愛馬とのんびり生活 前編
相良優駿が天翔牧場の経営者のころのお話です
相良尚嗣は優駿のいとこで仲良しです
いとこなので面識もあり披露宴にも呼ばれました
広大な土地が地平線まで広がる北海道 少し大げさだが市街地を離れると
民家もなくどこまでもまっすぐな道が旅人を迎えてくれます
バイクのツーリングで是非いってみたい場所ですよね
昔から馬産地として有名だが牧場を経営しているわけでもなく
小規模だが厩舎も放牧地もある民家があった そう普通の民家だ
もともと小規模生産牧場だったが跡継ぎがいないため近年売りに出され
その物件を購入した男性が母屋と厩舎を改築して1頭の牝馬と
のんびりと暮らしている その男の名前は相楽尚嗣 【サガラナオツグ】
かわいらしい牝馬の名前はブルーアイリス 紺色の瞳を持つ牝馬だ
ナオツグはこの牝馬を繁殖用で飼育しているのではなくわが子のように愛している
ナオツグは独身で一度も結婚はしていない それでなぜこの場所で暮らしているのか?
ナオツグは大学卒業後IT企業へ就職し55歳の時に早期退職優遇制度で会社を辞めた
この牧場もその退職金の一部で購入し改築して住んでいる
でも東京生まれで北海道で老後を過ごすなら札幌でマンションでも購入
するのが普通かもしれないがなぜだろう?
ここに住むことになったのは1頭の牝馬ブルーアイリスが関係するだろう
ブルーアイリスは未勝利馬だ 3歳の8月で引退し繁殖牝馬にならないで
乗馬クラブとか地方へ行くわけでなく殺処分予定の馬だった。
馬主は格上挑戦とか地方で1勝を目指すとかしないですぐさま殺処分を選択し
それをわざわざSNSで明言し殺処分をされたくなければ○○○○万で購入しろと
投稿し炎上した 閲覧者の中には競馬関係者とか乗馬クラブの経営者もいたが
その高額な金額が仇となり購入者は現れない もう殺処分しかないのか?
と思われたとき勇者が現れた
「それじゃあ私がブルーアイリスを購入します」
そうそれが相良尚嗣 俺のことだ
その資金はどうしたのか?
退職金と今までためていた蓄財で賄った 趣味もない妻もいない俺の
唯一の楽しみは競馬場で好きな牝馬を愛でること 馬券は愛馬の単勝のみ購入
そして数多くの牝馬を愛でてきたが俺のお気に入りはブルーアイリスだった
栗毛の綺麗な毛色と名前の由来でもある紺色の瞳に魅了された
翌日には馬主の佐橋さんと面談し購入契約を交わし馬の引き渡しは
馬房の関係で1か月以内と言われすぐさま俺は北海道へ飛んだ
不動産屋をいくつか周り小規模の牧場を購入し改築することにした
母屋と厩舎は古くボロボロなので解体し新たに建てた
当然1月では無理なので母屋はユニットプレハブを購入し厩舎は特注
割増料金を支払い何とか受け入れ準備を終わらせた。
※母屋と厩舎はどちらもプレハブで厩舎も解体して運べる
プレハブです仮設厩舎タイプよりもグレードは高いですよ
そして無事に準備も整いブルーアイリスの到着の日を迎えた
アイリスは馬運車で運ばれゲートから降ろされると俺の前へきて
にこりと微笑んだ 【ナオツグの妄想です】
「ようこそアイリス 今日からここが君の家だよ」
ナオツグは初対面でも躊躇せず首筋に抱き着き頬すりをした
アイリスは戸惑いながらも嫌な気分でもないのでされるがまま
大人しくしていた
この男性何処かで見た覚えがあるわね
ヒヒ~ン【よろしくね ナオツグ】
アイリスはナオツグに頭を下げた
飼い葉だとか必要なものは既に注文し準備は万端
【え、おまえIT企業勤めで馬の世話できるのか? 】
そんな声がどこかから聞こえるが まあ心配しないでください
俺の名前は相楽尚嗣
天翔牧場経営者の相良優駿は俺のいとこだ 馬大好きの俺は長期休暇の時は
いとこの牧場で住み込みで厩務員をしていた経験もある
