アーヴィンの恋
「旦那様が変…?何を言ってるのソクラテス。」
「ミサも報告がてら旦那様に会いに行くといい。」
ソクラテスは困惑している様子だった。
「?…分かった。」
ミサはソクラテスに言われるがままに旦那様がいる部屋に行った。
「旦那様、ミサです。」
「ああ、入れ。」
ドアを開けるとアーヴィンはボーッとしていた。
「旦那様、奥様は部屋にお戻りになりました。」
『奥様』という言葉でアーヴィンはものすごい勢いでミサの方を向いた。
「ミサ、彼女は何か言ってたか?」
「何か…とは?」
「いや、その…あれだ。私の事とか…」
「ああ。言っておられました。」
アーヴィンはミサに思い切り食いついた。
「なんて言ってた!?」
「……旦那様。あまりそういう態度をなさらないでください。ソクラテスが困惑しておりました。冷静になって下さい。」
ミサは冷静な態度でアーヴィンに話す。
(なるほど、ソクラテスの動揺はこの態度のせいか。)
「あ、ああ…。すまない。それで彼女は何と?」
「旦那様はとても優しいお方だと仰ってました。」
「そうか優しい、か…。」
アーヴィンは嬉しそうに口角を上げる。
「旦那様…奥様の事を気に入ってらっしゃるのですね。最初に奥様とお会いした時と態度が全然違います。」
「え!?…そう、なのか?」
「ええ。あからさまに。」
「あからさま?そんなに…。」
ミサはハァ、とため息を吐く。
「旦那様が奥様を気に入っていらっしゃる事はとても嬉しいです。私も奥様の事を好ましく思っていますので…。ですが最初の冷たい態度をなさった事は理由があるにしろ、奥様に謝るべきかと。後、もう少しそのあからさまな態度を少し抑えて頂きたいです。周囲が困惑してしまいます。」
「そうだな…。その通りだ。」
アーヴィンは少し落ち込んだ。
「しょうがないです。旦那様の地位と名誉だけしか見てこない女性ばかりでしたし、ここにこられた女性は私も好きではありませんでした。でも今の奥様はそんな彼女達とは全く違います。とても可愛らしくて純粋で…だからこそ旦那様も奥様の魅力に惹かれたのでは?」
「ああ。彼女は他の女性とは違った。彼女は…なんていうか…食べる姿が本当に可愛いんだ!」
「そうですか食べる姿が……ん?食べる姿…?」
突拍子もない言葉を聞いて若干引き気味なミサ。
「最初は彼女の素性を暴こうと食事に呼んだのだが、小動物のような食べ方が可愛くて…何よりも笑顔がふわっとしてて見る度に心臓が締め付けられるんだ。ミサ、俺はあんなに可愛い女性見た事がない!」
「旦那様……」
「ミサもそう思うだろう?彼女の可愛さ!!どうするべきか…周りの人に見られたら皆彼女を俺から奪おうとするんじゃないのか…?」
「旦那様!」
「なんだミサ?」
「正直に言わせていただきますが、旦那様気持ち悪いです。」
「え!!」
アーヴィンはかなりショックを受けていた。
「俺が…気持ち悪い…?」
「確かに奥様はとても可愛らしい方です。私も奥様の事を気に入っています。あんな純粋な子が噂で聞く性格が悪く傲慢なファネット嬢とは思えない。恐らくファネット嬢の身代わりとして無理矢理連れてこられたのではと推測されます。」
「そうだな、俺も同感だ。」
「ですが…旦那様、急にそのような態度でグイグイ来られると相手は気持ち悪いし嫌われます。確実に!」
「確実に…嫌われる!?」
アーヴィンは衝撃を受ける。
「ソクラテスも旦那様の急変した態度に困惑しておりました。」
「もう少しゆっくり距離を詰めて行って下さい。それと、まだ奥様の身元がハッキリとするまでは旦那様はうつつを抜かさず、どうか冷静な判断を。」
「あ、ああ。そうだったな。すまない…初めての感情で取り乱してしまった。」
「それでは旦那様、私はまだ仕事が残っておりますので失礼いたします。」
ミサは部屋を出るとソクラテスが廊下で待っていた。
「ソクラテス?」
「ミサ、旦那様の様子変だっただろ?」
「そうね、変だったわ。いつも冷静な旦那様がまさか人を好きになるとあんな風になるなんて思わなかったけど。」
「かなり舞い上がってたな…。」
「ソクラテス、私達で旦那様が変な方向へ行かないように見守ってあげましょうか…。」
2人はハァとため息を吐く。
「取り敢えず、奥様の事をもっと詳しく調べてみるわ。」
「そうだな。私も明日までには報告できるようにしよう。」
2人は自室へ戻らず、外へと出掛けた。




