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英雄とスライム  作者: ソマリ
最終章 大戦編
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5章 第2話Ro 平和って素晴らしいよね

 暇潰しのお遊びがバレてひどい目にあった。

 手加減ブレスとはいえ、直撃すると結構痛いんだぞ。

 普通の人間なら肉片一つ残らないだろうけどねー。


「しばらくそこでおとなしく反省しておれ」

「はーい……」


 ナナの異空間解除後、ボロボロになった俺は床に正座だよ。

 でもまあ、キューとしてみんなのお風呂を覗いていたのがバレた事といい今回といい、ナナが俺に対して遠慮が無くなったのは良いことだよね。

 そういうことにしておこう。


「ねえロック、一体何をしたの?」

「まだナナの中で動けなかった時代に、たまにちょっとした悪戯をね……」


 具体的にはナナが「なんだと」って言って驚いたらキューちゃんに干渉して追い打ちをかけたり、ナナの空間庫をいじって青スライムとエロ青スライムを入れ替えたり、ヒデオと会う時は顔の血色良くしたりと、本当にちょっとした悪戯だ。

 これでここまでやられるんだから、スライム浴の触感を過度にナナへ流してたのバレたら本気でヤバそうだな。

 夢の中にいるみたいに、俺に触感が伝わってこない悔しさ紛れなんだけどさ。

 そうなったらひたすら逃げるか、あははー。


 ヴァンもいないし、ナナの敵になる存在はそうそう現れないと思うし、政治的な敵はアルトに任せておけば安心だし、俺は俺で自由に世界を旅して回るのも良いかもなー。

 そうなったらアネモイが着いてきそうだけど、ま、いっか。

 おっぱい大きいし。ポンコツだけど。


「ところでナナ、そろそろナナも寝ないとお腹の子に悪いよ?」

「む……もうそんな時間じゃったか。じゃがロックはそこでもうしばらく正座しておれ」

「……はーい」


 エリー達の子を預かってからは、規則正しい生活してるもんね。

 体機能をスリープモードにしてるだけで実際に寝てるわけじゃないけど、お腹の子の成長に問題あったら困るもんね。

 そのナナが忌々しそうに俺に目を向けているけど、知らんぷりしておこうっと。


 反省しているふりをしてナナを見送ってたら、入れ替わりに空いたドアから茶トラ猫のナオが、自分よりでかい何かを咥えてヨタヨタと会議室に入ってきた。


「ああ! それ僕の体!」


 グレゴリーが気付いてナオに近付いていったけど、思いっきり逃げられてやんの。くすくす。


「おいでーナオ。チッチッチッ」


 ヨタヨタとくまのぬいぐるみを咥えたナオを呼んで、撫でくり回す。

 ゴロゴロ言い出した隙にぬいぐるみを回収し、グレゴリーに渡してやる。

 ていうかグレゴリー、さっきこれ自分の体って言ったけど良いのかそれで。


「つーかグレゴ、そんなにぬいぐるみゴーレム気に入ってたのか?」

「そりゃ一ヶ月近く入ってたし、初めて魔力視じゃない自分の目で世界を見られた体だし、愛着も湧くよ。……それに、ナナさんが作ったものだし……って、グレゴって何さ」

「愛称。長いんだよ」


 それにラスプーチンそっくりの名前であまり良い印象無いんだよね。

 言ってもこの世界の人には理解できないだろうけど……って、ナオ随分太ったなぁ。食べ過ぎじゃな……い、あれ?

