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英雄とスライム  作者: ソマリ
英雄編
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3章 第73話? 魔神

 皇都シェンナにある贅の限りを尽くしたかのような豪華な邸宅の一室で、四人の老人が言い争いをしていた。

 彼らはミナータ家・アッガーノ家・ヨーカイ家・ジッツー家という、四大貴族と呼ばれる皇国で最も強い権力を持つ侯爵家の当主である。

 皇女ステーシア率いる解放軍が皇都に迫り近日中には戦端が開かれるという状況であったため、ジッツー家所有の屋敷に集まり対応を話し合っていたのだ。



「どういうことだ! 何故帝国兵は来ない!!」

「知るか! 計画ではステーシアより先に皇都に到達する予定だったのではないか!!」


 ミナータ侯め、奴の統治するノワモルがあっさりと寝返ったせいで事態が悪化したということを棚に上げ、よくもまあ言い返せるものだ。

 計画。そう、計画だ。ステーシアと帝国貴族の子を次代の神皇に据え、皇国を帝国の属国として反乱を誘発させる計画が失敗。万が一先の計画が失敗した場合に備えた皇国によるセーナン侵攻も失敗。そして今の計画も、ステーシアより先に我々の手引きで帝国の強襲部隊で皇都を占領し、動員した民兵をステーシアと戦わせる予定だったが、これもまた失敗している。


「シーウェルトもいない、キメラ兵もたったの五百。レーネハイト一人くらいなら問題ないが、彼奴の仲間も中々の手練れだ。もう少し戦力が欲しいところだな」

「プロセニアは別の作戦があるとかでこちらへの侵攻は取り止めたそうだが、代わりに護衛の司祭をあと数人増やすと言って来た」


 アッガーノ侯もヨーカイ侯も疲れきっているな。だが無理も無い、セーナンで始まったステーシアの反乱から、たったの二ヶ月しか経っていない。それが今皇都シェンナ目前に迫っているなど、悪夢としか思えない。


「そもそも帝国が急に計画を早めるなどと言い出さねば、こんなことにはならなかったのだ……」

「いいや、問題はそこではない。ステーシアと共にある魔神の話は聞いたか?」

「あの汚らわしい魔人族の王を称する、翼の生えた化け物か。何でも魔物を使役しているらしいな」

「ナナという名前らしい。その魔神の介入こそ無ければ、計画通り事は進んだだろうよ」


 密偵からの報告でステーシア誘拐、セーナン防衛の両方に噛んでいるらしいと聞いている。だが密偵はコンゾで調子に乗ったせいで身を隠していた傭兵団ごとやられたらしく、追加情報が入ってこなくなったのが腹立たしい。


「それとナナという魔神の配下にも、恐ろしい存在がいるようだ。ノワモルの軍司令より伝書鳥が届いたよ。『ナナ様と配下の方々に逆らうのは愚の極み。人類がどうにかできる相手ではない』だそうだ」

「ふん、寝返る言い訳にしては随分物騒だな。それに本当にそんな存在がいるとして、なぜコンゾを落とす際に使わなかった。馬鹿馬鹿しい」

「それと映像を映し出す魔道具を持ったネズミが、皇都や各都市をチョロチョロしているらしいぞ。その化け物とステーシアの演説を映し出しているそうだが、そのおかげで木っ端貴族と国民の反乱は沈静化し、多くの傭兵団が我々の陣営に加わっている。魔神の手の者と思われるのだが、なぜわざわざ我々の有利になることをしているのか、理解に苦しむな」


 神皇家を廃して乗っ取ることをしないのは、多数の貴族と国民を敵に回さないために他ならない。神の血を引くと言われる神皇は我々の言いなりになることで命を永らえるただの暗愚だが、多くの貴族と実態を知らない国民からの忠誠は絶大なのだ。本人に対してではなく、血統に対してだが。

 しかも私兵の大半と傭兵も出払っている現在、一般人といえど徒党を組まれれば我々の命も危ない。

 本来なら国民の混乱を煽って反乱に加担してもらわねばならないのだが、今は自分達の命が最優先だ。


「我々には光天教の司祭が護衛についているが、それでも万が一ということがある。何がしたいのかわからんが、魔神には礼を言わねばならんかもしれんな」

「女神とも言われているようだが、いくら強大な力を持った神といえど、これほど愚かならば我らにも付け入る隙があろうというものだ」

「ふん、化け物風情を女神呼ばわりとはな。それにしてもこの化け物と言い神皇といい、いつから神とは愚者を指す言葉になったのだ」


 そうだ、馬鹿馬鹿しい。我々こそが、いや私こそが、神を名乗るのにふさわしい存在だというのに。


「あまりにも計画と違い過ぎたりステーシアの動きが早過ぎたりしたせいで、我々は焦っていたようだな。よく状況を見ろ、我々がステーシアに敗北する可能性など微塵も無いではないか」

「確かに……反乱軍の首魁であるステーシアの首さえ落とせば我々の勝利だ。風竜山脈を抜けて来るという帝国の強襲部隊も、目前に迫っているかもしれん」

「だがまずは目前のレーネハイトだな。如何な英雄と言えど五百のキメラ兵と四万の兵は突破できまいが、万が一ということもある。そこで光天教から貰った魔封じの水晶球を使うことも視野に入れるべきであろう。どうせ元々帝国の侵攻に合わせて皇都守備軍に使うはずだった魔道具だ、問題は無かろう」


