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英雄とスライム  作者: ソマリ
英雄編
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3章 第21話N 今度は妖精さんなのじゃ

 クーリオン領主コーバス・ビュルシンク伯爵との話を終えると、執務室から応接室へと場所を変えてしばらく待たされた。幸いにもコーバスが部下に命じて様々な書物などを用意してくれたため、アルトとセレスは充実した待機時間だったようだ。ちなみにダグは静かに目を閉じ、リオは膝の上に自分を乗せて上機嫌である。

 リオの膝の上でコーバスが持ってきた書物をスライムで包み、破損させないように注意しながらページをパラパラとめくる。それによってキューがすべての内容を記憶していることを知り、想定通りと満足げにドヤ顔をする。これで紙等の材料さえあれば書物の複製が可能となったのだ。コーバスの持ってきた書を全てキューに記憶させ終わった頃、応接室のドアがノックされ、使用人がマルクの到着を知らせてくれた。



 コーバスと共に応接室に入ってきたマルクは、真っ白な怪しい集団の中に自分の顔を見つけるなり、挨拶も忘れ固まっていた。


「ナナじゃ。マルクよ、エリーと似ておるじゃろ? わしも最初エリーを見た際は驚いたのじゃ」

「はっ!? こ、これは大変失礼致しました、マルク・ライノ男爵です。娘が大変お世話になったそうで……」

「かかかっ、世話になったのはわしも同じじゃ。ファビアンからの紹介状があるでのう、読んでほしいのじゃ」


 笑顔でマルクに紹介状を手渡しその顔を観察すると、目元など確かにエリーと親子であることを感じさせる顔つきである。

 マルクがファビアンからの紹介状の内容についてコーバスに話すと、コーバスも全面的に協力すると言いだし、マルクが目を見開いて驚いていた。


「コーバス様、どういった心境の変化ですか?」

「ふん……ナナ殿に叱られてな。このような幼き娘に『これ以上悲しみを広げたくない』と言わせてしまった、自分の行動が恥ずかしくて仕方が無いわ」


 流石にここで「幼いのは外見だけで中身はスライムです」なんて空気の読めない発言はできず、リオの膝の上でニコニコしながら、ファビアンの件も丸く収まりそうだと安堵する。


 また門での騒動についてコーバスが責任者を呼び出し、髪の色以前に服装を見ろ、止めていい相手ではないと想像できるだろうと呆れながら叱っていた。どうやらこの格好は、相当な上位貴族に見えるらしいが、自分としては真っ白な怪しい集団という認識しかない。




 その後はマルク邸へと厄介になりながら蔵書をコピーさせてもらったり、アルトとセレスが政治や税収について話を聞いたり、マルクが開いている塾の生徒達と遊んだりと、しばらくのんびり過ごさせてもらった。

 最初こそリオの暗い茶色の頭髪を見て「魔人族がいる」と騒ぐ者もいたのだが、コーバスが王の言葉として魔人族の真実と、ヴァンという憎むべき対象の死を改めて伝え、更にマルクが『自分も魔人族の血を引いている』と公表したことで騒ぎは沈静化した。

 マルク自身が代々闇魔術への適性が高い家系だったらしく、魔人族に関係していることはうすうす気付いていたそうだ。そこでエリーだけではなくマルクにも生命魔術適性があることを話すと、自分の祖先について確信へと至ったらしい。そうなると自分とエリーは遠い親戚と言っても過言ではないかもしれない。




 そうして十日ほどマルク邸に滞在させてもらったところで、クーリオンを離れてアトリオンへと向かう。転移などという味気ないことはせず、はるか上空に飛ばした視点で俯瞰しながら、わっしーで空の旅を楽しむ。

 今後の予定として、世界樹都市アトリオンに仮の拠点を作り、ゲートゴーレムを設置して異界と書物などのやり取りをしつつ、もう一つの候補地を確認しに行くことを提案すると、全員賛成とのことだった。




