安奈の獣医師編 生まれてくる子馬を救え
〇月〇日 大安吉日
安奈と翔平の披露宴が札幌のホテルにて盛大に行われた
※式は身内のみ参加して教会で厳かに執り行われた。
安奈よりも先に結婚式を挙げた梓と健太夫婦には既に子供も授かっていた
披露宴での友人代表挨拶では
「安奈、今度はあなたたちの番よ」
梓は可愛いらしい女児を抱っこしながら安奈へ問いかけると
「天から授かるものだしね 気長に頑張るわ」
安奈と翔平は笑顔で答える
披露宴では山崎の伯父さまから婚約祝いとして送られたヘリも映像で
お披露目しこれはメディアにも公開され馬産地の新たな試みとして
注目されることになった。
※獣医師の管轄の農林水産省と航空局管轄の国土交通省からも
特別に認可され法律的にも認められ安奈はヘリを往診に
使用することが可能になった
披露宴のあと安奈と翔平は新婚旅行でフランスへ旅たった
フランスでは翔平が修行していたレストランとかロンシャン競馬場へと
足を運び安奈はそこで人生で初めて馬券を購入し配当金を手にした。
「翔平見て購入した馬券あたったよ」
「安奈 ビギナーズラックにしては
金額がえげつないな 新婚旅行費用まるまる
回収できそうだ」
安奈はパドックで馬たちの会話を聞いて試しに購入した
馬券が当たったみたいですね
頻繁に購入して私腹を肥やさなければ神様も見逃してくれるでしょう
新婚旅行から帰り安奈の日常が始まる
といっても研修時とあまり変化なく相棒の穂香との連携で
仕事をこなすがそんな時 明菜から
「安奈 出動よ 直ちに準備して」
その言葉で安奈と助手の穂香は手早く準備してヘリポートへ
安奈専用機のショコラも格納庫から出され
いつでも出動できるようだ
穂香と安奈が乗り込みエンジン始動
無線で管制とやりとりし許可をもらい飛び立つ
目的地は帯広の小規模牧場だった。
以前に診察してもらった際 出産時に逆子の可能性が高いと言われ
陣痛が始まり緊急時対応のため安奈に要請がきたのだ
2月初旬 帯広の積雪は1メートル
車で向かうと途中で通行止め区間もありそうだ
小雪舞う中 牧場の空き地へ ヘリが降り立つ
安奈と穂香がヘリから降り立つと牧場長の緒方修平が待っていた
「相良先生 お待ちしておりました どうかよろしくお願いします」
「私にお任せください それでは案内お願いします
それで母子の容態は異常ないですか」
「はい 陣痛が始まり母馬は馬房内をせわしく動きまわってますが
まだお産は始まっていません」
馬房へ案内されると栗毛の母馬が安奈の顔みて涙をうかべ首を垂れる
「入りますね」
安奈は穂香を連れ馬房へ入り母馬の状態を確認
「やはり 逆子のままですか」
胎児は動き回るものなので正常な状態へ戻ることに
期待したが状態はそのままのようだ
通常時は前肢から顔が出て最後に後ろ肢の順番だが
異常時では前肢のすぐ後に後ろ肢が出てしまう場合があり
最悪暴れることで子宮が破れ取り返しがつかない事態になり
母子とも危険な状態になる
多くは子供よりも母馬を優先するため
子馬は死産になる可能性がたかいそうだ
破水してから仔馬が外へ出る時間はおおよそ1時間ほどで
2時間でも命が助かる場合もあるが
呼吸ができず亡くなる仔馬もいる
母馬の場合も出産後に腸ねん転により亡くなる場合もある
お腹の中の仔馬の体重がおおよそ100キロで
その空間が喪失したことで腸が戻る際にねじれてしまうからだ
※馬の腸が長いのが原因とされてます
繫殖牝馬の死因のひとつです
さあ、安奈はどうやってこの場を乗り越えるのか?
安奈は母馬に寄り添いねぎらいの言葉をかける
「お母さん 大丈夫ですよ わたしが子馬を無事に生ませて
あげます どうか安心してください」
「どうか わが子を助けてください使徒様」
安奈が取る方法は念話で仔馬へ話しかけることだった
以前にも生まれたばかりの仔馬とも
コミュニケーションが取れたので念話なら、問題ないだろう
安奈は母馬のお腹に手を置いて呼びかけた
「子馬ちゃん 聞こえるかな?」
「誰の声だろ? お母さんかな?」
ああ、よかった無事のようだ
「わたしは安奈といいます。子馬ちゃんにお願いがあるの
今の胎位や胎向に問題があってね外へ出れないから
私の指示どおりに移動してくれるかな」
「わかった~ やってみる」
子馬がもぞもぞ動いてくれるので
安奈は分娩しやすい胎位まで誘導した
母馬も胎内で動いているのがわかり
正常な状態になると分娩しやすい体勢をとる
「緒方さん 正常に分娩できそうなので
見守りましょう」
緒方には母馬のお腹に手を当てているように見えたが
それで逆子が正常になると考えていなかったが
安奈が大丈夫だというし母馬も先ほどより
落ち着いているので見守ることにした
それから数分後 破水し前肢から出てきて顔と後ろ肢へと
正常な状態でお産が行われた
安奈の診察でも母子とも異常なし
安奈は母馬に挨拶して子馬を撫でて
あとのことは緒方に任せヘリで帰投したが
安奈の顔を不思議そうに見ていた穂香が
「安奈の手はまさに神の手ね
ほんとうならあの子馬の命も下手すれば
母馬の命もなかったかもしれないのに
安奈はいとも簡単に正常な状態へ戻してしまった」
安奈 ごまかす
「たまたま運がよかったのよ
逆子じゃなくもともと正常な状態だった可能性もあるしね」
「たしかにその可能性も否定できないけど
たしか明菜先生がエコーで診察したとき逆子だと
判断してたよね まあ胎児は動くものだし
運よく正常な状態へ戻ったのかな」
「きっとそうよ あの子馬が幸運なだけだよ
さあ、帰って仕事しよう」
小雪が舞うなかヘリはホースパークへ戻っていきました。
安奈は明菜に報告した
「へえお腹の胎児にも念話は使えるのね
まさか自ら動いてもらうなんて
普通じゃ考えられないわね 安奈お疲れ様」
「わたしが馬の神様から与えられた能力だから
これからも馬たちのために頑張るわ
長生きしてもらえるようにね」
「私も母親として協力するわ」
安奈は馬産地の獣医師として歩み始めた
安奈の目指す先には何が待っているのだろうか




