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英雄とスライム  作者: ソマリ
世界樹編
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4章 第30話N 水臭いのじゃ

 アトリオン光天教神殿。司教であるガッソーは不在だが、留守を守る司祭がいた。


「のう司祭殿、書庫の閲覧を希望するのじゃが、構わんかのう?」

「あ、ナナ。お布施出さなきゃ駄目らしいよ」


 私達の姿を見て動揺しまくりの司祭に、ヒデオが金貨を一握り手渡した。

 司祭が挙動不審なのも当然だろうなあ。

 私の魔力視は、司祭の胸に埋め込まれた小さな魔道具を発見している。

 多分あれ、いつもの自爆用魔道具だろうな。

 万が一周りに被害が出たら面倒だから、あれやってみよう。

 異空間生成魔術、発動っ!


 今日はいつものメンツに加え、ヒデオにも事情を話して付いて来てもらっている。エリー達はお留守番だ。

 そして初めて私の異空間生成魔術を見たヒデオが、呆気にとられていた。

 司祭は何かが起こったことに気付いたようだが、何もさせる気はない。


 ザシュッ!


 司祭の胸を大きくえぐり、自爆用魔道具を引っこ抜く。

 同時にえぐった肉と同量のスライムを貼り付けて肉や血管を構築し、瞬間再生治療(仮)を行う。


 一瞬感じたであろう激痛に自分の胸を見た司祭は、服は破けているが傷一つ無い自身の体を見てキョトンとしていた。


「自爆されてはたまらんからのう、抜き取らせてもらったのじゃ。おぬしらの自爆はこれまで何度も見ておるが、この魔道具を直接見るのは初めてじゃな」


 私の手のひらにすっぽりと収まるサイズのサイコロのような立方体の物を、人差指と親指で摘んで覗き込む。

 毎回毎回消し炭になってたからね。


「くっ! こ、この邪神の手下め!」

「ああ? てめえナナを邪神呼ばわりたあいい度胸じゃ『ゴスッ!』ねえ、か……リオ、アルト。人が喋ってる途中でぶっ飛ばすのはどうかと思うぜ……」


 うん、私もそう思うよ。リオとアルトに殴られて吹っ飛んだ司祭は、完全に白目剥いてるね。

 それにこの人、私がナナだって知らないんじゃないかな、私を見て手下って言ってたし。

 放送はヴァルキリーでやってたし。


「姉御を邪神扱いするなんて、邪悪な存在に決まってるもん!」

「跡形もなく消し去りたかったのですが、()()これくらいにしておきます」


 それとセレスは何で槍を出してるのかな。


「これこれセレス、とどめを刺そうとするでない。大事な情報源じゃからの」

「出遅れたのがちょっと悔しかったのよ~」


 セレスが槍をしまい、ダグが司祭を縛っているのを見届けて、自爆用魔道具に視線を移す。

 さて、この魔道具はどんな術式が書き込まれてるのかなー。

 四角い立方体をくるくる回していると、面の一つに術式を見つけた。

 ……え。


「馬鹿な! ただの発火術式じゃと!?」

「は? 俺がこないだ巻き込まれたやつだよな? ものすげー火柱上がってたぜ、何かと見間違えてんじゃねえのか?」


 いくら見てもそこ書かれた魔法陣は、ありふれた初歩の火をつけるだけの術式だ。意味がわからない。何で発火程度の術式であんな火柱が上がるんだ。

 そもそも動力源も足りない。今考えるとあれだけの火柱を上げる魔力など、この司祭はもちろんこれまで自爆された者達の誰も持っていない。

 となると……立方体の、中?