 世界樹が見えてくると四人ともわっしー前面の窓に張り付き、遙か上空を見上げてぽかーんと口を開けていた。


「あれが、世界樹ですか……なんと巨大な……」

「うぉぉ、てっぺん見えねえぞ……」

「頂点はおよそ20キロメートル上なのじゃ。空気が薄かったのう」

「行ったんだ、姉御……」

「行ったのね、ナナちゃん……」


 リオとセレスにドヤ顔を返して、そろそろアトリオンが見えてくる辺りでわっしーを下ろし、ゴーレム竜車に乗り換えてアトリオンへ向かうことにする。




「世界樹都市アトリオンへようこそ!」


 元気な若い門番に笑顔で挨拶を返し、冒険者登録証を見せる。


「はい、冒険者の……ナナさん、ですね。登録証の書式が変更になっていますので、後ほど冒険者ギルドへ行って、登録証の更新をして下さい。その際お連れの方の冒険者登録もしておくと良いと思います。申し訳ありませんが規則なので、未登録の四名分、金貨四枚の通行税がかかります」

「わかったのじゃ、このあとギルドに向かうとしようかのう。わざわざ丁寧にありがとうなのじゃ」

「こちらこそ、ナナさんがまたアトリオンへいらしてくださって、とても嬉しいです。住民を代表して歓迎します!」


 そう言って笑顔を向けてくる若い門番は、どうやら自分のことを覚えているらしい。話を聞くと両親が衣料品店を経営しており、およそ三年前の世界樹防衛戦の際に売上が激減し潰れかけていたそうだ。それを救ったのが、当時店内に並ぶ服の殆どを買い占めた自分だったという。


「ナナさんが買い物に訪れた四月一〇日は『白い妖精の気まぐれ』と名付けられ、ナナさんへの感謝を込めて商店街ではお祭りが開催されるようになったんですよ。あの一日だけで何軒もの小売店や問屋が立ち直りましたからね。もう少し早ければお祭りをお見せできたのですが、残念です」

「なん……じゃと……」


―――白い妖精 イコール マスター:ナナ です


「さすがナナさんですね」

「姉御、今度は妖精かー!」

「ぬああ……わしがアトリオンを出る時、何故か見送りがたくさんおった理由が今わかったわい……」


 知らぬ間にまたやらかしていたことに気付いたが、完全に手遅れである。しかし今は四月の二十日を過ぎた頃で、その怪しいお祭りに直撃せずに済んだ事だけは幸運だったと感謝する。

 キューの追い打ちに凹みつつ若い門番に別れの挨拶をして、ひとまず冒険者ギルドへ向かうことにした。




「冒険者ギルドへようこそ! 本日はどういったご用件でしょうか?」

「門番に登録証の更新を勧められたのじゃ。それと連れの四人の登録も頼むのじゃ」

「登録証の更新、ですか? 登録証を拝見させていただきます」


 冒険者ギルドの若い受付嬢に登録証を渡すと、それを見た受付嬢がはっとした顔を見せ、少々お待ちください、と行ってカウンターの奥へ引っ込んでしまった。間もなく戻った受付嬢は、別室で話を聞きたいと言って移動を促してきた。

 また何かやらかしたのですか、というアルトの問いかけを無視して受付嬢について行くと、応接室に通された。ここで待つように言われてソファーで寛いでいると、間もなく薄茶色の巻き毛が特徴的な、いかにもお嬢様、といった感じの美人女性が室内へと姿を現した。


「はじめまして、ナナ様。ワタクシ、アトリオンのギルド長をしておりますカーリー・アレクトと申しますわ。カーリーとお呼び下さいませ」

「おお、おぬしがカーリーか。エリーから聞いておるぞ、なんでも同じ塾で学んでおったそうじゃな。ナナじゃ、よろしく頼むのじゃ」


 そう言って笑顔で右手を伸ばし、カーリーと握手をしてソファーに腰掛ける。エリー達との魔道具による通信で、ギルドの改革をヒデオが主導で行ったことや、アトリオンのギルド長が知り合いだったという話は聞いていた。別室に通されても動揺しなかったのは、恐らくカーリーが出てくるだろうと予測できていたからである。

 そのカーリーは、仕草から何から気品がにじみ出ており、まさに貴族といった雰囲気である。


「『紅の探索者』一行は今はギルドの依頼で出ておりますが、ここアトリオンを拠点にして活動しておりますのよ。ナナ様が異界にお戻りになられた後、レイアスは冒険者ギルドの改革を推し進めまして、その関係で書類が大きく変更されておりますの」

