シエル(2)
「承知しております。安心してください旦那様。」
「いや、安心出来ん。お前、絶対セシリアの様な女性が好みなのは私が知っている。」
セシリアとソクラテスは目を丸くした。
ソクラテスはハァとため息を吐く。
「旦那様…私は旦那様の奥様を攫うつもりも好意を持つつもりも毛頭ありませんし、好きな女性のタイプも違います。」
「そ、そうよ!こんなちんちくりんをお兄様が好きになるはずないわ!」
後ろからシエルが会話に入ってきたがシエルをソクラテスは捕まえた。
「旦那様、奥様、うちの妹が大変失礼いたしました。十分に聞かせておきますのでご容赦を。」
「な、なんでよ!私もこのお家の一員なんだから自由に出入りしても良いじゃない!」
「シエル、後で話をしようか。たーっぷりとね…。」
ソクラテスは表情は笑顔だが眉はピクピクと動き怒りを抑えている。
「あ、あ〜!そうそう!私、ここに来た理由を忘れてましたわ〜!」
シエルはソクラテスの怒りから逃げる様にアーヴィンに顔を向け話を逸らす。
「私、お兄さまに今度の社交会でのパートナーをお願いしようと思っていますの…。お願いできますか?」
シエルはアーヴィンの腕に手を添えながらピッタリとくっつく。
「シエル!奥様がいらっしゃる旦那様にパートナーをお願いするなんて…旦那様、大変失礼しました。」
ソクラテスは慌てて謝罪する。
「……シエル、私はもう妻がいる身だ。パートナーにはなれない。」
「……そんな…社交会ではお兄さまがいつもパートナーになって下さっていたのに…」
シエルは泣きそうになっていた。
「そうですよね…。でもこれで最後にするので私のパートナーになって欲しいんです。もうこれからはこんな事いいませんから。」
上目遣いでアーヴィンを見つめるシエル。
さっきまではしっかり断っていた2人だったが、今のシエルの言葉には断りづらい雰囲気だった。
「あの、アーヴィン様。」
少し気まずそうにセシリアの方を向くアーヴィン。
「シエル様のお誘いを受けてあげて下さい。」
「だが、私は既婚者だ…」
「シエル様には何かご事情がおありなのでしょう?私は大丈夫です。」
ニコッと優しく笑いかけるセシリア。
「セシリア…すまない。今回だけシエルの誘いを受けるが今後はセシリアとしかパートナーにはならない。約束する。」
「ちょっと何?私の前で良い雰囲気にならないでよね!今回は私のパートナーなんだから!」
勝ち誇った顔でシエルはアーヴィンと腕を組む。
ズキンと心が痛むセシリアは顔に出さない様に必死に笑顔を保った。
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