 アッガーノ侯が暗い輝きを放つ水晶球を取り出し机上に並べた。その水晶球は私の拳より一回り小さい程度の大きさで、内部には闇の塊が炎のように揺らめいている。


「確か腐竜玉と言ったか、全部で八個。レーネハイトには一つで足りるとして、問題は噂の魔神とその配下か」

「そうだな、いくらレーネハイトを擁し魔神の力を温存していたとしても、兵数に差があり過ぎる。南北と後方に配置した伏兵で追い立てれば、奴等はわざと兵を薄くしてある左翼を突破して本陣を目指すしか手はなくなるだろう。万が一突破されそうなら、その時は魔封じの水晶球を発動させるとしよう。その頃にはステーシアの軍だけでなく、皇都守備隊も我々の包囲網の中だ。ちょうどよかろう」

「そうだな、帝国が間に合わなかったとしても、それまでにせめて一人でも多く死者を出して瘴気を増やさねば、アデル様はきっとお許し下さらないだろう」

「そうだ、我らが若さと不老を得るためにも、一人でも多くこの場で死んでもらわねばならん」


 帝国のアデルから指示された計画は、死と争い、貧困と反乱を蔓延させる等の手段は次々変わっているが、目的は全て一貫して一つだけだ。


 この辺りの瘴気を増やし、世界樹を活性化させて魔素湧出量を増やすというものだ。


 私の目的のためにも、死んで瘴気を吐き出し計画の糧となるがいい。









「なあおい、皇国に神の御使いが現れたって噂聞いたか?」

「俺は真っ白な髪と翼を持つ女神って聞いたぞ?」


 作業中に無駄口きいてんじゃねえ。でも面白そうな話だな。

 つーか女神様って神の御使いと何か違うのか?

 顔を上げておしゃべりしている同僚達の方を見ると、話題を出した方は少し興奮気味なのか顔が赤いな。

 だが無理もねえか、俺たちプロセニアに住む光天教の信者にとっちゃ、神の御使いなんて憧れ以外の何物でもねえ。

 でも今は仕事の時間だ。


「おい、その話は後にしな。もう少しでこいつも組みあがるんだ、終わらせてからゆっくり話そうぜ」

「おお悪い悪い。でもよ、何だって俺達はこんな動かねえゴーレムなんて作ってんだかね?」

「全くだ、隣のキメラ研究所の方が良かったぜ、あっちは亜人共を好き勝手にして良いらしいな」


 悪趣味過ぎだろ。奴隷として耳や尻尾切り落とすだけじゃなく、魔物の血や肉を飲ませたり体の中に入れたりしてるみてえだが、下らないことしてねえでさっさと殺せばいいんだ。

 野人族以外の劣等種は全て虫けら以下だ。


「外装全部つけ終わったぞ。魔石も全部セット終わりだ」

「それじゃあ拘束具つけ直して終わりにしようぜ。それにしても、見た目だけはかっこいいよな、このフレッシュゴーレム」

「フレッシュゴーレム?」

「新鮮な生体の血肉を使っているから、そう呼ぶんだとよ。こないだお偉いさんが言ってたぞ」


 確かに外装の内側は筋肉がむき出しになっていて、ついさっきまで生きていたんじゃないかって錯覚しそうになるな。

 今はもうほぼ絶滅したと言われているドラゴンを人の型にしたような姿で、全身を鱗に似せた黒い金属板で覆っている。この金属板も特殊な金属で、鉄にドラゴンの鱗や魔物の血肉を混ぜて精製したものだという話だ。

 ただの作業員である俺達には、知る必要の無い話だけどな。


「そんでよ、その神の御使い様ってのがすっげー美人らしいんだけどよ、何か教団の人たちが騒いでるんだよな、絶対に認めないとかなんとか」

「何だ聞いてないのか。そいつは瞳が金色じゃなく、赤かったらしいぞ。だから魔人族と関わりがある女神じゃないかって噂で、異教徒の神なら邪神認定するとか何とか言ってたぞ。それに魔物を使役しているって話も聞いたぞ」


 邪神とか魔物を使役とか随分物騒だな。つーかまだゴーレムの拘束具取り付け終わってねえけど、手を動かしながら喋ってるなら放っておくか。


「ああ、スライムを使役してるって話だったな。でもなんかそのスライムも可愛いらしいぜ? 一度お会いしてみたいなぁ、ナナ様。でも邪神認定か、残念だなあ」

「ナナ様?」

「ああ、ついさっきまで神の御使い様だと思ってた美人の名前だよ」


 名前持ちの邪神か。俺達光天教の神は、今は天におられる光人族の全てを指しているからな。たった一柱の女神なんか俺達の神の前ではゴミ同然だな。

 同僚は残念そうに肩を落としているが、邪神なんかに一時でも心を奪われるとは許される事ではないな。


(ナ……ナ……)

「……ん? 何か言ったか?」

「いいや? しかし何だってここまで厳重に拘束するかね? 起動させる核になる魔石は入れてないんだろ?」

「核じゃないけど幾つも魔石を入れているから、万が一起動実験前に誤作動したら大変だからだぞ」

『ザクッ』


 あとは右腕の拘束をしたら終わりだ、ってあれ、何だ今の音。ゴーレムの右手が……何で、俺の腹に、刺さって……


「う、うわああああ!! な、何で、何でゴーレムが動いて『ゴキッ!』」


 何だ、これ。腹が熱い。ゴーレムの右手、あれ、どこ行った。あ、そうか、抜いて同僚を殴ったのか。


『ドサッ』


 体に力が入らない。それに床が、なんか暖かくてぬるっとして……これ、俺の、血だ。


「ひ、ひいい!」

「ナ……ナ……ドコ、イル……」

『バキバキッ! ブチッ!』


 誰の声……ゴーレムが、話しているのか……? それに拘束具、全部外れて……


「こ、皇国です! ここから東の、隣の国です! た、たすけ――」



 何も、聞こえなくなった。それに、暗いし、寒い。

 ああ……光天の神様、どうか私を、お導きくださ……

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