天馬 馬の国へ旅立つ
メリーの死後 天馬は傍から見ても働きすぎとわかるほど
精力的に動いていた。一番は繋養馬の健康管理だろう
これまでの常駐する皐月の健康管理意外にも
天馬が自ら問診による僅かな体調変化にも対応するようになっている
厩舎の衛生管理も以前より強化され外部からの訪問について
厳しく規制して病原菌の侵入を極力阻止できるように
扉を二重にするなど改装した。
そんなある日 優駿の父親が牧場を訪ねてきた。
今までもお盆休みと年末年始は必ず宿泊していたが
今回はゴールデンウイークを利用して夫婦で
牧場のイベントに参加していた。
優駿の父親は医師だ。 普通と違う天馬を見て直ぐに
精密検査をするようにと勧めたが天馬は牧場の仕事が
忙しいからまた今度受けますと精密検査を受けなかった。
もしこの時強引に精密検査を受けに病院に連れていけばよかったと
美鈴はのちに後悔することになる
天馬自身体の不調には気が付いているので
胃薬を飲んだり栄養ドリンクを毎日のように飲んだり
している。美鈴が大丈夫と聞くと
「なんかね 胃の調子がおかしいんだ。
まあ、疲れやストレスからくる
胃腸炎かなと思うけど心配いらないよ」
「一度病院で診てもらったら?」
「今は無理だよ、お盆休みが終わったら
イベントも今より回数減るから
それから行くから心配しないでいいよ」
お盆休みが終わり北海道に短い秋が来た頃
天馬の顔には黄疸が出ていた。
夜寝れないときには睡眠薬を服用して痛みがひどい場合は
痛み止め代わりにあまり飲まない強いお酒も飲むようになった。
天馬は胃が悪いと決めつけていたが、原因は別にあった。
10月のある日 天馬は厩舎で意識を失い倒れた
それを見たローズたちが心配して大声でいなないく
その声を聞いた美鈴と皐月が異変を感じて厩舎へくると
通路で倒れている天馬を発見直ちに病院へ
救急搬送された。
病院へ入院後2日経過したが天馬の意識はまだ戻らない
精密検査が行われ病気の原因究明をした。
天馬の病室で担当医が美鈴に病名を告げた。
「天翔さんの病名は、すい臓がんです。」
すい臓がんと言われて慌てる美鈴
「天馬は、夫は助かりますよね」
渋い顔する担当医
「ガンの進行状態はステージ4です。
同じステージ4でも手術できる場合と
手術ができない場合がありますが、天翔さんの場合は
体中にがん細胞が転移しているため 手術はできないと
判断しました。お気の毒ですが」
「それで、夫はあとどれくらい生きられますか?」
「正直いいまして個人差もありますので
正確にはわかりかねますが、放射線治療と抗がん剤治療
を併用しての延命治療を行い進行が遅くなれば良くて半年」
「悪ければ、どれだけですか?」
「延命治療を行わない場合は1か月でしょうか
現代医学も日々進歩していますから
治療中にでも新たな治療薬や治療の方法も見つかる可能性も
ありますので、入院して治療に専念されたほうがいいかと
私はおもいます。」
天馬がこのタイミングで目を覚まし医者と美鈴の会話を聞いていた。
「先生、俺は退院します。延命治療はいらないです
どうせ治療して寿命が延びても半年なら
俺は死ぬまで馬の世話をしますよ。
美鈴退院の手続きを頼む」
医者は天馬の選択を受け入れ
「わかりました。ただ相当痛みが伴いますので
痛み止めの薬は処方しておきますので
お飲みになってください
ただ、この薬強い効果がありますが、その分胃に負担がかかりますので
ご注意ください」
天馬は笑った。
「先生胃に負担がかかってもあまり関係ありませんよ
ありがとうございました。
それに今回の件は以前精密検査を進めてくれたお医者さん
の好意を蔑ろにした俺に罰が当たったんですよ
誰も恨むこともありません」
「天翔さんもし何かあれば直ぐに病院へ来てください
痛みを和らげる方法もありますから」
天馬は何も言わず 先生にお辞儀をして病室を出た。
「天馬 このまま入院したら
私が最後まで面倒見るわよ それに先生も
新たな治療方法が見つかるかもしれないと
いっていたじゃないの」
「病院で最期を迎えるのは嫌なんだよ
