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 ある新人騎手のお話

ホワイトマロン産駒の話です。

今回のお話は天馬と美鈴が牧場を始めたころまでさかのぼります。


天翔牧場の繋養馬が増えて経営資金の捻出目的で会員募集を募り

イベントを開催することになりました。


スタッフは牧場の関係者以外にアルバイトを雇うことになっていますが


会員様のお目当ては当日ボランティアで参加してくれる現役騎手の方です。


今回のお話の主人公は美鈴と奈々の後輩で天空美空さんです


美空さんは競馬学校での優秀な成績を収め卒業前に行われる

模擬レースでは2レースとも1着の成績で期待される新人として

騎手デビューしました。


デビュー初年と2年目も順調に勝ち星をあげていましたが

彼女も騎手として乗り越えなければならない試練と遭遇します。


重賞レース中の話で最後の4コーナーで事故は起きます


彼女の騎乗馬の脚質は差し馬でコーナーではほぼ中団に位置し

前方を伺いながら足を進めていたがここでアクシデントがおきる


すぐ前を走行していた馬が転倒し彼女の騎乗する馬も巻き込まれて

転倒美空さんも落馬をした。


幸い放馬した馬に異常は見当たらず引退する事態にならずに済んだが

美空さんは落馬したときに打ち身と打撲で意識不明になってしまう


彼女はその時の恐怖とトラウマによりレース中に周りに囲まれた状態に

なると冷静になることができず不本意なレースでの成績が続いた


美鈴はそんな彼女に声をかけリフレッシュのため天翔牧場のイベント

にボランティアで参加してくれないかと誘うことにした。


彼女もあこがれの騎手になってわずか数年で引退したいと思わないので

美鈴の提案を受け入れることにした。


ここは天翔牧場の厩舎内


美空は担当でもあるマロンの産駒の世話をしていた。

マロンとプラチナとの産駒で今年デビューが決まっている2歳馬だ。


天馬は美空に声をかける


「美空さん お疲れ 馬の世話にもなれたかな」


馬に飼葉を与えていた美空が声の主に顔を向ける


「ああ、天馬さん おかげさまでだいぶ慣れました

今はこの子の世話がすごく楽しいです」


天馬は笑みを浮かべ


「こちらも優秀な騎手の方に馴致をしていただいて

助かっていますよ 佐藤牧場の育成担当もほめてましたよ

騎手引退して牧場へ就職してほしいとのことです。」


半分冗談のつもりで天馬は声をかけたが


「そうですね、 それもいいかもしれませんね

掲示板にも掲示されない成績では先生や馬主の方にも

迷惑をおかけしますから」


やべ~ しまった 藪蛇だ~の表情の天馬に助け船


天馬の頭をつつく美鈴


「天馬 あんた何いってるのよ この子騎手として

私よりも優秀なのよ まだ20歳で引退なんて

DRAの損失よ わかっているのかしら?」


美鈴に優秀と言われ半分照れる美空


「先輩 私なんて全然優秀じゃないですよ

先輩のほうがず~とすごいんです

私なんて落馬しちゃうし 全然ダメダメです」


美鈴は美空へ近寄ると正面から抱きしめる


「美空 落馬なんて私でも何回もしたわよ

そのたびにDRAと先生からお小言もいただいたわ

当然馬主の方にもお詫びにも行ったわよ」


驚く美空 まさか美鈴が何回も落馬したなんて考えてもいなかった


「先輩がまさか嘘ですよね」


美鈴は美空を正面から見つめると


「美空 あなた競馬学校で受け身の教習受けたわよね」


「はい、しましたけど」それが何か?


ため息つく美鈴


「レース中に落馬しないほうがいいに決まっているけど

不可抗力はあるのよ ほかの馬の転倒に巻き込まれ

よけきれない場合はあるのよ あのレジェンド騎手の盾さん

も当然落馬を経験しているの 逆に転倒落馬を経験しないまま引退する

騎手のほうが珍しいかもしれないと思うわ」



驚く美空


「え~盾騎手もですか? 」


「何を驚くのよ この子は 嘘だと思うなら今度のイベントで

直接聞いてみなさい 盾さん参加されるから」


もじもじする


「そんなこと恥ずかしくて聞けませんよ 

私たち新人には雲の上の存在の方です」


週末イベント当日、美空は美鈴に促され盾さんに話を聞くことができ

盾さんでも落馬を何度か経験したと聞かされた


盾さんから話を聞いて少しふっきれたのか

以前ほどの悲壮感が美空からなくなった。


だが、落馬による恐怖心は簡単に拭うことはできないとも

盾さんから本心を聞かされそれを克服するか

それとも騎手を引退するのか判断するのは自分自身で決めるんだよと

優しくも厳しく諭されたそうだ。


ある日の就寝時 美空は考える


私が騎手を目指したのはいつのことだろう?


