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偉大なお母さんとの別れ

和馬にとって二人目のお母さんのような存在でした。

カノンは大阪杯をドリームは松宮杯を共に危なげなく勝利した。


和馬のところへ母親の弥生からホースパークへ来てほしいと連絡が入り

カノンとドリームをトレセンの佐々木に預け一人帰郷した。



翌日早朝 和馬はシオンと愛娘のシルク連れ放牧地へ到着すると


「シオン 俺このままホースパークへ行くからあとよろしく」


シオンは愛娘のシルクを見てつぶやく


「シルク 和馬と遊べると楽しみにしてたのよ

なんか用事でもあるの?」


「え、お父さんシルクと遊んでくれないの?」


「ごめんシルクお父さんこれから行かなけいけないとこがあるんだ

シルクはいい子だからシオンとここで遊んでいてね

シオンもごめん これからミセスキャサリンの馬房へ行くんだよ」


ミセスキャサリンはホースパークの古株の牝馬で今年で33歳になる

シオンの母親のアイドルさんとも仲がいい


ミセスキャサリンと和馬は10年以上の付き合いになる

今はホースパークで繋養されているがホースパークが完成する以前

天翔牧場で繋養されていたため和馬と毎日顔を合わせていた。

なので和馬にとってキャサリンは二人目の母親のようなものだ


キャサリンと聞いてシオンは納得した。


「和馬 気にしないでキャサリンさんによろしくね」


和馬はシオンとシルクをやさしくなでると足早にホースパークへ向かった。


「ねえ、お母さん キャサリンさんて誰?」


シルクが首をかしげてシオンへ質問する


「お母さんとシルクの偉大な先輩の牝馬よ 私たちも先輩を

見習わないとだめなのシルクも頑張ろうね」


先輩といわれてもシルクはわからないので


「シルク 難しくてわからない」


シオンもしょうがないかと苦笑い


「シルクもそうねあと2年もすれば理解できるわ」


和馬は従業員専用入り口からキャサリンがいる馬房へ向かう


開園前なので厩務員たちは忙しそうに準備を進めているが

和馬に出会うと皆 元気な声で挨拶する


「和馬さん おはようございます!」


「皆さんお疲れ様です。 今日も1日よろしくお願いします」


キャサリンの馬房もお客さんが見学できる馬房で

キャサリンは人気もあり特に子供好きと評判で

見学者はキャサリンに会うのを楽しみにしている


馬房の入り口から中を確認するとキャサリンは

寝藁の上で横になっている


「キャサリン おはよう 体調は大丈夫?」


キャサリンは和馬を視野に入れると立ち上がろうとするが

和馬はそのままでいいと声をかける


「和馬さん 久しぶりですね 体調は見てのとうりですよ」


和馬は寝藁の上に座るとキャサリンの首筋を撫でる


「母さんから キャサリンの体調がよくないから

一度診てほしいと頼まれたんだよ

食欲がないと聞いてね心配になったから」


「わざわざ すいません 私も年ですから 食欲がない時もありますよ

心配しないでください」


「この馬房は暑いなら天翔牧場へ行きますか 涼しいですよ」


キャサリンは首を大きく左右に振る


「和馬さん ありがとうございます。

私はここが好きなんです 仲がいい友人もいますからね

死ぬまで この馬房にいますよ」


「死ぬなんて 縁起でもない キャサリンさんはあと10年は

このパークの主役として頑張れますよ」


10年と聞いたキャサリン


「和馬さん 無理言わないでください でも嬉しいです

まだ枕元に馬の神様は来てませんから

すぐには死にませんよ」


「でもね、和馬さん私も馬の国へいって息子や娘と会いたいんですよ

アイドルさんから聞きました G1勝利した競走馬は馬の国で

のんびりと暮らしているんですよね」


アイドルさんはシオンのお母さんで天翔牧場によく来る

グレイから馬の国の話を聞いているのでキャサリンさんにも

