消えたセシリア(1)
「…お義姉様は…もしかしてアーヴィン様が好きなんですか?」
ファネットはニコリと笑った。
「そうだと言ったら?」
「お義姉様の気持ちは分かりました。…ですがごめんなさい…私も…私もアーヴィン様が好きなんです。離れる事は出来ません!」
ファネットに叩かれても殴られても構わないとセシリアは思い切って本音をぶつけてみた。
ファネットは少しの間黙り込んだ後、ため息を吐いた。
「はぁ……分かったわ。あんなに怯えてビクビクしていたセシリアが私にそこまで楯突くのは初めてね。ここまで言ってもセシリアが譲らないというなら…もう諦めるしかなさそうね。」
「お、お義姉様…!分かって下さったんですか?」
「どうせセシリアとアーヴィン様は好き同士なのでしょう?それならもう私の入る隙もなさそうだし…今日は取り敢えず帰らせて貰うわ。またお義父様が帰って来た時に改めて謝罪をしに来るわ。元はと言えば私の我儘でセシリアと交代してもらったんだし…」
「お義姉様…ありがとうございます!」
「じゃあ…最後に馬車まで見送って貰えるかしら?2人きりで話したいわ。お義父様の事でも話があるの。」
「お父様の…?分かりました。お見送り致します。」
セシリアとファネットは応接室を出た。
「奥様…大丈夫でしたか?」
「ええ!最初は不安だったけどお義姉様は分かって下さったみたい。馬車までお送りするけどミサは家で待ってていいわ!」
「ですが…あの方は何をするか分かりません。一緒に…」
「大丈夫よ。少し家族のことで話したい事があるみたいなの。心配しないで!」
「……畏まりました。もし少しでも時間が遅く感じましたら様子を伺いに行きますね。」
「うん、お願いね!」
(良かった…侯爵夫人として私も少しお役に立てたかしら…)
「セシリア?もう行くわよ。」
「あ、はい!」
セシリアはファネットの後をついて行った。
「お義姉様、お父様の事で話とはどんなことでしょうか?」
「ああ、お義父様の事ね…。実はまだ帰りが遅くて心配しているのよ。いつもなら1ヶ月に一度は帰ってくる筈なのに。」
「そう…ですね…確かに遅いかもしれません。」
「お母様が浮気を心配しているのだけれど…」
「お父様が浮気なんてする筈ないです!」
「ま、そうね。あんな頭のカタい人が浮ついた事する訳ないわよね。」
2人は馬車の前で立ち止まった。
ガチャっと馬車のドアを開けた後、ファネットはピタッと止まる。
「それより…家にとある物が届いたのよ。それが貴方が住んでいた元の世界に戻れるかもしれないトリガーになる物なの。」
「元の世界に…!?」
「ええ…だから………」
ファネットはセシリアを思い切り殴り足で蹴り飛ばした。
「ゔあぁ………!」
セシリアは馬車の中に倒れ込み意識が朦朧とする。
「お…義姉…さま…」
「あはははは!何騙されちゃってんの!?馬鹿みたいに…私が素直に帰るとでも思った?だから貴方なんかクズで嫌いだったのよ!」
ファネットはまた足でセシリアを蹴った。
「ゔ…っ」
「そうそう、そのとある物ってそこに置いてある本なんだけど。それで元の世界に帰れるかもしれないって!良かったわねぇ、私に感謝しなさい!それと、侯爵夫人の立場とアーヴィン様は私が代わりに貰っておいてあげるから。どっかで野垂れ死ぬか元の世界へ帰って頂戴!」
「い……や……」
セシリアは気を失い馬車の中で倒れた。
ファネットはドアを閉めた後、御者に合図を送り馬車が動き出した。




