馬の国の最大派閥 天翔ファミリー
馬の国でのお話です
私は牝馬のナイスナシュクジョ 享年35歳 元競争馬
6歳で引退後は繁殖牝馬となり沢山の子宝にも恵まれた
私の戦績は16戦9勝 中央の馬なら優秀なほうだと自負している
G1の勝利はないがG2やG3でも勝っているし G1レースだって同期のあの子が
いなければ1つか2つは勝っていたと思う 年末のアリーナ記念
3年連続の2着でつけられた二つ名がシルバーコレクター 2着でもいいと思う
それで今日が私の命日でもある
馬の寿命はだいたい20歳~25歳くらいだから 長生きしたほうかな
これもみな牧場の厩務員さんのおかげね
ほんとに今日までありがとう わたしは馬の国へいってのんびり暮らします
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場所は変わり 広大な牧草地へ降り立った1頭の牝馬
周りにはわたしと同族の馬たちがいてのんびりと草を食んでいる
馬の神様のお話だと私は噴水広場へ行かなくちゃだめらしいのでそこを目指した
御年35歳の高齢の馬だが足取りも軽く軽快に歩く
まったく息切れもしないし 馬の国だと体の調子もいいみたいね
のどの渇きを感じ 近くの小川で休憩がてら水を飲むことに
水面に映る自分の姿を見て 驚く老馬?
「あら 綺麗な栗毛の牝馬ね」
水面から顔をあげ周りの見渡すが周りに牝馬はいない
この場所にいるのはわたしだけよね?
もう一度水面を見ながら頭を左右に振り 映る顔が自分の姿だと認識して
「馬の国へ来ると若返るのね ほんといいところだわ」
わたしは目的地を目指すためまた歩き出す
途中でたくましい2頭の牡馬に道を尋ねて歩くこと数分で目的地へ到着
そこにはここでは珍しい人族の若い男女が馬の神様と雑談していた
若い男の人が私に気が付き馬の神様も同じように振り返る
「あら シュクジョさん ようこそ 馬の国へ」
わたしは神様へお辞儀をすると
「神様 お招きいただきありがとうございます
今日からお世話になります。」
神様はにこりと微笑みながら
「そうですね 転生するまでのあいだ ここを満喫してください」
わたしはたぶん驚いて間抜け顔を見せていたとおもう
「神様 転生ですか? ここは馬たちの安住の地ではないのですか?」
まあ ほとんどの馬たちの認識ではそうでしょう
ここへくればのんびり暮らせると
神様は苦笑いを浮かべ
「大変心苦しいのですがそれは一部のG1を勝つことができた
競走馬だけです そしてここにいる大半の馬たちは
時が来れば皆さん転生して試練に臨むことになるでしょう」
神様のその言葉で夢と希望が吹き飛んだ思いがした
生前聞いた先輩馬のいっていた楽園の話は幻想だったのだ
その時思い浮かんだのは数多くのレースであと一歩届かず
鼻差首差で負けたレースだった
あの時私の首が長かったら わたしはこの楽園でのんびり暮らせたのだ
※ 頭の上下でも鼻差で審議になりますから勝負は紙一重です
翌日から私の新たな生活が始まる 遊んではいられない
神様から調教には良い施設がありますよと指示された場所へ向かうと
「なんで 馬の国に中山競馬場があるの?」
シュクジョさんは半信半疑のまま正門をくぐり抜けてターフへ続く道をすすむと
綺麗な天然芝の絨毯が広がるコースとオーロラビジョン
「まあ、懐かしい 30年前の思い出がよみがえるわ」
わたしはあの日あの時年末のライバルとの戦いを思い出していた
あの子は逃げ馬でわたしは差し馬だった
わたしはスタートが苦手であの日もミスをした
最後の追い上げでいっぽ届かず審議になり2着に馬主も騎手も
褒めてくれたけど今思いだしてもやっぱり悔しい
