オマケ その8 奈々のトラウマ
本文ではグロテスクな表現をしている箇所がありますので
そのようなお話に弱い人は読むのをお控えください
天翔牧場で厩務員をしている奈々さんが佐藤牧場厩務員の
三条浩二さんとめでたく結婚をした。
なんでも美鈴と奈々さんと浩二さんは競馬学校の同期で浩二さんは
騎手試験で不合格となり騎手を諦め佐藤牧場で厩務員として働き始めたとのこと
挙式と披露宴は札幌のホテルで行うため俺たち3人の代わりとして
急遽佐藤牧場から応援をもらい繋養馬たちの世話をお願いした。
奈々と浩二さんご夫婦は披露宴が終わったらそのまま千歳から成田へ行き
新婚旅行へ向かうことになっている
今回披露宴会場には招待客として騎手の同期の人先輩方に調教師の先生も
来場されていますが、奈々さんの所属していた菅原厩舎の菅原先生も
お仕事が忙し中二人の門出をお祝いに来てくれました。
「菅原先生 本日はありがとうございました。
現役の時ご指導ご鞭撻いただきありがとうございました
その節は大変ご迷惑おかけしました。」
ここからは奈々の回想になります
奈々さんは騎手試験に合格して所属したのが菅原厩舎だった。
新人騎手は厩舎の所属騎手として競走馬に騎乗させてもらい
日々精進することになる
美鈴と同期の奈々さんは、久しぶりのDRAの女性騎手として
広告塔のようにDRAの宣伝担当として活躍していたが
二人とも騎乗での実力も大したものだった。
DRAではG1レースに騎乗できる最低条件を31勝としていて
人気があっても実力がなければG1レースの騎乗を任されることはない
まあ理由として大金が絡むからだ。G1レースともなれば 優勝賞金は
〇億円を超えるため騎手の取り分が5パーセントとしても凄い金額になるが
馬主と調教師もそれ以上の額を手にすることが出来るから
尚更新人騎手や勝ちきれない実力がない騎手には到底依頼を出さない
いわゆる縁故の関係があっても騎乗を頼めないものらしい
そんな新人時代 奈々に転機が訪れる
同じ厩舎所属の吉田騎手がG1レース出走のため主戦の馬に騎乗できず
別開催の重賞レースに騎乗出来ないため菅原は乗り替えの騎手として
奈々を馬主に推薦し馬主もトライアルレースでもないからと了承したため
奈々の重賞初騎乗が決まる この騎乗する馬が牡馬のターフマテリアで
2歳のG1レース 夕日杯の勝ち馬で3歳でもクラシック3冠を狙えると評判の馬だった
奈々たち含めて新人には騎乗依頼が来るはずもない優秀な馬だ。
レースの当日はあいにくの雨 芝コース不良という最悪条件
※馬場状態は、良 稍重 重 不良で示され 今の競馬場は水はけもよく
不良馬場はあまりないそうです。
菅原は奈々に指示を出す。
「奈々 こいつは先行が得意の馬だ。
今日の馬場状態なら先行のほうが馬場の影響を受けにくいから
鼻をとりとにかく逃げろ」
奈々はスタートを無難に決めハナを取りとにかく逃げた
レースは奈々が騎乗するターフマテリアを先頭に
展開するが最後の4コーナーで悲劇が起こる
天候は雨でダートコースは既に水たまりができ川のように流れている
芝コースは流石に多少水はけは良いとわいえ最悪の状況
新人ではなく経験豊富なベテラン騎手なら
あのような最悪な展開にならなかったと競馬記者は紙面に書いている
大半の騎手は内枠の荒れた馬場ではなく無難に外へ逃げるが
奈々は果敢に内側を攻め其れがあだになる
雨で浮いた芝に肢を取られ ターフマテリアは前方へつんのめ転倒
その勢いのまま奈々は内枠のラチを飛び超え弾き飛ばされた
その瞬間観客席から悲鳴が聞こえた。
奈々は運よく意識を失うことなく痛い足を引きずりながら馬が気になり
後ろを振り返るとそこで地獄絵図の光景を目にすることになる
ターフマテリアは、転倒して左前肢を骨折し起き上がれず
最悪なことに転倒した場所が運悪くほかの馬たちの走路にあたり
よけきれなかった馬たちに踏まれ瀕死の状態になる
奈々はその光景をまじかで見ることになる
馬たちが走り去り奈々はターフマテリアに駆け寄り
名前を叫び愛馬を抱きしめる
その声に反応したターフマテリアは荒い息を吐きながらも
奈々のことを思い大丈夫だと嘶くが その直後絶命する
ターフマテリア3歳 その短い競走馬人生を終え馬の国へと旅立つ
ターフマテリアを抱きしめたまま 号泣する奈々
そこへ救急車と馬運車を伴い係員が到着した。
「私が...私の騎乗ミスでターフマテリアを殺してしまった」
レース後奈々は病院へ運ばれそのまま入院することになる
怪我は転倒落馬による 右足の骨折と全身の打撲と診断され
幸いなことに飛ばされたのがダートコースだったため