飼い葉もみな牧場との取引業者を紹介してもらえているので安心してほしい
この家から天翔牧場まで車で30分かからないから
獣医師の皐月さんからもアイリスに何かあれば連絡してと言われている
保健所とか役所へ出向き届けも済ませているので心配はないだろう
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ニートの俺の朝は遅い 遅いが朝の6時には目覚ましが鳴る
ヒヒ~ン 【ナオツグ朝だよ】
愛馬の声で目が覚める
「さあ起きるか」
作業着に着替え 馬房へ向かう
「アイリスおはよう 今日も元気がいいね」
アイリスは当然とばかりに頭を上下に動かす
馬房の掃除をするためアイリスを馬房から出して
ボロのかたずけと寝藁の交換をする
※寝藁は乗馬クラブとかだと藁が高価のためおがくずの場合が
ありますがナオツグは新品の藁と交換します そのほうが
衛生的にもいいそうです 天日干し再利用だと菌が繁殖している
場合があり蹄から細菌感染し病気になる場合があるそうです
掃除が終わると飼い葉の桶に新鮮な飼い葉を用意する
準備が終わると食事の時間だ
アイリスを馬房へ入れて飼い葉の桶を差し出すと
まってましたと桶に顔をつっこみ嬉しそうに食べだす
アイリスは食欲旺盛で毛の艶もいい
俺は食後のデザートに人参とリンゴを手に持ちアイリスの視界に
入ると桶から顔をあげ人参とリンゴを欲しがる
ナオツグは食べやすいように切り分け差し出すと
口の中に頬張り嬉しそうに食べてくれる
アイリスの食事が終わるとお楽しみの放牧の時間だ
いや~ 実に癒される 愛馬とのんびり暮らせる毎日 佐橋さんに感謝だな
ナオツグはアイリスとこのままず~とのんびり暮らしていけると
考えていたが年が明け雪が舞い散る寒い冬の朝
アイリスの元馬主の佐橋から訪問の事前連絡があった 内容はわからない
一抹の不安もあるがとにかく会うことにした
翌日の約束の時間より少し前 家の前に一台の高級車と馬運車が停止した
降りてきた2人の男性は玄関ではなく厩舎のほうへと歩いていく
馬主の佐橋と佐橋牧場の牧場長の斎藤は馬房へ向かい
アイリスの健康状態を事細かく確かめていた
「どうです 牧場長?」
「いや 正直驚きましたね 購入者は素人だと聞いてましたが
設備の整った厩舎と馬房で藁もいいものを使用してますね
それに飼い葉もうちの牧場より上質のものです」
「それにアイリスの馬体もほぼ現役と変わらず手入れされていますし
健康状態も良好なようです これなら大丈夫ですよ」
牧場長の斎藤はアイリスの蹄の状態など細かくチェックして
佐橋に対して太鼓判を押す
そしていよいよ玄関へと歩き出す
呼び鈴を鳴らすとナオツグが扉を開けて挨拶を済ませると
とにかく寒いので中へどうぞと二人を招き入れた
ユニットハウスだが寒冷地用に開発された優れものなので
中は適度な温度で快適に過ごせる
ソファーで対面するナオツグと佐橋と斎藤に緊張感が生まれる
「それでご用件はなんでしょうか?」
それに対し佐橋はまず頭を下げた
「相良さん アイリスを丁重に扱っていただいてほんと感謝しています
ここに来る前に見させてもらいましたが毛並みもよく体調も
問題ないようで相良さんに購入していただいてほんとに
よかったと思います」
「それでアイリスのこと大切にされている相良さんに言いにくいのですが
誠に勝手ながら買戻しをさせてほしいのです」
佐橋はナオツグにもう一度頭を下げる
ナオツグの返事は決まっているが理由を確かめてみたい
「佐橋さん 突然のことなので驚いていますが
まずは理由をお聞かせください」
佐橋は問答無用で反対されると考えていたので安堵したが
相良の目は絶対に譲らないと語っているので
正直に訳をはなすことにした。
佐橋はまずこれから話すことはオフレコでとお願いすると
