if もしも白毛の馬と出会えていたら ①
天翔牧場の厩舎にはラグーナシオンしか繋養馬がいません
またお話の都合上、麗華はまだ奥さんではありません
本編で出てきた人物と競走馬は登場しない場合がありますのでご了承ください
ある年の5月G1開催日 和馬は美浦のトレセンからの帰り道 母親との待ち合わせ
のため東京競馬場へ来ていた
和馬は美浦トレセンへの競走馬の輸送
母親はDRAの獣医職組合での会合のためだった
帰りは光秀さんにお任せし和馬は母親と飛行機で帰ることに
なっていて馬バスは牧場への帰路途中で今頃は
苫小牧港に入港しているころだろう
「和馬 おまたせ」
和馬は待ち人の声で振り返る
「母さん 会合は無事に終わったの?」
和馬の母親は年齢40歳代だが見た目は20歳代前半でもいける可愛いい容姿をしている
本日はお仕事のため黒のスーツ姿でまるで女子大学生の就職活動であろう
「まあね 競走馬の新しい治療法の説明だけだし 色々条件もあるから
本格的な運用は未知数ね」
新しい治療法 競走馬がレースなどで負傷し骨折した場合など最悪
予後不良で安楽死処分されるがそれを回避するため
馬への負担を軽減し手術を成功させるための一つの方法の説明だが
ある条件というのが和馬がその場に立ち会う必要があるのが
この案件の問題点だろうか?
「まあ、俺がその現場にいる条件付きで 天翔牧場限定での運用だしね
でもそのおかげで助けられた馬たちもいるし」
和馬のその返答に
「そうね 治療する前の問診の問題が和馬にはないからね
馬の体調が悪いのは誰でも把握できるけど
どの箇所で? 症状は?を直接馬に聞けないから
適切な治療を迅速に行えないリスクがつきまとう」
「私たち獣医は正確な病名がわかれば正しい知識で治療はできるけど
的外れの診察での治療だと最悪手遅れで死につながる危険もあるしね
これまで馬たちを医療ミスで予後不良にしてしまった
可能性も否定できないわ」
ふさぎこむ 母親の表情に
「でも 母さん 天翔牧場には俺がいる 俺がみんなを守るよ
誰も寿命以外で死なせない」
笑顔の母親
「そうね 和馬がいるからうちは安心ね」
話題を変える和馬
「それよりも 11レース 樫木賞 楽しみだね」
「今年は天翔の馬は出走しないけど 例の白毛の子が出るでしょ
母さん あの子 大好きなの 綺麗で走るのも速いし」
母さんの表情が明るくなり 安堵する和馬
「確か ソラシド だよね?」
「なあに あなた興味ないの? 昨年トレセンで
白毛の綺麗な馬と仲良しになったって 浮かれていたじゃない」
「母さん よく覚えているよね その後シオンが拗ねて
大変だったんだ 栗毛の私を捨てて 白毛に走るんだ~って」
人気のG1開催日 指定席はもちろん完売で自由席も札止めで
午前中からここパドックでは身動きも取れないほどの人の群れ
さすが白毛のソラシド人気凄い
それじゃあ 和馬たちはどこにいるかといいますと
「斎藤さん 本日はお招きありがとうございます」
馬主の斎藤さん 天翔牧場産駒の馬たちをこよなく愛する馬主で
今年は別の牧場産駒の馬で樫木賞の優勝を狙っている
「とんでもない いつも大変お世話になってますから
どうぞ遠慮しないで前で見てください」
俺と母さんは 馬主の特等席で観覧することができた
当然 周りの馬主さんたちとも顔見知りで
挨拶しながら最前列へ移動する
※ どこの競馬場のパドックにも必ずあります 馬主限定席
そのレースで出走する馬主と関係者のみ立ち入ることができる場所で
警備員と係員が入場証の確認もします G1の開催日は特に厳しく警戒され
芸能人など有名な人が必ずいますね
そしていよいよ出走馬たちが観客が待つパドックへ現れ歓声があがる
お目当てのソラシドは馬番 最内枠の1番で登場するが
人々の歓声がすごい スマホやデジカメで撮影する
人が良いアングルで撮影しようと押し合いが始まる