「改革を行ったとは聞いたが、詳細までは聞いておらんでのう。良かったら説明をお願いしてもいいかのう?」


 喜んで、と快諾したカーリーはランク制や冒険者支援制度、魔石を使った訓練方法など、ヒデオが主導した改革について教えてくれ、その内容を聞いて頬が緩んでいくのを感じる。

 ちゃんとやっているではないか、戦闘以外でも英雄えいゆうへの道を進んでいるではないか、と嬉しく思うが、同時に少しだけ自分の手を離れたことに寂しさも感じてしまう。

 また、いつ来るかわからない自分の為に、アトリオンに限らず全ての冒険者ギルドに、自分が訪れた際の説明と対応をギルド長が行うよう通達を出していたことも聞き、驚きつつも心配症だと呆れるが、それ以上に気にかけていてくれたことを嬉しくも思った。


 更新と四人分の新規登録書類を書き上げると、カーリーが戦闘力を確認したいと言うので訓練場へを足を運ぶ。そこではシンディが以前所属していたパーティーの元リーダーである、戦闘教官のクイーナという女槍使いとの模擬戦を行った。当然だが全員難なくクイーナに勝利し、五人全員がSランクからの登録となった。

 Bランクだというクイーナにシンディ達の友人であることを話すと、シンディやヒデオとの出会いなどを話してくれた。しかしヒデオめ、ゴブリンリーダー相手に死にかけたなんて聞いていないぞ、と少しばかり怒りを覚える。




 その後は前回と同様に4センチ級魔石を4個ギルドに売却して五万金貨を入手し、カーリーの紹介を受けた不動産屋に向かう。しかし良い物件は軒並み売却済みで、土地だけなら空いていると言うので、現地の確認もせずそこの購入を決める。

 そこはヒデオ邸の近くであったが、これは偶然であると、ニヤニヤするダグに念押ししておく。ヒデオ邸の近くに広い空き地があったことは知っていたが、偶然だと言い張って譲らない。

 大工などの紹介をされるが、話を聞きたいというアルトに全て任せておく。購入した土地は魔王邸でもすっぽりと入る広さで、建物と庭と考えるとかなりの豪邸になりそうであった。


「つーか土地だけ買ってどうすんだ、また地下室でも作るのか?」

「空間庫からヒルダ邸を出して、おぬしらの居住スペースを増築すればよかろう。ダグとリオは敷地全体を覆う塀を作ってくれんかの、アルトとセレスはサポートをしてやってくれぬか。ダグとリオの魔素操作はまだまだ甘いからのう、良い練習じゃ」


 嫌そうな顔のダグとしょんぼりするリオは、アルトとセレスの監視の下で壁作りを始めた。金属魔術で作った芯と、それを覆う土の魔術の壁を、互いに役割分担して作りながら進めるようだ。

 その様子を見ながらヒルダ邸を置く基礎を作り地下室となる穴を掘り、空間庫からヒルダ邸を出して設置する。そして各所の柱を強化して二階建てにし、エントランスは吹き抜けに、二階には個室を八室設置する。敷地内の外壁を作り終えたアルト・セレス・ダグ・リオの手伝いも得て、食堂の面積増加や手洗いの増築なども行い、五人で生活するのに問題の無いよう整えていく。

 既に元の形は大分失われているが、地下とヒルダとノーラの寝室・研究室だけは今後も変更せず残す予定である。


 半日ほどで完成したヒルダ邸改めナナ邸が完成し、マリエルとヨーゼフに屋敷内のことを任せる。また外壁の門番はキーパーに任せ、敷地内の警備はビリーに任せる。この四体は全てヒルダの遺作であり、並べると感慨深いものがある。



 さらに異界へとつなぐゲートゴーレムと通信魔術中継魔道具を地下室に設置、同様に異界側にも地下室を作ることで、アーティオンを経由しなくても移動が容易になるようにしておく。

 もうファビアンや女神教という組織は止められない。それならなるべく関わらず距離を置くのが一番だろうと結論付け、アーティオンのゲートゴーレムと通信魔術中継魔道具の回収を提案したが、アルトに「最低でも二つルート確保しておかないと、万が一何かあった際に対応できません」と諭され、仕方なくアーティオンは放置しておく。


