シルクの馬主は誰?
シルクの入厩日が迫る
俺は父さんに言われ佐藤牧場へ来ていた。
佐藤牧場は天翔天馬さんの奥様の美鈴さんが生まれた生家だ
天翔牧場の土地も提供していただいた大恩がある牧場でもあるが
最近はライバルの伊藤牧場と明暗が分かれ以前のような優秀な産駒を
輩出できずにいた。
噂ではそろそろ廃業するのではと言われている
「こんにちは、お久しぶりです」
和馬は佐藤に挨拶をするとまずはお礼を言うことにした
「それと父から聞きました 放牧地の件 ありがとうございます。」
「和馬君 気にしないでいいよ どうせ余っている土地だから
まだ必要ならいくらでも譲るからね」
いくらでも譲ると言われれば噂の真相が気になり
「例の話ですが本当なんですか?」
佐藤は例の話と言われ なんの話か思い出す
「それなら ほんとのことだよ 佐藤牧場も私の代で終わりだ
この自宅以外は伊藤牧場と天翔ホースパークの所有物になるよ
そうして私は牧場経営を引退して豊かな老後を過ごすよ」
「なんだか 寂しいですね ここは日本でも有名な生産牧場
だったんですよね」
佐藤はお茶を一口飲み 昔を懐かしむように
「そうだね 半世紀以上前なら日本の生産牧場の中で1番だと言えたね
ちょうど天翔天馬さんが牧場を始めたころならね」
佐藤家の話を和馬にする
「佐藤家は代々女系のようでね
男の子がなかなか生まれないんだよ
私も婿養子で当然子供は二人とも女の子だよ」
和馬は昔から世話になってる姉たちを思い出す
「俺も恵梨香ねえさんと百合ねえには世話になってますからね
もう二人とも結婚してお子さんもいますよね
可愛いい娘さんが…あ、娘さん」
「わかってもらえたかな だから後継者がいないんだよ
和馬君が娘のどちらかと結婚してくれたら
よかったんだけどね 娘もアプローチしていたはずだけど」
和馬は子供のころの記憶をたどる
「そうですね、言われたことありますよ 将来どっちと結婚してくれるの?
あれ、本気だったんですね」
「まあね、二人とも大学で知り合った男と結婚したけどね
今でも 和馬君と結婚すればよかったと
ここへ戻るたびに愚痴をこぼしているよ」
和馬も正直に答えるが
「でも俺には奥さん二人いますから 無理ですよ」
「私も式にも2回出たけど二人とも美人だよね
でもあの山崎重工の社長令嬢との結婚には驚いたよ
まさか結婚するために法律まで改正するなんてね」
「ほんとですよ 俺のどこに惚れたんですかね」
佐藤は笑う
「まあ、自分のいいところなんて気がつかないものだからね
君のそんなところが好きになったんだろうね」
「あ、そうそう それで今回君を呼んだのはね
お願いがあるんだよ 君のお父さんにも了解は
もらっている話なんだが」
「なんでしょう 俺で何とかできることなら
いってもらえれば」
「それは良かった。 単刀直入にお願いするけど
今年デビューする ラグーナシルクの馬主に
してくれないかな」
和馬は父親の思惑が理解できた
ドリームとカノンに続きシルクでまたG1を勝利すると
やっかむ人間が必ず出てくる
「その話ですか 確かに方々から問い合わせがありますね
是非シルクの馬主にしてくれと」
「私なら親戚だからな馬主になっても
やっかみも多少は減るんじゃないかな
私も一度G1レースの口取り式をやってみたいしな」
「そうですね 佐々木厩舎へ入厩するので
佐藤さんが適任かもしれません
まあ、引退後はうちで面倒見ますけど」
「そうか、ならそれで決まりだね
久しぶりにスーツを新調でもしようかな」
それから 数日後 シルクは佐々木厩舎へ入厩した。
俺は佐藤さんと佐々木厩舎を訪ねた。
「佐藤さん 相良さん お待ちしておりました。」
「先生 シルクの調子はどうですか?」
佐々木は笑顔で答える
「相良さんの馴致のお陰で調教も問題ありません
順調にタイムを刻んでますよ いつでもデビューできます
それとドリームも古馬らしく落ち着いてますから
今度のG1もおそらく大丈夫かと思います。」
「そうですか、それはよかったです。
それとシルクの主戦騎手決まりましたか?」
「それはもう シルクにはうちで一番の騎手に騎乗させます
フリーから佐々木厩舎に所属することになった
戸崎君です。 戸崎君こちらが馬主の佐藤さんと
天翔牧場の相良さんだ。挨拶しなさい」
すると佐々木さんに呼ばれた騎手が和馬たちの前に来て
頭を下げる
「どうも、初めまして 騎手の戸崎と言います
天翔牧場の産駒に騎乗することができて
光栄です 頑張りますので宜しくお願い致します」
佐藤さんが戸崎さんへ
「戸崎さんが主戦なら安心ですね
戸崎さん G1レース私に口取り式させてくださいね」
「はい、ご期待に沿えるよう努力します。
今は私がトレセンでシルクの調教してますが
大した牝馬ですよ、牡馬に負けてませんね
それと芝だけでなくダートも問題なく走りますよ」
「それは頼もしいですね 戸崎さん デビュー戦
お願いしますね」
「もちろんです 私の夢でもありますからね
騎手を目指したのも天翔牧場の産駒に騎乗したかった
からですからそれと元騎手の私の父の夢でもありますから
父も喜んでくれてます。」
「相良さん ありがとうございました
おかげさまで夢が叶いました。
シルクに無理はさせないように細心の注意を払います
必ず怪我無く引退させますからご安心ください」
「戸崎さん よろしくお願いします
シルクのことお願いしますね」
戸崎さんは、もう一度頭を下げると調教がありますからと
その場を後にした。
「和馬君 天翔牧場の産駒ってホント凄いね
戸崎さんほどの騎手が騎乗するのが夢だなんて
それに比べうちの産駒はここのところ
重賞勝ちがやっとの馬ばかりで
ほんとお恥ずかしい 死んだ爺ちゃんに怒られそうだ」
「いえいえ 俺は何もしてません みな ひいおじいちゃん
たちの努力の賜物なんですよ 俺も天翔牧場の名に恥じないように
これから頑張りますよ」
天翔牧場の産駒に騎乗するのが夢だとたくさんの騎手の方々に
言われ和馬も嬉しい反面 相良さんが育てた馬が一番だと
言われるようにこれからも努力しようと心に決めた
佐藤牧場も100年以上の歴史がある生産牧場なんですが
その名前も歴史上から消えることになります。
生産牧場は伊藤牧場が買い取り 育成牧場は天翔ホースパークの所有になります
従業員はそのまま雇用されます。




