エピローグ:邪断の元勇者ジャック
ついにタイトル回収回となりました。
中を見ていただけたら邪断の意味はおおよそ分かると思います。
では本編へGO!
国家元首の元にロウ族の男が襟を正している黒と金色で装飾された綺麗な服をきた人物と対面で会話をしていた。
このロウ族の男性こそが十将軍のトップである十将軍大将軍長『ナーバル・ロウ』である。
両サイドから伸びている角は真上を真上を向いており、背丈もジャックよりもに十センチは高い。
「相談をせずに勝手に決めたことを申し訳ないと思っていますが、これはチャンスだと思ったのです」
「いいえ。詳しい話は聞きましたから。ですが、一度ぐらい相談はして欲しかった。事前に備えが出来たのに」
「ディフェンダーから話を聞いた時にトラブルがこのナーガ大陸まで来ている可能性を考慮していましたから。どこから情報が洩れるのか分かりませんでした。それにジャック・ロウ様を説得するには事件に遭遇させるのが一番ですから」
ジャック・ロウという新任の十将軍の噂をナーバル大将軍長は聞いていたし、その辺りに不満は無かったが、しかし事前相談が無かった点では少し文句を言いたい気持ちではあった。
しかし、結局で結果は変わらなかっただろうし、手段はともかく気持ちとしては理解しているつもりだった。
「あれが元勇者ですか…私も遠目にしか見ていませんが。たしか渾名は…『邪断』でしたか? 邪悪を断ち切るという意味で邪断。邪断の勇者」
「今は嘘つき元勇者などと言われても居ますが、今でも彼を邪断の勇者と呼ぶヒューマン族は多いと聞きます。そんな邪断の勇者ならぬ邪断の元勇者が十将軍に選ばれたとなれば、ニュースとしてのインパクトは十分です。そんな彼が各種族を巻き込む問題になれば教会としては交渉の席を作る可能性が高い」
「だからですか。現状中央大陸はヒューマン族だけの場所。国交の殆どが出来ていない状況です。その中でも現状国交を繋げていたのはファン王国の元国王であるリアン国王のみ。だから追い出したかった?」
「どうでしょうか。邪推のし過ぎのように思いますが、教会は幾つもの顔を持っていますし、そういう思想を持って行動した人は多いでしょうね。教会はどういうわけか中央大陸のトップに立って二千年間ずっと他種族を遠ざけて生きてきました」
「私には女神の伝承に触れることを嫌がっているように思います。今思えばリアン様も国交をしながら女神の伝承を調べている節がありましたから。今も遊んでいるようで情報を探っているようですが…ジャック・ロウは?」
「十将軍とナーガ政府だけが知っている情報は知っているはずです。ですが、あれは他言無用の内容で、流石に彼もリアン様に話すとは思えません」
ナーガ政府とドラゴン政府だけが持っている女神の伝承に関する記述、その真実と思われる内容の閲覧権を握っているのは一部のみ。
もし、その内容を教会が握っているのならと二人は考えていた。
「では、いつ知ったのでしょうか? 女神の真実に」
「分かりません。だとしたら、今回の一件は意外と深いところに根があるのかもしれませんね。二千年間続いた教会の権威が今終わりが見え始めているように思います」
「できれば面倒ごとになることだけは避けたいですね。あんな組織でもヒューマン族にとっては大事な存在でしょう。ディフェンダーだけで統括が出来るとは思いません。それこそもし教会の権威が無くなれば他種族の一部は侵略などと考えだしかねない」
「そうですね…できればそれは避けたいですが。最悪は代わりとなる組織を作るしかないかもしれません」
「しかし、今代の勇者がナーガだとは思っていましたが、何故ナーガ政府は知らなかったのですか?」
「本来勇者が見つかれば勇者の剣を製造する為にまずホビット大陸に勇者が向かうはずですが…どういうわけか今回は行われませんでした」
勇者が見つかればまず十六になった段階でホビット大陸の火の里で勇者の剣を製造し、それを持って行動を始めるのだが、今回はそれが行われなかった。
