シオンの二人目のお母さん
紫苑との結婚式が週末に執り行われることになるが
なぜか和馬は神妙な顔つきで紫苑の自宅を訪問していた
和馬は居間に通され椅子に腰かける
和馬が重い口を開く
「今日ここへ伺ったのは紫苑さんのお気持ちをお聞きするためです
もし紫苑さんに迷いがあるのでしたら式は中止いたします。」
「和馬私のこと嫌いなの それなら諦めるけど」
「紫苑のことが嫌いな男子はいないよ クラスでも1番人気だろ」
「それを言うなら女子で人気ナンバーワンは貴方よ 和馬」
「私の何処が不満なの?」
「君に不満があるわけじゃない 俺の気持ちの問題だ
正直に言うと俺は君のことよりシオンが好きなんだ
そんな気持ちで君と結婚するなんて君に失礼だと思うから」
「はじめて本音を打ち明けてくれたわね
そんなこと学校で貴方に出会った最初の日に聞かされたわよ
生徒の前での自己紹介で好きな馬はラグーナシオンですとね
それならシオンと私を二人とも愛してくれればいいじゃないの
それじゃあ ダメなの?」
「俺は不器用なんだよ 二人の女性を同時に愛することは出来ない」
呆れる 紫苑
「シオンは牝馬だと割り切ることが出来ないのね
どうしてそこまでシオンが好きなのよ」
「俺にもはっきりしたことはわからないが
シオンを見るだけで心がときめくんだよ
目が合うだけでも分かり会える気がする
頭の中がシオンでいっぱいなんだ
そんな中途半端な気持ちで紫苑と結婚できないよ」
和馬は念話で話せることは、優駿と天翔の血筋の女性にしか話していない
今はまだ紫苑に話すつもりはなく
だから説明するのが難しい
「別に貴方のこころがシオンでいっぱいでも
私は構わないわ 他に人間の女性がいるなら許さないけど
私は和馬が愛するのはシオンだけと知ってて
プロポーズしたのよ 今更はいそうですかと諦めるものですか
このことは両親にも話したわ
そしたらね お見合い結婚でいいじゃないと言われたわ
結婚してからお互いを知り好きになってもらえばいいとね」
和馬は紫苑の両親の顔を見るが 二人とも笑顔で頷いた
「ほんとに紫苑はそれでいいのか?
それでお前は報われるのか」
「当たり前じゃない 好きな男と結婚できるのに不満があるわけないじゃない
和馬を好きなのは私の方なのよ 貴方は誠実すぎなのよ
もう少し気楽に生きなさい それじゃあ早死にするわよ」
和馬は紫苑の本心を聞かされ決心した
「わかった。紫苑俺と結婚してくれ」
「難しく考えないでいいのよ シオンと私を泣かせるようなまね
しなければいいのよ それで幸せだからね」
話を聞いていた光秀さん
「よかったな 紫苑 母さんその旅行カバン出番なくなった」
紫苑の母親が自分の後ろに隠していた旅行カバンを紫苑に見せる
「母さん なんで私の旅行カバンがそこにあるのよ」
紫苑は母親から鞄を取返し中を確認するが
「服に着替えとお気に入りの下着まで…なんで」
「紫苑 あんたが和馬さんにフラれて家を出る時のために用意してたのよ
和馬さんの様子が最近変だったからね まるで結婚式が近くなると罹りやすい
マリッジブルーのようだったわ」
「それで母さんたちは私が振られて牧場を出ていったらどうしたのよ」
「え、母さんもお父さんも死ぬまでここで働かせてもらうわよ
私たちはしっかりと雇用関係の契約結んでますからね
こちらに落ち度がなければ解雇は出来ないのよ
ただあなたは契約結んでないでしょ雇用する側になるから」
「どうぞご心配なく、私フラれてもこの牧場で死ぬまで働くことに決めてますから」
先ほどまでの異様な雰囲気が取り除かれ
和馬は気持ちを入れ替え違う話題を提供することにしたが、
「すいません 少しお聞きしたいのですが、シオンの母親は、
今何処の牧場で繋養されてますか?」
シオンの母親と聞いて皆 押し黙る 隠すことでもないと母親が
「シオンの母親はシオンを生んだ3か月後に疝痛で亡くなりました。
獣医さんの診察では恐らく急性大腸炎とのことでした。」
「そうですか、それじゃあ 母親が亡くなった後は」
シオンの母親が補足する
「ちょうどその時期に離乳を済ませた繁殖牝馬が
いたのでシオンの代理ママを任せました。
子供が好きな牝馬なので助かりました。」
「その牝馬の名前は?」
「馬主さんが変わった名前つけるのが好きな方でしたので
カワイイアイドルです。繋養先は今はわからないですね」
「そうですか、詳しい人に聞いてみます」
和馬は席を立ち 玄関へ行くと携帯を取り出し