「むう……中身も気になるが、後回しじゃな……。まずはガッソーの言っていた資料とやらを見に行くとしようかの」


 異空間を解除し、通常空間に戻る。

 入ったときと同じ、無人の礼拝堂に出た。

 誰かいたら驚かれただろうけど、この国では人気が無い宗教で良かった。


 書庫に向かい奥から二番目の棚を見ると、一冊だけ不自然に置かれた背表紙の真っ白な本がある。

 だが私の魔力視はその本棚の下に、一つの魔道具が隠されていることを発見した。

 先に魔道具を引っ張り出すと、それは小さなアイテムバッグだった。

 空間庫の機能が付与された袋は二重になっていて、これがアイテムバッグだと知らない者にはただの巾着袋にしか見えないだろう。

 袋の中には一冊の灰色表紙の本があり、それを取り出して内側の布を取り空間庫に手を伸ばすと、一冊の黒表紙の本が出てきた。


「白表紙の本はプロセニアの暦で書かれた歴史書のようですが、どこが捏造された部分か書かれていますね」


 どうやらプロセニア歴でいうと、私とヒデオがこの世界に来たのは八百五十年のようだね。

 結構な歴史があるんだなー。あんま興味ないけど。


「灰色は光天教の……お金の流れかな? どこで不正に使われているか、書かれているみたいだ」

「どちらも光天教にとっては都合の悪いものじゃが……本命は、これじゃろうの……」


 私は黒表紙の本を、ゆっくりと開いた。


 その一ページ目には、大きな文字でこう書かれていた。


『正しく、そして力ある者に、真実が伝わることを願う』




――――




王国歴八百五十五年十月


 ティニオン王国へ光天教の司教として赴任することが決まった。

 厄介払いだろう。

 プロセニアに残した孤児院が気がかりだが、私にはどうすることも出来ない。

 せめて可能な限りの援助品を送ろうと思う。




八百五十七年十二月


 くそ、くそ、くそ!!

 神なんていない! 私の信仰は、今日この時を持って死んだ!

 絶対に許さない、この手で必ず殺してやる!!




