城塞都市ランドロス 6
城塞都市ランドロス六話目となります。
もう少しすれば本格的に継承の儀式編に入りますね。
では本編へGO!
翌日今度はジャックとディラブ達がそれぞれの実践を済ませる番であり、その間アンヌとリアンは暇を貰う事になっていたが、朝起きればリアンは素早く城塞を出て行っており、どこに向かったのかなんて正直興味が無かったアンヌは少し遅めの朝食をゆっくりと食べる。
辛い料理は本当に好きではないので、城内担当シェフに「甘めにお願いします」と頼み込み、朝食は甘い料理で埋め尽くされている。
一人一人の好みに合わせて作らせるのは大変かと思って最初は黙っていたが、最初に朝食を食べてから「気にせず行って欲しい」と頼まれてしまった。
そう言われては此処で口を閉ざす理由は無いとあえてはっきりと告げたわけだが、結果的には惜しく頂けている。
シェフに「美味しかったです」と笑顔で答えてから場内を散策するか、それとも一旦出かけるかと悩みながら食堂を出てから歩いていると、目の前の曲がり角から一人の若者がアンヌとぶつかりそうになった。
しかし、そこはアンヌギリギリで避けてお互いの間に絶妙な間が生まれる。
男の方はババルウより少し背が高く顔つきは何処か表情を読ませない感じの落ち着いた表情に細目をしているが、その彼が握りしめているのはナイフである。
「すみません。武器の手入れをしながら歩いていたものですから。ぶつかりませんでした?」
「ううん。でも気を付けてね」
アンヌは笑顔を作りながらその場を後にするが、彼女だけが知っているあの少年が本当はアンヌを刺し殺そうとしていたことに。
と言うよりは食堂で食べている最中からずっと殺気をアンヌの方へと向け、出てくるのを待っていた。
隠しているつもりなのだろうが、頭が良い分だけあまり本人の戦闘技術などは素人らしい。
今この瞬間もアンヌをジッと細目で睨みつけており、暗殺でも試みようとしているのが分かる。
昨日もジャックが部屋に入ってからもこのフロアに入り込もうとしていたが、ジャックが至る所に魔術を施していたので近づけなかったようだ。
「どうするかな…出かけたらそれこそ襲われそうだけど。まあ、良いけどね。私からすればあの程度脅威じゃないし」
最も彼自身が直接襲い掛かってくることはあまり無いだろうが、だが彼が次男であることは間違いが無い。
どうやら候補者の協力者を少しで減らしたいのだろうが、ジャックやディラブは正攻法も邪法も通用しないと感じ、少しでも数を減らそうと考えたのかもしれない。
この調子なら食事に毒を仕込みそうだとアンヌは不安になる。
ジャックにでも言うべきかもしれないとアンヌはジャックが居る部屋へ向かうために階段を降りていく。
階段を降りながらそっと彼を見てみると、未だに彼を睨みつけていた。
「え? あの次男まだ俺達を狙っているのか?」
「そうみたい。露骨に殺しに来たし」
地下にある練習場で俺とディラブは剣術と呪術の練習の為に居たのだが、そこに突然アンヌが現場に現れた。
正直一区切り入れようと思っていた所なので疲れて肩で息をしているババルウ君に対して「休んで良いぞ」と告げている。
これは決してババルウ君の体力が無いというわけじゃない。
単純に俺っ体の体力が異常というだけの話だ。
「しかし、そんなことをして自分が疑われたらどうするつもりなんだ?」
「周囲が庇ってくれると思っているんじゃないかな? ジャックから話だと随分周囲に甘やかされているみたいだし」
「それだろうな。どんな危ないことをしても最悪周囲が庇ってくれると考えているんだろう。最もあの国王がそれを受け入れるかは別だけど」
厳格で本当にババルウ君を後継者にしたいのなら最悪信用を失う事もあるわけだが、その辺りも見積もりが非常に甘い。
と言うかド素人と言っても良いだろう。
