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37話 戦いの後で①

 

「お、あった」


 探し物、先ほど黄広に切り取られた左腕はがれきの中に埋もれていた。右腕でがれきをどかしていき、左腕をつかみ取る。


 ずいぶんと土まみれになっているが、まあ何とかなるだろう。


 「疑似神秘開放『繭絲龍脈(けんしりゅうみゃく)』」


 俺が口ずさむと同時に左腕の切断面から群青色の糸のように細い神経のようなものが束となって、切り離された左腕の切断面とつながる。


 すると、切断面同士がそのままぴったりとつながり、切り落とされる前のもと通りの左腕となる。まだ、指二本どっかになくなってるが。


 これが俺の技の一つである繭絲龍脈(けんしりゅうみゃく)


 ただの魔力を疑似的な神経のようなものへと性質を変え、今のように切り落とされた肉体を疑似的な神経を繋ぎ合わせてもとに戻すというもの。


 俺の神秘「超耐性」と同じく、なかなか地味な技ではあるが意外と重宝したりもする。


 「っと、早くアステラを追わないと―――ん?」


 ふとポケットの中の携帯が振動する。


電話だと思い、携帯を見ると相手は神室(かむろ)だった。


 「神室か?」


 「うん、なかなか出ないから何かあったんだと思ったけどその調子だと無事みたいね」


 「ああ、それでその、アステラはどうなった?」


 恐る恐る聞いてみる。すると神室からは吉報が伝えられる。


 「アステラちゃんなら無事だよ。灰賀ってやつに捕まってたのを取り返した」


 「ほんとか⁉」


 深く息を吐く。


 よかった。これで攫われていたらシャレにならなかった。


 「それで……………今どこにいるの?とりあえず合流しないと」


 「ああ、そうだな。神室…………………ありがとう。本当に助かった」


 「別に………その、お礼を言われることでもない。じゃ、じゃあ今からそっちに行くから現在地のURL送っといて」


 ぷつんと電話は途切れた。自身の浅考を恥じながらも、神室に感謝しすぐに現在地情報を神室に送った。


 すると、ふと自分のいる空間に違和感を覚える。神室との電話の内容に集中していて、この空間にいるはずの人間が消えていることを。


 「―――黄広(きおう)がいない!?」




   



 


 赤い滴が粉砕された歯とともにしたたり落ちていく。


 眼球は完全につぶれ、視界もおぼろだが男は足を止めない。


 「ああ、くそ………!」


 黄広は痛みにうめきながらも人しれず、悪態をつく。


 あの後、顔面を根性鉄槌で砕かれるも体に残ったなけなしの力で脱出してきたのだ。


 「あのガキ…………………絶対ぶっ殺してやる」


 黄広は足を引きづりながらも、薄暗闇の中を進んでいった。


 地上での移動は目立つので、彼は下水道を進んでいったのだった。集合場所は決まっている。まずはそこを目指し、治療に専念する。


 あろうことか自分は年端もいかない子供に正面から打ち倒された。そんなこと彼のプライドが許さない。


 荒い息を吐きながら、黄広は暗闇の先を血走った眼でにらみつける。


 「………………行き止まり?」


 そこはがれきの山が気づかれており、通路が完全にふさがっていた。天井に穴は開いているが、今の黄広にそこまで飛ぶ体力はない。


 彼は知らないことだが、そこは先ほど神室が撃滅六花により破壊した場所だった。


 「っち、くそが……………!」

 

 彼は唾を床にたたきつける。疲労が限界まで達した体で回り道をしなくてはならないからだ。


 だが、彼の命運はここで尽きたことをここで知ることとなる。

 

 誤算は二つ。


 死に体の体で行きどまりにたどりついてしまったこと。


 そして、彼を尾行する人間に気づかなかったことだ。


 「―――黄広アスマだな」


 黄広がひり向くとそこには黒フードを頭から被った人物がいた。小柄な見た目で、フードで顔が隠れているため性別はわからない。翔進羅黒の家の侵入した人物であることは黄広は知らない。


 黄広の心臓が打ちつけられていく。黒フードの人物は明らかに自分に殺意を向けている。最大限の警鐘を打ちつけるも瀕死の体は言うことをきかない。


 それと同時に黄広はアギトが言っていたことを思い出す。


 『最近、キトノグリウスを狩る人間がいるそうです。おそらく刃上さんもそいつにやられたのでしょう。どうやらかなりのやり手のようです。くれぐれもお気をつけて』


 あの時は、自分とは無関係だと思い無視していたが今ならわかる。


 (こいつだ…………………!)

 

 本能は今すぐ逃げろと訴えかけるが、状況は許してくれない


 「お前を殺す」


 冷徹な声が響くとともに、黒フードの人物は駆け出していた。


 「くそがああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 最悪のタイミングでやってきた狩人に黄広は体に鞭を打ち、構える。


 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 自身に肉薄する謎の人物に拳を放つも、謎の人物はゆうゆうとかわす。


 ぱさっと拳が生んだ風圧で謎の人物のフードがはがれる。


 その正体に黄広は驚愕とともに目を見開く。


 「なんで………なんでてめえがここにいるんだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 顔があらわになった(かれ)の腕がぶれる。


 次の瞬間には―――黄広の顔は胴体から切り離された。


 なにがあったかもわからぬまま頭蓋骨は地面に自然落下する。


 それで終わりだった。


 ()は黄広の死亡を確認すると、フードをかぶり薄闇の中へと消えていった。

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