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英雄とスライム  作者: ソマリ
幼少期編
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1章 第21話N お誕生会の準備するよ

 その夜練兵場では、寝室に抱き枕スライム体を出した状態で作業をする、ナナの姿があった。

 ナナは太さ4センチ・長さ50センチほどの金属製の棒状のものを空間庫から取り出し、触手を伸ばして体から5メートルほど離すと魔力視で魔素の操作を始める。

 その棒は良く見ると片側だけに直径2センチの穴が開いた筒であり、その穴の開いた側の先端を10メートル程離れた練兵場の壁に向けると『バガァン!』と大きな破裂音が練兵場に響き渡る。筒の先からは煙が上がっており、破裂音は筒からいくつもの硬いものが射出された音であり、その射出された物は練兵場の壁を打ち砕いていた。


「やはり風結界で覆っていて正解じゃったの、普通にやっとったらヒルダに大目玉食らうところじゃわい。どれどれ……うむ、威力は申し分無いの。初級魔術程度の魔力で中級魔術以上の破壊力とは、コストパフォーマンスも良いのう」


 その筒はナナが『銃』として作成したもので、筒に使用されている魔鉄という金属は魔力を通すと硬度が上がるこの辺りでは一般的な金属である。ナナはその筒の片側を埋めて銃身を作っていたのだ。

 銃身の内部には金属魔術で生成した弾丸が込められ、この弾丸と筒の底の隙間で爆発を起こすことで発射する仕組みなのだが、発射もリロードも全て魔術で行うため引き金どころかグリップすらなくただの筒にしか見えない。

 そもそもナナは金属加工が苦手で、この四年間多少の技術向上はできたが細かい部品を作れるほどには習熟できていないことも理由の一つではある。

 弾丸は金属魔術で生成しているのでナナが知っている金属に限られるのだが、発射から三秒ほどで弾丸を形成する魔素が霧散し弾丸が消えてしまう『エコ仕様』となっている。というより、ナナは金属魔術であれば弾丸どころか銃の部品すら精密に作れるのだが、銃の詳細な部品の構造など知るわけもなく、また魔力の供給を断ったりナナから一定の距離離れると勝手に消えてしまうため弾丸がエコ仕様となるのも仕方がないのだ。


「しかし魔術があればなんでもできる! というわけにはいかんものじゃのう」


 これまでの実験の失敗を思い出し感慨に浸るナナ。ビームもどきは発射前に銃身が融け大惨事になりかけ、レールガンもどきは威力と消費魔力のパフォーマンスは良かったが一発で砲身が融解し、拳銃サイズでは普通に魔術を撃った方が良いレベルと満足のいくものができなかったのだ。


「散弾にしたから近距離での威力は抜群じゃが、うるさ過ぎて狩りでは使えんの。やっぱりお蔵入りじゃ」


 銃砲の再現や浪漫兵器の製作は魔術を持ってしても簡単ではないと思い知り、続きは新しい金属加工能力の向上と、魔術の習得か強固な金属の入手後にすることにし後片付けを始めるナナだった。




「やはり近くにあったのじゃが……これはまたずいぶん大きいのう」


 館を出発したナナが最初に訪れたのは、以前魔狼と戦った花畑であった。近くまで魔狼の姿で駆けた後スライム体に戻り、魔力の回復を行いつつ周囲の探索を行っていたのだが、ようやく見つけたお目当ての生物は姿形こそ同一ではあったが、ナナが知るものよりも遥かに大きな姿をしていた。


「体長5センチのミツバチなど、以前なら見ただけで恐怖にかられ逃げておったじゃろうな」


 ナナは砂糖代わりの甘味を求めて蜜蜂の巣を探していたのだが、見つけた巣に出入りするミツバチのサイズにドン引きしていた。

 巣に近付くと、警戒したミツバチたちが巣穴からどんどん出てきて、周囲を飛び回り始めた。


「ちょっと蜜を分けて欲しいだけなのじゃー。殺す気も死なせる気も無いのじゃー」


 巣に近付くナナにお尻の毒針を刺す巨大ミツバチ達だが、ナナはミツバチの毒針が抜けて死んでしまわないように一体一体丁寧に弾き返していた。しかしもう少しで巣に到達しようというところで、横から体長3メートルほどもあろうかという熊がナナ目掛けて駆けてきた。