死ぬなら牧場で死を迎えたい
それにこれから名義の変更とかで忙しくなるからな
俺が生きているうちにできることは済ませておきたいんだよ」
天馬の病状を聞いて優駿の父親が静内へ来てくれた
俺から病状を聞いてその足で病院へ向かい
後悔した表情で天馬の前に立つ
「天馬クン すまなかった。 私があの時強引に
病院へ連れていっていれば 治療も間に合ったかもしれない」
頭を下げる駿介の肩に優しく手を置き
「先生は何も悪くないですよ、俺が全て悪いのです
気にしないでください
皐月も後悔しているようですが、獣医と医師は別物ですからね
皐月にも罪はありませんよ」
「わたしはできる限り君たちのサポートをするから
何でもいってほしい 何かあるだろうか」
天馬は少し考えて
「それなら俺が死んだあと家族のこと頼みます。」
「勿論だよ 私に任せておきなさい」
天馬は駿介に頭を下げた。
「どうか、美鈴と皐月のことよろしくお願いいたします」
天馬は鎮痛薬を服用しながら牧場の仕事と事務手続きの両方を
こなしていた。時間がない
天馬の病状はますます悪くなり起き上がることもできなくなる
医者の診断で今日明日が峠でしょうと言われた。
身内、知人に早めに連絡するようにと言われた。
天馬は医者から宣告されたあと友人知人を訪問して
今までの感謝と死後美鈴たちのことも頼んでいた。
献身的な介護をする美鈴にも疲れが現れる
「ほんと美鈴には苦労かけたな
新婚旅行にも連れて行けなかったし
俺は夫として失格だな
ほんとにすまなかった」
「何をいっているのよ、私は天馬と夫婦になれて
幸せだったわよ、夢も叶えてもらえたしね
私のお父さんも天馬に感謝しているわよ
馬主として最高の栄誉をもらったからね」
「ほんと佐藤さんと伊藤さんに出会うことがなかったら
美鈴とこうして話すことも牧場を経営することも
なかったと思うと人の縁は不思議だな」
「そうね、神様に感謝しないとね
天馬の場合は、馬の神様かな」
「確かにな 馬の神様に子供の時
命を救われなかったら
俺も今存在すらしていないからな」
この部屋には天馬の家族である美鈴と皐月と優駿がいる
「皐月、母さんのことよろしく頼むな
優駿君も皐月のことこれからも助けてやってくれ」
「お父さん わかっているから
母さんのこと任せておいてね」
「皐月のことお義母さんのこと
俺が守りますから安心してください」
「それを聞けて俺も安心してメリーのところへ行けるよ
美鈴、牧場にいる馬たちのこと頼んだぞ
俺の残した貯金全てお前に渡したから
暫くは経営に負担はかからないと思うが
何かあれば遠慮なく使ってくれ」
「わかったから 馬たちのこと任せなさい
メリー達によろしくね」
天馬は目をつぶり
「ああ、俺眠いから少し寝るわ またあとでな」
美鈴は天馬が目を閉じ眠ったのかと思ったが
皐月と優駿は獣医らしく異変に気が付く
素早く呼吸と脈拍を確認 美鈴に対して
大きく首を横へ振る
隣の部屋で待機していた担当医が呼ばれ診察をする
時計を見て
「午前2時35分 ご臨終です。」
厩舎からは馬たちのいななく声が聞こえた
悲しそうに泣く声は、朝まで続いた。
天馬の葬儀に参列したのは、知人と友人含め300人ほど
その中には生前親交があった
佐々木元調教師、盾調教師、横長調教師、DRA関係者
牧場関係者などが参列していて天馬の幅広い交友関係が
よくわかる
葬儀後火葬が行われ、遺骨は本人の生前の遺言どうり
天翔家のお墓と天翔牧場の敷地内にある
メリーのお墓の横に天馬の墓標が建てられた。
天馬はほんとに馬の国へ行けたのだろうか?
実は天馬が亡くなる前日 夢の中で馬の神様から
貴方は明日お亡くなりになりますが、
前からのお約束どうり馬の国へご招待しますよ
そこであなたにお仕事をお願いすることになるでしょう
俺に仕事の依頼か? 馬の国で何をするのだろう
病気のこと詳しくありませんので間違いがあるかと思います
表現の方法など下手ですいません
天馬は馬の国へ行きメリー達と再会しますが、その際馬の神様から
天馬にしかできない依頼を受けることになります。




