傷だらけの体(1)
「………。」
「ミラ?」
ぼーっと立って私の体を見ているミラに声をかけると「申し訳ありません」と言って髪を洗ってくれた。
「奥様、お風呂の後は傷の手当てをしましょう。化膿するといけません。」
「あー…まだ傷残ってた…?」
「はい。お湯が当たると痛くありませんか?」
「ちょっと痛いけど我慢できるから。」
「奥様…。これからは我慢なさらなくていいです。痛い時は痛いと言ってしっかり治しましょう。旦那様も心配されます。」
「あー…はは…そうね。そうするわ。」
(彼が心配してくれる事なんてないと思うけど…)
私は湯浴みを終えた後、長旅の疲れと緊張から解けてウトウトしていた。
「奥様、この後の予定はありませんがご飯はいかがなさいますか?」
「そうね…眠いので起きてからにしようかな…。少し眠らせて。」
「承知しました。私はこれで失礼致します。」
ミサは部屋を出た後暫くドアの前で少し考え事をしていた。
「………あれは誰?」
「ミサ、ちょうど良かった。奥様は?」
ソクラテスがミサに駆け寄った。
「今疲れて眠ってる。ソクラテス…あの子傷だらけだった。」
「やはりそうか。その事で一緒に執務室へ来て欲しい。」
「分かった。」
2人はアーヴィンのいる執務室へと向かった。
ーーー執務室ーーー
コンコンとノックの音が聞こえた。
「旦那様、ソクラテスです。」
「あぁ、ソクラテスか、入れ。」
「失礼します。ミサも一緒に連れて参りました。」
「ミサ?どうした、やはり彼女が問題でも起こしたか?」
「いえ、奥様は疲れて寝ております。問題があったのは奥様の体です。傷だらけで新しい傷から古い傷まで…恐らく長い間虐げられていたのでしょう。新しい傷は痛むはずなのに我慢してお風呂に入っておりました。」
「そうか…体罰かいじめか…。」
「旦那様…。恐らく奥様はファネット・ディミトリアではないと思われます。私が社交会で見たファネット嬢とは顔が似ていません。性格ももっと傲慢でしたし…」
「…そうか。ディミトリア伯爵は私を謀って偽物を送って来たか…。やはりこの婚姻の契約は無効だ!彼女を屋敷から追い出し、生死問わず伯爵家に送り返せ。」
「旦那様、1つ宜しいですか?」
「なんだ?」
「恐らくディミトリア伯爵というより、再婚相手の伯爵夫人に問題があるようです。ディミトリア伯爵は遠方先での仕事をしており殆ど家に帰っておりません。今家を仕切っているのは伯爵夫人との事。それと…ファネット嬢には義理の妹がいるようです。もう少しディミトリア伯爵家の事を調べさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「義理の妹…?娘は1人だと聞いていたが…分かった。ソクラテスは調査を引き続き頼む。ミサも暫くはメイドとして彼女のそばで様子を伺っていろ。怪しい動きをしていたらその時は容赦せずに追い払うなり、殺すなり好きにしろ。」
「仰せのままに。」
ソクラテスとミサは執務室から出ていった。
「義理の妹…?ディミトリア伯爵と前妻には子供がいなかったと聞いていたが…。」
アーヴィンは訝しげな表情で窓の外を見た。