俺はソラシドに視線を合わせ念話で会話する
「ソラシド 応援に来たよ 頑張ってね 」
ソラシドは和馬を見て 頭を上下にして喜んでいるようで
「和馬 来てくれたんだね ありがとう 頑張るよわたし
なんとか5着以内を目指すよ」
謙虚な答だがこれが彼女の本音 芝もダートも得意だが
長距離が苦手な彼女でいいとこ中距離2200メートルまでと
本人の談
「そうだね 無理しないでね 桜賞勝てたし 秋の秋華勝てば
3歳女王だよ 君なら大丈夫」
「和馬 ありがとう それに今日は寝不足なんだ
なんとか完走目指すよ 和馬のためにね」
寝不足と聞いて 何か問題あるのか気になる和馬
「ねえ 母さん ソラシド寝不足で今日は完走を目指すから
あまり期待しないでねといわれた」
和馬のその言葉で驚くが念話ができるのは本人から聞かされ周知の事実
馬たちと会話ができる能力 競馬関係者なら誰でも欲しがる
チート能力だ とてもうらやましい
「そうなの それわ残念ねで寝不足の原因は聞いたの?」
「それがね 聞いたけどそれは秘密だよ~と はぐらかされた
まあ 怪我や病気じゃないから心配しないでと言われたし」
時間となり 騎手が騎乗して本馬場へ向かうソラシドたち出走馬
俺と母さんも斎藤さんに連れられ関係者席へ移動そして運命のゲートが開く
レースは先行が得意のソラシドが皆をひっぱる 第四コーナーまでは
走りに不安も問題点も見当たらない
唯一の問題は昨日の雨の影響で馬場は稍重の状態で肢を取られる
競走馬がいる ソラシドは前で踏ん張るがやはり2400メートルは
彼女には長すぎる距離なのかずるずると下がり気味で現在3番目追走
第四コーナーを抜け 外へ持ち出さず 最内を走る作戦に出る
だがその作戦は凶とでる 雨でぬかるみが残る内枠の馬場
芝が剥がれて最悪の馬場状態の中をソラシドは進む
競走馬は後肢より前肢を使い前に進むが
ゴールまで残り200メートルで順位は3番手 騎手は鞭を使い
前を走る 馬に追いつこうとするがその時 観客の目の前で悲劇が起こる
ソラシドの進路を塞ぐ先行馬に驚きソラシドは
つんのめる形で転倒、運よく後続の馬に踏まれることはなかった。
すぐに立ち上がったソラシドの前肢の状態異変に皆が気がつく
ざわめく観衆の中 すぐに動き出す関係者と馬運車
騎手は軽傷なのかすぐにソラシドへ駆け寄り心配顔をする
レース中の事故を未然に防ぐのは難しいが馬の状態異常は優秀な
騎手なら気が付き最善な策を取ることも可能
立ち上がる ソラシドを見て安堵する観客だが診察で予後不良と判断
されれば安楽死処置されるため 関係者は皆暗い顔をしている
俺と母さんもすぐさま診療所へ向かう
馬運車で運ばれてきたソラシドは獣医により診察を受けていた
馬主の木戸さんもいるが獣医とDRAの職員に対し喧嘩腰でがなり立てる
「おい 何とかしろよ ソラシドはまだまだ稼げる馬なんだ
DRAだってアイドルホース失いたくないだろ
骨折なんて大した怪我でもないだろ早く処置しろよ」
DRA職員と獣医からの状況説明を聞いた木戸は大声で怒鳴りだす
「予後不良で安楽死処置を検討だと ふざけるな いくらかかったと
思ってるんだ 珍しい白毛の馬だぞ 1億2億の稼ぎじゃ大赤字なんだよ」
木戸さんのいいたいことは理解できる まだ30代の新米馬主で
親御さんから譲られた馬主だそうだがこの馬主ではソラシドが
可哀いそすぎる
獣医の診断は前肢の粉砕骨折
人間なら手術で治る怪我だが競走馬では致命的な怪我になる
肢への負担で術後経過次第で蹄葉炎になり死に至る危険性が高く
苦痛を長引かせるくらいならと安楽死処分を決める馬主も多いがこの男
「ですから 木戸さん 手術が成功しても 馬にもストレスがかかり
腸ねん転や腸閉塞になる馬もいますし 蹄葉炎になったら
痛みが長く続き最悪死に至ります 」
「それを治療するのもお前たち獣医の仕事だろが
今年はだめでも 来年ならG1勝てるようになるんだろ」
