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英雄とスライム  作者: ソマリ
英雄編
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3章 第42話N 日頃の訓練は大事なのじゃ

 訓練場に出ると、まずはいつも通り音漏れや流れ弾防止と、空を飛んでも外から見られないように何重もの結界を念入りに張る。

 そして空中を歩くぱんたろーに横座りして、少し高めの位置から訓練場を見下ろす。特等席である。すぐ側ではニースもリオから借りた狼ゴーレムに跨り、訓練場を見下ろしていた。


 自分の合図と共に始まったヒデオ達十人との集団戦闘訓練は、アルト・ダグ組の圧勝であっさりと終わってしまった。もう少し手加減しないと訓練にならんだろうがと呆れ、今度は十人対アルト一人で模擬戦をさせてみる。

 キューの見立てた戦力値によると、ヒデオ達十人の合計でアルトのそれを上回るのだが、それでも一人一人の差が大きいせいかアルトの勝利で終わった。

 ダグも同じく勝利するが、アルトとダグで戦力値がほぼ互角なのだから当然だろう。


 しかし負けたとは言えヒデオ達も徐々に連携も取れ動きも良くなってきており、十本も戦うとそれなりの戦いが出来るようになってきた。


 今度はヒデオ達十人を二つのチームに分け、模擬戦をさせてみることにした。

 紅組をヒデオ・エリー・サラ・シンディ・リオとし、青組をオーウェン・ジル・ペトラ・ミーシャ・セレスとして、それぞれに赤と青のビブスを作って着せてやる。部活みたいだなー青春だなーとつい口元が緩む。

 なおアルトとダグは二人でビリーと戦わせる。そろそろ相手をビリーからとーごーに格上げする頃だろうか。


 二チームの模擬戦が始まると、リオという強力なアタッカーをペトラとオーウェンが食い止めている隙に、後衛のジルとセレスに迫るヒデオをミーシャが牽制、セレスの魔術をエリーとサラが二人がかりで相殺したところに、ヒデオがミーシャと戦いながらセレスに牽制の魔術を放ち、エリーとサラのフォローをする。そこにシンディがリオとヒデオに援護射撃を行い、二人が正面の相手を突破した。

 後衛に迫るリオにジルとセレスの魔術が迫り、蹴皇で打ち消すも足止めされて再度ペトラに捉まる。戻ったミーシャとオーウェンがヒデオを押し返し、ジルの援護を受けたオーウェンがヒデオに猛攻をかける。

 戦闘は前衛の戦いに後衛が援護する形となり、こう着状態となった。


「かっかっか、良い勝負じゃのう!」


 そして勝負は魔術障壁を足場にした空中戦が始まるが、上空でヒデオとオーウェン、リオとセレスが対峙すると、前衛の居なくなった紅組のエリー達後衛がペトラに次々落とされて行った。しかしその間にセレスを落としたリオが上空からの一撃でペトラを落とすと、リオを止められる者が皆無となり紅組の勝利で決着した。


 二戦目は途中まで一戦目と似た展開だったが、ペトラ・ミーシャの改造人間組と協力したセレスがリオを落とし、ヒデオ・エリー・サラ・シンディがオーウェンとジルを落とすが、今度はペトラの鉄壁の防御を崩せないままセレスの魔術が降り注ぎ、青組の勝利となった。



 手に汗握る熱い展開であった。実はこうして他者の戦闘をじっくり見るのは初めてということもあり、少し興奮気味なのは仕方のないことだろう。だがヒデオを応援する声を上げそうになったのを、堪えた自分を褒めてやりたい。


 その後何度かメンバーを入れ替えて模擬戦を行うが、ヒデオは勝っても負けてもいつも最後辺りまで残っており、地味だが堅実な強さを見せてくれた。

 そしてペトラの豪快な斧のスウィングや塔盾を軽々振り回す腕力、ミーシャの爆発的な加速と相手をかく乱する足の速さが目立つ。しかしその改造人間二人を軽々とあしらうリオもまた、異常な領域に踏み込んでいるようである。


 それにしても皆がちょっと羨ましい。自分も混ざりたいなーと思って見ていると、ぼろ雑巾になったダグとアルトも近くに来て観戦を始めた。ビリーに勝ち越せるようになったと不敵な笑みを浮かべるダグに、次はぶぞーだな、というとアルトと一緒に顔を引き攣らせていた。

 今日は朝ヴァルキリーで訓練してしまったため、今無理して戦闘モードで身体を動かすと魔石に負担がかかる。


 キューに現在の戦闘可能限界時間を聞くと、安全マージンを考慮して三分だという。


 ……うーん。


 ……むきー!