後遺症が残ることもないと医者に言われたが
怪我よりも奈々は心に深い傷を作ったいわゆるトラウマと呼ばれるもの
奈々の入院中に調教師の菅原と先輩騎手の吉田が病室へ訪れ
騎手なら誰しも一度は経験することだから気にするなと言われたが
その言葉、奈々には慰めにはならなかった。
元騎手で引退後DRA職員となった父親と母親に悩みを打ち明け奈々は
退院後引退をすることを決意した。
引退後 奈々はいろいろな職を転々としたが
どれも長続きはしなかった。
そんな奈々を救うことになったのが同期で親友でもある美鈴だ。
美鈴は奈々にいった。
「奈々はあんなことがあっても馬のことは好きなんでしょ?」
「勿論だよ 馬は私の一番好きな動物だよ
それは今でも変わらないよ」
「それなら、うちへ来ない 馬が好きならね」
※ この時点ではまだ天翔牧場はできていないので美鈴が誘ったのは
佐藤牧場のことです。
自分の未熟な騎乗で馬を殺したと思っている奈々は
贖罪のため 美鈴の誘いを承諾して厩務員として働くことになります。
佐藤牧場で再会した三条と恋仲になり結婚することになったんですね
披露宴会場では奈々と菅原が会話しています。
「いや~ 驚いたよ 奈々が競馬界でも有名な天翔牧場で
厩務員として働いていたとわね」
「美鈴のお陰ですよ 私が立ち直ることが出来たのも
今は繋養馬たちのお世話が出来るの凄く楽しいです」
「奈々の笑顔が見れてよかったよ
あの時はほんと心配したからね
私も吉田もね」
「ほんと お世話になりました。
それに先生にはご迷惑をおかけしました
あの馬主さんから暫く競走馬を預けてもらえなくなったと
知人から聞きました 私のせいですよね」
※クラシック3冠を狙える優秀な馬を新人に騎乗させ
あまつさえ予後不良にされたら怒る馬主もいるでしょうね
「君が気にすることはないよ
今では毎年うちの厩舎へ競走馬預けてくれる
ありがたい馬主さんだから大丈夫あの人も
理解してくれているからこの世界のこと」
「それを聞いて少し ほっとしました」
「それに君はあの落馬事故の後から
ターフマテリアの命日に馬頭観音様に
お参りにいっているだろ
美鈴から聞いているよ」
「美鈴ったら誰にも言わないでといったのにな
でもお参りに行くのは私の意志ですから
レースでの騎乗を任された騎手は
馬たちを無事に厩舎へ戻す責任と義務があります
なのでけじめとして参拝は私が死ぬまで続けます」
「ほんと奈々は父親に似て頑固だね」
※ 菅原さんも元騎手なので奈々さんのお父さんのこと
よく知る人物です
「あの~ すいません お話し中すいません」
天馬さん登場です。
「菅原さん 本日はお忙しい中ありがとうございました。
現役時代も随分お世話になったと奈々から聞いていますよ」
「あ、どうも天翔さん 美浦のトレセンでお会いしてから
随分とお久しぶりですね 天翔牧場の産駒の活躍
いつもまじかで見ていますよ ほんと羨ましい限りです
是非とも うちの厩舎にも競走馬を預けて
いただきたいものですね」
酒の力を借りて普段は言わない言葉をついポロリといって
しまった菅原だが
「いいですよ、ちょうどプラチナとシルバー産駒の
預け先を検討してたところですから
奈々がお世話になった菅原先生に是非とも預けたいですね」
お酒が入り つい冗談のつもりで口にした菅原だが
天馬のその言葉で急に酔いがさめた。
天翔牧場の産駒の馬が人気で預けてほしいが、佐藤さんと
伊藤さんとの付き合いのある佐々木厩舎へ優先的に預けられるため
二人と縁がない調教師はその恩恵にあずかることが出来ない
菅原さんもその調教師の一人だった
素面になった 菅原さん驚きながら
「天翔さん今のお話ほんとでしょうか?
天翔牧場産駒の馬を預けてもらえるなんて夢のようです
それもプラチナとシルバーの産駒ですか
お任せください 必ずG1を勝てる競走馬にしますから」
「そういってもらえてこちらも嬉しいです
契約は後日改めて私が菅原さんの厩舎へ
行きますので今日は奈々の披露宴を楽しんでください」
その話をまじかで聞いていた奈々は、天馬に心から感謝した
天馬さん 私のためなんですね
私が先生と馬主さんに迷惑かけたと感じているから
美鈴はほんといい旦那様を見つけたね
後日、菅原厩舎に預けられたプラチナとシルバーの産駒は、
吉田騎手が主戦を務め 見事G1勝利します。
現役騎手の皆さんもつらい経験されているかたも多いと思います
自分の愛馬の死を目の当たりしたら私では耐えることが出来ません
すべての競走馬には引退後はのんびりと暮らしてもらえる
世の中になればいいと思います。
私も少ないですが寄付で協力します。




