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英雄とスライム  作者: ソマリ
英雄編
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3章 第1話N 適度に隠す方が魅力的なのじゃ

 ナナは世界樹の上からヒルダとノーラの瞳で、美しく輝く月と星々を眺めていた。しばらくすると、また見に来ようとヒルダとノーラに語りかけ、ひとまず戻ることにする。

 ぱんたろーを空間庫にしまい、長いこと泣いていたせいで腫れぼったい目を生命魔術で治し、ヒデオの屋敷の庭に向けて転移する。



 結構遅い時間であるにも関わらずヒデオ達五人はリビングに集まっており、姿を見せると口々におかえり、と笑顔で出迎えてくれた。


「それで、ヴァンとの決着はついたんだよな?」


 ヒデオが念のため、といった感じで問いかけ、他の四人も興味深そうにこちらへ視線を向けている。


「あー……それがじゃのう、ヴァンとの戦闘中におかしな奴らに邪魔されてのう。フォルカヌス神皇国とか言うておったな。それで、気付いたらヴァンが事切れておったのじゃ」

「「「「「は?」」」」」

「そのせいでヴァンを殺した実感が無くてのう。ただ、『終わった』という感じじゃのう」


 しょぼーんとした顔をして、ヴァンを発見してからの経緯と会話内容をヒデオ達に聞かせる。



「……数千のゴブリンやオーガが一瞬で壊滅とか、それもうアサルトライフルじゃないよナナ……」

「地形とか確実に変わってるだろ、現場確認に行った兵士からの報告聞くのが怖くなってきたぜ……」

「安心せい、死体は全部片付けたのじゃ。わしのモットーでのう、奪った命は全てくっ……こほん。ちゃんと処分してあるのじゃ」


 全て食ったと言いかけて慌てて誤魔化すが、それに気付いたヒデオは一瞬頬を引き攣らせるも、素知らぬ顔で聞き流してくれた。

 なおヒルダとノーラがいる自分の体にヴァンを取り込む気にはなれず、ヴァンの黒焦げの遺体だけはその場にぽつんと置いてきてある。自分の手で命を奪ったのに吸収していないのはヴァンだけだが、取り込みたくないのだから仕方がない。


―――


 その時キューちゃんが何か言いかけた気がしたが、何も聞こえてこない。気のせいだろうか。


「それにしてもフォルカヌス神皇国か、確か隣の大陸の国だったかな。わざわざ向こうから魔獣操者の杖欲しさにやってきたんだろうか」

「どうじゃろうのう。確かに数千もの魔物を操れるとなれば、普通は脅威じゃろうがのう」

「それを軽くあしらえるのは嬢ちゃんくらいのもんだぜ……しかしそんなもん、得体の知れない奴らには渡すわけにいかねえわな。それで杖を破壊したってわけか」


 何のことだと首を傾げると、オーウェンが目をぱちくりさせる。それを見ていたヒデオが、深くため息をついた。


「オーウェン、多分ナナはそんなこと考えてない。きっと八つ当たりで壊しただけだ……」

「うむ。全部終わってから話しかけてきておれば、理由次第では譲っても構わんかったしのう」


 さすがヒデオ、よくわかってるじゃないかと嬉しい気分になる。片手で目元を押さえて首を横に振るオーウェンが視界に入るが、特に問題は無い。ただ、エリーとシンディは口元が引き攣っているが、サラだけは頷いている。なんとなくそうではないかと思っていたが、サラは自分と思考の方向性が似ている気がする。


「それにしても、これで良かったんじゃないか? なんて言ったら良いかわからないけど……殺した事を喜んで終わりっていうのは、『俺達』はやっちゃダメな気がする。それに達成感が無くても気付いたら終わってたって方が、嫌な思いを引きずらなくて済むんじゃないかな」


 その言葉は、まさに目からウロコだった。確かにヴァンなんかを殺した記憶など、いつまでも覚えていたくはない。それに忌避感は大分薄れているとは言え、やはり人殺しであることに変わりはない。今回も自分の心を軽くしてくれるヒデオの言葉に、ヴァンの最後などどうでも良くなってきた。つい先日までおかしくなりかけていたくせに、と思ったらついつい笑いが漏れていくのを感じる。


