皐月、激怒する 後編
天翔家の居間では天馬と美鈴の前に皐月と優駿がいる
「優駿君きみの話はわかった俺は皐月との交際を認めるよ
美鈴もいいよな」
「そうですね、天馬が認めるなら私が反対することもないでしょう
皐月もそれでいいのね」
皐月はウンと頷く 優駿君は天馬たちに頭を下げ
「ありがとうございます。お義父さん皐月さんを幸せにします」
この優駿の言葉に反応した天馬は
誰がお前のお父さんだ。俺は認めんぞ
皐月は誰にもやらん とっとと帰れ
母さん 塩まいておけ
と言いたいのを我慢した。
不機嫌な皐月
「でもお父さんは、そんなに簡単に許してもいいの?
なんか侮辱されたみたいで私は嫌だな」
苦笑いを浮かべる天馬
「そうか、なら優駿君と別れるか
父さんそれでもいいけど」
慌てる 皐月は天馬に
「それは、いや 優駿と別れないわよ」
「それにな皐月、頭のいいお前なら
なぜ優駿君のお父さんがあんな発言したのか
最初からわかっていただろ
別に俺たちのことや天翔牧場の名前を出して批判したり
バカにしたわけじゃない。恐らく過去に援助依頼された
ことがあったんだと思うぞ」
はい、お義父さんと優駿が手を挙げる
「はい、ご指摘の通り兄の元交際相手がそうでした。
相手は、町医者の娘でしたが、
色仕掛けで兄さんを無理やり婚約者に仕立て
父に援助を求めてきました。
その苦い経験があったからでしょうね」
「ただ、今回は詳しいい状況の説明も聞かないのに
あの発言した父を私は軽蔑しますね」
「優駿君 お父さんを軽蔑するもんじゃないよ
すべては自分の保身のためじゃなく
君のためだと判断したからだと俺はおもう」
「確か今日こちらに来られるんだよね」
「はい、母から携帯に連絡がありました。
お父さんとお昼前に到着する飛行機で行くからと」
「優駿君 俺と迎えに行こうか空港まで」
「え、でもあと2時間もないですが、間に合いますか?」
「大丈夫だよ、前もってお義父さんから
借りといたから あれ」
天馬が指さした先には自家用ヘリが上空でホバリングしている
優駿人生で2回目のヘリでのフライト
フライト中はへッドホンを装着してインカムで会話します
高価なヘリでも頭の上でエンジンが音を立てているので
普通の会話はできません
新千歳空港 国内線到着ゲートで優駿と天馬が両親を出迎える
「オイ、母さん 優駿がいる」
「私が前もって連絡しておきました。
隣にいる方はおそらく皐月さんのお父さんですね
貴方 しっかり謝罪してくださいね
優駿の将来がかかってますから」
「何度も言われんでもわかっている」
到着口から荷物を手に持ち出てきたところで
「天翔さん 父と母です」
「どうも皐月の父親の天翔天馬と言います。
どうぞよろしくお願い致します。」
頭を下げる天馬に
「この度は大変失礼をいたしました。
慎んでお詫び申し上げます。
私が優駿の父親の相良駿介で隣にいるのが母親の」
「相良桜花と申します。どうか優駿のこと
よろしくお願いします。」
へコへコと謝る3人
「ここでは何ですのでラウンジへ行きましょう」
天馬は3人を空港のラウンジへ連れていく
空港のラウンジは個室もあるので
快適ですね
椅子に着席したとたんまた頭を下げる相良駿介
「いくらでもお詫びいたしますので
どうか優駿と皐月さんの結婚を認めてください」
父と母とその隣で優駿も頭を下げる姿を見た天馬は
「相良さん頭を上げてください
別に私は怒っていませんし娘の皐月も
遺恨はありませんのでこちらからも
皐月のことよろしくお願いします。」
「ほんとによろしいのですか?」
「些細な勘違いですからね
気にしていません、これからのほうが大切ですからね」
これ以後険悪なムードになることもなく
世間話に花が咲く
「優駿君は結婚したら何処に住むか決めているの?」
「はい、皐月と相談しまして牧場の庭にバンガローが
ありますよね あそこに住む予定になっています。
あそこなら夜間に急患が出てもすぐに出れますから」
「あ~あそこか別に母屋でもいいんだけど
皐月が決めたんならそれは決定事項だね」
「そうです、皐月が決めたら変更はしません」
「あの頑固なところ誰に似たのかな?」
「それと優駿君はどうして普通の医者ではなく
