進学する皐月の決断と馬たちとの別れ
あれから10年後、娘の皐月が15歳になった。
皐月の夢である獣医師は、ただの夢でなく
ほんとに目指す道となった。
皐月はこの春から俺の親父たちの家に居候しながら
東京にある高校と大学に通うことになっている
札幌にも獣医を目指せるいい大学もあるが、
娘はこの牧場から通うのに時間がかかり
その間勉強もできないのでもう少し環境がいいいところに
行きたいと懇願された。
娘一人札幌でアパート暮らしさせるのも不安がありました。
すると正月に遊びに来ていた俺の親父が
喜び勇んで妥協案を提示した。
家からなら片道30分以内でその高校や大学にも通えるよと
その案には、美鈴も大賛成する
知らないところでの寮生活やアパート住まいも
心配なだけだけど天馬のご両親のところなら
安心して預けられるわという
ちょうど部屋も俺が住んでいた部屋が空いている
皐月に入れ知恵を授けたのは、俺の母親
で可愛いい孫と同居したいと言い出したらしい
寂しくなるが皐月の夢のためだから我慢しようとおもう
この10年で何が変わったのか?
俺は初めて繋養していた馬たちとの悲しい別れを体験することになった。
プラチナやメリーはまだ22歳で元気だが
メテオプリズム、サユリママ、アバレンボウの3頭が
天寿をまっとうして安らかに馬の国へ旅立った。
皆最後の言葉は、
「また、馬の国で再会するの楽しみにしている」
といってくれたので少し慰めになるのかもしれないな
平均寿命の27歳は超えていたが、それでも寝食を共にした
馬たちと別れるのは辛かった。
それは繋養牧場を始める時に解っていた現実
獣医師の診察では、3頭とも老衰と診断された。
寿命だから仕方がないのか? いやもう少しなんとか寿命を
伸ばしてやることはできなかったのか?
俺は彼らが亡くなるたびに苦悩することになった。
そしてその悲しみを和らげてくれるのはいつもメリーの役目だった。
「メテオさん 死ぬ間際に天馬にほんと感謝してたわよ
ここへきて過ごした時間は短くても私には最高に幸せの時間だったと
亡くなるときのメテオさんの顔みたでしょ」
「あれだけの笑顔で最後を迎えられるなんてほんとに幸せだった証よ」
「サユリさんとの産駒もりっぱな成績を上げて引退できたし
その子供に看取られるなんて普通の競走馬では
有り得ないことなのよ」
「サユリさんもこの10年は、今まで過ごしてきた20年よりも
幸せだといっていたわね、これであの時別れた仲間に
謝りに行けるとね」
「アバレンボウさんもこの牧場にいる時は
いつも3頭で行動していたぐらい仲良しだったけど
サユリさんが亡くなったあとすぐだったわね」
「とにかくクヨクヨしないのよ 天馬は私たちの恩人なんだからね
同胞はみんな感謝しているわ」
俺は、毎朝の健康管理もあれ以後厳しく管理しているけど
なんで馬は30歳前後で亡くなってしまうんだよ
それでも馬房が空くとすぐに次の引退馬が入るので
悲しむ時間がない
そしてこの牧場の繋養馬もあと数年で繁殖できる馬がいなくなる
プラチナとメリーは既に繁殖は引退しているし
マロンもシルバーも年齢からいけば種付けは来年で最後だろうが
2頭ともプラチナが引退したので種付けしないと
いっているが俺もそれを尊重することにした。
この牧場で一番若い馬は、メテオさんとサユリさんの産駒のメテオライアンだ
毎年種付け希望の牝馬が多く多忙を極めている
なのでシーズン中はお義父さんの牧場へ預けている
メテオライアンは、6歳まで現役で、G1は7勝している
お父さんに負けず劣らず優秀な日本を代表する
種牡馬になっている
なんと海外からも種付け依頼が来るほどの大人気
この牧場の収入源は、当歳馬、1歳馬の上場とライアンの種付け料
で十分賄えている その収入が無くなれば、
会員の会費で賄うことになるが資産もあるから俺が生きている間は
問題なく経営はできる
皐月が獣医師免許取得してこの牧場へ
戻ってくるまで美鈴達と頑張って行く覚悟はある
皐月がいいお婿さん連れてきてくれたら
この牧場を継がせてやるんだけどな
「天馬 ねえ 天馬聞いてる」
「あ、ごめん なんだった」
「また、変なこと考えていたでしょ
私にも相談しなさいよいつもメリーにばかり
相談しているでしょ、私は天馬の奥さんだからね
私にも相談をされる権利があるのよ」
バレていたようですね
「それで何?」
「お父さんが、皐月を空港までヘリで送ってくれるそうよ」
「それはありがたいな、お義父さんにお礼いっといて」
「わかっているわよそれに新しい仲間が到着したわよ」
牧場の駐車場へ古ぼけた馬バスが到着したようだ。
さあ、今回はどんな馬たちと出会えるかな
競走馬が亡くなると最初は、牧場敷地内に埋葬すると思っていましたが
それは法律上では、産業廃棄物の不法投棄になる場合があるとのことでした。
ただ、以前に特別に許可をもらい牧場の敷地内に埋葬された名馬がいるそうです
普通は、火葬後にお骨を納骨堂へ納めるとのことでした。