2着じゃ馬の国でのんびり暮らさない 私のハッピーライフを返せ
どうせあの子は今頃ここのどこかでのんびりと暮らしているのだろう
※その馬の名前はプリプリローズ エクセレントローズの娘です
ふと噴水広場での光景をおもいだす
「そういえば 昨日の男性の隣にいた尾花栗毛の牝馬 似てるわね」
わたしがスタートゲートの練習のため順番待ちをしてるところへ
「シュクジョさんですか? 私ですよ」
わたしのことのようですね でもどこかで聞いたような声
「誰ですか 私の名を呼んだのわ?」
振り返ると 3歳くらいの尾花栗毛の牝馬がいた
「シュクジョさん ご無沙汰しております
お忘れですか? プリプリローズですよ」
にこりと笑う牝馬に対し
「忘れるものですか あなたは私の永遠のライバルですからね」
どうせまた嫌味でも返されると警戒したが 変な意味で驚くことになる
プリプリローズが涙を浮かべて私に擦り寄ってきたからだ
「うれしい 私のことライバルだと思ってくれてたんだ」
戸惑いながらも
「当たり前でしょ あれだけ同じレース走っていたんだから
嫌味でもいってやろうかと覚えていただけよ
それよりもいい加減に離れなさい 話もできないでしょ」
プリプリローズは鼻をぐずぐず鳴らしながら
シュクジョの前に移動する
「ほんとごめんね 今からでもG1の勝ち譲りましょうか?」
シュクジョはプリプリをにらみ
「あんたねえ 冗談でもやめなさい 勝ったのはあなたの実力よ
お情けで譲られてもうれしくないわよ」
真剣な顔になるプリプリ
「そうね 冗談が過ぎたわ ごめんなさい
お詫びに スタートの練習に付き合うわ
もちろん アドバイスもね」
シュクジョはアドバイスなんていらないと言いたいが
素直に受けることにした
今は少しでも転生前に自信をつけたいから
それから何本かスタートの練習をした2頭
出遅れもなく上手くいっているとシュクジョは感じていたが
プリプリの反応が良くないと感じていた時
「シュクジョ 」
「何よ 言いたいことがあるなら言いなさい」
「そうね あなた最初の一歩力が入りすぎよ
もう少し力を抜きなさい あれではつんのめって
加速しずらいでしょ ゲートが開いて前へ行きたいのは
わかるけど慌てなくてもいいのよ」
プリプリに図星をつかれ二の句が継げないシュクジョ
当然本番ではスタートの指示は騎手が出しますが
馬も当然準備をしています
呼吸が合えば見事なスタートが切れますが
失敗すれば 最悪立ち上がりますね
「ありがとう 今度は力を抜いてみるわね」
まさかお礼を言われるなんて思ってもいなかったプリプリ
「そうね そうしなさい あなたならできるわ」
その後 アドバイスを思い出しながら練習に励むすシュクジョ
それを見守るプリプリ
この日から2頭合同での練習が始まりいつのまにかシュクジョは
周りの馬たちから天翔天馬さんの関係者と認められ
プリプリとは寝食を共に過ごす関係になった
プリプリの関係者になったことで当然天馬や美鈴とも親交を深め
転生への準備も順調に進むことになったが肝心の模擬レースでは
プリプリに一度も勝てないまま運命の時を迎えることになる
ある日の夕方 天馬さんの自宅での食事中不意に景色が揺らぎ1頭の馬が現れ
「こんばんは 天馬さん すいません私にも食事いいでしょうか?」
馬の神様が現れたがここ天馬家ではごく普通のこと
「いいですよ すぐ準備しますね」
天馬さんが手際よく配膳を済ませ
「ああ、それとシュクジョさんあなたの転生の日が決まりました」
え、食事中に話すことなの?
天馬さんも気になるようで会話が止まりこちらを注視している
「それでいつですか?」
プリプリのおかげで準備はできている
1か月後?