本当に賢いのか本当に疑問が生じるレベルだが、正直ババルウ君以上がこの王家の後継者の中にいるとは真面目に思えない。
やはりこの子は才能の塊だ。
今まで才能に目覚めなかったのが意外なほどだが、教え方が分かったのだろう。
恐らくそれも…きっと…。
「次男を後継者にしたい人間が居たって事? その人が悪い教え方をしていたってジャックは推測するわけ?」
「それが一番分かり易いと思うが? どうにも次男周りは黒い気配があるな」
「おそらく幼い頃から利用されてきたのではなかろうか? 長男は確かに少々頭が悪い部分は強そうだが、その分野心に見合うだけの直感があるように思える。その分次男は賢い分だけ正直に言えばあまりそういう危機感が薄い」
「国王がババルウ君に異常なほど期待を設けるには良い理由って事か。まあ、三人のこの内上二人があの調子だとな」
ババルウ君はすっかり休憩を終えたのか剣の素振りをしている。
素振りをするときも無心でするよりは型を常に意識してするようにと教え込んでいる。
ここでも要らんことを教え込まされているようで、これでは上達しないだろう。
身内の足を引っ張りあう事の意味をぜひとも教えて欲しい。
「身内の足を引っ張りあうというよりは、自分にとって都合のいい存在を仕立て上げたいというのが本心では?」
「ディラブの言う通りだと思うな。自分の言いなりになる国王が欲しいんでしょ? 我儘を今のうちに聞いておき、国王になったらその時の事を脅迫の材料にするつもりなんじゃない? 傀儡の王誕生だね」
「それなら長男も良い気がするけど、あれは直感だけは良いからそういう悪事は何となくでも分かるんだろうか」
「どうだろうな。そこまで万能ではないと思うぞ。単純に国王になる上であまり周囲からの評価を得難いという理由ではなかろうか?」
「信用は大事だしね。普段から悪いことをしている人じゃ信頼は得られないでしょ?」
その信用と言う言葉はどうにも俺の心を抉る感じがするのは気のせいだろうか?
「まあ信用を無くしたからジャックは中央大陸を追い出されたわけだが」
「リアンと同レベルに扱われる? 恐ろしく不本意だな。何としても信用を得たいな」
「冗談はともかく。ババルウ君が国王にならなかった場合最悪国が滅びるんじゃ?」
「可能性大だ。と言うか、どうにも国王はババルウ君が国王になると断言できるぐらい信用しているようだ」
その信用が何処からやってくるのか、俺達がどうしても国王を信用できない理由でもある。
継承の儀式そのものに何かババルウ君が有利になる理由でもあるのだろうか?
「かもしれないけど。此処で推測するのは酷だと思うな」
「だな。今は出来る限りの手を打つだけだ。所でリアンはどうした? くたばったのか?」
「知らない。起きたら居なかったみたいだし。城塞で寝泊りしている間は基本個室だし」
「ていうか狙われていると分かっていないんじゃないのか?」
「警戒はしているでしょ? まあ、襲われたらヤバい気がするけど、一番危険な感じがするし」
女性絡みで殺されても俺達は庇う事は出来ないだろう。
あのエロ爺には異性を絡めた手段なら確実に殺せそうな気がする。
「露骨な暗殺か…やりたい放題だな。俺達が無理でババルウ君を直接殺すのは無理だと判断すると途端にこれだ」
「最悪彼の協力者が襲ってくるかもしれんぞ」
ディラブの言葉を否定できない俺が居る。
「それに黒いオーガ。街中を歩き回っているようだが、まさか次男の協力者じゃないよな?」
「だとしたら正直疑わしいな。黒いオーガなんて聞いたことは無い」
「オーガって基本赤?」
「赤だと聞く。他に居るという話は聖典にも書かれていない。黒いオーガがそれだけ特殊という事だろう」
どうでしたか?
継承の儀式がどんな結末を迎えるのか楽しみにしていてください。
では次は赤鬼のオーガ第三十五話でお会いしましょう!