「それは無理ですよ 木戸さん」
「なんでだよ ただの骨折だろ 治癒したら走れるんだろ普通に」
もう あきらめ顔の獣医と職員たち
俺はソラシドのそばへ駆け寄り
「ソラシド 大丈夫 前肢以外に痛いとこない?」
ソラシドは和馬の顔を見て涙を流す
「和馬 私 殺されるのかな? 肢は痛いけど他はなんともないよ」
ソラシドのいうとおり前肢の粉砕骨折以外に外傷もなく見えるが
人間の態度を見て怯えいているので和馬が抱きしめ
優しく慰める
母さんなら 治療できるけど 直してもこの馬主だとソラシドがかわいそうだ
なら答えは一つだな
「母さん お願い」
和馬の言葉で理解する 母親
「わかったわよ その前にやることあるでしょ このままじゃ
わたしが治療できないから 先に契約しなさい準備するから」
母さんは DRA職員と獣医に話しかけ 手続きをはじめる
和馬は木戸へ言葉をかける
ただその両手はソラシドを抱きしめたままなので締まりがない
「木戸さん ソラシドを譲ってください」
振り返り自分より年齢が下に見える和馬を睨みつけ
「お前は誰だ? ここは関係以外立ち入り禁止だぞ」
和馬は関係者だとIDパスを見せ自ら名を名乗る
馬主でもないですが母親が獣医なのでまあ関係者扱いです
「わたしは 天翔牧場代表の相良和馬といいます
木戸さんのお父様とも面識はありますよ」
天翔牧場の名前を聞いて不審者扱いをやめた木戸
「おお あの有名な天翔牧場の相良和馬さんですか
こんどぜひ私にも優秀な馬を売ってくださいよ」
さすが金儲け主義なのか手のひら返しが早い対応に和馬が驚く
【お前にはぜったいに産駒は売らないよ】声には出さない心の叫び
「それでいくらで購入されますか? 」
さすががめついのか金額により手放すようだが
「そうですね 樫木賞の3位の賞金の3500万円でどうでしょうか?」
木戸は考えた どうせ治療してもレースに出せない駄馬が3500万
獣医の話だと下手すると術後予後不良で安楽死処置の可能性も
高いといっているし 天翔牧場に恩も売れるしまあいいか
「わかりました それでお譲りしましょう」
和馬と木戸はその場で仮契約を交わし ソラシドの所有者が天翔牧場へ
移ることが事実上決まったことになる
木戸は話は終わったとDRAの職員と診療所を後にした
まあ所有者変更やら賠償金の話でもあるんだろう
「それじゃあ 母さん お願いね」
母さんは 準備万端 手際よく 獣医さんに指示を出しながら治療を始める
なぜか母さん以外の獣医のかたたちがカメラを構え撮影を始めた
俺はソラシドの不安がなくなるように抱きしめて今後の楽しい話でもしよう
「ソラシドは俺の愛馬だよ これからよろしくね」
「え、そうなの 私も和馬が大好きだから すごくうれしいよ
これからも よろしくね」
「それで 気になるんだけど 寝不足の原因は何?」
「あ、それわね 今ならわかるけど きのうの夜ね 馬房に馬の神様
が現れたの 和馬なら面識あるから 理解できるよね
わたしね 今日が命日になるはずだったんだよ」
簡単な説明ありがとう 理解できました。
「でもね 神様不思議な言い回ししてたんだよ」
神さま なっていったんだ
「どんな 言いかたしてたの?」
『貴方は明日のレース以降競走馬として走ることはありません
ただし それであなたが馬の国へ来ることになるのか
今はわかりません まあ明日が楽しみですね うふふ』
それを聞かされた和馬 ため息
「神様 変な言い方 やめてくださいよ 誤解するし理解できませんよ」
そこへ神様が割り込み
『和馬さん しょうがないでしょ 私にとって和馬さんは不確定な要素ですからね
まあ、それでも最悪なことになることもないと思いましたけど
一応様式美として枕元へ立ちました レアですよ 死なないで私に会えるのわ』
「ソラシド 今聞いたとおり生きたまま会えるのは珍しいことだそうだ」