 ……お腹、大きいねー。

 ここにも妊婦がいたわ、あはははー。


「こりゃエリー達の子より、ナオの子の方が先に産まれるね」


 そう言った途端に集まってくる女性陣。リオもセレスもびっくりした後、ほんとだーって喜んでる。

 最近忙しくて、世話もほとんどメイド任せだったもんね。


「ねえロック、いつ! いつ産まれるの!!」

「それはね、アネモイ。年内か、年明け早々って辺りかな? ていうかアネモイ近い。それと抱き上げようとするな」

「私まだ仔猫を見たことがないの! 楽しみだわ!! 『フシャー!』……痛いわ、ナオ……」


 抱き上げるなと言っただろうが、アネモイは何度ナオに引っかかれれば学習するんだろう。


「イルム大陸の猫はこれより小さくて気性が荒いんだけど、この子はすごく人懐っこいね。街にも人懐っこい小型の動物が多かったけど、エスタニア大陸にはこういう動物多いの?」

「あれ、グレゴは聞いてないのか。この猫とかブランシェ市街にいる犬とか小型の熊や馬、全部ナナが作ったゴーレムだよ」

「……へ? はあああああ!? ゴーレムが……子供を!?」

「わ、わたくしもその話は初耳ですぞ!!」


 おおう、アルトと話し込んでいたガッソーにも聞こえたか、血相変えてこっち来ちゃったよ。


「スライムの能力でね、一度食べた物を完全に複製できるんだ。それをちょちょいといじって組み合わせを変えたり外見とか大きさとかいじってやれば、未確認生命体の出来上がり。といっても第一世代は魔石が脳の代わりをしているから完全にゴーレムなんだけど、他は完全に生体と一緒だから繁殖も可能だよ。さっきグレゴにも言ったけど、義体もその辺普通に作ってあるからね。ちゃんとできるよ」


 女性陣もいるから、何ができるのかは言葉を濁す。

 グレゴには義体に入った時に説明しといたから、これで理解できるだろ。

 義体の外見は子供だけど、ちゃんと立派なブツつけといたからね。


「ナナ様は、新しい生命体を作り出しておったのですか……まさに神にふさわしき所業ですな!」

「は、ははは……僕の作ったゴーレム生成魔術が、こんな形に進化してるなんて……」


 この二人はもう完全に身内だしな。アルト達が知ってるレベルの話なら、全部教えても構わないだろ。

 特にガッソーには、今後いろいろ働いて貰う予定だし。

 自分が神様扱いされるのは嫌だけど、自分の分身が神様扱いっていうのは悪くないと言うか、ちょっと嬉しいんだよね。

 だからナナにはしっかりと信仰を集めてもらうよ。くすくす。



「いやはや、スライムがというより、ナナ様とロック様がいかに常識外の存在なのか、よくわかりましたぞ!」

「スライムなんて僕も掃除用以外で作ったこと無いよ……まさかスライムにそんな可能性が……でも義体の骨格といいスライムの能力活用の発想といい、ナナさんとロックさんの『地球』での知識があってこそなのかな?」

「多分そうなんだろうね。向こうの世界は書物や参考になりそうな物語が溢れてたからね」


 映画とかファンタジー小説とか説明したけど、その前に映画って何だという話になってしまった。

 演劇とかもこの世界じゃまだ無いらしいけど、アルトが熱心に聞いてたからね。そう遠くないうちにできそうな気がする。


「すごいね、書物の大量生産とか想像できないや……」

「こっちでもそのうち似たような技術ができるだろ。それまで待つんだね」

「え? ロックさんやナナさんはその技術を広めたりしないの?」

「しないよ? 無理に技術レベル上げたらどっかに歪みができるし、将来産まれる開発者が可愛そうじゃん」


 この辺はナナと完全に一致した意見だ。

 自分が欲しいものだけは自分で作るけど、必要以上に向こうの知識技術を広めるつもりはない。

 そもそも録画再生ゴーレムだって、本来はナナの姿を広めるために作ったんじゃない。

 アルトとの雑談の中で、ナナの姿を永久保存しておきたいって頼まれたから作ったんだ。ナナの姿を広めるために使ったのは、録画しても不自然にならないようにする口実でもあったんだよね。


「そうは言っていますが、ロックさんは深夜になるとたまに僕のところに顔を出して、食糧問題や災害対策についてあれこれ教えてくれましたけどね。命に関わることだけは別というのは、ナナさんと一緒ですね」


 ま、まあ……せっかく作った国なんだし、できればみんな幸せになってほしいからね。ナナが悲しむのもなんか嫌だし。


「ああ、そっか! たまに夜中にオレの様子を見に来てたのって、ロックだったんだ! ちぇーっ、姉御かと思って期待してたのになー」

「……ねえロック、説明してくれるかしら?」


 リオ、寝たフリだったのか!

