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英雄とスライム  作者: ソマリ
世界樹編
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4章 第26話K あっけなく死んじまった

 転移魔法陣の連続使用でヴァンを連れ帝国へと戻った俺は、早速老人会に呼び出しを食らった。

 ヴァンの身体はボロボロで、肉体の戦闘力はかなり落ちてる。

 そしてジジイどもはあれでも一流の術者だ。

 だからこその、余裕だったんだろうな。


 ……俺様だってまさか顔を合わせてほんの数秒で、手足をへし折られたジジイどもが地べたに転がっているだなんて、夢にも思わなかったぜ。


「き、貴様……我らにこのような真似をして、ただで済むと……」

「エイエンノイノチガ、ホシイラシイナ?」


 ここに来るまでの間、ヴァンにはジジイどもの目的を話してある。

 あの方と同じ、魔石生命体。永遠の命。それが、ジジイどもの目的だ。


「マリョクガフエタオカゲデ、イロイロトデキルコトガ、フエテイテナ。ワタシガオマエタチニ、エイエンノイノチヲ、アタエテヤロウジャアナイカ」

「な、何を……がはっ!?」


 俺様が止める間もなく、ヴァンの右腕がゲオルギウスの胸を貫いた。

 俺様が唯一逆らえなかった、ジジイどもの指導者。

 帝国の実質的な支配者で、最強の魔術師。

 ざまあみろとは思うが、こうも簡単におっ死んじまうとはな。


 そしてジジイの胸から魔石を引っこ抜いたヴァンが、その魔石をじっと見てからジジイの胸に突っ込んだ。

 何がしてえんだ。


「貴様、よくもゲオルギウスを……っ!」

「た、た、助けて、し、従います、から、ひいっ!」


 枯れ枝のベルクマンはまだやる気みてえだが、肉樽のアデルは駄目だなありゃ。

 つーか最初から四人同時に全力でかかってりゃ、最初に死ぬのは間違いなく俺様だろうが、それでもヴァンを仕留められる可能性があったかもしれねえのによ。


 ヴァンにバレねえように、何度も「ヴァンは危険だ」って連絡したっつーのによぉ……。


 ……ん? 何だ? ジジイの死体が……動いてるだと?


「ぐっ……がはっ! ……はぁ、はぁ……ぐうっ!! き、傷が……癒えて……いや、これは再生? 貴様、儂に一体何を……」

「ゲ、ゲオルギウス……貴公、その顔はいったい……?」


 起き上がったゲオルギウスのジジイが、元ジジイになってるだと?

 いや何だよこれ何で若返ってんだよ、シワも消えて白髪は金髪にどんどん戻ってやがる。

 それに何だあの眼。金色の瞳が真っ赤に変わり、白目だった部分が真っ黒じゃねえか。


「オマエニ、エイエンノイノチト、エイエンノワカサヲアタエタ。ダイショウハ、ワタシヘノチュウセイダ」

「こ、この体の奥底から湧き上がってくるような力はいったい……それに胸の傷だけではない、折られた足の骨も繋がっているだと……」


 立ち上がったゲオルギウスはあっという間に、俺と同じくらいの年齢に見えるくらいに若返りやがった。

 確かこのジジイ、千歳越えてんだよな……何だよ、これ。


「永遠の命だけでなく、若さまで……おお、手のシワが無い……顔も……」

「オマエタチハドウスル。ワタシニチュウセイヲチカウナラ、オナジヨウニエイエンノイノチトワカサヲアタエヨウ」


 ベルクマンとアデルは一瞬顔を見合わせてすぐ、へし折られた手足に構わずヴァンに頭を下げて忠誠を誓いやがった。

 ゲオルギウスみてえに魔石を一度抜かれ、戻されてしばらくすると若返りやがった。


 そして直後、アデルがヴァンに顎をもぎ取られた。

 アデルがヴァンに必死にお礼を言ってたが、聞き取りづらいっていう理由でだ。

 てめえの声のほうが聞き取りづれえだろうが。

 だがもぎ取られた顎があっという間に再生し、多少どもるが前より多少聞き取りやすくなっていた。


 その時アデルの上の歯、犬歯が異常なほど長く伸びていたのに気付いたけど、ありゃいったい何だ?

