負の連鎖は続く 天馬が見た夢は幻影なのか?
天翔牧場の功労馬であるプラチナの葬儀が行われた。
プラチナが大好きだった場所へ埋葬する許可をもらい
本日埋葬することにした。
厩舎の中を埋葬に参列するか馬房を訪ねたらほとんどの馬たちが
参列するというほどプラチナは皆に好かれていた。
ただ1頭参列しない繋養馬がいるが、今はまだ
プラチナが亡くなり意気消沈しているようなので
付き添いに奈々を厩舎に残してみんなで埋葬に行く
俺を先頭にメリー、ローズ、スター、シルバー、ストロベリー
の順に合計28頭が列を乱さず行進する
「ねえ、母さんこの馬の行進誰も信じないでしょうね」
皐月の言葉に美鈴は苦笑いを浮かべる
「天馬だから手綱もつけないで馬たちを先導できるのよ
これが出来れば調教も楽でしょうね」
念のため 美鈴と皐月は最後尾にいる
見晴らしがいい小高い丘の中腹に事前に棺を埋葬できる
穴が掘られている
慎重に棺を地中へ降ろす。土をかけ最後に墓標を立てるが
今回は省略した。石碑の墓標は既に注文してあるので後日
設置する
俺たちはプラチナの墓標に手を合わせる
「プラチナ安らかに眠ってくれよ
またいつか馬の国で再会できるのを楽しみにしておく」
馬たちも頭を下げて念話で会話している
「プラチナさんお世話になりました。」
「助けていただきありがとうございました。」
「プラチナ 貴方がいなくなって寂しいけど
貴方の代わりに天馬の面倒は私が見るから
少しの間我慢してね」
メリーはプラチナのお墓に誓う
埋葬が終わるとまた馬を連れて厩舎へ戻る
プラチナがいないだけで厩舎内が
火が消えたような感じがする
俺たち以上にプラチナに頼っていたマロンのことが心配に
なってくる マロンはプラチナが亡くなってから
食事も水もいっさいとろうとしない
皐月に確認するがこのままでは、衰弱死するのも
時間の問題と言われたが、俺たちではどうしようもない
シルバーとストロベリーは、マロンに食事を取るように
と頼んでいるが、頑なに拒否してるとのこと
私は、プラチナのところへ行くとしか言わないそうだ。
7日後 マロンは衰弱死したが、その顔は笑みを浮かべていた。
「マロンね 最後は正気に戻ったようでね
私たちにごめんねと謝っていたわ
あの子ほんとにプラチナのこと好きだったから
きっと馬の国で再会して仲良くやっているわよ」
けっきょく俺はマロンを助けることが出来なかった。
プラチナ大好きだったマロンの亡骸はプラチナのすぐ横に埋葬した。
「もう、今頃 プラチナに再会しているだろうな
プラチナのやつマロンを怒るかな それとも」
「天馬 プラチナわね マロンがこうなると予想していたのよ
アイツは必ず俺の後を追ってくるだろうとね
だから少しは怒るけど、どうせ最後はしょうがないなと許すわね
この後も高齢馬の寿命による衰弱死は続くことになる
プラチナの死後1年後には、シルバーとまだ若いのにストロベリーが
相次いで亡くなる このことで俺の不安は膨れ上がる
「メリーは俺を一人おいて逝かないよな」
メリーは天馬に対し
「天馬のお馬鹿さん わたしだって不老不死じゃないのよ
いつかわからないけどみんなと同じように死んでくのよ」
「プラチナに天馬のこと頼むと言われているからね
頑張るけど正直そろそろつらいのよね
仲間がみんな私の前からいなくなるのよ
わたしだってみんなといたいのよ」
「こうして頑張っていられるのも
天馬が私を必要としてくれているから
それと娘とその娘がここにいるからかな」
メリーは、すぐ横にいるローズとスターを見る
「ローズは死なないよ パパと長生きするから」
「私もですわ お父様」
「ライクもいるよ、勿論チャコもね」
シルバーとストロベリーが亡くなったあとは
天翔牧場で繋養している馬たちは、
皆元気のようで一安心したのもつかの間
プラチナが亡くなった数年後
今年で35歳になった メリーが倒れた。
「天馬 ごめんね もうこれ以上側にいるのは
無理のようだわ 私のところにも馬の神様が
現れたのよ」
天馬は泣きながらメリーにしがみつく
「そんなこと俺は認めない 信じないぞ
メリーは俺とこれからも生き続けるんだから
明日もその次の日もいっしょにいてくれよ
お願いだから俺を一人にしないでくれ」
「バカね、貴方には美鈴と皐月もいるでしょ