 アネモイの殺気でナオが逃げた……やばい、ずっと正座してたから、足が、しびれて……。


「ロックの、ばかあああ!!」

「ブレスはやめ、うぎゃあああああ!!」


 瞬時に俺が張った断絶空間の中で、アネモイの大きく開いた口の奥が、ものすごく光ったのが見えた。

 余計なところだけナナを見習いやがって……俺が異空間作らなきゃ大惨事だろうが、つーか人の姿のままブレスとか、いつの間にそんな技術覚えた……がくっ。






 朝、か。

 昨夜はアネモイのせいで話が打ち切られちゃったからな。

 まあプロセニアの件はアルトとガッソーがうまくやるだろうし、帝国の方はグレゴがなんとかするだろうから、別にいっか。

 それにしても昨夜はあのあと部屋に引き摺られて来て、アネモイに謝り倒したあとは夜遅くまでご機嫌取りだよ。

 嫉妬するなんてまったく可愛い子だよ、もう。


 さて、起きるか……って、隣の布団の塊からはみ出している尻尾が、俺の腰に巻き付いてきたな。


「おはよう、アネモイ。俺はダグ達との早朝訓練に行くけど、今日は一緒に起きるか?」

「……」


 無言で尻尾を布団にしまいやがった……いつも通り二度寝か。

 でも一瞬見えた可愛いお尻に免じて、許してやるか。


 ベッドから降りて、まずはスライムで全身綺麗にしておくか。それどベッドも。

 アネモイは下手に触ると最後までしなきゃ拗ねるからな、放っておこう。

 自分の体くらい、起きてから魔術か風呂で綺麗にするだろ。

 空間庫から新品のブーメランパンツを出して、と。


 では今日も一日楽しもうっと。




「ぜえ、ぜえ、ぐっ……ちく、しょう……また、届かねえか……」

「はぁ、はぁ……いや、ダグ……飛行魔術無しで、ここまでやれるなら、たいしたもんだよ……」


 改変した異界化魔術を解き、訓練場の真ん中で倒れるダグの横に俺も座り込む。

 縦横無尽に飛び回る俺に対して、空間障壁で作る足場だけでほぼ対等に戦えるんだから、十分化物レベルだよ。


「ロック、次はオレとしようよぉ……二人の見てたら、オレも熱くなってきちゃった……」

「リオは言葉を選びなさい、言葉だけ取るとものすごく卑猥に聞こえるから……少し、休んでからね……」


 多分リオは、わざとだ。

 ちょくちょくこういうことがあるが俺かナナにしか言わないし、言葉を選んでるとしか思えない。


 それはそうと俺が改変した異界化魔術は、一定範囲の空間を外界と断絶させ行き来できなくしてあるだけで、外も中も見えるようにしてある。


 名付けて空間断絶魔術だ。


 これなら訓練場を壊さずに済むし、他の人の戦いを見ることもできる。

 しかも所々に小さな穴を開けてあるから音も通る! 空気振動以外が外に漏れないよう、空間障壁で補強してあるけどね。


 特に魔術メインのアルトとセレスは、訓練場を壊さないようにいつも手加減して訓練してたからね。

 強度もハチの特殊弾頭かアネモイの本気ブレスくらいじゃないと壊れないから、訓練レベルなら何の問題もない。


「あらあら~、私もロックさんとしたいわ~。でもそうするとアネモイちゃんに怒られちゃうかしら?」

「セレスは完全に別の意味で言っただろ。それに俺はセレスの好みじゃないだろうが」


 そう言うとセレスの視線が横に動き、一点を見つめると頬を染めて息遣いが荒くなってきた。

 そこにはぽかーんと口を開けて呆けている少年、グレゴがいた。

 呆けている場合じゃないぞ、グレゴ。お前は狙われているんだ!