八百五十八年十月


 何も知らず従っているふりをして、情報を集めることにする。

 私は弱い。弱い私が確実に事を成すには、知ることがきっと近道になる。


 大司教から隣の都市アーティオンに魔人族が出現したことと、アーティオン壊滅の報せを受ける。アーティオンの司教は通信直後に死亡とのこと。

 二万人ほども人口がある都市が、たった一人の魔人族の手で壊滅したなど、にわかには信じられない。

 事実であれば次に狙われるのは、この都市クーリオンだろうか。


 大司教からの指令だ。魔人族に接触し異界人の救助を持ちかけ、世界樹へと誘導するようにとのことだ。

 部下に潜入調査を主とする司祭、もとい暗殺者がいる。瞳色を変化させられる魔術を持つので、魔人族に接触させるにはちょうど良いだろう。

 監視と合わせ二人一組で送り出した。

 危険な魔人族を野放しには出来ない。何とか目的だけでも聞き出してくれることを祈ろう。


 ……祈る? 誰に? 神なんていないのに。滑稽だな。




 確認に向かわせた司祭に扮した暗殺者の一人が、交渉決裂の上殺された。

 監視者からの報告では、現れた魔人族の目的は異界人地上人問わず皆殺しにすることで、北の小都市国家群へ向かったそうだ。

 大司教にありのままを報告すると、魔人族を世界樹までおびき寄せてから生贄とする案を進めるという。

 しかしその計画の詳細は聞くことができなかった。




八百五十八年十一月


 何とか伝手を使って詳細を調べようとするが、瘴気を増やす計画であるとしかわからなかった。

 引き続き調査を行う。同時に魔人族を止める手も考えなければ。

 大司教を引き摺り下ろす案を考えるのも大事だが、魔人族による犠牲者を減らすことも大事だ。




八百五十九年一月


 魔人族への対応が、アトリオンの司教に一任された。

 こちらに入ってくる情報が一気に減ってしまい、何もできなくなった。

 祈ることしか出来ないのだろうか。

 光天などという紛い物ではなく、この世界のどこかに居るであろう本当の神に。




八百六十五年四月


 アーティオンから瘴気が消え、犠牲者が解放されたという報せがクーリオンに届いた。

 胸騒ぎがしたため司祭に扮した暗殺者を伴い調査に向かうと、事実であった。

 暗殺者にはアーティオン周辺の瘴気状況を確認させ、その間にアーティオン責任者のファビアンという男から話を聞く。


 私はこの時、本当の神に感謝を捧げた。

 偽りの信仰が完全に死に絶え、真の信仰に目覚めた瞬間だ。


 すぐさまファビアンに尤もらしい理由をつけて口止めし、同行した司祭にも真実を言わないよう念を押す。

 そして少女の姿をした救いの女神の存在を伏せ、偽りの女神を作りだす。司祭は私の監視も兼ねているため、真実を知られるわけにはいかない。

 突然現れた美しい女性が瘴気を浄化し、死者を開放しいずこかへ消えたということにし、司祭に何を聞かれてもよくわからない、で通すようファビアンに頼み込む。


 光天教め、思うように全てが回ると思うなよ。




八百六十五年五月


 大司教へ「突然現れた美しい女性がアーティオンの瘴気を浄化し、死者を開放しいずこかへ消えた」と報告。

 すると「異界から来た本当の魔王の手によって、アーティオンの開放と偽魔王の討伐が行われた」とティニオンの国王が発表したと聞かされた。

 「真の魔王がアーティオンに現れた女性であると思われるため調査するように」と命令を受ける。




八百六十五年六月


 再度アーティオンへ。ナナという少女はすれ違いで異界に帰ったようで、お会いできなかったのは残念である。

 しかし司祭と鉢合わせさせずに済んだのでよしとしよう。

 ファビアンがナナに対し信仰心を持ち始めていたため、『白き女神』として土着信仰の一つにするよう持ちかける。

 ナナが異界からもう一度地上へ来る保証はないが、話を聞く限り善人であることは間違いない。

 大司教にはこのまま『正体不明の白き女神』の虚偽の外見を報告し、ナナは切り札の一つとして隠しておく。

 異界から来たなどと、教えてやるものか。




八百六十五年十月


 「真なる魔王と協力し偽魔王の配下を多数討ち取った英雄」というレイアス・クロードの監視を言いつけられた。

 ヴァンという名の魔人族に替わり、次の生贄候補にするという。

 ここで私に隠されていた情報のいくつかが開示された。


 その情報を総合すると、目的は世界樹から排出される魔素を増加させることであり、瘴気の増加によって世界樹を活性化させようとしているグループと、世界樹から異界を維持する機能を停止させ本来の力を取り戻させようとするグループの二つがあるらしい。

 便宜上瘴気組と再生組としておく。

 そして瘴気組は戦争等の『死』によって安易に増加する闇の瘴気を増やす事を主目的とし、再生組は魔力の高い者を探して世界樹に使用する術式の生贄にするのが主目的という。

 その術式を用いて、世界樹本来の力を取り戻させるらしい。


 ヴァンの時には瘴気組と再生組が組んで計画を進めていたが、再生組の計画だけが頓挫したことから完全に決裂したらしく、今こちらに指令を出しているのは再生組であるとのこと。