そろそろお別れよ 私にもプラチナが
待っているから そろそろ彼にも会いたいの
お願いだから私を開放して 貴方は人間で私は馬なのよ
住む世界が違うの 寿命だって違うでしょ」
「天馬とはこれで最後じゃないでしょ
私が死んでもあなたはいずれ馬の国へくるでしょ
少しの辛抱よ、いずれまた会えるのよ
天馬は私のことは忘れて美鈴と皐月のことを考えてあげなさい」
「俺だって美鈴も皐月も愛しているよ
別に蔑ろにしているわけじゃない
同じくらいメリーが大好きなんだ
離れたくないんだよ」
「私だって離れたくないけどこれも運命なのよ
最後は笑って見送ってちょうだい
このままじゃ天馬が心配で死ぬこともできないわ」
「心配で死ねないなら ここにいればいい
俺がずっと面倒見るよ」
メリーは目をつぶる
「天馬最後のお願いよ、笑顔で見送って
もう時間がないのよ 私に最後まで心配かけないで
嫌いになるわよ それでもいいのね」
「嫌だ、メリー俺のこと嫌いにならないでくれ」
「それじゃあ、できるわね 笑顔で『またね』よ
さよならじゃないのよ 私たちはまた会えるのよ」
「わかったよ、 メリー またな」
「ありがとう 天馬 わたしあなたのこと大好きだった。
今度は馬の国で会いましょう じゃあ ま、た、ね」
メリー~おい、 メリー目を開けてくれよ
メリー~ うううう
メリーは天馬に優しく抱きしめられてこの世を去った。
天馬はメリーの亡骸にしがみつき涙を流す
美鈴も皐月も厩舎から母屋の方へ向かう
天馬とメリーの二人にしておこうと考えたからだ。
隣の馬房ではローズとスターが泣いている
「ママもう会えないのローズも寂しいよ」
「お母さまには、わたくしがついておりますわ」
ローズは昨日メリーから馬の神様の話は
聞いていたので昨日はいっしょに眠りについていた
その時にローズはメリーから天馬のことを頼まれた
私の代わりに天馬のこと頼むわねと
「ママの代わりはできないけどローズ頑張るよママ」
泣き疲れた 天馬はそのまま寝てしまった。
その夢の中で
「天馬起きなさい 」
その声に天馬は目を開けるとそこには
若くて綺麗な尾花栗毛のメリーがいた。
「メリーやっぱり帰って来てくれたんだね
よかった。でも何で若返っているの」
メリーの横には、同じく若返った
シルバーとストロベリーの姿がある
その後ろには、白毛のマロンとグレーの芦毛馬がいる
「私はもう馬の国にいるのよ、天馬はいつまでその亡骸に
しがみついているのよ 私はここよ
それとね馬の国では、自分の一番輝いていた年齢に戻ることができるの
だから私は天馬と出会った3歳のころかな どう綺麗でしょ」
「勿論綺麗だよ、それにシルバーもストロベリーとマロンも
あの頃のままだね みんな綺麗だよ
でもその芦毛の馬は誰なの知り合い?」
「何だと 天馬は薄情だな俺の顔見忘れたか?
俺は白毛じゃなく芦毛だからな 若い時はグレーなんだぞ」
「バカ、お返しだよ お前 死ぬこと黙っていってしまっただろ
あんときはほんと寂しい思いしたんだぞ」
「それはまあな お前の泣き顔見るの辛かったからな
許せよ天馬」
「ねえ、天馬 私たち皆馬の国で楽しくやっているから
大丈夫よ、ローズたちにもそういっておいてね
今回は、特別に馬の神様が天馬に会うの許してくれたのよ」
「天馬さん 馬の神様からね 天馬もすぐに馬の国へ来るから
といっていたから早く来てね 待っているから」
「こら ストロベリーそれはいっちゃだめって言われてたでしょ」
「あ~そうだった 天馬さん 今の忘れてね」
「なんか、よくわからんが わかった 忘れる」
「ああ、もう 時間がないわ 天馬またね 待っているから
私がいなくても泣いちゃだめよ」
「わかった。 俺頑張るよメリーに会えるまで またな」
俺はそこで目が覚める
美鈴がちょうど天馬に毛布を掛けるところだったようだ
「あら、天馬なんかすっきりした顔してるわね
どうかしたの」
「メリーに夢の中で会った。
亡くなったプラチナもマロンもシルバーもストロベリー
も夢の中で再会したよ 皆元気そうだった。
そこで元気をもらったよ さあ メリーも埋葬してあげよう」
理由はわからないが、天馬が空元気でも立ち直って
くれたのでほっとする美鈴だが
はたして天馬はこの後どうなるのか