 ヒデオ達の模擬戦が終わり、ザイゼンによる治療が行われている頃、我慢できずにヴァルキリーに換装しちゃった。うふ。

 仮面を外してにやりと笑い、大きく息を吸い込む。


「最後は全員対わしじゃ! かかってこーい、なのじゃ!!」


 とは言うもののヒデオは頬をほんのり染めてこっちを見ているし、サラはぐぬぬ顔だし、エリーとシンディは黄色い声を出しているしで、今回ヴァルキリーを見るのが二度目の面子は呆然と立ち尽くし、それに釣られた皇国組も困惑するように立っている。

 オーウェンだけがジルの前に立って盾を構えているのが、ちょっと苛っとした。ヒデオも見蕩れるのは嬉しいが、時と場所を考えて欲しいものである。というわけで最初の標的決定、くすくす。

 空間庫からハチを取り出し、通常弾でオーウェンとヒデオを撃つ。盾を構え、なっ、とかちょっと待て、とか声を上げる二人に向いた銃口が小気味良いリズムを刻んでいると、満面の笑みを浮かべたリオが距離を詰めてきた。


「姉御! いっくよー!!」


 ハチをしまってトンファーを取り出しリオを迎撃すると見せかけて、オーウェンとジルの間に転移する。

 驚愕で見開いたジルの腹にトンファーで軽く触れ、まだこちらに気付いていないオーウェンの脳天にトンファーを叩きつける。


「いてぇっ!」

「ふたーつ」


 ヒデオやエリー達も戦う顔になったことを確認した頃、追いついてきたリオの回し蹴りが、軽く後ろに引いた顔をかすめる。リオはそのまま身体を回転させて裏拳を放ち、正面から左右の拳を連続で放つ。それをトンファーで受け流し、次いで放たれた右の正拳突きを受け止めた瞬間に身体を引くが、リオの態勢が崩れない。その後も攻防の中で駆け引きを繰り返すが、リオがバランスを崩すことは無かった。

 にぱあ、と笑うリオに笑顔を返す。こうも態勢を崩せないとは、リオの成長には驚かされる。

 そしてその場に降り注いだセレスの氷の矢をバックステップで回避して、その先にいたペトラを盾ごと蹴り飛ばす。

 二本の小剣を両手に持つミーシャが高速で間合いに入るが、トンファーで左右の剣を受け止めると同時に前蹴りで吹き飛ばし、態勢が崩れたままのペトラに再接近して首にトンファーを軽く当てる。

 即座に体勢を立て直していたミーシャが、ヒデオの放つ魔術と共に後ろから迫ったが、翼を一度大きく広げて視界を塞ぎ、くるんと身体を回転させてミーシャをやり過ごすし、ヒデオの魔術をトンファーで打ち落としながらミーシャの脳天にパコン、とトンファーを落としてもう一度蹴り飛ばす。


「ぎにゃっ!」

「よーっつ」


 即座に空中にいるセレスの後ろに転移すると、直前まで自分が立っていたところにアルトやエリー、セレスたちの魔術が降り注いだ。そしてセレスを狙ったトンファーは先読みしていたダグに防がれ、追いついてきたリオとダグ、そしてセレスとアルトの四人と空中戦になる。くふふ、これを待っていたのだ。下からはエリー達の、上からはヒデオの魔術が迫り、四人は間合いを計るように周囲を囲んだ。

 口元をにやりと上げて自分の足場となる障壁を分厚く作り直し、大きく息を吸い込む。


『くわっ!!!』


 大声を上げた直後に周囲の魔素が大きく乱れ、上下から迫る火や氷や土の魔術と、自分を囲む四人の足場となる障壁が消失、バランスを崩したアルトとセレスに迫り腹にトンファーの一撃を入れる。


「むっつー」


 落下するダグとリオを尻目に、上空でバランスを崩していたヒデオに急接近する。しかし体勢を立て直して盾を構えバックステップで離れようとしたため、エリー達の後ろに転移し、とんとんとんと首元にトンファーを当てていく。


「ここのーつ」


 翼に魔力を通し、着地したダグとリオに百本ほどの炎の矢を放って足止めすると、後方上空から迫るヒデオの剣をトンファーで受け止める。


「ほんっと出鱈目すぎねぇか、ナナ」

「かっかっか、褒め言葉として受け取っておくのじゃ」


 上段・下段・突き・払いと流れるように振るわれるヒデオの剣をトンファーで受け止め、受け流し、盾を思い切り蹴り飛ばす。そこに絨毯爆撃を拳皇で防いだダグの必殺の左拳が迫った。