 瘴気組は小都市国家群を飲み込んだ瘴気で満足してエスタニア大陸から手を引き、イルム大陸にある皇国への仕掛けで忙しいそうだ。


 そして最大の問題が判明した。この瘴気組と再生組、大司教より上の存在だという。

 どこのどんな組織なのかわからない。プロセニアか? 皇国か? 帝国か? 絶対に尻尾をつかんでやる。


 それに世界樹本来の力を取り戻させるということは、下手をすると異界と地上界が融合し大きな被害が出る。

 術式を用いての融合なら被害が出ないという話だが、大司教の話を鵜呑みにする気は無い。



 ヴァンとの関与が国に疑われそうになって消されたアトリオンの司祭に代わり、レイアスが今後活動拠点とする可能性の高いアトリオンへの異動が決まる。

 そういえばこの英雄レイアスだが、恐らく以前神殿に本を読みに来た事があるはずだ。彼が生贄の基準を満たさないことを祈る。


 アトリオンはこの国には珍しく、孤児が存在した。世界樹防衛戦の犠牲者の遺児らしく、引き取り手がいないというその孤児達を集め、孤児院を作る。

 これも人質として監視されるのは目に見えているが、だからと言って放っておくこともできない。

 ヴァンの侵攻の犠牲者ならば、それを支援していた光天教関係者である自分も加害者なのだ。


 そして今度こそ、孤児たちを守る。


 二度と皆殺しになど、させるものか。




八百六十六年四月


 レイアスが私を訪ねてきた。間違いなく、以前クーリオンの神殿に本を読みに来た子供だった。しかもアーティオンで出会ったファビアンの息子だと言う。これぞ神の思し召しというものであろう。

 司祭に私との繋がりを見られてしまったのは痛いが、人質のためにも手心を加えているのがばれないよう気をつけなければいけない。

 しかしレイアスと一緒に来たオーウェンという者も勘がよく、警戒した司祭は盗み聞きをせず私に任せることにしたのも運が良かった。

 レイアス一人であれば、司祭にナナ殿のことがばれていた可能性が高い。


 ここで私は、レイアス君と賭けをすることにした。

 賭けの対象とした「書庫の奥から二番目の棚にある光人族の資料」というのは、この日記だ。自分に何かあっても、レイアス君がこれを読んでくれたならば、私も無駄死ににはならないだろう。どうか気付いてくれることを祈る。




八百六十六年五月


 レイアス君とその仲間がよく孤児院に顔を出すようになった。子供達の喜ぶ顔を見ていると、幸福感と罪悪感が心の中で渦巻く。

 事あるごとに賭けの話を持ち出し、レイアス君にこの日記の場所を念押ししておく。




八百六十七年一月


 今回私に付けられていた司祭は、本国から魔物を操る魔道具を複数持ってきていた。

 それを使って周辺の魔物を操り、散発的に人を襲うよう命令したという。この人でなしを褒めなければいけない自分の立場を呪う。

 そんなとき本国からもたらされた魔物分布資料の中に、ドラゴンの存在を見つけた。

 司祭にドラゴンを操り集落を襲わせるよう指示し、資料にあった抜け道と地図を持たせて送り出した。

 資料にはより高位の竜の存在まで記載されていたが、その部分は隠蔽する。すまないが失敗して死ね。




八百六十八年四月


 なんてことだ、司祭がドラゴンを操ることに成功したらしく、レイアス君に調査名目の依頼が来てしまった。

 大司教からは褒められしまったが、これはいけない。

 ドラゴン一体なら何とかなるかもしれないが、レイアス君も私にとっては希望の一つだ。何とか死なせずに済む手段は無いだろうか。




 神よ! ナナ殿との出会いに感謝を!!




 アルトというナナ殿の仲間が、ファビアンからの紹介状を持って宗教について教えて欲しいと訪ねてきた。レイアス君の救助に向かったのではないのか?

 それとなく聞いてみるが、問題ないと笑顔で言われ、それ以上の追求ができなかった。不用意に口を開くと、この男は深くまで見抜くだろう。

 事実も敵味方もわからない以上、この男に全て打ち明けるわけにもいかない。




 アトリオンの領主が反逆罪で捕縛? 領主代行にオーウェン? レイアス君が補佐? 何がどうなった? いつの間に戻ってきた?