 余裕を持って回避するナナだが、巣を守るように立つ熊の姿とミツバチたちに違和感を覚える。ミツバチは熊を攻撃する様子はなく、むしろ援護するかのように周囲を飛んでいるのだ。


「むう。お友達かいの……怪我をさせるのも可哀想じゃし……む?」


 どうしようかと悩むナナだが、よく見ると熊は全身傷だらけで立っているのもつらそうに見えた。そこでナナは少し悩んだ後、熊に向けて回復魔術をかけてやることにした。回復魔術を受けた熊は不思議そうな様子を見せていたが、こちらに敵意が無い事に気付いたのか警戒を弱めた。その時後のミツバチの巣穴から他のミツバチより二回りも大きな個体が顔を出し、ギチギチと顎を鳴らすのが見えた。


―――変異言語魔素 テレパシー を確認


「ぬお? ……ああ、わしの記憶から魔素に自動で命名するよう頼んでおったな、いきなりテレパシーとか言われて少しびっくりしたわい。ではキューちゃん通訳を頼むのじゃ」


 ミツバチは熊を治療した礼と、蜂蜜を持って行く代わりに一つ頼みごとがあると言ってきた。ナナは快諾すると熊の背に乗って現地まで移動を行うのであった。熊よりも頭の良さそうな女王ミツバチだったが、ナナはそういう魔物なのだろうと割り切り、気にするのをやめた。



「さっきも同じことを言ったが、敢えて言わせてもらうのじゃ。……これはまたずいぶん大きいのう」

 ナナの視線の先には樹上に作られた3メートルを超える巣と、そこに出入りする体長20センチ程のスズメバチらしき姿だった。

「確かに最近できたばかりのようじゃの、スズメバチのサイズに対して巣が小さいわい」


 ミツバチからの頼まれ事とは、このスズメバチの駆除であった。熊には守って貰う代わりに蜂蜜を提供していたのだが、ある時集団のスズメバチに襲われ、撃退したものの熊は重症を負いミツバチにも決して小さくない被害が出てしまったとのことだった。


「さっさと終わらせて蜂蜜を頂くとしようかの……ほいっと」


 ナナは遠くからスズメバチの巣を緑の魔素で覆い、空気の流れを完全に遮断すると、その内部の蜂の巣に橙の魔素で火を点ける。初めのうちは巣を燃やさんばかりの炎が上がるも一瞬の事であとは燻り、緑魔素の内部を煙で満たしていった。

 そのまま巣に帰ってきたスズメバチを狩りながら十分ほど待つと、そろそろ窒息したかの、と言いながら空気の遮断を解除する。すると巣から出てきたは良いがナナの張った空気の結界を突破できず、燻されて死んだ数十匹のスズメバチがバラバラと降り注いだ。

 そのまま樹上の巣も切り落とすと、熊が嬉しそうに駆けよりむしゃむしゃと食べ始める。


「まだ生きておるものもいるかもしれんのじゃ、気をつけて食べるんじゃぞ」


 熊がしっかりと女王蜂を食べるところを確認し、しばらくして満足した熊の背に乗ってミツバチの元へ向かう。こうして相当な量の蜂蜜を入手でき、転移用のマーカーを残すと上機嫌で次の目的地へと移動を開始するナナだった。



 移動途中の森の中では、生まれて間もない鳥の卵を巣から失敬しつつ、その際卵の取り合いになった大蛇との格闘や、キノコの取り合いになったイノシシとの格闘を楽しみながら目的地へと進む。

 野鳥の群生地にマーカーを残しつつ進み、ヒルダの館を出た翌日の夜には目的地と思われる牛の住む平原へとたどり着くのであった。

 ここまでで蜂蜜・野鳥の卵十二個・トリュフっぽいキノコ・大蛇・イノシシ二頭を確保していた。



「うーむ。野生動物とは思えん戦闘力じゃの」


 ナナは目の前にいる百頭を超える水牛の群れの中で、一番大きな一頭をキューに鑑定させると、フォレストタイガーを超える戦力値に驚くが、これくらい無ければ草食動物が生き残れるわけもないと納得する。

