オマケ話 番外編 馬の神様 新たな使徒を捕まえる
和馬の死後数十年後の話です 母親の詩織は麗華の孫になります。
相良和馬が馬の国へ旅立ってから数十年の月日が流れた。
天翔牧場はあれからどうなったのだろうか?
和馬が元気で働いていた当時は道内でも3本の指に入る牧場として全国の馬主から
注目されていたが子孫たちは今でも牧場を経営しているのだろうか?
牧場の厩舎内に元気な声が響く
「安奈 ショコラの世話よろしくね 」
「大丈夫だよ お母さん ちゃんと面倒見るから心配しないでね」
「詩織も心配性だな 安奈はしっかりしてるよ
お前の小さい頃よりもな」
「サトシだけには言われたくないわ あんたなんてお義父さんに
いつも馬の世話しろよと言われても遊んでばかりで怒られていたわよね」
「俺にはそんな記憶はないぞ」
喧嘩を始めた夫婦だがいつものことなので
厩務員も苦笑いを浮かべ作業に戻っていく
仲の良いおしどり夫婦なので喧嘩は犬も食わない
サトシは詩織にべたぼれなのでいつも謝るのはサトシである
「もう、いい加減にしてよね2人とも
ショコラの馬房掃除終わっているから
ショコラ連れて放牧地へいくからね」
「ああわかった 安奈 頼んだぞ」
安奈の母親が横から顔を出す
「安奈 まだ雪が積もっているから 崖には近寄ってはだめよ
路肩崩れやすいから 気をつけてね」
季節はもうすぐ春だが北海道の春は遅く4月でも雪が降る
安奈も今年から中学へ進学するので春休みの間は
牧場の仕事の手伝いをすることになった 繫殖牝馬のショコラの担当だ。
ショコラは現役を引退して昨年から種付けを始めた新米お母さんだ
現役時代はG1を2勝した優秀な牝馬で優秀な産駒が生まれると
今から心待ちしている 気が早い連中がいる
普通ならベテランの厩務員が担当するが安奈とショコラはショコラが
生まれた時から仲良しでショコラと命名したのも安奈だった。
母親の詩織は安奈には将来自分のやりたい仕事をしなさいといい
当初から牧場を継がせるつもりはなかった。
家族経営するような小規模の牧場なら当然手伝いもさせて
家業を継がせようとするが天翔牧場の規模は大きく
天翔牧場以外にも育成牧場とホースパークも経営しているため
経営者の子供でも職業を選択する余裕があるのだ
安奈は将来何をしたいのか? 両親が安奈へ問いかけると安奈は即答した。
『私は高校卒業後、競馬学校へ入学して厩務員になるのが夢だから』
両親はその答えを聞いてやっぱりカエルの子はカエルねと
大変嬉しそうな顔をしていたらしい
安奈は母親似で頭もよく将来美人になるとサトシは周りに自慢しているが
満更嘘でもなく小学校でもマセガキ男子から告白されたことも
一度や二度ではないようだ
「さあ、ショコラ 行こう」
身重なショコラも狭い馬房より 外のほうがいいのか
一言嘶くと安奈にせかされるよりも早く
馬房の外へ出る
安奈は手慣れた手つきでショコラへ防寒具を取り付け
引綱を引き誘導する
目的地でもある放牧地は山を下ったところにあり
道路は舗装されていない林道のためガードレールもなく
圧雪路面は十分注意しないと崖下へ滑り落ちる危険性がある
天翔牧場は開けた土地にあるが少し歩くとすぐに林があり
林道は軽トラ1台が通れる幅しかない
積雪がなければ道路の状態も一目でわかるが前日の夕方から
雪が積もり林道も新雪で一面が銀世界だ
安奈も母親に言われて林道を歩くときは十分気をつけて歩いているが
そこはまだ12歳の子供だ
好奇心から誰の足跡もない新雪をみるとどうしても歩きたくなるもので
ショコラの引綱を長めに持ち変え安奈は新雪へめがけジャンプした。
「あ、きゃ~~~」
安奈が着地した直後地盤が緩くなっていたのか
道路の端が崩れ驚いた安奈はとっさに引綱から手を放しそのまま
斜面を転げ落ちていった。
※ショコラを道ずれにしないためでしょう
ショコラは落ちていく安奈を助けることもできず
呆然と見送ることしか出来なかった
斜面を転げ落ちた安奈は幸か不幸か斜面に立つ大木に体を強打して
停止したため沢へ落ちることは避けられ即死は免れたが
頭と体を大木へ強打したことで全身打撲と骨折により意識もなく
すぐに治療しないと助からないと誰の目にも明らかな状態だ
通常であれば別の馬を放牧地へ連れていく
厩務員が通ることもあるがこの日は放牧の予定がなく
ほかの厩務員がこの場所を通ることはない
このままでは安奈の帰りが遅いことに気が付いた
両親が探しにくるまで助け出されることはないだろう
相良安奈 12歳 夢半ばでこの世を去るはずだったが
偶然なのか? 淡い光の中から1頭の綺麗な栗毛の馬が現れた。
『あらあら 和馬さんの身内の方はこの場所と縁があるようですね
和馬さんが落馬して死にかけた同じ場所でお孫さんまで
事故に会うなんて でも私が来たから大丈夫ですよ』