 風呂もポンプ型から給湯器型魔道具に設置しなおし、風呂ではリオとセレスと背中を流しあって癒され、着替えついでにヴァルキリーにもお揃いの銀狼のコートを着せる。そしてだらだらと風呂上りの果実酒を楽しんでいると、アルトから「市場で買い物をしてみたい」と告げられた。その提案にはリオ・セレスも賛成したため、翌日は朝から市場巡りとする。四人に金貨一万枚入りの空間庫ポーチを作って渡し、自分は夜間に魔道具の製作を行う。




「皆姉御に釘付けだね!」

「ううう、見世物にされておる気分じゃのう。というか半分はお揃いの白や銀のコートのせいじゃと思うのじゃがのう」


 以前ヒデオ達と来た商店の立ち並ぶ大通りに着くと、自分達を囲む人だかりができてしまい、買い物どころではなくなってしまった。観衆から聞こえてくる話を総合すると、昨日の若い門番から自分の到着が知らされたことと、冒険者ギルドや住宅地を歩く白い集団が噂になったことで、お礼を言いたい者と、自分の店で買い物をして欲しい者と、噂を聞いた野次馬が集まってしまったらしい。ダグとアルトが睨みを利かせているおかげで飲み込まれずにいるが、自分一人であったならもみくちゃにされていただろう。


「仕方が無いのう。ダグよ、肩を借りるぞ」


 ダグの返事も待たずにバスケットボールほどのサイズにした手乗りスライムを、ダグの肩の上に乗せて義体を空間庫にしまう。突然姿を消したことで驚愕と落胆の声がそこかしこから聞こえてくるが、まさかダグの肩に乗っているとは思うまい。そのまま全員に一度この場を離れるように指示をする。


「お? なんでえ珍しいじゃねえか」

「えー、なんでダグに?」

「そうですよ~、私もいるのに~……」


 人だかりを抜けて移動しつつ、悲しげな顔の二名と今にも死んでしまいそうな顔をした一名に向かって、ダグの肩からぷるるんと体を震わせ声をかける。


「アルトはその絶望したような顔をやめて、リオとセレスを連れて買い物をしてくると良いのじゃ。ダグは昨日から興味無さそうじゃったからの、わしの足になってくれんかの。昼に合流じゃ」

「今回は従いますが……次回はどうか、僕の肩に……」

「ナナ、その、俺はかまわねえんだが……アルトの顔が……」

「仕方の無い奴じゃのう」


 ダグの肩からびょいーんと跳び上がり、アルトの肩にずしーんと着地する。とたんにダグに向けていた恨みと憎しみ満載の負の顔が、一気に明るさを取り戻し喜びに染まる。


「セレスは大丈夫じゃろうが、リオはお金について良くわかっておらぬじゃろ。それに可愛い女の子二人だけでは何かトラブルに巻き込まれては大変じゃ、アルトの引率でお金の使い方についての勉強と、市場調査をしてくるのじゃっ」

「「「はいっ!」」」


 機嫌の治った三人の元気な返事を聞いて満足し、ダグの肩へとびょい~んと戻る。周囲にはしゃべるスライムに気付いてぎょっとした顔をしている者もいたが、放っておくことにする。

 白い集団は相変わらず目立っていたが、自分が義体でいたときよりも周囲に集まる人の数は減ってきていた。

 頃合いを見てダグと共にアルト達から離れ、肩の上は邪魔だというダグに小脇に抱えられて魔道具屋へと向かう。魔石という素材の価格はおおよそわかっているが、加工品となる魔道具ならいくらになるのか、こちらも価格調査は必要だと思っていたのだ。


「ところでよ、何で今回はそんなでっかくなってんだ? いつもの手乗りサイズじゃだめだったのかよ」

「手乗りサイズだと核が入りきらんのじゃ。魔術と能力で核の姿は隠しておるが、今のわしは内部に核となる魔石が入っておるから丁寧に扱って欲しいのじゃ。流石にわし自身の本体である魔石を空間庫に入れるわけにいかんでのう、義体を空間庫にしまってしまうとスライムの中に入れるしかないのじゃよ」

