本(2)
執務室の部屋に入ると布で覆われた本が机の上に置いてあった。
「アーヴィン様…もしかして、あちらの本ですか?」
「ああ、そうだ。」
「見てもいいですか?」
セシリアは布を広げる。
本の表紙には見たことのない文字が書かれていた。
「この本の文字が何語で書かれているのか全く分からないんだが…小説か何かだろうか?」
(あれ…私この文字読めるかもしれない…なんだっけ…)
「と…きの、てん…いまほう…?」
「セシリア読めるのか!?」
「私この文字知ってる…『時の転移魔法』って書いてある…これは…日本…日本語だ。」
「ニホン?」
「私が育った元の世界の本……?」
セシリアの指が本に触れると、本が光りはじめセシリアは光に包まれた。
「な、何!?」
「セシリア!!」
光の中から映像が浮かび上がる。
(何かの記憶……?これは私の家族…だ。お父さん、お母さん、それにあれは…お兄ちゃん…?)
セシリアの両親が何かを言っているが言葉は聞こえない。
(何を言ってるの…?聞こえない…)
『……な………さ…な…』
(さ、な…?さな……)
「そうだ私の名前、紗奈だ…」
セシリアが元の世界の名前を思い出した瞬間、光は大きくなりセシリアの体が薄く消え始める。
(待って…私元の世界に戻るの…!?どうしよう。だって私…嫌だ…まだ帰りたくないのに!)
セシリアの体は殆どが消えかかっていた。
「セシリア!!行くな!俺と一緒に居てくれるって約束しただろ!!」
何処からかアーヴィンの声が聞こえた。
「アーヴィン様!どうしよう…私消えたくないです!」
セシリアは涙を流し元の世界へ戻る事を拒む。それでもどんどん体は薄く消えていく。
「セシリア何処だ!?返事をしてくれ!」
(アーヴィン様に私の声が届いていないの?)
「アーヴィン様!!アーヴィン様私はここです!!お願い……離れたくないの!元の世界に戻さないで!!」
体が消えていき、最後に手が薄れて消えていく。
(嫌だ…アーヴィン様と一緒に居たかった…元の世界に戻りたくない!!)
「セシリア!!」
その時アーヴィンの手が光の中で微かに見えた。




