正体(2)
「ディミトリア伯爵家には前妻と伯爵の間に子供が出来ずに養子として向かい入れた女の子がいた。それが貴方、セシリア・ディミトリア。」
ビクンと肩が跳ねる。
(もう…全部知られているのね…。怖い…アーヴィン様がどんな顔で此方を見ているのか怖い。顔を上げられない…)
「違うのか?」
セシリアはどんどんと息が出来ないくらいに呼吸が荒くなり体の震えがどんどんと大きくなる。
「…ハァ…あ…あ…」
セシリアは息が出来ずに胸を抑えながら苦しむ。
「奥様!大丈夫ですか?旦那様!奥様が過呼吸になられています!」
ミサはセシリアの異変に気付き駆け寄った。
「セシリア…!大丈夫か?」
アーヴィンもセシリアを心配して背中をさする。
「う…はぁ…はぁ…ご…め、さい…ごめ…なさい…ごめ…なさ…」
苦しみながら一生懸命に謝るセシリア。
「セシリア…謝らなくていい。君は無理矢理替え玉として連れてこられたんだろう?大丈夫だから落ち着いてくれ。」
なかなか収まらない体の震えをみてアーヴィンはセシリアの手を握る。
「大丈夫。ゆっくり大きく深呼吸して。」
何度か深呼吸を繰り返しているとセシリアは落ち着きはじめた。
「ア…アーヴィン様…騙してしまって申し訳ありませんでした。」
「君の名前はセシリアで間違いないか?」
「…はい。」
「義姉と義母は貴方を毎日のように虐げ、傷つけていた。伯爵から縁談を持ち込まれた義姉は貴方を身代わりにこの家に送り込んだ。そうだね?」
「はい…本当に申し訳ありません。罰は全て私が受けます。騙してしまって申し訳ありません…」
ガタガタと震えながら謝る姿を見てアーヴィンはセシリアを抱きしめた。
「言いづらい事を聞いて申し訳なかった。今まで辛かっただろう。よく頑張って耐えてきた。もう辛い思いをさせないと誓おう。」
「アーヴィン様…私はどの様な処罰を…」
「処罰すべき人は貴方ではなく他の人だ。そうだ、セシリアは私と約束をしよう。」
「約束…ですか?」
「これからはこの家で沢山ご飯を食べて元気な笑顔で過ごす事だ。」
「それは…私は罰を受けず私はここで暮らしても良いという事ですか?」
「そうだ。」
セシリアは涙を流し安心した。
「アーヴィン様…本当にありがとうございます。」
「さぁ、涙を拭いて。朝食にしよう。」
「はい。」
セシリアは涙を拭き、ふわっと笑い答えた。
「ゔ…無理だ…」
セシリアの笑顔に悶えるアーヴィンの姿を白けた顔で見るソクラテスとミサ。
「アーヴィン様…?大丈夫ですか?」
「あ、ああ気にしなくていい。さぁセシリアこれから食べてくれ。」
セシリアのご飯をフォークで食べさせようと口元に持っていくアーヴィン。
ソクラテスとミサはその姿を見てビックリする。
「だ…旦那様がご飯を食べさせてる…」
「ソクラテス、静かに。旦那様が行きすぎた場合は止めに入る予定だけど…多分大丈夫。」
数回セシリアに食べさせていると流石にセシリアも恥ずかしくなり顔を真っ赤にして口元に手を置いた。
「アーヴィン様もうおしまいです!恥ずかしいから…」
「そうか…。」
「ざ、残念そうな顔してもやりませんから!皆びっくりして見てますよ…!私1人で食べられるので大丈夫です。」
アーヴィンはソクラテスに『お前がこっちをジロジロみていたせいだ』と言わんばかりに睨みつける。
ハハ…と苦笑いをするソクラテス。
アーヴィンは仕方なくセシリアが1人でモグモグと食べている姿を横で微笑ましく見つめる事にした。
「ア、アーヴィン様も見てないで食べて下さい!」
「ふふっ…怒ってる顔も可愛いんだね。」
アーヴィンは上機嫌になりながら食事をしていた。
「あんな表情をする旦那様…やっぱり見慣れない…。」
「同感…」
困惑しっぱなしのソクラテス。ミサも表情には出さないがソクラテスと同じ気持ちだった。