 そして周囲を見渡し授乳中の母牛を探すと、そこに転移してこっそりと乳に張り付き体を使って搾り取る。はじめは突然の違和感に驚いた母牛であったが、ちゃんと乳を絞っているうちに大人しくされるがままになっていた。

 それを数回繰り返しおよそ5リットルくらい集めると、最初に鑑定した大きな水牛の頭上に転移し、直刀を一閃し首を切り落とす。すぐさま空間庫に入れると、群れが騒ぎ出す前にそのまま転移し離脱するのであった。



「さて、近くに小川があったの。そこで獲物の血抜きを済ませておくとしよう」


 血抜きの間に狼やワニ等が血の匂いにつられてやってくるも、全て返り討ちとなり血抜きの後ナナの空間庫へと仕舞われていった。


「ワニの魔石は吸収しておこうかの、わしはもう懲り懲りじゃがキューちゃんなら大丈夫じゃったからの」


 ナナはワニから抜き取った3.5センチ級魔石を三つ取り出し、キューに合成するよう指示する。


―――了 魔石直径:5.39センチから6.26センチに増加 魔力量上限:1639から2570へ増加 技能値上限:6719から16515へ増加


「ではキューちゃんの記憶領域を1ランク増加じゃ。……む。キューちゃんとわしの魔石のサイズがぴったりとお揃いじゃのう。すごい偶然じゃな!」


―――マスター:ナナ を超えるサイズへの吸収は不明な動作不良が見られたため中止しました


 喜んだ瞬間に落とされたナナであった。


「う、うむ。そうじゃよな偶然なわけないのじゃー、かっかっか。では魔石従属化の技能が不足とかその辺が理由かの?」


―――判断可能な情報無し


「これもそのうち検証するとしようかのう。さてそろそろ血抜きも良いじゃろ、帰るとするかのう」


 要検証案件を一時棚に上げ、帰宅の準備をはじめ地抜きの済んだ獲物を片端から空間庫へと仕舞っていくのだった。




「で、これがわしが必要のない方の獲物じゃ。また集落の皆にでも配ると良いのじゃ」


 翌朝ヒルダ邸に転移で一気に戻ろうとした際飛べない事に気付き、途中に幾つか設置したマーカーを中継して、ようやく帰宅したのは昼過ぎのことであった。そして帰宅早々ヒルダとノーラに獲物の数々を見せるため目の前に並べるナナ。

 そこには5メートルを超える大蛇が二匹、4メートルほどの熊が一匹、4メートルほどのワニが三匹と、十二頭の狼が並べられていた。

 なお欲しいと思う目ぼしい能力などが無かったため、今回の狩りでは一体も吸収していない。蜂蜜・野鳥の卵十二個・トリュフっぽいキノコ・水牛の乳はそのまま、イノシシ二頭・水牛は解体して空間庫にしまってある。呆然とするヒルダとナナすごいのじゃーと喜ぶノーラに、どうしても見つけられなかったものについて相談してみる。


「ところでこういう形の植物を知らんかの? 玉ねぎというんじゃが……」

「それなら集落で栽培してる人がいるわよ。館の食料庫にも置いてあると思うわ。無ければこの肉と交換に貰ってきてあげるわね」

「なん……じゃと……」


―――集落で栽培されています


(やはり追い打ちはかけるのじゃな、キューちゃん……)