「それでよく邪神討伐が出来ましたね。流石は邪断の勇者」
「ええ。良くも悪くも彼が最強の勇者であったことが幸いしたようですね。ジャック様曰く「許可が下りなかった」と仰っておりました。ジャック様もトラブルは避けたいと諦めたようですし、先代の勇者の剣が在ったのでそっちを使ったと」
「それも勇者を殺そうという教会側の思惑がありそうですね。女神の真実を知っていたのなら『勇者システム』の内容も知っていたでしょうし。だからこそ今回の勇者に剣を与えたくなかった。もし、今回の敵がそれを知っていたのなら…」
「ええ。ジャックに接触したのはジャックが勇者システムを把握しているのかを知る為? にしてはおかしい。私には今回ジャック達が出会った敵がわざとな気がするのです」
「はい。だからこそのジャック様をあえて探させるのです。あの人には揺るがない意思がある」
その辺は大将軍長にはイマイチ分からない部分なので聞き流すしかないが、それでも周囲からの話でそう聞いている。
「本人はヒューマン族だと思って生きていたと聞きました」
「そのようです。多少はショックなようですが、そこまででは無いと心理士の方は語っていましたよ。今はすっかり受け入れていると」
「なら良いのです。同じロウ族。今後が楽しみですね。ですがオーク大陸の一見を彼に任せるおつもりで?」
「はい。オーク大陸には長年政権が存在しないとされてきました。しかし、昨今どうにも政権があるとみられています」
オーク大陸では支配種と呼ばれている極少数とそれ以外の奴隷種に分けられ、これからが鉱山などで暮らしているとされてきたが、最近になってどうにもきちんとした政権があるとみられていた。
「ディフェンダーが知らないとは思えませんが?」
「聞いた所「話せない」とのことです。ですが、これだけで十分でした。話せないという事は「止められている」という事、という事は『在る』という事ですから。それを隠すという事は政権は隠れて運用されている」
「元々オークは呪術に秀でていますから。呪術は土地や空間に影響を与える術式ですし、間違いなく隠れているのでしょうね。それに…」
「ええ。あの大陸はあの『赤鬼』の噂話もありますから。その辺りもジャック将軍には既に話してあります」
オークはドラゴン族やホビットやヒューマン族以上に謎に包まれている種族であり、同時に奴隷層は安易に手が出せることから戦力として購入する輩も多く、謎や憶測がおかしな仮説を広めていた。
実際ナーガ政権が知っている話は殆ど無く、どれも信憑性の低い噂話ばかりだったりする。
「ジャックは今何を?」
「それが資料室に籠って調べ物をしているそうです。噂話から実際に目撃されたオークの話まで色々調べています」
「彼のお手並み拝見ですか…我々は脱獄囚の事後処理を終え次第大陸中を周り中央大陸を脅かした例の事件を少し調べてみます。関連性があると見たほうが良いでしょう」
「お願いします。ジャック将軍とリアン様が出会ったというヒューマン族の男性。嫌な予感がするのです。教会がイマイチ行動に賛同してくれない所と言い…」
「まさかとは思いますが…今回の一件一から十まで全部教会の所為では?」
「どうでしょうか…教会はヒューマン族にとって大切な集団であれ、他種族にとっては関係ありませんから」
静まり返る場に対し大将軍長は立ち上がる。
「とりあえず我々は我々で動くという事で。オークの政権と接触できることを期待しましょう。ホビットとドラゴンはやろうとすれば出来ない事はありませんが、オークが一番難しいですから」
まだ見ぬオークの謎へと足を踏み込もうとしていた。
「邪断の元勇者の実力見せてもらいましょう」
どうでしたか?
邪悪を断ち切る勇者で『邪断の勇者』だったジャック、文字通り邪悪な神を打倒した後に続く軌跡がこのお話です。
次回からいよいよ『第一章赤鬼のオーガ』編に入ります!
では次は第一章第一話でお会いしましょう!