 つーか三人共……何だこの薄気味の悪さは。

 まるで魔物……アンデットみてえじゃねえか。


 それを見て満足気に笑うヴァンが突然振り返った。

 胸に焼けるような激痛が走る。

 くそっ、元ジジイになった三人に気を取られていて、反応ができなかったぜ……。


「がはっ! ヴァン、てめえ……」


 俺の胸には、血まみれのヴァンの右腕が刺さっていた。

 俺は、てめえなんかに忠誠を誓った覚えは、ねえぞ……。


「ククク、キンバリー。トクベツニ、オマエニモエイエンノイノチヲヤロウ。コレカラモ、ワタシニツクシテクレルコトヲ、キタイシテイルゾ」


 誰が、てめえなんかに……畜生……意識が、消える……ナナ……俺様、は……。




 目が覚めると、世界が一変していた。

 確かにゲオルギウスが言う通り、体に力が漲っている。

 傷も再生するし、力も相当上がっている。

 けどよ……やっぱり、俺様の心臓は、止まったままだったぜ。


 ヴァンはアンデット化の魔術が、得意だったな。

 だが自我を残したままアンデット化する術なんて、俺は聞いたことがねえぞ。


 ゲオルギウスが真祖とか吸血鬼とか言ってるが、何にせよもう俺様は人間じゃなくなっちまったらしい。

 ナナがくれたハンバーガーより人の血が飲みてえと思い始めたのが、魔物になっちまった証だろう。


 クソが。


 そしてゲオルギウス達は、完全にヴァンに対して忠誠を誓っていた。

 いくら強化されたとはいえ、俺様一人じゃヴァンに勝てねえ。

 俺様にヴァンを止める手段は、無くなっちまった。

 こいつを、ナナに会わせちゃいけねえってのに……。






「あーあー。うむ、多少はマシになったんじゃあないか?」

「はっ、ヴァン様。非常に滑らかに発音されております」


 俺様達四人を吸血鬼にしたヴァンは、ゲオルギウスに用意させた人間の死体から取った喉と左腕を、自分の体に移植していた。

 何だってそう簡単にくっつけられるんだよ、まるで死体をつぎはぎして作ったゴーレムじゃねえか。


「では私の新しい体の用意と、魔石集めを命じます。魔石は英雄と呼ばれるほどの強者の物を用意して下さい。その魔石から知識を吸い出し、活用させて貰おうじゃあないか」

「体の方はしばらくお待ち下さい。この帝都地下に、とっておきの素材がございます。それを用いて、必ずや最高傑作をお作りいたしましょう。魔石はこれまで集めたものがございますので、すぐに用意させます」


 ヴァンが新しい体に魔石を入れ替える時が、ヴァンを止める最後の機会だ。

 その瞬間まで俺様はヴァンの手下として、従順に振る舞っておく必要がある。


 ……一度会っただけの女神様だが、今の俺には生きる理由の全てだ。

 幸せってのが何なのか俺様には見つけられなかったが、多分ナナの為に何かしようと思っている今の俺の考えも、一つの幸せなんじゃねえかと思っている。

 光天教の連中と似たような考えってのは、癪にさわるがな。






「ヴァン様。ナナという者の所在が判明いたしました。エスタニア大陸ティニオン王国の南東にてプディング魔王国なるものを興し、その地にて魔王と名乗っているようです。またナナはプロセニア王国に対し宣戦を布告し、プロセニアからは指示を仰ぐ旨通信が届いております」

「ほう。詳しく聞こうじゃあないか」


 はは、国を興して王になったって? 女神の治める国かよ、ここなんかよりよっぽど住みやすいんだろうな。

 こんなアンデットだらけの、クソ以下になっちまった帝国よりもな。


 あれからゲオルギウス共は、見境なく人の血を吸いまくっていた。


 どうもゲオルギウス共に血を吸われた人間は、俺達と似たような動く死体になるらしい。

 だが自我が残る奴はごく僅かで、殆どは見境なく生きた人間を襲う魔物になっちまった。

 俺達を上位種と認めているらしく命令を聞くだけマシだが、これじゃ調教された獣と変わんねえじゃねえか。


 そういや前に帝都を離れる前に話をした、野人族の新米兵士。あいつも吸血鬼になっちまってたな。

 結婚したばかりとか聞いたが、あいつにはもう幸せを感じることは出来ねえんだろうな。

 それどころか、嫁やガキも……クソったれが……。


「くくく、面白いじゃあないか。プロセニアという国そのものが光天教の言いなりで、その光天教は貴方たち賢人会の下部組織とはねえ。しかし……ふむ。いろいろと探られるのはマズいですね。時間稼ぎをし、ゴーレム研究及びキメラ兵研究の証拠を消しましょう。その後完全降伏を受け入れ、ナナの元へ奴隷に紛れさせたキメラ兵でも送り込み、諜報活動をさせようじゃあありませんか」