「って、そんじゃ今無防備な状態じゃねえか!」

「ダグがおるから不安は無いがの、正直裸で出歩いておるような気分で落ち着かぬわい」


 ぷるるんぷるるんと体を揺らすと、ダグが「暴れるんじゃねえ」と青ざめた顔で抱え直した。そのまま魔道具屋に入ると、他の客がいないことを確かめてノーマル義体を出し、突然現れた美少女に驚け店主、と思いながら薄い胸を張る。ダグは何やらほっとしたような、疲れきった表情である。


「も、もしかして、ナナ様でしょうか?」


 以前も大量に買い物をしたことがある店であり、店主は一目で自分が誰なのかわかったようだ。


「かっかっか、今日はちいとばかし魔道具の価格について聞きに来たのじゃ! よいかのう?」

「は、はい! 何でもお聞きください!」



 その店では昨夜のうちに作った、『N』ロゴの入ったコンロ型魔道具と水筒型魔道具を見せ、いくらの値をつけるか聞いてみた。コンロ型は使い勝手は良いが焚き火で代用できるため金貨数百枚程度、水筒は水を運ぶ手間などが省ける利点が大きい事から、金貨数千枚は行くそうだ。

 なおNロゴ魔道具はこれまでの無印魔道具と仕様は同じだが、解析しようとすると魔法陣が破壊される仕組みになっている。

 そして本命の『NN』のロゴが入った永久魔道具は、こちらもコンロ型の方は水筒型より安いが、どちらも数十万は下らないだろうということだった。

 そこでNロゴ魔道具のコンロと水筒を十個ずつ売り、店においてもらうよう交渉する。しかし全て買い取れるだけの資金力がないと言うので、委託販売として店に置いてもらい、売れたら二割の手数料を店側が受け取るということで話がつき、書面に残す。


 面倒ではあるが、どうせ売れないだろうと契約を疎かにするのは良い事ではないし、ましてや立場の強い側である自分が契約を軽く見るなど、あってはならないことなのだ。

 今後新しい国の輸出品となる可能性があるのだから、アルトには近いうちこの契約書を見せながら説明しておくとしよう。


 魔道具を解析しようとするとどうなるかは店主に厳重に告げ、連絡先として新居の場所を教えると、放心しているダグを伴い外に出る。



 今度は人が集まってくる前にさっさと移動し、酒屋を回る。酒屋の店主達もこちらの顔を覚えており、こぞって秘蔵の酒やらとっておきやらを出してくれて、中には『供物』だと言って一樽サービスしてくれた店もあった。ここではダグも商品に興味を持ち、酒樽やつまみになりそうな木の実などを買っていた。

 徐々にまた人が集まってきたが「これでは買い物ができぬのう」と悲しげに呟くと、それを聞いた商人達が率先して野次馬を遠ざけたり、一定距離から近付かないよう周知したりして、かなり快適に移動できるようになった。その商人達に笑顔を向けると、でれでれの笑顔を返してくれた。


 最初は神に続いて妖精扱いかと気が滅入ったが、慣れるとあちこちから可愛いと声をかけられることが満更でもなく、むしろ声をかけられるたびに笑顔で返すようになってしまった。目立つわずらわしさもあるがそれ以上にメリットもあることで、これも『魔王』という役割と同じく、受け入れ活用することに決めた。開き直った、とも言える。だが『女神』は受け入れてたまるか。


 結局昼前にアルトたちと合流した頃には数千枚の金貨を消費してしまい、またアルトらもそれぞれ五千枚前後は使っており、今日のこの日も商店街の人々に記念日扱いされそうだな、と思いつつ昼食に良さそうな店を探してうろうろする。


 そして早い昼食を取って歩き出すと、野次馬の中に一人気になる者の存在に気付いた。その壮年の男性はこちらに用があるらしいのだが、商人に阻まれて近付けずに途方にくれているようだ。そのいかにも宗教関係者っぽい服装の、エリー達から聞いた容貌と一致する男にこちらから近付き、声をかけてみることにした。


「そこのおぬし、もしや光天教の司教かのう?」

「おお! 神の導きに感謝いたしますぞ! わたくしの名はガッソー・フォール、まさしく光天教の司教にございますぞ!」

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