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63話 糸口、そして誤解


 叔父である(あきら)さんとの会話の翌日、いつの間にか深夜に帰ってきていたのか家に親父がいた。


「学校に行くのか?」


 ちょうど制服に着替えて、玄関を出るところで顔に疲労が浮かび上がった顔の親父に引き留められる


「ああ」


 すると、何かを言おうとしたが口を閉ざし


「気をつけろよ」


 とだけ言ってそのままそのまま背を向けていった。


 無理がたたっているのか親父の体からは疲労がにじみ出ている。『デット・ライ・コフィン』の件で動き回っているのだろう。だが、あのまま無理をすればさすがに危ない。昨日、話した明さんの言う通りだ。


 だからといって、俺に親父を止めるすべもない。説得は難しいだろう。妻がなくなった原因だからだ。


 こうなると、事件の早期解決しかない。『デット・ライ・コフィン』を潰せば全て解決する。だが―――


(ここまであら捜しして、痕跡一つ残さないことなんてあるのか?)


 学校での昼休み中、ひたすら思考を巡らせていく。これまで数十の『デット・ライ・コフィン』とつながりのある組織を壊滅させてきた。それでも『デット・ライ・コフィン』の秘密に迫る情報は何一つ得られてない。


 もちろん、あちら側も何重にも仲介役を用意して簡単に情報が漏洩しないためにも工夫しているのだろうがそれにしてもだ。


 そもそも捕まえた能力者の子供たちをどうやって運んでいる?


 車などで運ばれた形跡はこれまでどの組織にもなかった。実際、子供が監禁されているだろう組織のアジトを何日間も張り込みをしたこともある。


 もう一つ考えられるのは転移系の神秘を持った能力者による転送。だが、こちらも可能性としては低い。


 そもそも転移系の能力者の絶対数が少ないし、何より何人もの人間を一度に運べる能力者はいないはずだ。転移系の神秘で一度に転送できるのは死ぬ気でやっても車一台ぐらいだ。それも超短距離の。


 可能性として後者がギリギリありえなくはないが、ないと考えてもいいぐらいの小さすぎる可能性だ。


 いったいやつらはどうやってガーディアンたちの眼から逃げているのだろうか


 その答えはいつまで経っても出てくることはなく、俺は特に考えもなくこれまで壊滅させてきた組織の情報などをネットの掲示板や組織の位置を地図アプリで眺めていた。


 まさにその時だった。


 俺はある違和感を覚えた。それは今まで壊滅させてきた組織の場所だ。


 それぞれの場所の近くにガーディアンの支部が近くにあるということだ。それもほぼ全て。


 加えてそれらの中心にあるのが―――


「ガーディアンの本部……!?」


 町を守るガーディアンたちの総本部ともいえる場所。地図で見ると数多の犯罪組織の中心にその本部が位置している。


 もちろん、完全にキレイな円になっているわけではなくところどころでこぼこした形にはなっているがせいぜいその程度。加えて、その本部からある程度離れると面白いぐらいに『デット・ライ・コフィン』とつながりがあると思われていた犯罪組織がないのだ。


 普通なら本部の近くを避けようと離れた場所に位置するだろう。わざわざ自分たちを捕らえるガーディアンたちの近くにアジトを設置する意味はほぼない。


「……裏でつながっているのか?」


 自然と俺の口からそんな言葉が漏れてしまう。


 その考えはあまりにも浅いように見え、何よりまともな証拠もない。それでも俺は目の前に零れ落ちてきた不確かな存在を無視できずにいた。


 そして、その懸念が現実のものとなるのには時間がかからなかった。


 詳細に調べてみると、どうやらこの街には俺がまだ壊滅させてない犯罪組織がもう一つだけ残っているらしい。とはいっても、チンピラが集まった十人にも満たない組織だ。


 ひとまずその組織のアジトに行くことにしたのだが、案外簡単に見つけることができた。待っていたかのように俺が来るタイミングで子供が攫われていたのだ。


「ん~~~~~~~~~~~~~!」


「おら!大人しくしておけ!」


 スキンヘッドの男が子供を乱暴に引きずっている。が、子供が暴れているのに加えて男のやり方は明らかにつたない。子供一人にあそこまで手こずっている時点で、稚拙さがバレバレだ。


