ラグーナシオンのお相手はライバルのマスタングブラックに決まる
翌日の早朝 和馬は馬房の中でシオンと談笑していた。
「ねえ、シオン 種付けされるなら『牡馬』誰がいいかな?」
「和馬 唐突な質問ね 勿論それは貴方よ」
「シオン ありがと 冗談でも嬉しいよ 」
シオンは真剣な顔で和馬を見る
「人間との種付けが可能ならよかったのにね
でも何で今その質問するの?
普通種付けなんて牝馬の意見なんて聞かないで血統なんかで
種付け相手決めるでしょ」
「シオンこのやり方はひいお爺ちゃんのやり方なんだよ
牝馬の好きな相手と種付けしたほうがいい産駒が生まれるとね
実際この方法で生まれた競走馬が年度代表馬になったりG1も数多く
勝つ馬が生まれたからね 勿論血が濃くなる近親交配はしないよ
奇形が生まれる危険性が高くなるからね」
「なるほどね、普通じゃ考えられないやりかたね」
「それでシオンは現役時代好きな異性はいたの?
レースで会うと胸の鼓動が高まる相手が」
シオンは記憶をたどる
「残念だけど私には鼓動が高まるほどの相手には出会うことなかったわね
4歳で引退したから でもね気になる異性はいたわ
強いて言えばマスタングブラックかしら
どちらかと言えば私よりも彼からのアプローチが凄いのよ
レースで会うたび引退したら種付けさせろと言われたのよ子供よね」
「マスタングブラックか 昨年の年度代表馬でG1も短距離とマイルで4勝してるよ
そういえば昨年引退して今年から種牡馬で登録されていた。
それと思い出したよ出走した JHKマイルCはシオンが鼻差で勝ったね」
「そうね、あのレースは私にとって引退レースになってしまったわ
レース後の検査で故障が見つかりそのまま引退したのよ
そのレースのパドックでね彼と賭けをしたの」
「賭けか興味深いけど何をかけたの?」
「レースで勝ったら 種付けさせてあげると約束したの
私もまだ子供よね そんな約束しても叶えることできないのに
彼に悪いことしたわ でもまあ今年から種牡馬になるのなら
私じゃなくても相手に困ることないわね よかった」
和馬は念話をしながらマスタングブラックをスマホで
検索していた。引退後は何処の牧場で繋養されているのか
調べてみると
「シオン 君に聞くけどマスタングブラックに種付けされたい」
シオンは和馬のその言葉に少し驚くが
「そうね、彼には悪いことしたから1回くらいなら
させてあげてもいいかな2度目は考えるけど
これもけじめね 私も仔馬産みたいし」
「和馬の為にもね」
甘えてくるシオンの頭を優しく撫でてあげる
「それじゃあ、マスタングブラックに会って気持ちを
確かめてくるよ。シオンに種付けしたいかね」
「え、今どこにいるかわかるの?」
「スマホで検索したからね 交渉もしやすい牧場でよかったよ
今日の昼にでもいってくるよ 朗報を待っててね」
マスタングブラックの繋養先は和馬の予想どうり
伊藤牧場だった。日本で優秀な種牡馬を探すなら
最大手の伊藤牧場しかないだろう
そこでの交渉は和馬の父親が結婚する前の旧姓に関係してくる
悟は相良性を名乗る前は伊藤性を名乗っていたからだ。
念のため アポを取り伊藤牧場へ向かう和馬
親戚以上の関係なので牧場関係者も皆顔見知りで
顔パスで母屋まで無事に到着するとすぐに
責任者との面談になる
「和馬君 卒業と婚約おめでとう」
「ありがとうございます。」
「それで和馬君はどうしてここへ来たのかな?
メールでは種付け交渉のためと書かれていたけど」
「伯父さんもご承知のとおり生産牧場を再開することに
なりましてその記念すべき繁殖牝馬のお相手を
ここへ探しに来ました。」
「そういえば朝日牧場で繋養されていたラグーナシオン
今は天翔牧場で繋養されていたね
それで候補の種牡馬は決めているのかな?」
「伯父さん 話が早くて助かります
一応面談して決めますが
候補はマスタングブラックです。
来年なんですが可能ですか」
「マスタングブラックか?
今年から種牡馬になった馬だね
どうしてマスタングブラックなのかな
他にも優秀な種牡馬はたくさんいるよ」
「信用してもらえるかわかりませんが
シオンからの要望なんです」
「馬から直接要望を聞いたのか?