獣医師になろうとしたのかな?」
「私の趣味が原因だとおもいます」
相良さんが説明してくれるらしい
「実はですね私には競馬場で馬の写真を撮る
趣味がありまして馬券は購入しないのですが
パドックで馬が周回するところを1日中
見てるのが好きなんです」
「優駿が小学1年の時、レースで転倒した馬がいました。
騎手は直ぐに立ち上がりましたのでよかったのですが
競走馬の方は、かなりの重傷のようでした。
馬運車で医務室へ運ばれたので近くのDRAの職員に
容態を聞いたところ恐らく予後不良で安楽死処置されると
言われました。それを聞いていた優駿が簡単に馬を安楽死処置
させないように自分が獣医師になって怪我を治すと言いました。」
その話に出てくる馬に身に覚えがある天馬
「相良さんその転倒した馬の名前わかりますか?」
「はい、確かスタイルシルバーだと思います。
それ以後レースに出ていないので予後不良で
安楽死処置されたと思っていました。」
「スタイルシルバーなら家の牧場で繋養していますよ
あのレースで骨折して確かに安楽死処置されかけましたけど
何とか手術が成功しまして引退後に私が馬主さんから
譲り受けました。今でも馬主さんも見学にきますよ」
喜ぶ優駿とその父親に
「この後牧場へいったらスタイルシルバーにも
会えますよ。」
「それは是非とも元気なところを見たいですね」
こうして牧場へ行くことになりましたが、
相良さんは、電車で行くつもりのようです。
「あの相良さん牧場へは電車では行きませんよ
私についてきてください」
「天翔さん電車以外で静内へどういかれるのですか?
確か電車とバスで2~3時間だと思ったのですが」
天馬は告げた。
「ヘリで行きますよ。」
「え、冗談ですよね。」
「私も最初は同じリアクションでしたが
北海道はほんとに広大ですが
ヘリなら30分もかかりません」
中型ヘリを見上げて
「因みにこのヘリは天翔さんの所有ですか?」
「私ではなく妻の実家の持ち物ですが、
最近はよく使いますよ便利ですからね」
30分ほど空の旅を満喫した4人
佐藤牧場ヘリポートへ到着です。
「元々このヘリは獣医師さんを札幌からお連れするのに
使用していたそうです。馬が怪我したときとか
出産の時に容態が急変したときですね
特に雪が降る冬だとこれがないと困ります。」
「ただし、今後は二人の獣医師が常駐してくれますので
静内の牧場経営している人全員が喜んでいます
優駿君頼むね期待しているから」
お義父さんに挨拶をして牧場へ戻る天馬たち4人
牧場内の広場では、牧場の厩務員が料理の準備をしています。
「今日は、会員さんとのイベントがありまして
夕方はバイキング料理を振る舞います。」
「ただ、以前は牧場内にバンガローの宿泊施設が
ありましたが、今は近所の民宿とペンションへ
宿泊していただいています。何分申し込みが
多いものですから宿泊できないのですよ」
天馬は、厩舎の中へ案内する
「ここからは、関係者以外立ち入り禁止区域ですので
会員でも許可なく立ち入りはできません
感染症予防のためです。しっかりと消毒してくださいね」
天馬が扉を開けると天馬を見つけた馬たちが
喜んで天馬に群がります。
「おい、お客さん来てるから後からにしてよ
それとシルバーお客さん来てるよ」
念話で話すので人にはわからない
「天馬私にお客なの~」
「そうだよ、馬主さんじゃないけどね
皐月の婚約者と両親だよ」
すると馬房から顔を出す シルバー
「優駿君シルバーだよ、幽霊じゃなく生きているよ」
「はい、覚えています。確かにこの馬です
よかった ほんとによかった。」
「ねえ、天馬この子なんで泣いているの?」
「シルバーがレース中に怪我した日に
競馬場でシルバーが怪我したのを見たのさ
てっきり安楽死処置されたと思っていたらしくてね
会いたそうだったから連れてきた
それに優駿は皐月と同じで獣医師になったから
これからよろしくね」
「そうなんだね、私のために泣いてくれるんだ
優しいいい子だね」
シルバーは優駿に近寄ると顔をペロペロと舐める
「優駿君シルバーを優しく撫でてあげて喜ぶから」
優駿は、シルバーの首筋を優しく撫でてあげた。
それでは、皐月も待ってますから母屋に行きましょう




