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英雄とスライム  作者: ソマリ
最終章 大戦編
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5章 第1話N 成敗なのじゃ

 私はナナだ。


 他の誰でもない、私がナナだ。


 複製とか本物とか関係ない、私は私だ。


 そう思い至って深く息を吐いた時、ロックがニヤニヤしながら寄ってきた。


「やっと元の顔に戻ったね。俺が大丈夫だったんだから、当然ナナも大丈夫だろうと思ってたんだけどさ……よく考えたら立場が逆だったら、俺もしばらく悩むかもなーって最近気付いたんだよね、あははー」

「あははー、ではないわ。脳天気なやつじゃのう……」


 あれ、なんでみんなこっち見てるの。

 それにヒデオ、何で目を逸した。


「ぷっ、くくっ……ナナも同じくらい能天気じゃないか……ぷは、はははは!」

「ナナの兄というか、元ナナなのよね? 納得だわ」

「ん。ほぼ同一人物」

「違いは口調と性別だけかもー?」


 ぐぬぬ。私そんなに能天気かなあ。ロックほどじゃないと思うんだけど。

 今は別人なんだし。くすん。


「は、ははは……ふう……ありがとう、ナナ。……レイアスのことは、近い内に……父さんと母さんに、全部打ち明けてくる。……十五年もの間二人を騙していたことと、守れなかったことを謝らないといけない」

「……わしも行くのじゃ。助けてやれんかったことを、わしも詫びねばならぬ」


 そうだ。脱線していたけど、レイアスの死についての話に戻らなきゃ。

 ヒデオを複製した時、既にレイアスの魂はいなかった。

 私はそれに気付いていたけれど、肉体が修復されれば戻ってくるのではないかと期待し、保留に……いや。結果的に私は、見殺しにしたんだ……。


「いや、俺一人で行かせて欲しい。それにナナは責任を感じる必要は無いよ。助けようとしてくれたけど、助からなかったってだけなんだから……」

「それならヒデオも同じではないか。レイアスはの、本来なら五歳で死んでおったはずだと言っておった。ヒデオがいなくても、魔力過多症を患っただろうとのう」

「……え? レイアスと、話を??」

「最近は多少意識があって、ヒデオの記憶も全て持っておったようじゃぞ。……そう言えば世界樹での出来事を端折っておったの」


 世界樹で出会ったヒルダとノーラ、ジュリア、そしてヒデオとレイアスのこと。

 他にもたくさんの死者の魂が私を助けてくれたこと。

 私に敵意を向けてくる魂もあったが、ヒルダがあっさりと撃退してくれたうえに、捜し物の在り処まで教えてくれたこと。

 そして意識を失っている間に世界樹と会話をし、その流れで本体のスライムで世界樹を吸収することになったことを一通り説明した。

 ヒデオとレイアスの言葉はできるだけ正確に伝えたかったが、レイアスが教えてくれたヒデオの心残りに関しては伏せる。ヒデオのばか。


「そっか……レイアス、意識は戻ってたのか……そっかぁ……」

「ヒデオ、これは俺の想像なんだけどさ……」


 後ろにアネモイを連れたロックが、グレゴリーと一緒に近付いてきた。

 ロックの手には切れ目の入った魔石が……ってあれ、その魔石って。


「多分だけど……レイアスの魂が完全だったなら、ヒデオの魔石はダメージはあっても死ぬまでは行かなかったはずなんだ」

「僕が作った魂破壊の術式は、一定の魔力を吐き出させると耐えきれなくなって停止しちゃうんだ。レイアス君の魂だけではその一定の魔力に届かなくて、結果キミの方にも影響が及んだんだと思うよ」

「夢の中でレイアスが、ヒデオを守りきれなかったって謝ってたんだよな? 多分……レイアスがヒデオをかばって、先に自分の魂を自壊させたんじゃないかな。そうじゃきゃ魔石に入っているヒデオの魂も、もっと大きなダメージを受けて……複製すらできなかったと思う」


