愛馬とのんびり生活 後編
のんびり生活後編です
佐橋牧場へ向かう馬バスの中ではアイリスと尚嗣は仲良く
寄り添い外の景色を楽しんでいたが運転手から
「相良さん もうすぐ到着しますよ 準備よろしくお願いします」
「はい、わかりました」
返答をし尚嗣が外を見たちょうどその時視界に入ってきたのは
尚嗣にもなじみ深い神様を祀る石でできた小さなほこらだった
牧場への入り口に近く放牧地へ向かう道路のすぐ横なので
明日から毎日お参りに来ようと尚嗣は決めた
※競馬場の敷地内とかよく見かける馬頭観音様を祀る石仏
この話では馬の神様と呼んでます
尚嗣も競馬場へ行くと必ず施設内の観音様へお参りします
今日もどうか無事に愛馬が帰ってきますようにと
牧場の厩舎へ到着すると尚嗣は手慣れた感じで馬バスからアイリスを
降ろして予め指定された馬房へ向かう
馬房内はおがくずではなく寝藁は藁ですね 古い建物ですが
もともとアイリスはこの牧場で生まれたのであまり気にしないようです
牧場長の斎藤へ到着の報告をして明日からアイリスは繁殖牝馬としての
生活が始まる
翌朝 ナオツグは与えられた寮の部屋で愛馬の嘶きで目が覚める
【朝6時だが流石に寮の部屋と馬房では距離的に無理があるのでは】
作業着に着替えると愛馬がいる馬房へ向かう
当然新参のナオツグは厩務員たちから興味津々で見られることになる
斎藤さんからは素人でアイリスの専属厩務員だと知らせれていた
「アイリス おはよう よく眠れた?」
馬房へ入りアイリスへの挨拶は鼻頭へのキス
アイリスも手慣れた感じでお返しでナオツグの頬をなめる
まあこれが2人のスキンシップで愛情表現だ
尚嗣は馬房からアイリスを外へ出し手早く掃除をはじめる
ボロを藁ごとフォークで取り除き一輪車へ載せる
当然ボロの状態を見て健康状態のチェックもする
尚嗣は藁の天日干しには否定派のため 新しい寝藁を用意し
馬房へ均等に敷き詰める 掃除が終わるとアイリスを迎えに行き
準備された飼い葉をアイリスへ与えるがいつもと違い食いが悪い
なれない馬房での緊張とかで食欲がないのかと心配したが
アイリスがしきりにジト目でナオツグを見て飼い葉がいつもと
違うとクレームを入れてきたので桶の中をみて気が付いた
尚嗣は自分の軽トラへ行きアイリスプレミアムを用意した
※アイリスプレミアムは皐月さんがアイリスのためブレンドした飼い葉です
そうよいつものこれよと美味しそうに食べながら時よりナオツグをみる
モキュモキュと美味しそうに食べる
ナオツグへアピールする姿が実に可愛いい
そこへ登場したのが牧場長の斎藤
「やっぱり うちの飼い葉では満足できないようですね」
「あ、斎藤さん おはようございます どうもそうみたいです」
斎藤さんの説明を聞くと佐橋牧場の飼い葉よりナオツグが
日頃から与えている飼い葉では元の値段から違いがあり
アイリスは良質の飼い葉になれたため普通の飼い葉では
満足できなくなったとわかりやすく教えてくれた 【舌が肥えた】
【アイリスの飼い葉はプレミアムに変更されました】
食事の後は放牧地へ向かい アイリスと思いっ切り遊ぶ
馬頭観音様への参拝も忘れない 「…あ……逸材みつけた」謎の声
牧場へきて数日が経過したころ厩務員の人たちとも
仲良くなり休憩室ではよく話すようになった
「相良さん 大学は馬術部でしたか?」
「いいえ バイトしてましたので サークルにも参加してませんよ
どうしてですか?」
質問した厩務員
「いや~手慣れた感じがしたので 経験者かなと」
「そうですね 厩務員として就職はしていませんが
アルバイトはしてましたよ知り合いの牧場で」
「そうなんですね やっぱり いやね牧場長からは未経験の方
だから 作業をお手伝いするように言われていたのですが
こちらが手伝う必要がないほど手馴れていたので
不思議だったんですよ ちなみに問題なければ何処の牧場ですか?」
この厩務員も尚嗣の返答で驚くことに
「静内の天翔牧場です 現在の牧場長は私のいとこなんで
以前から長期休暇が取れたら住み込みでバイトしてました。」
その話を聞いていた休憩室内の厩務員は皆驚いた
なぜ驚くのか? 理由は?
