残されたものたちの苦悩
夜中の午前3時 俺は嫌な胸騒ぎがして目が覚めた。
プラチナとの散歩の時間までまだあるが、問題ないだろう
着替えをすませると厩舎へ向かう
するとマロンの馬房の前にシルバーがいた
「おはよう シルバーこんな朝早くにマロンに用事でもあるのか?」
「おはよう 天馬 マロンがね念話で変なこと言うから
心配して馬房へきたんだけど マロンからの念話だと
プラチナが馬の国へ逝っちゃったよ なんていうのよ
天馬どうせプラチナと散歩でしょ 何かあったら知らせて」
「わかった、約束の時間までまだ早いけど見てくるよ
俺もちょっと嫌な胸騒ぎするから」
「それじゃあ お願いね」
プラチナの馬房の扉が不自然に開いている
おかしいな 誰が開けたんだろう
中を覗く天馬の目には、プラチナの側で呆然と立ち尽くす
メリーがいる その顔が凄く悲しそうな顔してる
「メリーおはよ プラチナもう起きてるか?」
「天馬、プラチナは2時間ほど前に亡くなったわ
私はプラチナに昨日馬の神様と夢の中で出会ったと聞いていたから
虫の知らせでここへ来たら もう逝ってしまった後だった
わたしもプラチナを看取ることが出来なかった。
話を聞いたときにそのまま強引にいっしょにいればよかった。」
「病気でもなく寿命で亡くなったのだから
しょうがないと思うけどせめて私だけでも
看取ることが出来ていればプラチナも寂しい思いしなくて
よかったのにね 最後までかっこつけなくてもいいのにね」
「うううう、クスン 天馬~プラチナ死んじゃったよ~」
感極まった メリーが天馬に寄り添い泣きじゃくる
「グスン、プラチナ私にも死に顔見せたくないから
帰れといったの~それでも いっしょにいたかったよ~
私が最初に愛した牡馬はプラチナだったのよ」
「大好きなプラチナと結ばれて私幸せだった
プラチナを好きだったマロンやシルバーには
悪いと思ったけどこの想いは消すことが出来なかった
天馬にも感謝してるよ私とプラチナの恋の橋渡ししてくれたから
プラチナに最後に愛していると伝えたかった」
俺はメリーの頭を優しく撫でながら
「メリー見てごらん プラチナの顔 笑っているよ
もう、プラチナ馬の国に着いたのかな
馬の国どんなところだろうな
俺もいつか行けるのかな 馬の神様が夢の中で迎えに
来てくれたら行けるんだろ」
「グスン 天馬はまだいってはダメよ
プラチナと約束したのよ、自分が死んでしまえば
天馬が落ち込むから私に天馬の力になれといっていたわ
天馬は私とあと30年は生きるのよそうしたら私も60歳だからね
そしたら2人でいつしょに馬の国へ行きましょう」
「そうだな、メリーといっしょなら俺も頑張れる
あと30年頑張って生きてねメリー
約束だよ もしメリーが守れなかったら
俺もメリーの後追うから」
メリーは天馬の後を追うという言葉を深刻にとらえた
私が死んでしまえばほんとに天馬が私の後を追うのではないかと
不安になる でも天馬には家族がいる美鈴と皐月がいる
言葉の綾よね 天馬はそんなに弱くないよね
そういえばプラチナも私が死んだら天馬は
生きていないだろうといっていたけどまさかね
静まり返った 厩舎内ではプラチナが逝ってしまったと
各馬が念話で伝え会っていた。
当然その念話はマロンとシルバーにも伝わることになる
「シルバー プラチナ 私を残して逝っちゃった
そうだ、私も追いかけないと 今から追いかければ
馬の国で会えるよね そうだそうしよう」
「マロン しっかりしてよ そんなことしても
プラチナ喜ばないよ 慌てなくても
あと数年できっと会えるから
マロンがいなくなると天馬も悲しむよ」
「え~天馬 悲しまないよ だってメリーが
いるからね 私はいらない子だよ~
私にはプラチナしかいないの~今なら私だけが
プラチナに愛してもらえるから 馬の国へ行くんだよ~」
「だめだ、マロンの精神が崩壊してるよ~
マロン 戻ってきてよ~」
マロンはこの日から食事も水も受け付けなくなっていった。
マロンがそんな状況になっていると知らない天馬は
メリーといつしょにプラチナに寄り添い
別れを惜しんでいた。
そんな状況は、朝の食事の準備をしに来た
美鈴が来るまで続くことになる
皐月がプラチナの検死(診察)をしている
DRAへの報告のためだ。病気なのか自然死(寿命)なのか
「お父さん 間違いなく老衰です。
平均寿命超えてますからね 大往生ですよ」
「そうか、じゃあDRAへの報告任せてもいいかな
俺は葬儀の準備があるからそれと牧場の敷地内へ
埋葬するからその許可申請も頼むよ」
「任せて 書類は提出しておくから
プラチナさんのことよろしくね」
「オウ、任せろ 牧場の功労馬だからな
プラチナのお気に入りの場所に埋葬するよ」
「ねえ、天馬 お気に入りの場所ってあそこ」
美鈴は厩舎の窓から見える 小高い丘を指さす
「あそこは、プラチナと散歩に出かけたときに休憩する場所なんだよ
あいつ必ずあそこへ寄っていたからな
そうとう気にいっているようだったな」
「そう、じゃあ功労馬の墓地もそこにする?」
「それがいいだろう 皆のお気に入りの場所だからな
俺も死んだらそこに埋葬してくれ」
「天馬 なにバカなこといっているのよ
まだ 随分先の話でしょ
人生100歳時代よ まだ50年あるわ」
この時の天馬の発言は、天馬の本音でもある
死んだらみんなといっしょのところで眠りたい
引退馬たちの大黒柱はプラチナでした。
マロンは精神を病んでいます。