ことの経緯をナオツグへわかりやすく説明した
アイリスには2歳年上で3歳優秀牝馬に選ばれたブルーアイナがいた
5歳で引退後当然のように繁殖牝馬として佐橋牧場で
繋養された翌年に種付けして妊娠したが
出産時の多量出血のため 数日後亡くなったらしい
生まれた子供は死産だったそうだ
なぜ殺処分しようとしたアイリスを取り戻そうと
した理由は血脈を絶やさないためだそうで
アイリスの父親と母親は既に高齢のためアイリスが最後の産駒で
既に引退して引退馬繋養牧場で余生を過ごしているそうだ
でも今までに生まれた産駒がいるじゃないかと尋ねたが
生まれた産駒の成績は1頭を除き未勝利馬かデビューすら出来ず
4歳の誕生日を迎える事なく殺処分のため業者へ引き渡された
俺はこの時点で怒り心頭だ アイリスも俺が購入しなかったら
ほかの産駒と同じ道を辿っていたからだ
※ 普通なら競走馬は馬肉として売られると思っているが
仔馬以外は食用ではなく食肉加工品としてぺットフードの
材料になるか動物園とかのライオンなどの餌にされる
仔馬はまだ肉質がやわらかいが現役競走馬は筋肉の塊で
肉質が固いため食肉には不向きだそうです
またレース中の怪我での予後不良の馬は薬品投与で
安楽死処置されるため食肉には加工されません
昔のG1馬で馬主の判断で精肉業者へ売られた馬がいるそうです
レースで怪我して予後不良になり当日売られスーパーの店頭に
新鮮馬肉として売られていたと噂になった馬がいます
あくまでも噂です 食用の馬肉になる馬は専用に育てられています
また日本での需要が多いため海外からの輸入も増加しています
わたしは馬肉だけは生涯食べないと決めています
アイリスの成績は確かに10戦0勝だが その内容は掲示板を外さず
2着か3着のレースだった 生まれた世代が違えば
彼女は最優秀馬になっていただろうと俺は思っている
「どうでしょう? 買取額は相良さんにお売りした倍は支払います
勿論この土地と家の購入費もこちらで負担しますよ」
普通ならこの提案に飛びつくが俺は金銭よりもアイリスを選択する
でも確かに競走馬の血脈は重要だ 俺もできればアイリスの産駒を
見てみたいと頭の片隅で考えているがどうしようかな
「佐橋さん お話は分かりましたアイリスは売りませんが...」
驚く佐橋 ここで断られると考えていなかったのだろう
「相良さん お願いしますよ 金額的にも納得できる額を
提示していますよ」
「佐橋さん 話は最後まで聞いてください
アイリスは手放しませんが条件次第でお貸しすることは
可能ですがどうですか?」
アイリスをリースすると相良はいったが
「相良さん その条件は何でしょう?」
「まずは期限を決めます 3年ですかね
3年間産駒の様子を見て芳しくなかったら
アイリスはこの家でわたしが繋養します」
「当然ながらここでは施設的に問題がありますので
そのリースの間は佐橋牧場へ預けます
そして最後の条件はわたしを佐橋牧場で専属の厩務員として
雇ってください」
佐橋と斎藤は相良の条件を検討し期限付きだが
妥協できると判断した。
とにかくアイリスに種付けができるからだ
ナオツグと佐橋は細かな取り決めをしてアイリスは翌週には
佐橋牧場へ旅たつことになりました。
佐橋牧場も同じ日高なので馬運車でも1時間以内ですがナオツグとアイリスは
仲良く馬バスに乗り運ばれて行きました
アイリスはこの後どうなるのか?
殺処分を免れた 可愛いい牝馬のアイリス のんびりと暮らしていけると
思った矢先に転機が訪れることになります
果たして佐橋牧場での繁殖生活はどうなるのか後編を楽しみにしてください
※フィクションです 繁殖牝馬の登録の問題とか普通の家で馬が飼育できるか
わかりませんので あくまでもフィクションとしてお読みください