 ともあれ無事で本当に良かった。




八百六十八年五月


 また監視の司祭が来てしまい、むやみなことを口に出せなくなった。

 孤児院に来てくれたレイアス君が、ナナ殿に助けられて帰ってきたこと、ナナ殿は旧小都市国家群の瘴気を浄化しに行ったことを話してくれた。


 これで私は今以上に、目的に向かって邁進する決意が固まった。

 私に何かあっても、この日記さえレイアス君が読んでくれさえすれば、光天教の悪事はナナ殿に伝わる。

 無駄死ににはならないだろう。


 とことんまで光天教の邪魔をし、足を引っ張ってやろう。

 一人でも多く、光天教の犠牲者となる者を減らしてやろう。

 それが光天という偽り神を信じた、そして復讐の鬼となった、私の償いだ。


 大司教に旧小都市国家群の瘴気消滅の可能性と、レイアス君がドラゴン討伐に失敗したが、誰かに助けられたことを報告する。

 レイアス君を助けた存在については、もちろん不明と報告する。




八百六十八年七月


 度々来るようになったアルト殿にも、賭けの話を持ち出しておく。

 ナナ殿の仲間である彼にも、保険としてこの日記の場所を匂わせておいた。



 ナナ殿がレイアス君と一緒に、私を訪ねてきてくれた。神に感謝を!



 ナナ殿は異界の住人を引き連れて、地上階へ移住したらしい。

 ここが孤児院でよかった、司祭の目が届く神殿でなくて本当に良かった。


 ナナ殿にも賭けを持ちかけ、この日記の場所を匂わせる。

 私に何かあれば、ナナ殿なら必ずこの日記を見つけてくれるだろう。




八百六十八年十月


 本国が帝国と組み、皇国へちょっかいを出しているらしい。

 いや、本国は帝国の言いなりか?

 調べたいが、ティニオンからでは無理がある。


 小都市国家群の瘴気消失とレイアス君がその調査に向かったことを報告したが、この件で本国が何か企んでいるらしい。

 こちらまで情報が降りてこないのが悔やまれる。




八百六十九年四月


 ナナ様がとうとう表舞台へ出られた。

 建国宣言に加えて本国、プロセニアへの宣戦布告とは傑作である!!


 私にも本国への帰還命令が出た。

 私が監視してきたレイアス君とナナ様との繋がりについて、大司教が話を聞きたいらしい。

 それと以前アーティオンに現れた白き女神と、ナナ様との繋がりについてだ。

 虚偽で報告した美しい女性の姿をした白き女神が、先日各都市上空に映し出されたナナ様の姿と一致したためだろうが、気付いたところで今更手遅れである。


 これまで隠し続けてきたおかげで、プロセニアの対応は全て後手に回っている。

 ざまあないな!


 やっとだ。

 やっと機会が巡ってきた。


 我が子らを殺した報い、必ずこの手でつけてやる!






