ズレた世界 4
ズレた世界四話目となります。
いよいよ加工祭での戦いも最終局面となり、三つ巴の戦いへと突入していきます。
では本編へGO!
ディラブからの攻撃を相手にしながらジャックに対しても警戒心を向けるヴェルズリ、アンヌはネリビットとメイビットと共に鉄巨人に挑んでいるが未だに打開策が打てずにいる。
元々存在している呪いを使って強化しているのだから当然だ。
ジャックは適度に鉄巨人に向かって攻撃を仕掛けているが、その都度邪魔されている。
リアンも広範囲に強化聖術を掛けて回っているが、それもヴェルズリが一回一回解除しているのだ。
呪術には他の術式を解除するだけの才能を持ち合わせており、ヴェルズリとディラブはそれが現状可能である。
此処でヴェルズリが勝負に出た。
場に対して一瞬に満たない刹那の時間、大体五秒ほどであるが呪術を展開し自分以外の動きを遅らせようとする。
ディラブが素早く解除しようとするが、それでもヴェルズリが一瞬早く動ける。
まずはディラブを黙らせようと斧を振り上げた瞬間、ヴェルズリは驚きの表情と共にやってきた魔術による攻撃を斧で解除した。
(? 俺の呪術が効いていない? それは無いだろう。呪術はオーガにも十分通用する。効かない人間が居るとすればあの元勇者の奴ぐらいだ。なら、どうしてあの元勇者の小僧も効かない?)
理由は実にシンプルだった。
ジャックが持っているオリハルコンがジャックの勇者の刻印に反応して呪術を無効にしているからだ。
ヴェルズリがその考えに至ることに時間は然程掛からなかったのだが、同時に証拠が無い案件故に少しだけ悩んだ。
ディラブが今度は呪術を展開してヴェルズリの動きを遅らせようとするが、来ると分かっていれば対応も事前にできる。
「無駄だな! 前の時と同じだと考えると困る。あの時、お前に負けたのは油断していたからだ。それより…ジャック・ロウ。貴様。オリハルコンを持っているな」
全員に緊張が走る。
「俺の呪術。貴様だけ反応が無かった。オリハルコンの効果で増幅された勇者の刻印の効果で向こうにしたんだ。そうだろう? フン。勇者の剣作りか…まあ、勝手にすればいいさ。どのみち今の俺にはどうしようもない案件だしな」
それを一番良く分かっているのはヴェルズリ自身であり、この数でオリハルコンを処理できると考えているわけじゃない。
ましてや元勇者のノルヴァスでもこの状況ではオリハルコンの排除は難しいだろう。
お互いに不利な状況では処理をしないという事が一番の正解である。
何よりもヴェルズリにとっては今やるべき優先順位は別にあり、それを放置するようなことではない。
「今は無視してやろう。現状に感謝しろ」
「感謝はしないさ。そっちの方がお前達にとってはメリットがあるからだろう? よほどここにはお前達が欲しい何かがあるんだな」
「まあ…否定しないさ。欲しいかは別として、目的はこの建物の中にある。厄災のホビットがこの世に残した厄災の何相応しい呪具。『禍根の邪玉』がな」
ジャックとアンヌとリアンの表情に緊張が走る。
「はぁ!? あれが此処に!?」
「え? なんなの? ジャック兄ちゃんは何か知っているの?」
「知っているも何も…千年前に五代大陸で行動して一度は全ての種族を絶滅の危機まで落とそうとした『禍根の邪王』の邪玉だよ」
「『禍根』の能力は基本『災いを起こす』という一点よ。偶然起こすの。山火事。津波。嵐。病。なんでも起こせる。滅ぼすような要因を意図的に、そして偶然を装いながら出来るの」
「邪玉を作ったじゃと? そんな内容聖典にも書かれておらんぞ」
「それはそうだ。あれは元々厄災のホビットが願いを叶える呪具として開発したからな。代償を誰かに押し付ける代わりになんでも願いを叶える。今は不完全だが、どうやらこの街の人間に『災い』を押し付けて『願い』をかなえようとしているようだな」
「ふざけんな。あんなものお前達に渡したら厄介どころの話じゃない」