厩務員のアンケートで働きたい牧場ナンバーワンだからだ
全国的にも有名で生まれる産駒が皆G1馬ばかりの
牧場として一目置かれているとのこと求人票がでない
牧場としても知られている
「その話 私にも聞かせてくれませんか?」
その声で振り返ると牧場長の斎藤さんがコーヒカップを手にして
休憩室へ入室するとこだった
「相良さんが天翔牧場の関係者だったのは初耳ですが
それなら手慣れた作業も納得できますね
それでどなたかに指導されましたか? 乗馬の経験もあると
別の厩務員に聞きましたけど」
まあ別に隠すことでもないので正直に答える
「もうかれこれ30年以上前のことですが当時の牧場長
されていた天翔天馬さんに厩務員の仕事を教わり
乗馬のほうは元騎手の美鈴さんに指導していただきました」
伝説として知られる天翔天馬の名前が出てきて唖然として
乗馬は元騎手から指導されたと聞かされ2度目の驚き
「そ、それで相良さん 乗馬した馬覚えてますか?」
「えっと あれは確か私は栗毛の馬が大好きなので
エクセレントローズでとお願いしたら天馬さんが突然ハグしてきて
喜んでくれたのを覚えてますよ」
斎藤さんの涙目を見て尚嗣は驚いた
なんか変なこといったかな
「羨ましい ほんとに羨ましい 相良さん
わたしもこの牧場で牧場長をしていますが
私が厩務員になりたかった理由が天翔牧場で働いてみたいと
考えたからなんですよ おそらくここにいるみんな
同じ気持ちですよ なあそうだろ」
斎藤さんが振り返ると皆さん頷いている
「あの~相良さん 天翔牧場に就職できる人はやはり縁故関係
ですかね 職安でも求人を扱ったことがないと聞いていますし」
うんうんうん 皆さん頷く
「求人のことはわかりませんが 私がアルバイトしていた時に
高齢なうえ健康上の理由で退職されるかたがいましたがその際に
後継者も紹介され挨拶されてました前職はDRAで
調教師をしていましたと」
調教師を辞めてまで空きを待っていたんだな
「やっぱりな 確実に紹介か推薦状がいるようだ
天翔牧場で働く厩務員は皆 牧場長クラスだと
聞いていたが噂ではなく事実のようだな」
天翔牧場恐るべし
斎藤さんが尚嗣へ素朴な質問を投げかける
「それで相良さん もしもアイリスを購入されていなかったら
退職後はどうされていましたか?」
う~ん
「もともと北海道で余生を過ごすつもりでしたので
天翔牧場で厩務員していたと思います
天馬さんにも生前いつでも来いと言われてましたので」
厩務員の反応 やっぱりか この人も逸材なんだ
この日を境に尚嗣は一目置かれるようになる
また別の日 新たなエピソードが追加される
牧場事務室 事務員がデスクワーク中の斎藤へ
「牧場長 お客様がご到着されました」
あれ 今日は誰ともアポイントはなかったよな
「で 何処のどなただ」
「あ、すいません 面会相手は牧場長でなく相良尚嗣さんです
それで面会者は獣医の相良皐月様です」
当然佐橋牧場にも専属の獣医師は在中しているが
腕前は皐月とは雲泥の差 名は大藪という男性だが
勤務中でも隠れて飲酒する問題児
斎藤は皐月を出迎え要件を聞くとアイリスの検診だと
いうことなので自ら馬房へ案内する
まさか天翔牧場の副代表がこの牧場へ来るなんて
アイナの出産の時に皐月のような名医を呼べていたら
あのような悲劇は起こらなかったと斎藤は今でも
後悔をしていた
馬房へ到着すると尚嗣が既に待っていた
「皐月さん ご無沙汰してます
ほんとは天翔牧場へ連れていければ
よかったんですけどすいませんでした」
皐月は苦笑いを浮かべ
「尚嗣さん 気にしないでください親戚なんですから
もっと気軽に声をかけてください」
馬房へ入って行く皐月の後をついてく尚嗣
あの気さくな会話 まさしく身内だと斎藤は思った
アイリスの検診も問題なく終わると皐月が
「尚嗣さん もしよければアイリスの出産にも立ち会い