「そうなの 私は伝説の当事者になるより和馬の愛馬になれてよかったよ」
照れる 和馬はソラシドの頭を撫でる
「それは当然 俺もうれしいよ 」
手術は全身麻酔ではなく患部の局部麻酔で行う
眠気が襲うのか彼女の瞼がショボショボしている
「ソラシド 俺はこのまま抱きしめているから安心して眠ってていいよ」
「うん 約束だよ このままで...いて」
手術中にも関わらず安心して眠るソラシドを見て驚く獣医たち
「こんなこと あり得んだろ」
普通なら厩務員がなだめても痛さでイラつき暴れるのも経験しているからだ
その後 手術は順調に進み 問題なく終了した
和馬は眠っているソラシドのそばを離れ 診療所の扉を開け廊下へ出ると
そこには2人の男性の姿が
和馬は会釈して
「中田先生に厩務員の今枝さんでよろしいですか?」
二人の男性も和馬に会釈して代表して中田さん発言
「はい、ご無沙汰しております相良さん。」
「それでソラシドの容態は、やはり予後不良でしょうか」
真剣なまなざしで返答を待つ二人に和馬は簡潔に
「獣医さんの診断では前肢の粉砕骨折だそうです」
言葉に詰まる中田先生
「もう すでに処置は行われたのでしょうか?」
勘違いしてる 中田に和馬は笑みを浮かべ
「先生 安心してください 手術は無事に終わりました
心配しなくても安楽死処置なんか必要ありません」
「でも今後 ターフを全力で走る姿を見ることが出来ないと思うと
ほんと残念でなりません」
予想を覆された中田だがこれはうれしい誤算でもある
「厩舎の皆に伝えてきます」
軽く会釈すると中田は駆け足で去っていく 残されたのは今枝厩務員
「そういえば今枝さんは今後どうされますか?」
和馬は以前にトレセンで今枝と会話したとき ソラシドが引退したら
自分も厩務員をやめると聞いていたので問いかけてみたところ
「そうですね 突然のことでしたがほかに任されている
馬もいませんから 退職します あとは
苫小牧へ戻って酪農でもしようかと考えてます」
「今枝さん それなら相談なんですが
天翔牧場に今度新しい繫殖牝馬が入厩してくるのですが
あいにく厩務員が足りません よろしければ 助けてくれませんか?」
その入厩してくる繫殖牝馬が誰なのかピンときた今枝は
「喜んで お力になりますよ どうぞよろしくお願い致します。」
こうして和馬は新しい繫殖牝馬と腕のたつ厩務員の確保に成功したのである
その後 術後の経過を見守り ソラシドの体力が回復したのを確認して
和馬とソラシドは馬バスの中でイチャイチャしながら天翔牧場へ戻っていった
果たして和馬はシオンとソラシド2頭の牝馬を分け隔てなく愛することが
できるのか?
数年後 白毛の産駒が活躍する姿が現実になるがそれはまあ別のお話です。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
事故から 数か月後
ソラシドの件はDRAから公式な発表はされていない
動画掲載サイトの1枚の画像が波紋を呼んだ
その内容はソラシドが和馬の腕に抱かれ天使の笑顔を浮かべて眠る姿
動画ではなく静止画のためファンの皆さん動揺し
予後不良で安楽死処置された映像だと勘違いしDRAへ抗議の電話とメールで大混乱
DRAは動画掲載サイトへ即時画像の削除を要請した
数日後 DRA公式はソラシドの競走馬登録を抹消したと発表しまた混乱を招くことになる
和馬はこのDRAの対応に呆れながらも天翔牧場公式サイトで画像を載せた
その画像には馬房の中で元気な姿で飼い葉を食べるソラシドの様子とそばで見守る今枝厩務員
牧場の繁殖牝馬リストの中に新たなメンバーとしてソラシドの名前が掲載されていた
白毛の馬 いいですね わたしは昨年 東京競馬場で直接見ることができました
いやもう感動しました お客さんの反応もすごい パドックに現れた途端どよめくのが面白い
オマケにそのレースで1着になるし 今年も是非とも見たい