「明日ですよ 明日の夕方転生の儀を行います」
まさかの翌日でしたか
「はい、わかりました」
私が驚かないのをみて神様は笑みを浮かべ
「準備万端のようで 私も安心しました」
神様はその後食事を済ませ帰られた
「シュクジョ いよいよね 大丈夫あなたなら一度で
クリアできるわ 私が保証する」
「ありがとう プリプリ 天馬さん 美鈴さん
今日までありがとうございました
この御恩は転生しても忘れません」
※例外を除き転生すると記憶はなくなります
それからシュクジョの送別会になり深夜まで盛り上がる
翌日早朝シュクジョとプリプリの2頭は競馬場にいた
「さあ、シュクジョ 最後の仕上げよ 私に勝ちなさい」
中山競馬場 芝2400メートル 天気は快晴 馬場状態は良好
スタートゲート内には2頭並んでいる
「もちろん 私はあなたに勝って 笑って転生するわ
手加減は無用よ まあしたら怒るけど」
「そんな 野暮なことしないわ あなたに嫌われるから
真剣勝負よ」
わたしはまだ プリプリに模擬レースで勝ててない
紙一重の判定で負けたレースもあったが
どうしてもあと一歩届かない
理由は? 瞬発力 反射神経 集中力
ゲートが開く瞬間まで無心でいよう
力を抜いて まずは深呼吸そして集中
※模擬レースのゲートは瞬時に開かず馬たちは焦らされますが
これが試練です
ゲートが開き シュクジョは反射的に一歩を踏み出す
完璧なタイミング
ただこの完璧なタイミングでもプリプリは既に前に出ている
さすが無敗の牝馬3冠馬は伊達じゃない
でも慌てない 相手は逃げ馬でわたしは差し馬スタミナは私が上なんだ
正面スタンドスタンド前を通過 お客の声援はないが30年以上前の記憶が
よみがえる そして第二 第三のコーナーを軽快に駆け抜け第四コーナー
プリプリは私の前方を軽快に走っているがいつもより
ほんの少し近くにみえる
プリプリが手を抜いている? 違う彼女は絶対そんなことしない
わたしがいつものペースより速いんだ
最後の直線に入り 私は加速する ゴール手前100メートル
彼女の姿が大きくなる あと少し ほんの少し
わたしは彼女に追いつき 並ばず追い越した
追い越したときに彼女は私を見てほほ笑んだように見えた
勝負は私の勝ち 初めて半馬身離しての勝利だ
ウイニングランではないがゆっくり歩いていると
「いい勝負だった ほんと強くなったね」
わたしはこの時 泣いていたとおもう
「貴方のおかげよ プリプリ」
声が涙声になっているから
プリプリは優しく慰めてくれる
正面スタンドには天馬さんと美鈴さんが観戦に来ていた
「わたし 必ずG1勝利して戻ってきます」
そして夕方 噴水広場には私と同じ転生組が仲間と別れをすまし
神様に呼ばれて次々に転生の扉の向こうへ消えていく
「シュクジョさん 次あなたの番ですよ」
「はい、今行きます」
私の後ろにはプリプリをはじめ天馬さんと美鈴さん
メリーさんやローズさん 天翔ファミリーが勢ぞろいだ
「それでは いってきます ありがとうございました」
「シュクジョ あなたなら大丈夫 この私に勝ったんだから
自信持ちなさい ここで待っているからね」
噴水広場へ直接帰還できるのは勇者のみ
「すぐに帰ってくるわ この場所に」
わたしは神様の元へ行き 転生門の前に
すると神様から
「シュクジョさん あなたは何を望みますか?」
どうもこの質問 転生する馬に必ず聞くらしい
ほとんどの馬は、 速く走れるようにしてくださいとか
3冠馬にしてくださいとか言うらしいがわたしは
「それじゃあ 転生したら......せんか?」
「そうですね その願いなら叶えてあげられそうです」
シュクジョの神への願いはなんだろう?
こうしてシュクジョは転生をした。
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転生から時は流れ
いつもの時間 いつもの場所 噴水広場へ勇者たちのご帰還だ
勇者たちの中に1頭の栗毛の牝馬がいた
その牝馬をみつけ プリプリが駆け寄る
「お帰りなさい これであなたも馬の国の住人ね」
「ありがとう プリプリ あれから主観では20年ぶりね
あっとごめん それと ただいま」
まあこの場所へ戻れたらG1は勝ってますから愚問です
再会を果たした私たちは懐かしい わが家へ凱旋する
「ただいま 帰りました」
天馬たち みんなで
「おかえりなさい ようこそ馬の国へ」
もう、これで転生はないからこそのこの言葉
祝勝会が開かれる プリプリが気になる質問をした
「それよりも シュクジョ あなた名前は?」
転生すると名前が変更になる 果たしてその名前は?
「私の名前はね アメージングローズよ」
驚くプリプリと天馬たち ローズの名は天翔牧場にとっても
特別な意味があるからだ
アメージングは転生の日に神様にお願いしたことなど
かいつまんで天馬たちに説明した
「私のお願いは天翔牧場の産駒になることだったの
それを神様はかなえてくれたの
サプライズも含めてね」
サプライズとわ 転生しても馬の国での記憶があること
アメージングは天翔牧場で出会った天馬のひ孫の和馬たちのこと
当然レースのことも天馬たちへ話して最後に慢心笑顔で
「これで私も ほんとの天翔ファミリーの仲間入りですね」
「なるほど アメージングは私の妹になったんだね」
まあ そうなるか
「お姉ちゃん これからもよろしくね」
天翔ファミリーの仲間が増えましたね
今後もたまに話を追加していきますのでよろしくお願いします。