「ぷっ、くくくっ……ああ、そうじゃのう……確かにあやつの最後など、わしには不要な記憶じゃ。もう存在しないという結果だけで十分じゃの。礼を言うぞ、ヒデオ」


 笑顔を向けると、ヒデオはどういたしまして、と笑顔を返してきた。



「ところでドラゴンゾンビなんぞどっから出てきたのじゃ?」

「ああ、ヴァンと一緒にいた金髪剣士、キンバリーっていうんだけど、あいつが呼び出した」


 ヒデオ達からも経緯を聞き、ヴァンを偽魔王として挑発した話を聞いて自然に笑いがこみ上げてくる。


「かっかっか、そうかヴァンを偽魔王としておちょくったのか、これは傑作じゃ! しかしキンバリーという男の使った魔道具はちと気になるのう」

「相当な数の兵士も聞いていたから、偽魔王の噂はすぐに回るだろうぜ。あとで国王から正式に通達が出て、トドメだ。だがキンバリーの行方は掴んでねえ、明日になれば軍司令部でいくつか情報が集まってるかもしれねえがな」

「それと軍が戦場の調査を終えて終戦宣言を出したら、俺達王都アイオンに行って国王陛下と謁見だってさ」

「その時にドラゴンゾンビの魔石も買い取ってくれるそうよ! 金貨数百万ですって!!」


 面倒くさそうに言うヒデオとは対照的に、エリー達女性陣一同は目が輝いている。その時オーウェンがこちらに向き、真剣な表情をした。


「嬢ちゃん、オレ達と一緒に陛下と会って貰えねえか? そのほうがいろいろ話が早くて助かるんだけどよ」

「んむ。面倒じゃ」


 ばっさりと切り捨てるがオーウェンは諦めず、非公式であることと王都での買い物に付き合えという条件で、オーウェンは渋々承諾した。とは言え嫌な予感がしているため、最初から行くつもりだったのは内緒にしておく。



「それとヴァンが使っておったゴーレムはどうしたのじゃ? あれもヒルダの遺作の一つなのじゃ、返して欲しいのじゃがのう」

「ああ、それなら軍が厳重に保管してある。明日行って取ってくるぜ」

「それは良かったのじゃ。おぬしらとの戦闘で傷ついた以上にダメージがあったら悲しいからのう。調査という名目で切り開かれたり、部品の一つでも欠けておったりしたらわし……くすん」


 そういって泣きまねをするように目元を手の甲でぬぐうと、オーウェンの顔がだんだんと青くなっていく様子が見えた。


「あ、ああ。……悪い急用を思い出した。オレはちょっと出かけてくる」

「土産の酒を期待しておるぞ」


 別に調べられたところで再現は不可能だろうと思ってはいるが、無断でヒルダの遺品をあれこれいじられるのは良い気分ではない。引きつった顔でリビングから退室するオーウェンを笑顔で見送ってやると、ヒデオにあまりいじめてやるなと苦笑交じりで言われた。


「こんな美少女が笑顔で見送ったのじゃぞ? いじめだなんてとんでもないのじゃ。それにわしの笑顔を見たらもう思い残すことも無いじゃろ」

「美少女って自分で言っちゃったよ! それと思い残すこともって何だ! 殺る気なのか!?」


 こうしてちゃんと突っ込んでくれる辺り、やはり同じ感性を持つヒデオとの会話は気安くて心地いい。そのヒデオには、ニヤッと笑って返事代わりにしておく。




「ふい~……やはり風呂はええのう、手足が伸ばせるのも気持ちいいのじゃ。異界に戻ったら広めるとしようかのう……」


 大の字になって浴槽に浸かり、異界に戻ってからやりたい事を考える。王として国民を……などという殊勝なことは、ナナの頭には欠片程しかなかった。それも自分がやりたいことのついでに過ぎない。しかし、アルトやリューンが何か言ってきたら、極力手伝うつもりではあった。身内を手助けすることも、自分のやりたい事であることに変わりは無い。