(絶対に渡せないだろうが! 邪神どころの話じゃない)
そんなものを敵に渡せば厄介なことになるが、実はヴェルズリの目的もまた破壊なのである。
というのも、実は禍根の邪玉事態を求めているわけじゃないのだ。
同時に存在するだけで厄介な産物であることは間違いが無いし、何よりもそんな代物をこの世に残せば自身の計画を失敗へと導くだろう事は間違いが無い。
偶然を作り出し、周囲を否応なしに巻き込むこの呪具は計画を破綻へと導くことになる。
そこでジャックはヴェルズリの表情からある予想を立てることは出来た。
その瞬間焦りはスッと消えた。
「そうか…お前達も邪魔なんだな。どういうわけかノルヴァスは出てくる気が無いようだし。そうだろう? 勇者の剣をノルヴァスが所有している以上破壊できるのはノルヴァスのみ。お前は破壊できる何かを用意しているということだ。今思えば周囲を絶対に巻き込み、何を起こすのか決められない破綻を招く道具だ。邪神の能力の様に戦闘に長けているわけじゃない」
「やはり頭いいな…どうにもそうらしいな。俺もいらないから普通に賛成したんだけどな。ノルヴァスはどうにも機嫌が悪いらしくて…」
「何が機嫌が悪いのよ。事実上勝ったんだから十分でしょうに」
「ハハハ。君には分からないようだ。貶めようとしていた人間がまるで変化しないんだ…」
「お前達このまま世界で大戦を起こすつもりなのか? 邪神の力を手に入れてしまえばいずれ最終的に辿り着く場所は戦いしかない」
「まあ、それも良いよな。でもな。その前に準備段階が必要なんだよ。その為にも邪魔な道具は消しておくに限るが、色々俺達にも事情があるんだよな。だから…ここで大人しくしていて欲しいんだよな!!」
ノルヴァスが大斧を振り回してディラブと距離を作ると一気に跳躍し、アンヌと鉄巨人の間に割って入りアンヌを遠くへと吹っ飛ばす。
そして、鉄巨人の右肩に着地すると呪術を鉄巨人へと掛けていく。
すると鉄巨人は大きく雄たけびを上げて持っている大剣を持ち上げて建物の入り口目掛けて横なぎに振り払う。
「な!? 結界を力一杯に殴りつけて!?」
「嘘でしょ!? 後、お爺ちゃん! 私を受け止めるどさくさに紛れて胸触ったわね!?」
「幸福が儂の両手に収まって…それはもう」
「死ねばいいのに…死ねばいいのに!」
「アンヌ姉ちゃんの殺意が本物だ…これが終わったら爺ちゃん死ぬんじゃないのか?」
「触って幸福を感じる胸がそこにはあるのか?」
「ディラブ!!?? 失礼ね! 最低限でもあるわよ!」
「それって今することなんですか!? ジャックお兄ちゃんから何か言ってください!」
「待て! ヴェルズリ!」
ジャックはアンヌ達の漫才の相手をしないことにし、無視してヴェルズリを追いかけるように三階へと着地する。
すると鉄巨人はそのまま塵となり消えて行った。
どうやらその為だけに呼び出したようで、俺は気にしない様に駆け出していくと、三階ではジュアリーと中年の男性が戦闘しているようだった。
ヴェルズリは斬撃を中年の男性目掛けて飛ばすが、中年の男性はそれを途中で受け止めたのか攻撃が届くことは無かった。
どうやらジュアリーが攻めあぐねている理由もあれにありそうだ。
「ほほう。ある程度自分を中心とした攻撃圏内が存在しているという感じか。さて…どうやって攻略するかな」
「ヴェルズリ!」
「いい加減突っかかってくるなよ!」
ジュアリーは仮面に隠れた顔で「鬱陶しい奴が来た」と思う一方で、同時に助かったと思わざる負えなかった。
「はぁ…君たちは厄介なものだな。この邪玉をもって私に勝てると思わない事だ!! 攻撃範囲がこの程度だとどうして決めつけた!」
嫌な気配がこの三階全域に広がっていくのが分かった。
どうでしたか?
次回でとりあえずの加工祭編は終了となります。
では次は双厄のホビット第二十一話でお会いしましょう!