「承知いたしました。ではキメラ兵には、解毒薬を三ヶ月分だけ持たせましょう。プロセニアの王都アプロニアからプディング魔王国まで移動するだけで、最低でもそれくらいの期間はかかりましょう。道中で間者に接触させ、情報と引き換えに解毒薬を渡すよう手配させます」

「任せましたよ、ゲオルギウス。エスタニア大陸は広いですからねえ。ところでエスタニアといえば、世界樹について詳しく話を聞いておきたいですねえ。特に、異界の消滅方法です」


 ゲオルギウスが下がり、代わりにベルクマンが一歩前に出た。

 エスタニア世界樹への直接工作は、あいつの仕事だったな。


「はっ。エスタニア世界樹に埋没した異界生成の術式ですが、発動時と同様に人の魂を破壊した際に暴走する魔力を用い、世界樹のどこかにある術式を発見・破壊する魔法陣を使用します。この際に使用する人の魂ですが、並の人間では魔力が不足するため――」

「私の魂を使おうとしたのですね?」

「……そ、その通りにございます。発動時は未完成の魂魄破壊術式が暴走したせいで二万人もの光人族が死に、想定より大規模な異界ができてしまいました。しかし現在は魂魄破壊術式も改良を進め、高い魔力を持つ者であれば一人の生贄でも十分な効果が発揮できます」


 てめえが生贄になりやがれってんだ。


「また魂魄破壊術式を暴走させればいいんじゃあないのか? アトリオンにはちょうど良い虫けらがはびこっているだろう」

「魂魄破壊術式の暴走時は、エスタニア世界樹より遠く離れたこの地での犠牲者が最も多かったのです。下手をすればヴァン様にも影響が出てしまいますゆえ……」

「ふうむ。それでは仕方がありませんね。それで生贄には誰を使うのですか?」

「現在の生贄候補は、ティニオン王国の英雄レイアスが第一候補となっています」


 ベルクマンはそっから候補者の名前を次々と挙げていった。つーかオーウェンとかエリーシアとか、全員レイアスの仲間じゃねえか。


「レイアスに、オーウェンですか! ふははは!! 懐かしい名前ですねえ、散々私をコケにした者達!! キンバリー、貴方に命令です。二人を殺し、世界樹に捧げる生贄にしなさい!」

「……おう」


 畜生、まだヴァンの新しい体は完成してねえ。魔石を入れ替える時がヴァンを倒す絶好の機会だってのに、その場に俺がいることも出来ねえのかよ。


「異界の住人を皆殺しにできないのは残念ですが、世界樹の力が戻れば魔物が活性化し、エスタニア大陸では大きな被害が出るでしょう。その隙を突き、ナナの国へと攻め入るとしようじゃあないか。アデル、住民の吸血鬼化はどうですか?」

「は、はい、ヴァン様。い、生き残りが僅かに抵抗していますが、時間の問題でしょう。ま、また他の都市住民も吸血鬼化させるよう、吸血鬼化した兵士を全土に送り込みました」

「うむ。引き続き頼みましたよ。それとスライムの駆除はどうなっていますか?」

「そ、それも問題なく、発見し次第焼き払っております」


 そういやスライムはナナの眷属だって話で、ヴァンが帝国とプロセニアに駆除命令を出してたっけな。

 ナナの頭の上でぴょんぴょん跳ねてたあれが、ナナの眷属ねえ。

 何であんなもん頭に乗っけてるのかと疑問だったが、使い魔みてえなもんなら納得だぜ。


「ふはは、全て順調に進みそうで何よりですねえ。ところで貴方達が持ってきた魔石ですが、ろくな情報が残っていませんでした。もっと強い者の魔石は無いのですか?」

「はっ。……魔石でしたら……とっておきのものが、ございます」


 おいやめろゲオルギウスてめえまさか!


「我らが主……いえ、()主の目覚めが近付いております。封印された扉は外から開けることができませんが、目覚めて出てきたところを襲えばヴァン様の敵ではないでしょう」

「ほう? そういえばその者が貴方たちに永遠の命を与えてくれると言っていたな?」

「はっ。かの者はヴァン様同様に魔石に魂を宿し、ニ千年の時を生きる魔術師にございます」


 やっぱりそうか、あのお方まで差し出すつもりかよ、クソが。


「グレゴリー・ノーマン。この帝都を作りし、あらゆる魔術の生みの親。その者の魔石なら、きっとヴァン様のご期待に応えられるでしょう」


 こうなったらグレゴリーが、ヴァンを返り討ちにしてくれるのを期待するしかねえ。

 会ったこともねえから、どんだけの実力かは知らねえけどよ……。

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