったの。

 正直、折角痛い思いして産んだ我が子に苦労させないように帝政廃止させたのを、反故にされたのは腹も立ったし、貴方もこの娘も居ない世界に、生きる意味なんて見出せなかったけど。

 貴方が私の側に居て、この娘と会えるなら、ちゃんと生きても良いって言ってるの。

 理解(わか)った?」


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