ましょうか?」
尚嗣は斎藤の顔色を窺うがそもそもアイリスはナオツグの馬
なので遠慮する必要はないがこの牧場にも獣医はいるので
一応了解を得る
「是非 よろしくお願いします」
皐月は笑顔で答える
「もう、尚嗣さん かたいですよ
わたしも アイリスのこと大好きですから
可愛いい産駒を無事に生んでほしいですからね」
皐月がアイリスを撫でる
斎藤にしても大藪がいる以上直接依頼できないので
この話は渡りに船な提案だったので拒否はしない
むしろウエルカムである
大藪から苦情を言われてもアイリスはナオツグの所有馬と
言えるからだ
そして春になり種付けの季節が訪れるが
佐橋さんの意向が反映されるため尚嗣が
相手は選べないがアイリスの初産でもあるので
気性が荒い馬より優しい馬がいいと助言をした
天馬がいればアイリスに好きな相手を聞けますが無理なので
ここは妥協します
皐月による種付け後の診察で無事に妊娠が確認できて一安心
翌年のはるさき
尚嗣と皐月の見守る中 アイリスは可愛いい仔馬を産んだ
それも見事な尾花栗毛の牝馬を生んでくれたのである
出産後アイリスの馬房には毎日のように泊まり込む
尚嗣の姿が確認されたが斎藤は文句を言わず
容認した
それから親離れを迎えるまで尚嗣は仔馬へ愛情を注いだ
それはもうアイリスが嫉妬するほどだ
尚嗣に天馬ほどの財力があれば産駒を競り落としたかもしれない
まあこの仔馬は当然佐橋牧場の産駒となり佐橋が馬主を務めることになる
半年後親離れして育成牧場で馴致され 2歳になりいよいよデビューをする
馬名はアイリスゴールドと命名された 佐橋さんは冠名にはこだわりはないとのこと
アイリスはわが子がデビューするまで2回ほど種付けした
いよいよわが子の中央競馬へのデビューで真価が問われる
栄光を手に入れるか駄馬で終わるか? 駄馬で終われば尚嗣が
当然引き取るので尚嗣はどちらでもいいらしいが
できれば活躍してほしいと思うのは親心だろう
2歳デビューの年 新馬戦と2歳ステークスで勝利して
なんと初産の産駒が重賞勝ちを収めてしまったのである
尚嗣は安堵した そうこれでアイリスは呪縛を解かれ尚嗣だけの
愛馬に戻れるからだ
もちろん優秀な繁殖牝馬を佐橋が簡単に手放すはずもなく
そこは最初の契約を遵守しろと尚嗣がごねて
最終的には天翔牧場の優駿と皐月が仲裁に入り
アイリスはナオツグの自宅へ戻ることができました。
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あれから15年の月日が流れ 尚嗣は70歳になった
家の馬房は改築され今は2頭の馬が繋養されている
アイリスとアイリスの産駒のアイリスゴールドだ
アイリスゴールドは中央での成績は12戦5勝 重賞は3勝した
優秀な繁殖牝馬となり産駒にはG1を勝利した馬もいた
昨年に繁殖馬を引退この場所で親子仲良く余生を過ごしている
アイリスゴールド以外の産駒だが2頭ともなんとか未勝利は免れ
平凡な成績ながらも怪我無く引退後は乗馬クラブで第二の馬生を
謳歌している
俺ももう年だ おそらくアイリスたちよりも先に逝くことになる
俺が死んだ後のことは心配はない 2頭とも天翔ホースパークで
繋養してもらうことになっているからだ
優駿と皐月さんの娘さんが伊藤家から婿を取り
ホースパークを建設した
引退した繋養馬と遊べる施設として人気となり
年々来場者も増えている 馬房にも余裕があるので
うちの子も繋養してもらえるように配慮してもらえた
俺の目の前では2頭の牝馬が仲良く放牧地で草を食んでいる
アイリスと出会えて俺は幸せだ
愛馬とのんびりと暮らして老後を過ごす なんて贅沢なことだろう
馬の神様 ありがとうございます 近いうちに恩返しをしますね
このお話には続きがありそうですがそれは読者様にお任せします
また別のお話でお会いしましょう