情報が届いているようだ。


「そうですね キャサリンさんの産駒はみな優秀な競走馬でしたね

もちろん 馬の国でのんびりと草を食んでますよ」


キャサリンの産駒はみなキャサリンよりも早く

亡くなっている 伊藤牧場で種牡馬として繋養されていた

7冠馬ミスターインパクトは病気のため13歳の若さで

昨年亡くなり キャサリンの産駒は既にこの世にはいない


キャサリンの体調が悪いのも確認できたため

和馬はその足で獣医で母親である弥生のもとへ向かう


ホースパークには3名の獣医がいて繋養馬の健康管理をしているが

和馬も当然管理を手伝う立場でもある


和馬が向かったのが怪我や病気の馬を治療する

獣医がいる厩舎で入院施設の馬房がある


「母さん キャサリンさんと話をしたけど

残念だけどもう長くないと思う 今のところ神様は来ていないから

今日明日ということはないけど 念のためここへ

移したほうがいいと思うよ お客さんの目もあるしね」


「和馬 ありがとう 私以外の獣医の意見も同じなの

病気や怪我でもないからやはり寿命だと思う

頑張って生きてくれたキャサリンには感謝しないとね

でもお客さんはきっと悲しむわね」


弥生が厩務員へ指示を出してキャサリンを移動させる

自力で立ち上がり馬房の外へ出る際キャサリンは

名残惜しそうに馬房を一度振り返り頭を下げるしぐさをした。


キャサリンは獣医が常駐する馬房に移されたが

その日からもう二度と立ち上がることはなかった


二日後 弥生から和馬へキャサリンが危ないと連絡が入る

キャサリンの最期を看取るため和馬はパークへ急いで向かう


弥生が和馬に最後のお別れをするようにと言葉をかける


和馬はうなずくとキャサリンのもとへ行き


キャサリンの頭を優しくなでるとキャサリンが

目を開け和馬に念話で問いかける


「和馬さん お別れですね 昨日私のところへ

馬の神様がお見えになりました。

私の子供たちも私を待っているそうなので

先に逝かせていただきます また馬の国でお会いできるの

楽しみにしています さようなら お元気で」


「キャサリンさん 今までありがとうございました。

お客さんも あなたに感謝していると思います

馬の国へいったら お子さんたちとのんびりと暮らしてくださいね

俺もいずれ行きますから また会いましょう」


キャサリンは和馬へ大きく頷くとそのまま 安らかに息を引き取った。

享年33歳 


和馬は亡骸に縋り付き号泣する 

キャサリンと出会い10年間和馬にとってかけがえのない

キャサリン母さんと死に別れ喪失感を感じる


弥生と厩務員たちも和馬に声をかけることもできず立ち尽くす


ホームページにミセスキャサリンが亡くなったと掲示されると

翌日キャサリンの馬房の前に献花台が設置された。


弔問のお客さんが絶えることなく献花台の上には沢山の花束が手向けられている


和馬はその献花台の上に置かれた遺影をみて


キャサリンさん笑っていたな

きっと今頃は我が子と再会して思い出話に花を咲かせているのだろう


キャサリンさんのように長生きして寿命で亡くなる競走馬は幸せなんだと思う

レース中の事故や怪我でゴールまでたどり着くことなく

予後不良で安楽死処分される競走馬もいるからだ


天翔牧場が設立した当初の目的は引退繋養馬が余生を

安心して過ごせる場所を作ることだった。


その場所はホースパークへ引き継がれ毎年多くの引退馬を

繋養しているが毎年生まれる競走馬のすべてを救える

わけではない


和馬はキャサリンの亡骸に誓った


1頭でも多く引退した競走馬に安住の地を提供します











天翔牧場の原点は生産牧場ではなく引退馬繋養牧場です。

すべての競走馬が長生きできるのが理想ですね

引退後も安心して過ごせる場所つくりを模索しないとダメでしょう

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