「父さん 今忙しいかな?」
「和馬どうした 問題ないぞ」
「調べて欲しいんだけど ホースパークに
カワイイアイドルって名前の牝馬いるかな」
間髪入れず
「ああ、その馬ならいるぞ 変わった名前だからな
俺もよく覚えているよ その馬がどうした」
「よかった うちにいたんだ
それじゃあ 明日 会いに行くよ」
「厩舎はAの1番だ。」
この時悟は和馬だけが来ると勘違いして許可をしてる
まさか シオンを連れてくると思ってないです
「了解 父さん ありがとう」
「おお、じゃあな」
「偶然とわいえ ホースパークにいるなんて奇跡だな
明日シオンを連れていってやろう」
携帯をしまうと居間へ戻り
「カワイイアイドルですけどホースパークで繋養してました。
なので明日シオンを連れていってきます。」
それを聞いた紫苑達は驚きながらも喜んでいる
「よかった。まさかホースパークで繋養されているなんて
感謝しないとね」
シオンが2歳デビューする少し前に売却していて
その後の消息が分からず心配していたらしい
和馬はそのままシオンの馬房へ行きそのことを伝えると
是非会いたいと和馬に返答した。
「それじゃあ、明日 会いに行こうね」
翌日パークの開園前の駐車場に馬バスを止めシオンを降ろすと
教えられた厩舎へシオンを連れて向かう和馬
「シオンお母さんにもうすぐ会えるよ」
「私を生んでくれたお母さんは亡くなったけど
育ててくれたお母さんが生きていてくれて
ほんとによかった。」
厩舎では厩務員たちが馬房の掃除と馬たちの移動をしている
この時間だと馬房から厩舎横のサークルへ入れられているはず
厩舎の近くへ行くとシオンが
「あ、お母さん いたよ あそこ」
お母さんを見つけたシオンは駆け足で駆け寄る
「お母さん 会いたかったよ 覚えているかな」
今年で既に25歳になる牝馬がシオンを見つめていた
「もちろん覚えているわシオンちゃん
随分とりっぱな競走馬に育ってくれたわね
お母さん 凄く嬉しいわ」
和馬はサークルの扉を開けて中へシオンを入れる
久しぶりの親子の対面だな
「シオンちゃんの活躍はここで繋養されてる
仲間からも聞いているわよ
G1勝利おめでとう 今年からは繁殖牝馬なんでしょ
何処の牧場なの?」
「えへへ お母さんと同じで今は天翔牧場にいるよ」
「まあ、それわ羨ましい あそこ施設がここよりいいから
夏場も快適でしょう?」
「そうなの 夏も涼しく快適に過ごせたわ」
母親は今もシオンに寄り添う人間のことが気になり
「それでそちらにいる方は」
母親は馬と念話で話せる人間に会ったことはない
「挨拶が遅れました。 天翔牧場を管理してます
相良和馬と言います お母さん よろしくお願いします」
会話できることに驚くが
「それじゃあ この人がシオンのいい人ね」
「そうよ 私の大好きな人なの」
少し周りがざわついているのに気が付き周りを見る和馬
いつの間にか開園時間になりこの厩舎にもお客さんが
訪れていてそこにいるシオンに興味心身でカメラを
構えている人もいる
「おい、あの綺麗な牝馬 ラグーナシオンだよな」
「まさか 放牧地じゃなく施設内で会えるなんて
ラッキーだな」
いつの間にか金属製のサークルの周りにお客さんが
押し寄せている その様子を見ていた厩務員が
どこかへ連絡を入れている
「まずいぞ シオン 大騒ぎになる前にここを離れよう
お母さんにはいつでも会えるからな
そうだ、俺たちが新婚旅行いっている時
天翔牧場へ来てもらおうか それならシオン寂しくないだろ」
「そうね、まだまだお母さんとお話したいし
ありがと 和馬」
話がまとまり 和馬とシオンはサークルから出ると
そのまま裏の駐車場から馬バスで牧場へ戻ったが
戻るとすぐに携帯に着信が入る
「おい、和馬 シオンを連れてくると聞いていないぞ
お陰でパークは大騒ぎになった」
怒られるのがもっともなのでひたすら謝罪することになる和馬
「ごめん 父さん 開園前には帰るつもりが
話が弾んで時間過ぎてたよ」
「まあいい、怪我人もいなし 今度は連れてくるなら
必ず連絡と相談も忘れないようにな
これは社会人の義務だぞ」
父さんとの会話でカワイイアイドルを新婚旅行の間
天翔牧場で預かる許可を無事に取ることが出来た。
紫苑のご両親にそのことを伝えると皆大喜びする
これで紫苑との結婚式を挙げられると喜ぶ和馬でした。
次回は結婚式ですが式と新婚旅行のお話はあまり長くないです。