 ロックが持つヒデオの魔石は、ダメージだけを見れば銀猿戦後に動けなくなった私の魔石と比べて、多少はマシな損傷だろうか。

 確かに当時痛みはひどかったけど、何ヶ月も意識を失うほどのダメージじゃなかった。

 しかしいつの間に私の空間庫から抜き取ったのかは知らないけど、そうか……レイアスが、ヒデオをかばってくれたのか……。


「自分が犠牲になればレイアス君は守れたかも、何て思っちゃ駄目だよ? キミが入った魔石が完全に壊れてたら、それを内包するレイアス君の体も死んじゃうんだからさ」

「俺もナナも、心臓や魔石にダメージがあっても治せる。でも、魔石の破壊や心臓と同時となると、蘇生は間に合わなかっただろうね」


 グレゴリーとロックの話によると、魔石を破壊されても私とロックなら蘇生させることは可能だけど、心臓を破壊された場合よりも時間的な余裕が少ないそうだ。

 肉体は脳に血液を流し続ければ、多少は持つ。

 でも魔石破壊だと、肉体から魂が抜け出てしまうのが早いと言う。

 魔石破壊時にズタボロにされる魔力回路が、魂を繋ぎ止められなくなるとか。


「そうか……ありがとう……ロック、グレゴリー……レイ、アス……」


 そう言ってすすり泣くヒデオの手を、私は強く握り返す。

 レイアスが、守ってくれたんだね……ありがとう……。






 ヒデオとエリー達はまだ本調子ではないため、食事を摂らせてさっさと休ませる。

 私が預かっているお腹の子供を気にしていたけど、完全に健康体だと認められなければ返さないからね。

 ……最近は胎動も激しくなってきてるし……寂しくなるから返さないんじゃないからね……。


「いやはや……ナナ様のお側にいると、心臓がいくつあっても足りませんぞ……しかし、もっと早く御側でお使えしたかった気持ちも出てまいりましたぞ!」


 あ。またガッソーの存在を忘れてたよ。


「グレゴリーのことを知ってからずっと静かだったから、気絶でもしておったのかと思っとったのじゃが……まあ、今更隠すことでもないがのう。女神などと持て囃されておるが、聞いての通りわしはロックの複製で、元男じゃ。そういうわけでの、いっそ女神教というのも無かったことにできぬかのう?」

「それは無理なご雑談ですぞ! 既にナナ様は皆の心の拠り所ですからな!」


 ですよねー。


「ところでレイアス君とヒデオ君の関係、それとナナ様の本体がスライムという話が、少々理解できませんでしたぞ」

「あ、それ僕もまだ聞いてないのに! ねえナナさん、ヒデオ君とはどういう関係なの?」

「あー……まあ、別に構わんか。言いふらすような内容ではないが、今となっては隠してもおらぬしのう」


 グレゴリーはロックからヒデオとレイアスの関係は聞いてるっぽいけど、その辺含めて諸々話しちゃおうか。


「わしとロック、そしてヒデオは、元々この世界の住人ではないのじゃ」

「「……はい?」」

「魔術が存在しない代わりに科学技術が発展した世界、それがわしの生まれ育った『地球』という星じゃ」




 地球で病死した私と事故死したヒデオは偶然が重なって、同じ場所に転生した。ただし私は異界でスライムとして、ヒデオは地上界でレイアスに憑依する形で、しかも二人共前世の記憶を保持したままだった。

 転生した理由だけど、魔人族のヒルダが実験中だったゴーレム生成魔術と、その娘ノーラの暴走した空間系魔力が干渉した上、ちょうどこの時期に世界樹の花が咲き、世界的に魔素量が上昇していたことによる事故と推測される。


 私はスライムとして生きていたが、ヒルダとノーラを殺したヴァンを殺すため義体に入り旅に出て、ヒデオはレイアスの意識不明後にレイアスとして生きて冒険者になり、地上界で出会いを果たした。


 ヴァンを倒した後別々の道を進み、私は異界に戻り異界の人達を地上へ戻す手段を探した。

 ヒデオは地上界で冒険者として活躍し、多くの人を魔物被害から守っていた。


「そしてしばらくしてヒデオと再会したわしは、ヒデオに恋い焦がれていることに気付いたのじゃ。しかしわしは元男じゃからの……話すと気持ち悪がられるだろうと思うと怖くて、話せずにいたのじゃ」


 一気に話したので、少し喉が渇いた。

 この先はちょっと照れくさいのもあるし、マリエルが持ってきてくれた果実水を飲んで一息つこう。

 ふう。


 その後はヒデオと距離を取ろうとしていたが、皇国でヴァンらしき存在と戦闘になり撃退した後、地球で馴染み深かったものを見つけてついヒデオのもとに転移してしまったことを話した。


「……じゃがヒデオはそこで、元男であるわしを受け入れてくれてのう……しかしヒデオには既にエリー・サラ・シンディという、大事な女性がおったのじゃ。それにわしにもまだやりたいことがあって、ヒデオだけに構っておられんからのう」


 ほんとは全部投げ出してヒデオと一緒になるのも悪くないと、ちょっとだけ思ってたけどね!