 ナナ様。アルト殿。レイアス君。


 私の復讐のため、これまで真実を隠していたこと、心よりお詫び致します。


 この手記を読んでいるということは、おそらく私はもう生きてはいないのでしょう。


 プロセニアに私が作った孤児院は、今の大司教の手によって、亜人の子を匿った罪により皆殺しにされました。


 私は大司教が憎い。


 必ずやこの手で、復讐を遂げます。


 万が一私が失敗して、大司教が生きていたら……


 どうか、どうか私に代わって、子供らの仇を……お願い致します。


 皆様方に、真なる神のご加護があらんことを。



 記 ガッソー・フォール




――――




 馬鹿者が……もっと早く相談してくれても良かったじゃないか。

 一人で抱え込みやがって。


「アルト! ダグ! リオ! セレス! プロセニアへゆくぞ! ガッソーは死なせるには惜しい、まだ生きておるなら救助に向かう!」

「おう!」「うん!」「は~い」

「はい。ではトロイに連絡し、合流いたしましょう」


 四人それぞれの返事を聞き、ゲートゴーレムを出そうとしたところでアネモイとヒデオの二人と目が合う。


「俺も行くよナナ、ガッソーは俺にとっても友人だ」

「ねえナナ、私呼ばれてないわよ?」


 ヒデオはキメラ兵とかいう奴相手なら余裕だ。しかし万が一、人型竜のゴーレム……ヴァンかもしれない奴が出てきたら、申し訳ないがヒデオは戦力外だ。

 奴が本当に消滅していたのなら良いのだが、確証はない。

 本当にヴァンだったなら、奴がヒデオを狙わないわけがない。


 そしてヴァンを見たら、アネモイはまた怖い思いをするかもしれない。

 魔力線の接続を自由にできるようになったため、前回の二の舞はない。

 だがあの時の恐怖で気を失ったアネモイを思い出すと、ヴァンの前には出したくない。


「アネモイはヒデオと一緒に、捕縛した司祭を連れてブランシェへ行くのじゃ。ヒデオ、すまんがこれはプディング魔王国の戦争じゃ。ティニオンは協力関係じゃが、あくまでも支援のみじゃ。戦場にティニオンの英雄を連れて行くわけにいかぬ」

「……くっ……わかった……」


 ごめんよヒデオ、悔しいのはわかるけど耐えてくれ。

 エリー達に子ができた今、ヒデオに万が一があったら三人に顔向けができない。

 それに何より私が私を許せなくなる。


「嫌。私も行くわよ」


 ってアネモイ、駄々をこねるんじゃない。

 ヴァルキリーに換装しアネモイの頭を撫でようと手を伸ばしたら、その手をかいくぐりアネモイが抱きついてきた。 


「確かに戦うのは嫌よ。でもそれ以上に、ナナと離れるのは嫌。それに人型竜のゴーレムがいるかもしれないんでしょ? 私のブレスで消し炭にしてあげるわ!」


 そう言いながらも震えているじゃないか。


「置いていこうとしても無駄よ、そうしたら古竜の姿で追いかけてやるんだから」


 ……スライムで拘束して、転がしておいたほうが良いんじゃないだろうか。

 全く、もう。

 まるでひな鳥だな、古竜のくせに。ふふふ。


「仕方ないのう……わしの後ろから離れるでないぞ?」

「それでこそナナよ! ありがとう、大好きよ!!」


 アネモイはヒデオと違ってヴァンに狙われる理由は無いからね。

 どうしても付いて来たいというのなら、守る覚悟をしようじゃないか。


「ヒデオ、すまんが司祭を頼むのじゃ」

「ああ……気をつけてな」

「うむ。では行ってくるのじゃ!」


 悔しそうなヒデオの顔を見るのが辛く、背中越しに返事を聞いてゲートゴーレムを二体出す。

 一体をプロセニアに転移させ、もう一体のゲートと繋いでそそくさと門をくぐった。



 ゲートの先はプロセニア王都アプロニアが、木々の隙間から見える位置だった。

 アトリオンのゲートゴーレムをこちらに転移させ空間庫にしまうと、通信機を使っていたアルトがこちらに顔を向けた。


「ナナさん、トロイと連絡がつきました。光天教本殿地下に潜入中……可動している、複数体の人型竜ゴーレムを発見とのことです」


 ヴァンがたくさん?

 いや、まさかな。

 しかしもしゴーレムの中に混じっていたら厄介だな、それにあの強さのゴーレムが複数体とは……正直、かなり厄介かもしれない。


「その奥に、地下牢らしきものがあるようだ、とのことですが……」

「まずは内部の調査が必要じゃの。いくらなんでも真っ当な理由もなしに、降伏した敵国に攻め入るなど許されることではなかろう」


 ガッソーを助けるというのは、個人的な理由に過ぎないからね。

 それにヴァンの件も、私個人の問題だ。


 だが敵なら壊そう。倒そう。ヴァンにつながるなら、容赦はしない。


 しては、いけない。


 深く深呼吸をして、気持ちを切り替える。


 さあ、ガッソーや連れ去られたままの亜人や森人・地人族を見つけようか。

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