 それを右のトンファーでしっかりと受け止め、驚愕の表情のダグに左トンファーを振るって横っ面を叩く。

 そして飛び込んできたリオの左後方にスライム体だけを転移させ、そちらに裏拳を放とうとして隙を見せたリオの腹に、右トンファーを打ち込む。

 そこからすっと体を引くと、体ごと飛び込んできたヒデオの突きを回避し、くるんと回って翼でヒデオの後頭部を叩き、体制を崩した脳天にトンファーを落とす。


「びーくとりー! なのじゃ! かーっかっかっか!!」


 とはいえギリギリ三分以内での勝利であった。

 ほぼ見せ場のなかったアルトなどが凹んでいるが、それを待っていたら三分過ぎてしまうのだ、許せ。



 戦闘訓練を終え、リオの後ろに転移させたスライム体も定位置に戻し、皆が悔しそうに近寄ってくるのをドヤ顔で迎える。

 見学に徹していたニースも目を輝かせて近付いてきた。


「ナナ、さっきの足場や魔術かき消した大声って、もしかして中級ドラゴンの奴?」

「ふふん、よく分かったではないか。この身体で使うと範囲は狭いのじゃが、良い能力なのじゃ」


 多分巨大スライムで全力で叫べば、アトリオン一体の魔素を狂わせられるかもしれない。


「姉御のフェイントに引っかかっちゃったよー」

「逆にリオじゃから通じたフェイントなのじゃ、わしの転移をあの速さで感知できるのはリオだけじゃぞ」


 後ろに転移したと感じて攻撃しようとしたのに、目の前に自分が居たままだったのでほんの一瞬混乱したのだろう。それに万が一スライムが攻撃を受けても、核が入っていないので自分には何のダメージもない。


「戦闘中にあれほど容易に転移できるのはナナ様くらいのものですわぁ。アタシなんて魔力視を使えるようになりましたのに、十数秒は溜めが無いと転移できませんものぉ」

「そこはナナさんですから。僕もセレス君も転移魔術は使えるようになったのですが、やはり数秒は集中しないと跳べませんよ。恐らく魔力視の熟練度合いの差でしょう」

「魔力視だけで生活しておれば良いのではないか?」


 そう言うとアルトが苦笑交じりに首を横に振った。


「数時間で魔力枯渇を起こして倒れますよ」

「ん? なんじゃおぬしら魔素の吸収はできぬのか?」

「……瘴気まで吸収できるナナと同レベルで考えちゃダメだと思うよ……」


 ヒデオによると魔力視による魔素操作に魔力を大量に使うため、魔素を吸収しても割に合わないそうだ。スライムとして生きるようになってから自然とやっていたので気が付かなかった。


「恐らくそれも魔力視の熟練度合いの差ですね」


 キューに魔力視の熟練度合いの技能魔素を見てもらったところ、この中で一番熟練度が高いのがヒデオなのだが、自分はその五十倍くらいあった。以前は常に発動していたから、この差も当然かも知れない。


「そうじゃ、おぬしら破損した装備品があればあとでわしに渡すのじゃ。修理してやるでの」


 日も暮れてきたのでこの辺でお開きとし、ヒデオ達に夕飯も食べていくよう言って館へと戻る。




 まずは汗を流そうと風呂に入ることにしたのだが、自分を含めて九人ともなると中々の密集度合いであった。ここは天国か。

 地人族のペトラとクォーターであるサラは会ってすぐに仲良くなっていたのだが、背の低いペトラのほうが胸が大きいことを知り、サラは瞳の虹彩を失っていた。サラはそのままこちらに視線を向けたが、残念今日はヴァルキリーで入浴だ。いつものつるぺたではないのだよ。

 そしてエリー達三人とジル達三人は親睦を深め、初めて見るヴァルキリーの裸体に全員の視線が注がれ、負けじと全員の裸体を目に焼き付けて、互いの体を洗ったりミーシャのブラッシングをしたりとのんびり風呂を楽しんだ。


 そして風呂上がり、そろそろ大丈夫だろうと思い、いつものノーマル義体に換装すると仔猫のお披露目をするため、全員を部屋に招くことにした。


『ミャー』『ミャー』『ミャー』

「きゃあ! 可愛い!! ナナ、これが猫なのね!? 触っても大丈夫かしら!」

「ふふふ、落ち着くのじゃエリー。優しくの?」


 室内をよたよたと歩く仔猫は、抱き上げて撫でてやるとうっすらと見えているであろう目を細め、気持ちよさそうにみーみー鳴いている。

 皆仔猫に興味津々ではあるが、四匹いる大人の猫は仔猫に負けじと構ってアピールをしており、真っ先にそれに負けたのはヒデオだった。

 床に座って白猫のカピを撫でるヒデオに、黒猫のジョーも頭突きをしたあと腹を見せ、撫でろという催促をしている。

 そして三毛猫のコナンと茶虎猫のナオは、ミーシャとニースの揺れる尻尾に釘付けであった。そしてニースが尻尾に飛びつかれてへたり込んだが、なんと羨ましい。自分もあのモフモフにダイブしようか。


「ナナ?」

「ひゃいっ!? な、何じゃヒデオ、わしは何もしておらぬぞ!?」

「完全にやる気の目をしてたぞ?」


 ぐぬぬ、なぜバレたし。

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