 ナナは室内や練兵場でノーラと遊んだり魔術を見てやったりしてまったりとした時間を過ごすと、二人の夕食後に厨房にいるメティの元へと足を運ぶ。


「メティよ、あとで厨房を借りたいのだが良いじゃろうか。ノーラの誕生祝いに何か作ってやろうと思っての、調味料なども少しばかり分けてもらえると助かるんじゃが」

「あら、ナナ様が料理なさるのですか?」


 カトラリーを洗う手を止め、驚いた顔でスライムを見るメティ。


「かっかっか、こう見えても料理は得意なのじゃ。とはいえスライム体で作るのは何じゃから、ヒルダから借りたゴーレムを動かして作る予定じゃがの」

「そうでしたか、承知いたしました。ではこちらの棚にある調味料をご自由にお使いくださいませ。カトラリーはこちらにありますので、それもご自由にお使いください」


 メティは棚の扉を開けたり引き出しを開けたりして何がどこにあるのか丁寧に説明し、ナナに深く一礼する。


「ありがとうなのじゃ、大切に使わせてもらうのじゃ」

「ナナ様も私にとっては主人と同格のお方と思っております。ヒルダ様は戦う力の無い我々が安心して時を重ねられるよう腐心しておられました。特にノーラ様がお生まれになってから、ノーラ様のいない場所では笑顔を見ることも減っておりましたが、ナナ様が来てからというもの、ヒルダ様の笑顔が増えておられます。ヒルダ様のお心を癒やしてくださったナナ様には、いつかこうして感謝の言葉を伝えたいと思っておりました。また何かございましたら気軽に申し付けください」

「そこまでかしこまる必要は無いのじゃ。わしは自分が楽しんでおるだけなのじゃから感謝はヒルダにするだけで良いのじゃ。それにメティが家事をしてくれるおかげでヒルダは研究に専念できたのじゃろう。持ちつ持たれつ、じゃよ。では邪魔をしてすまなんだな」


 そう言うとナナはかっかっかと笑いながらびよーんびよんと跳ねて研究室へと戻るのであった。




「それで、ナナは何を作るつもりなのかしら?」


 ヒルダからゴーレムボディを借りて厨房に向かったナナだったが、なぜかヒルダが着いてきた。


「試食目当てじゃろうが、今夜は下ごしらえしかせんぞ」


 ナナはそう言いながら周囲を軽く見回すと水牛の肩ロースとバラ肉を空間庫から取り出し、包丁を叩きつけて挽肉にしていく。


「どう? そのボディは使いやすいかしら?」


 挽肉を作り終わり空間庫へとしまうナナに、何かを探るように話しかけるヒルダ。

「戦闘には良いのじゃが、出力・サイズ・重量と全て日常生活には向かぬの、この体格では作業台が低すぎて辛いのじゃ。卵も気をつけねば割ってしまいそうで力加減に注意が必要じゃな」


 ナナは空間庫から取り出した鳥の卵を慎重に親指と人差し指で摘まんでみせる。少しすると卵の殻にヒビが入り始めたので慌ててボウルに卵を割り入れ、卵黄を分けて空間庫へ入れるとホイッパーで卵白をひたすらかき混ぜはじめる。


「日常生活にはどれくらいがちょうど良いかしらね?」

「五~六割もあれば十分じゃろうのう」


 力加減に慣れず、ホイッパーを握り潰しそうになるのを調整ながら答えるナナ。


「わかったわ、五~六割程ね。先に寝室へ行っているわ、あまり遅くならないようにね。おやすみなさいナナ」

「一時間くらいしたらわしも寝るわい、おやすみなのじゃ」


 ヒルダの言動に何か違和感を感じつつも、まあいいかと作業を続けるナナはメレンゲを作り終えると蜂蜜を混ぜ、一口サイズに形成すると熱した窯に入れ次の準備へと移るのだった。




「ねえノーラ、やっぱりナナはあの200センチゴーレムボディでは使いにくいみたい。五~六割だから、100センチから120センチくらいで良いみたいよ?」

「ナナが生まれたのはわらわが二歳のときじゃったから、わらわの妹なのじゃ。その大きさでちょうどいいのじゃ!」

「最後の仕上げはナナにやってもらうしかないのだけれど、それをどうやってナナにやらせようかしら。ノーラも何か良い案があったら教えてちょうだい」


 寝室でこそこそ何らかの計画を話し合う、ナナ製作のフリルやレースで飾られた夜着に包まれた一組の母娘は、二つほど重大な勘違いをしていることに気付いてはいなかった。

 しかも翌朝ナナに振舞われた蜂蜜入りメレンゲクッキーを食べた事で、さらに力強く間違った方向へと計画を組み上げていくのだった。

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