「ロ、ロックさんはともかく、ダグ君まで、何その動き……僕の知ってる古代の強者でも、そこまでの人はいなかったよ……?」

「ダグの体は、上位火竜の骨や筋肉使ってるからね。ちなみにグレゴの義体は、俺と同じ各種上位竜の混合素材だよ。体に魔力通してみ、筋力や強度上がるから」


 ダグや自分の体に驚くのはわかるが、顎が外れる前に口を閉じるんだ、グレゴ。

 少しして立ち直ったグレゴは自分の手や体を見ながら義体に魔力を通し、恐る恐る手足を動かしてるけど、なんかぎこちないなあ。


「あらあら~。グレゴリーちゃん、私が体の動かし方を教えてあげるわ~」

「だ、大丈夫だよ、セレスさ……うわっ!」


 セレス早え。あれは獲物を掻っ攫う猛禽類の動きだ。そのままグレゴを抱き上げて、訓練場の隅に走って行きやがった。

 ……よし。今見たことは忘れよう。


 その後はリオを軽く揉んでやって、アルトとガチの魔術戦だ。

 しっかしダグもアルトも、ナナと一緒に戦えるって思ったところにヴァンに掻っ攫われたせいか、訓練とはいえ鬼気迫るものがあるな。

 つーかナナと一緒にいる元世界樹のシュウちゃんのせいだろうな、俺含めてみんなに流れ込んでる魔素量が半端ない。

 あれからたった三ヶ月だけど、ダグもアルトも正確な戦力値が測れないくらい成長してるもんな。

 てーかこれ以上強くなって何と戦うつもりなんだお前らは。


 ともあれ今日も俺の一人勝ちだけど、ダグとアルトがタッグで来たら、もう俺より上かもしれない。

 まだ負けてあげる気はないけどね!


「何をパンイチでドヤ顔しておるか、この変態め」

「あれ、ナナおはよう。今日は早いね?」

「おはようなのじゃ。それより早う服を着んか露出狂め、おぬしが変なことをしておるとわしまで同じ目で見られるのじゃぞ……」


 え。肌見せるの好きじゃん。

 女の体になったから控えてるけど、キャミソールとかショートパンツとかミニスカートとか、可愛いけど露出多めな服装選んでるよね?

 妊娠してからもほとんどノースリーブかキャミのワンピースだし。それも膝上丈の。


「何か言いたそうな顔じゃのう、ロック……まあよい。ヒデオの方からも事情を話したいそうじゃが、エリー達に聞かせたくない内容らしいのじゃ」


 体をスライムで綺麗にして、ダグとアルトとの模擬戦でボロボロになった服の代わりを出して着る。

 そういやヒデオと金ボッチの関係とか、後回しにしてたっけね。

 それにエリーはまだしも、サラとシンディのやられ方は……本人たちに記憶がないらしいから、わざわざ教えてやることもないもんね。

 あれはトラウマになりかねない。


「わかった、会議室行くよ」

「ぼ、僕も行くよ!」


 セレスの魔の手から逃げ出してきたグレゴが、必死な顔で駆け寄ってきた。

 貞操は無事だったようで、何よりだよ。


 というか結局グレゴだけじゃなく、訓練を終わらせて全員で会議室へ行くことになった。


 全員スライムで綺麗にしてやろうとしたけど、ナナに睨まれてリオとセレスには指一本、いやスライム一滴も触れられなかったけどね!

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