74.帰り道にて
オマケ的な話です。短いです。
ブルードラゴンとやり合った翌日の昼過ぎ。フジノとサーシャは十四団への引き継ぎを終え、早々に村を出た。
「ところでフジノ」
出立してすぐに馬を進めながらサーシャが口を開く。
フジノと二人になるのを窺っていたようだ。眼鏡の奥の瞳が光った気がしてフジノは身構えた。
「あなたは、アレと知り合いのようでしたが、どういう関係ですか?」
アレとはブルードラゴンのことである。
昨晩はサーシャがブルードラゴンの息子ということで自分とブルードラゴンとの会話なんて吹っ飛んでいたのだが、サーシャはきちんと覚えているようだ。
誤魔化しようもないので、フジノは口を開いた。
「昔、ちょっといろいろあったんです」
「昔?」
「昔です。もう二百年も前です」
「にひゃく……え? 揶揄っていますか?」
「そう思いますよね。それでいいです」
淡々とフジノは返した。
ここで前世云々の話をする気はなかった。自分から勇者だったなんて言えるもんか、とも思う。どこの夢見がちな少年だ。
信じてもらえるわけがないし、聞いてもらいたいわけでもない。
「答えになってないんですけどね」
サーシャは呆れているが怒ってはいないようだ。
「そんなことより、サーシャさんは任命式の時にサシでは僕に勝てないとか言ってましたけど、あれ、嘘ですよね」
フジノは強引に話を変えてやった。
そうしても怒られないという確信はあった。
「そんなことって……まあ話す気がないならいいですけどねー」
案の定、サーシャは怒らない。ここで少しサーシャに甘えている自分にも気づく。面白くはない。
「ふん、大人振りますね」
「大人ですからね」
「それより、サシで勝てないって嘘ですよね。昨晩の水魔法にその右手、しかも剣も使える。やりあったら僕が負けますよね」
「どうでしょうね。水魔法は元々攻撃には不向きです。並みの魔法使いなら大量の水を喚び出すか、わざわざ凍らせないと攻撃できないですからね。昨日は喚び出さずとも大量の水があったからあれだけのことができましたけど、更地なんかであのレベルは無理でしょう」
サーシャはそこで一旦言葉を切った。
「それに、私は人よりも乾燥や熱に弱いのでフジノとの相性は悪いですよ」
「……弱点を晒してどうするんですか」
「アレの血を引いてる、ということで簡単に予想できることでしょう? ブルードラゴンは水属性です」
「そうですけどね」
「湖や大きな川の近くであれば私に勝機があるでしょうが、騎士団の演習場でとなるとキツいですね」
「……」
「まあでも、サシでの勝負より任務で役立つかどうかなのでね」
サーシャが意地悪く笑う。
「感じわる……今回は僕、役に立ってましたよね?」
「どうでしょうねー。生贄の少女が運ばれてきた時はあと少しで飛び出すところでしたよね、あれは少々焦りました」
「……」
その通りだったので言い返せない。
「反省してくださいね」
「飛び出さなかったじゃないですか」
「ふふ、そうでしたね。よく我慢しました」
慈愛に満ちた笑顔を向けられて、ますます面白くない。
フジノは仏頂面になって馬を駆けさせた。
背後から「怒りましたか? 飴いりますか?」とサーシャの声が追いかけてくる。
フジノは、認められていないままに騎士団を辞めてやるものかと思う。
(当分はハナノと共に世話になってやる)
そう決めた。