競馬場で笑顔でインタビューに応じる

あこがれの騎手である佐藤美鈴騎手の姿を思い浮かべる


「美鈴お姉さま 綺麗になったな それにくらべ

私なんか まだまだだ このままじゃダメだ

やめるなら全力を出し切りG1を1つでも勝ってから笑ってやめよう」


さあ、明日も仕事頑張ろう


布団を顔までかぶり美空は眠りに落ちた。


翌日から美空の表情と動きに明らかな変化がおとずれる


「先輩 馬房掃除終わりました 次なにやりましょう?」


天馬と美鈴は美空の元気な様子に驚く


「それじゃあ、美空 フィナンシェと散歩でもいってきなさい」


美鈴に敬礼をする


「先輩 了解しました フィナンシェ散歩いこう」


美空は自前の鞍をとりつけ元気に牧場を出ていく


※ちなみにフィナンシェはホワイトマロンの産駒の名前だ


「ねえ、天馬 もう あの子大丈夫そうよ」


「そうだね それじゃあ 美空を送り出すときにプレゼントを

渡そうか」


美鈴の顔が笑顔に変わる


「そうね、そうしましょう」


月日は流れ フィナンシェを佐々木厩舎へ送り出す日が来た

美空ももう一度頑張りますと同じ日にトレセンへ戻ることに

なっている


美空はフィナンシェとじゃれあいながら会話をしている


勿論念話が使えるのは天馬だけだが


天馬は既にフィナンシェに確認していたことがある


「フィナンシェ 美空のこと好きかい?」


「うん お父さん フィナンシェ美空のこと好きだよ」


「それじゃあ 美空がフィナンシェの騎手になってもいいかな?」


「うん フィナンシェも走るなら美空と走りたいな」


「わかった じゃあ美空のことお願いね」


天馬とフィナンシェの間で交わされた内容です


馬バスが到着してフィナンシェが載せられていく

その姿を見送る 天馬たち


「美空 美空に俺たち二人から餞別を用意した」


「ええ、いいですよ 私のほうこそお世話になりっぱなしですいません

引退後はここでお世話になりますから それでご勘弁ください」


「それもいいね それじゃあ 厩務員一人確保だね」


呆れた 美鈴登場


「いいわ、私が話すから」


「美空 あなたに頼みたいことがあるの」


「先輩が私にですか? え~と お金ならありませんよ

私まだ新人で賞金少ないので」


「そんなことあなたに頼まないわよ

頼むのは主戦騎手よ フィナンシェのことよろしくね

佐々木先生にはすでに話をしてあるから

今日からあなたがフィナンシェの主戦騎手よ」


しばらく 呆然となる 美空


美鈴が顔の前で手を振る


「お~い 美空 聞こえるか~」


「あ、 え~ 先輩今の話 マジですか?」


「あ、主戦の話ならマジよ 馬主の方の了承もあるから

安心しなさい あなたへの初めての主戦依頼よ」



それを聞いて 涙を流す美空


「先輩 天馬さん ありがとうございます。

グスン グスン 私 頑張ります

フィナンシェとG1勝ちます」


「まあ、無理しないようにな フィナンシェのこと頼んだ

無事に連れて帰ってくれればいいからな」


美空は天馬たちに頭を下げると大声でフィナンシェの名前を叫び

馬バスへ乗り込んでいった。



その後 フィナンシェと美空は2歳馬デビューを果たし

のちにG1を勝利することになる


天翔牧場で働く奈々も元騎手ですが奈々の場合は落馬したときの怪我と

騎乗していた馬が目の前で死んだことで騎手を断念して引退しましたので

美空の場合とまるで状況が違います。

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