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欲望(1)

「久しぶりね、セシリア…貴方みたいな人でも随分と良い暮らしをさせて貰ってるじゃない。」

「はいお義姉さま。お蔭様でとても良くして頂いてます……」


ファネットはセシリアを睨みつけ、セシリアは少し怯んだ。



この事の始まりは数時間前に戻るーーーー





「奥様…少し宜しいでしょうか。」

「ミサ、どうしたの?」

「奥様の姉とおっしゃる方が先触れも無くいらっしゃっていますが…如何致しましょうか?あいにく旦那様は外出されておりまして、夜までは帰って来ないので奥様に判断をして頂こうと思いまして。」

「え……お義姉様が…?」


セシリアは恐怖で固まってしまう。


(どうしよう…会いたくない…またぶたれたり蹴られたりしたらどうしよう)


ミサはセシリアの顔色が青くなるのを見て眉を顰める。


「奥様、宜しければ始末してきましょうか?女1人なら簡単にこ…」

「い、いいの!大丈夫よ!!」

(ミサ…私がミサの本業が暗殺者だと知ってから全く隠さなくなったけど…流石に物騒な言葉には慣れないわ…)


「旦那様が今留守にされているのでお断りする事も出来ますが…。奥様どうしましょうか?」


(きっと断ったところでお義姉様の事だから無理矢理にでも入って来そうだわ…)


セシリアは深呼吸をして気持ちを整える。


「私が行くわ。」

「奥様……無理をなさらずに、もし何かあった時は直ぐに私が駆けつけます!気を失わせる程度なら秒で出来るので。」

「あ、ありがとうミサ。本当に頼りにしてるわ。」



セシリアは玄関に向かった。



殴られ続けた過去を思い出すたびに手の震えが止まらないセシリア。その震えを止めるかのようにギュッと力を入れる。


(大丈夫。ここには沢山の味方がいる。怖くない大丈夫!)


セシリアは再び深呼吸をして玄関のドアを開けた。


開けた瞬間目の前には待ちくたびれて不機嫌なファネットが居た。セシリアの顔を見た瞬間ファネットは更に不機嫌になり睨みつける。


「あら、侯爵様はいらっしゃらないの?」

「お義姉様ごきげんよう。アーヴィン様は今外出しております…あの、宜しければ私が話を伺いますお義姉様。」


ファネットは大きくため息を吐きイライラを増幅させていく。


「ウザ…なんで私があんたの顔なんか見なきゃいけないのよ。腹が立つから早く私の前から消えてよ!他の人呼んでちょうだい!」

「お義姉様…今日のご用件は私が…」

「他の人呼べって言ってるでしょ!!」


ファネットは苛立ち、セシリアの頰を叩こうと手を上げた。

セシリアはぎゅっと目を瞑り固まっていた。


パシッと音がしてセシリアが目を開けるとミサがセシリアの前に立ち、ファネットの腕を持っていた。


「アンタなんなの…!?メイドのクセに私に触れて無礼よ!」

「失礼致しました。奥様に手を上げているところを黙って見ていられませんでしたので。ところで、先触れもなく何用で来られたんでしょうか?ディミトリア伯爵のファネット様…?」


ミサがファネットの腕をギュッと強く握り獲物を捕らえたような目つきでファネットを見る。


ファネットは怯みながらもミサの手を払う。


「何よ、態度悪いメイドね!私はこの妹のしでかした事を謝りにわざわざやってきたのよ!ずっと外で待たせるなんてどういうつもりよ。早く中に入れなさい!」


(私が…?何かしたかしら…でもお義姉様はこのまま帰る人でもないわ。)


「ミサ、一度話を聞いてみましょう。お義姉様を中へお連れして。」


ミサはため息を吐いた。


「畏まりました。ディミトリア伯爵令嬢様、ご用意ができるまで馬車でお待ちください。奥様、行きましょう。」

「え、ええ。」



ミサは静かに怒りながらドアを閉めた。






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