 その前に、このまま魔王という立場を受け入れて良いのか、自分の正体を知っても受け入れてもらえるかという懸念もあるが、きっと大丈夫だろうという予感もあった。


「ナナはやっぱり異界に帰るのね……たった一ヶ月だけど、濃密な一ヶ月だったわ。また地上に来るのよね?」

「私より小さいナナがいなくなると寂しい」

「ナナちゃんにはアタシの夢まで叶えてもらっちゃったから、何かお礼したいかもー」

「エリーよ、今度はわしの仲間を紹介するのじゃ。サラ、わしの胸を見ながら言っておるが身長の話じゃろうな? シンディ、そんなお礼なら大歓迎じゃが、ヒデオに悪い気がするのでその辺でやめるのじゃ」


 サラの視線から隠すように右腕で胸を隠す。左腕はシンディが抱きついており、張りのある膨らみの感触が直に伝わっていた。


「最初は顔を真っ赤にして大慌てだったのに、随分慣れたわね」

「慣れたというか、エリーのおかげじゃの。わしが女性を好いておることを知った上で、そこまで堂々とおっぴろげられてはのう、かっかっか」


 エリーは浴槽の縁に腰掛け、足だけを湯に浸けていた。そちらに視線を向けると大事な部分が丸見えなのだが、流石に直視するのは自重している。


「そんな事言っても、ナナにだって同じもの付いてるじゃない。って、そういえば……そこも自分で作ったのよね……?」

「んなっ!?」


 考えもしていなかったことを指摘され、変な声が出た。だがキューちゃん任せだったから自分は直に関わったわけではない、そもそもそこまで詳細に作っているわけが――


―――マスター:ナナ の指示『人体に準拠し不要な内臓を除き形成』に従い 該当部位より排卵・排泄機能を除去 他完全に人体と同一 該当部位のモデルは――


「ぎゃあああ! キューちゃんストップじゃ!! それ以上はアウトなのじゃ!!」

「きゃっ……ナ、ナナちゃん突然どうしたのかな?」


 焦ってシンディの腕を振り払い、立ち上がってしまった。三人の視線が集まっているが、それどころではない。顔が一気に熱を帯びる。自分にしか聞こえないキューの声によって、その部位が完全に人と同じものだということはわかった。だがそのモデルについては二度と触れてはいけないと、何度も何度もキューに念押しする。二人のうちどちらかしかいないのだが、それすら想像してはいけないと、自分に対しても念いりに言い聞かせる。


―――了


「ね、ねえナナ、何があったの?」


 顔を真っ赤にし、はあはあと荒く呼吸をするナナに、エリーは怪訝な眼差しを向けていた。


「いや、のう……実はわしの行動をサポートしてくれておる『キュー』という者がおってのう、そやつの声はわしにしか聞こえんのじゃ。そのキューちゃんがとんでもないことを口走りおったので慌ててしまったのじゃ、驚かせてすまなんだ」

「キュー? サポートとかよくわからないけど、何を聞いたの?」

「う、うむ……キューちゃんには義体構築の大半を任せておってのう……あそこは一部の機能以外は完全に人体と同一じゃと教えられたのじゃ……あとは言えぬのじゃ」


 顔に感じる熱が下がらず水でも浴びようかと顔を上げると、三人の視線に気付く。


「ど、どこを見ておるのじゃ!?」


 三人の視線は立ち上がったナナの、かろうじて水面下にあった下腹部に集中していたのだ。両手で隠して慌てて浴槽に身を沈め、涙目で三人を睨みつける。


「あははっ、悪かったわね。同じだって言うから、つい見ちゃったわ」

「ん、一緒。同じにしか見えない」

「でも確認する必要はあるかも!?」

「やめんかシンディ! まったく、わしはもうあがるのじゃ、湯あたりしてしまうわい」



 一足先に風呂から出たつもりだったが三人ともすぐに上がり、結局四人でドライヤー型魔道具で髪を乾かしあったり、ブラシで髪をとかし合ったりと、女子の輪に完全に溶け込む。この身体は女の子、何の問題も無いのだ。