 すぐさま俺は男の元へと疾走し、みぞおちに一撃を与える。


「ぐっ……」


 男が何か言うまでもなく地に倒れこむ。聞きたいことがあるから、ひとまずはこれでいいだろう。


 すると、男の仲間と思わしき連中が鉄パイプを片手にこちらに迫ってくる。


「悪い、すぐ終わるから少しだけ待っていてくれ」


「……うん」


 少年は先ほどまで捕まりかけていたのに以外にもその表情は落ち着いていた。小学生ぐらいの子でこの状況なら泣きぐしゃるのが普通なのに。表情に乏しい子なのか。


 だが、そんなこと考えても仕方ない。俺は子供を安全な場所へと非難させるとすぐさま男たちを迎え撃つ。


 が、やはりあまり慣れてないのか男たちの動きはチンピラに毛が生えた程度だった。鉄パイプでこちらに襲い掛かってくるが、男たちの動きはむしろ鉄パイプに振り回されているという感じだ。そもそも武器が鉄パイプの時点でまともな組織ではない。


「くそが!」


 叫びながらも向かってくる男の振り下ろしをわけもなく、かわし無力化していく。気づけば男たちはほとんど気絶していて残った一人も俺に背を向けて逃げていた。


 逃げていった先はつぶれたガソリンスタンドのような場所だ。おそらく彼らが普段たむろしているところだろう。隙だらけの背中で数秒もせずに、他の奴らと同様に戦闘不能にできる。


 すぐさま男の元へと距離を詰めるが、瞬間、俺の動きが止まる。


「おい!言われたことはやったはずだ!開けてくれ!頼む!」


 男は無我夢中にコンクリ―トの地面をこちらに見向きもせず、叩き続いている。叩いている先には何か特別なものがあるわけでもなく、ただのコンクリート。しかし、その形相は開かずの扉の開閉(かいへい)を誰かに懇願するように聞こえる。


 それに言われたことはやったはず、とはどういうことだ。先ほどの少年は捕まってもないのに。すでに目的は達成しているかのような言い方だ。


「……おい、何やってんだ?」


「ひっ、違うんだ、俺だって命令されたからしかたなく……」


 男は俺のことを目視するや否や、要領の得ない発言をしており、完全にパニックに陥っている。


「落ち着け。抵抗せず、大人しく言うことを聞くなら殺しも乱暴もしない」


「ほ、本当か?」


 男の問に俺は首を縦に振る。


 状況に応じて、対象の殺害が最適解な場面はたしかに存在する。けど、相手が完全に線喪失していたらむやみに殺すわけにはいかない。あくまで殺しは最後の手段だ。


 俺は戦闘態勢を解き、戦闘を起こす気がないことがわかると男の呼吸も少しずつ落ち着いてきたようだ。


 しばらくして、男が動機も収まると先ほど生まれた疑問を解消すべく俺は男に問いかける。


「で、まず質問が一つあるんだが、お前ら結局何が目的だったんだ?さっき、お前が言った通りだと、あの子の誘拐が目的じゃなかったのか?」


 言いたくないのか男は口を固く結ぶ。が、俺が威圧をかけるように腕を少し振り上げると、大人しく男は口を開いた。


「わ、わかった。話すから勘弁してくれ。あんたが言った通り、俺たちは上からの命令であのガキを―――」


 男の言葉が途中で止まる。


「おい、どうした?」


 俺が疑問を投げかけたのと同時に、男は地面に倒れこむ。顔は青白く、血液の流れを感じす、口からは泡を噴き出していた。


「おい!?どうした!?返事をしろ!?」


 倒れこんだ男の体を揺するも返事は帰ってこず、男の体はすでに冷たさが支配していた。


 死んでいる。


 おそらくは口封じのため。毒物があらかじめ男の体に仕込まれていたか、何らかの時間差で発生する神秘なのか。


ともかくこれで『デット・ライ・コフィン』に繋がる情報は経たれてしまった。いや、まだ確かめてないことがある。


 俺は先ほど男が叩いていた地面に手を当てる。『開けてくれ』。その言葉から推測できることは―――



「そこの君、ちょっと止まりなさい」


 後ろから声がかかる。振り返ると、先ほどの少年を挟む形で二名のガーディアンがこちらを警戒していた。どうやら先ほどの少年がガーディアンを呼んだらしい。それにしても先ほどから一分も経ってない。ずいぶんとガーディアンが来るのが早い。


 彼らの警戒はひとえに俺のそばで死んでいる男が原因だろう。俺が殺したと解釈されてもおかしくはない。が、少年の言及で俺が悪いわけじゃないのは認めてもらえるだろう。


「この人に襲われました」


 少年が指さしたのは倒れた男―――ではなく


「そこの白髪の人に殺されそうになりました」


 少年が指をさしたのは俺だった


 


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