 でもきっとエリー達に嫉妬するだろうしなー。


「わしもヒデオも寿命というものが無いようじゃから、今回はエリーたちに譲ったのじゃ。そして将来ヒデオがわしだけを見られるようになったら、二人で永遠の時を生きようと約束したのじゃ。それが、わしと……ヒデオとの、関係じゃ」


 それから自分の本体であるスライムの能力でゴーレムや義体を容易に作れることを話し、ヴァルキリーの残骸を出して見せようとしたらロックに止められた。

 そう言えばとこっそりダグを見ると、ヴァルキリーが話題に出てから不機嫌そうな顔になってる。

 以前義体を囮にする戦法を話したら、滅茶苦茶怒られたもんね。

 ロックも同じ戦法使ったから、絶対巻き添えで一緒に怒られる。

 それはどうでもいいけど、うん。ヴァルキリー出すのはやめておこう。



「そしてアトリオン世界樹での、ヴァンとの戦闘じゃ。ここからは話しておるな」

「ナナ様の生は波乱万丈ですなあ。それにしても男性でもあり女性でもある、性別を超えた存在! しかも人の心を持つスライム!! ほっほっほ、スライムが女神教の神獣として各地で大事にされておる理由も、ようやくわかりましたぞ!」

「ナナさんとヒデオ君って、そういう関係なんだ……」


 意味不明にテンションが高いガッソーと、逆にものすごく凹んでるグレゴリー。

 何だろうこの差は。


 とりあえず説明は終わったし、次はこっちの話だ。


「ロック、いつの間にわしの空間庫からヒデオの魔石を抜き取ったのじゃ?」

「あれ、気付いてない? それならもっと早くやるんだった……ナナ、空間庫の制御をよくキューちゃんに任せてるよね」

「まさかおぬし……わしの空間庫を開け閉めできるのかの?」


 ロックが空間庫にヒデオの魔石を入れたのを見て、まさかと思って自分の空間庫を開けたら……入ってたよ、ヒデオの魔石。


「中に何が入ってるのかは全部把握してるけど、流石に取り出したらバレるだろうと思ってさ。大変だったんだよ、義体の素材集めるの。アルトに集めてもらったりさー」

「のうロック」


 私の空間庫、いじれるのか。へー。

 ロックが返事代わりに私の目を正面から見たところで、追求開始だ。


「青スライムの件、覚えておるかのう?」


 何のことかと言いたげな顔のロックだったが、少ししてそーっと目をそらした。


「覚えて、おるかのう?」

「あー、ナナが間違えてジュリアに古い青スライム渡した奴だよね」


 確信した。私が間違えたんじゃない。

 どうして入れたばかりの青スライムと間違えて、空間庫奥にしまったエロ青スライムを渡してしまったのか、ずっと疑問だったんだ。

 私の顔を見て、アネモイがさっとロックから離れて下がっていった。

 ふふふ、これで心置きなく撃てる。


「ピーちゃんを隷属化してから動けるようになったようじゃが、それまでもキューちゃんに干渉しておったようじゃのう? 驚いているわしにトドメを刺すような一言を言わせたり、義体の汗や涙に顔の赤み……そして、空間庫もかのう?」

「で、でもほら、ヴァンを追って地上に出ようとしてた辺りなんて、俺も空気読んで悪戯は……待てナナ、ブレスは駄目だろ! 場所考えろおお!!」


 異空間生成魔術発動!


「おぬしがすり替えたかあああああ!!」

「や、やめろおおナナああああ!!」


 スライムブレス二十門生成、一斉射撃!


『ドドドドドドゴオオオオオオン!!』


 成敗!

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