まるで天翔天馬さんだな
天馬さんは凄い人だったからな
俺も祖父から聞かされて最初冗談かと
思ったよ 馬と念話で話せる能力…」
一つの可能性に気が付いた伊藤は
「まさか、和馬君にもその能力があるのか?」
「暫くは公にしませんが馬と念話で話すことが出来ます。」
伊藤は驚くが前例がいたことで証明されているので
「隔世遺伝みたいなものなのか
でも羨ましい凄い能力だからな
暫く黙っていた方がいいだろうな」
「はい、そのつもりです」
「それで和馬君はマスタングブラックに面談するんだな」
「はい、天馬さんの手法を真似ることになりますが
理に適うやり方だと俺は考えています
直接当人に相性を確かめた方がいい仔馬が生まれますからね」
この方法でいい仔馬が生まれれば伊藤牧場にも
損な話ではない単純に種付け料が上がるからだ
「よし、わかった 俺が馬房へ案内するよ」
2人でマスタングブラックの馬房へ向かうことになった。
和馬は母屋には何度もいったが厩舎巡りは久しぶりなので
よその牧場の厩舎をみるのもよい経験になる
参考になるところを自分の牧場にも導入できるからだ
「おい、和馬君 いろいろ見ているようだが
最新設備を備えた天翔牧場と比べるなよ
普通厩舎は、ぼろぼろになるまで使うからな
設備も余裕があればうちも天翔牧場の設備を導入したいと
考えているけど予算がな」
「いいえ、どこの牧場へ見学にいっても大切なのは
設備より人材なんだと痛感します
設備を上手く使うのも人間次第ですからね
なのでここへ来るのも勉強になるからです。」
「そうか、ならばじっくりと見てくれよ
うちの厩務員は日本一だからな」
佐藤牧場と伊藤牧場は日本国内の牧場でも最大手の牧場として認知されている
施設の規模と繋養馬の頭数で競い合ういいライバルでもある
「さあ、着いたぞ 俺は外に出ているからな」
到着した馬房の扉にマスタングブラックと書かれている
俺は馬房の扉を開けて中へ入る
ブラックは俺を見てつぶやく
「なんだ、見ない顔だが新人か?」
「マスタングブラックさん 相良和馬といいます
よろしくお願いします。」
会話が出来たことに驚くブラック
「お前 人間のくせに俺たちの言葉わかるのか?」
「はい、馬の神様から授けられた能力ですけど」
マスタングブラックも馬の神様と当然面識はない
なにせ見たら翌日は馬の国へ行くことになるからだ。
「よく生きていられるな 俺たちなら翌日には馬の国へ
いってしまうと言い伝えがあるがな」
「いいえ、俺も一度死にました そして馬の神様に命を
救われました。生き返るときにこの能力を授かりました。」
「まさか、言い伝えがほんとのことだったのか
馬の国にも馬と話せる人間がいると
高齢の引退馬に聞いたことがある」
「あ~ それはたぶん俺のお爺ちゃんのことですね
俺も同じ能力を授けていただいたので」
まあ驚く事実だがマスタングブラック当人は
自分には関係はないと考えていたが
「まあいい、それで俺に何の用だ」
「ラグーナシオン」
名前を聞いて目の色を変えるブラック
「おい、ラグーナシオンがどうした
まさか故障してそのまま処分されたのか?」
凄い剣幕で和馬に詰め寄るブラック
「マスタングブラックさん落ち着いてください
彼女は故障してそのまま引退しましたが、
今はうちの牧場で繁殖牝馬として登録してます
彼女は元気ですよ 安心してください」
その言葉を聞いて少し安心したのか和馬から少し距離を置く
「繁殖牝馬として登録してるのか
まさかもう、種付けされたのか?」
やはり馬でも人間と同じで好きな相手のことが気になるようです
「いいえ、登録はしましたが種付けは来年からです」
「そうか、それで相手は決まっているのか?」
「今日ここへ来たのは種付けする種牡馬に面談するためです
面談して彼女のことが好きなら種付けをお願いする
ことになりますが、貴方はラグーナシオンのこと
どうお考えですか?」
「勿論 好きだよ 俺は彼女とレースで賭けをしたからな
俺が勝てば種付けさせてくれると」
「でもそのレースで彼女に負けましたね
そしてそのレースを最後に引退してしまった。」
「ああ、俺は確かに負けたよ 見事にな でもそのレース以外は
全て俺はほかの馬に勝ったぞ でも約束した彼女はどのレースにも
出走しなかったからリベンジさせてもらえなかった。」
「シオンもそのこと気にしてましたよ
約束したのにレース後話もできず別れてしまったと
でも彼女はいってましたよ もし種付けされるなら
貴方がいいと」
顔を上げ和馬を見るブラック
「俺でいいのか 彼女に負けたままの俺でも」
「まあ、貴方にその気がなければほかの種牡馬を
ここで探すだけです。ここには3冠馬もいますからね」
「それは嫌だ。彼女が俺でいいといってくれるなら
俺は彼女に種付けしたい 俺の仔馬を生んでほしい」
「わかりました。彼女に貴方の意思を伝えます
来年の種付けよろしくお願いしますね」
「ああ、俺に任せろ」
「それでは、失礼します」
和馬は馬房から出ると
「和馬君 話はどうなったのかな?」
「マスタングブラックの意思も確認できましたので
来年の種付けよろしくお願いします。
それで種付け料のことですが」
マスタングブラックは優秀な種馬として評価されているので
初年度は〇〇〇万円の高額な値がついている
いずれ四桁になるだろう
「初回分はサービスでタダでいいよ
そうだね卒業と婚約祝いとして受け取ってくれればいいかな
それに和馬君の能力がほんとなら産駒の戦績はいいから
直ぐに元は取れるし期待してるよ」
こうしてラグーナシオンの種付け相手は決まった。
牧場へ帰り彼女に伝えるともじもじしながら照れていた。
次回のお話で外国産馬のお話と和馬の年の離れた姉が登場します
彼女は今はイギリスの牧場主の妻として海外で生活してます