 下着姿で話し込んでいると、この中では一番豊かな膨らみを持つエリーの胸に、ついつい視線が行ってしまう。上はキャミソールのみであるため、エリーとシンディはもちろんサラも僅かに、胸の二つの膨らみの頂点が、生地を押し上げその存在を主張している。

 もっと見ていたい衝動に駆られるがそれを抑え、スライム体を出してカップ付きのキャミソールを作り出す。とはいえカップ部に適した素材が思いつかないため、蜘蛛糸の生地の胸の部分を厚めにかつ立体的に縫製し、やや締め付けを強めにしただけである。


「こうやって作ってるんだ……便利なスライムね。そもそもスライムって凄く危険な魔物としか知らなかったから、マリエルが掃除用と洗濯用のスライム使ってるのを見たときは驚いたわ」

「スライムは生命魔術で作れるのじゃ。エリーも生命魔術に適性があるからのう、しばらく修行すれば自分で作れるようになれるかもしれぬぞ? 今わしが使っておるスライムは特別製じゃから無理じゃがの。ああそれと黒いお掃除スライムと緑のお洗濯スライムは置いていくでのう、他の魔道具類と合わせてマリエルから使い方を聞いておくのじゃぞ」

「ええ!? お洗濯スライムは本当に助かるわ、ほんとに何から何までお世話になりっぱなしね。……あたしもシンディみたいに身体を張ってお礼した方がいいかしら」


 エリーは受け取ったカップ付きのキャミソールに着替えようとする手を止め、あらわになった胸を背に押し付けようと、後ろからじわりじわりと距離を詰めていた。


「やめぬか、全く。わしではなくヒデオにでもやってやれ」

「そ、そんなことできるわけないじゃない! じ、直に押し当てるなんて……」

「ヒデオ、私たちの下着姿見て驚いてた」

「この下着もナナちゃんたちのいた世界のものだよね? ヒデオ、必死に理性と戦ってたかも! あ、でもこのカップつきってのは……アタシにはちょっと緩いかもー?」


 いち早くカップ付きキャミに着替えたシンディが、大鏡の前で自分の姿を確認するようにくるくる回っている。


「あたしはこれくらいがちょうど良いわね、動きやすくていいわ」


 着替え終わったエリーは、鏡の前で跳んだり回ったりしながら、胸の収まり具合を確認している。


「……くっ」


 サラは自分の胸とカップの間に大きく空いた隙間を見た後、適度に締め付けられて無駄に揺れる事が無くなった、エリーの胸を恨めしげに見ていた。

 そのサラとシンディにも使えるように、乳首が浮き出ない程度の厚みがあるスポーツブラも三人分作り、今後のために着用感などを聞き取っておく。今なら普通のブラジャーを作ることなど造作も無いのだが、三人ともまだ若く、すぐに使えなくなってしまうことが予想できたためやめておく。

 また、女の子特有の日の為の下着も作り、多めに渡しておく。使ったことは無くとも、日本にいた頃テレビでたくさんのコマーシャルが流れていたため、どういった機能があれば喜ばれるのかは知っている。


「さて、もっといろいろ作りたいところじゃが、そろそろ風呂をあけてやらんとヒデオとオーウェンが拗ねるのじゃ」


 この一言で今日は解散となり、続きはまた後日、ということになった。やはり女に混じってきゃっきゃうふふしているのが楽しいと、改めて思うナナであった。


 風呂から上がると青い顔をしたオーウェンから、ゴーレムの残骸を引き取る。やはり研究のためかあちこちいじられたようだが、部品の抜き取りは無かったため不問にする。

 しかしヒデオとオーウェンが風呂から上がった頃には、オーウェンの金で買った酒の小樽は二つほど空になっていた。これくらいで許してやるのだから寛大だろう、ふふん。と何故かドヤ顔のナナであった。

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