馬の神様は安奈を不思議な力で林道まで呼び寄せ
そのまま治療を開始しようとして思い留まる
『あらあら 私としたことが本人の意思も確認しないで
治療してしまったら この星の担当の神様にまた怒られる
ところでしたね』
落馬した和馬を意思を確認しないまま治療して
蘇生したことがありました。
和馬は生き帰ることを選択しましたが中には蘇生を拒む人が
いるのでその場合は担当の神様に怒られます
『でもまあ、この子なら先に治療しても問題ないでしょうから
事後承諾でいいですよね』
治療を手早く済ませて気絶している安奈に呼びかける
『安奈さん 起きてください 私の声聞こえますか?』
安奈は滑り落ちたショックから気絶したが
優しい神様の声で意識を取り戻した。
目を開けると栗毛の馬が自分のことを見ていることに気が付く
驚いて上半身を起こした安奈は神様を二度見して声をかけた
「あなたは誰ですか?」
名前を聞かれた神様だが馬の神様といつも呼ばれているが
特定の名前がないので
『すいません 私には名前がありません 皆さん
馬の神様と呼んでいますよ』
馬の神様と告げられ 両親から馬の神様のことを
聞いている安奈は、
「あなた様が あの馬の神様なんですね
両親からお話は聞いています
おじいちゃんがお世話になりました。
すると私もこのまま馬の国へ連れていかれるのですか?」
まだ12歳の子供なのにしっかりしてるなと
感心していた神様だが さすがに馬の国へ連れていけないので
『そうですね、安奈さんさえよろしければ
寿命が来て亡くなった時に連れて行かせてもらいますので
その時が来るまでは馬たちの面倒を見ていてください』
「え、いまじゃなくていいのですか?
私 大怪我していて死にかけていると
思うのですが でもどこも痛くないな」
体中を手で触りどこも痛くないのが不思議で
しょうがない安奈
笑いをこらえる 馬の神様だが一抹の不安がよぎる
『安奈さん あなたの意思を確認する前に
怪我の治療は既に済ませています
もしかするとあのまま死んだほうがよかったなんて
言わないですよね それだと私がこの星の神様に怒られてしまうのですが』
安奈は神様に向かい両手を振り
「とんでもないです 助けていただき感謝しています
まだまだ 私 やりたいことがたくさんありますから
ほんと ありがとうございます このご恩は忘れません」
神様は一安心した
『そうですか 安奈さんは将来優秀な厩務員になれますから
馬たちのことよろしく頼みますね
馬の国へはいずれ来てもらうことになるでしょうから
その時を楽しみにしています。』
「神様 私 頑張ってショコラたちに喜んでもらえる厩務員を目指します
みんなには長生きしてもらいたいし」
『安奈さん 期待しています 馬たちのこと宜しくお願いします
またいずれ お会いしましょう』
安奈は神様にもう一度お礼を言うとそのまま意識を失ったのであった。
馬の神様の事情
『これでゲート試験と模擬レースも捗ることでしょう
騎乗できる人材が今は8人ですからね
できれば安奈さんにも旦那さんを2人は確保してほしいものです
騎手の経験者がいいですね 目指せ18人でフルゲートレースです』
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
ヒヒ~ン ヒヒ~ン
「安奈 起きて 」
ショコラが安奈の顔を舐めている
「ウウ~ン ショコラ くすぐったい」
「安奈 そんなとこで寝てると風邪ひくよ」
安奈はその言葉で目を開けると周りを見て
自分が雪の上で寝ているのに気が付く
「あれ、私 崖から落ちたよね」
ショコラに人間の言葉がわかるはずもないのに
安奈はショコラに喋りかけている
「崖から落ちて怪我した安奈を助けたの馬の神様だよ
覚えていないの?」
「あれ、ショコラが人間の言葉を喋ってる?」
ショコラは首を左右に振る
「安奈 喋っているんじゃなくてこれは念話だよ
馬同士で会話するときの方法だよ
神様のお陰で安奈ともこうして会話できるようになったの」
安奈は嬉しのあまりショコラに抱き着く
「私 ショコラとこうして話すの夢だったの
これも神様のお陰だね」
その後 ショコラを放牧地へ連れていき作業は無事に終了した。
ただ放牧地では本来の放牧ではなく安奈はショコラとの会話を楽しんでいた。
その日の夕方 夕食後相良家3人居間でお茶を飲みくつろいでいるとこで
安奈は両親に重大な発表をした。
「お父さん お母さん 私ね 今日崖から落ちて死んだの」
『ブフォ~』
その言葉を聞いたサトシは口からお茶を噴出した。
その妻である詩織は何とか口を押え恥ずかしい真似をすることはなかった。
詩織は安奈の口ぶりとその態度で冗談ではないと理解した。
「安奈 詳しく説明しなさい」
安奈は詩織に言われ今朝のことを一部誤魔かし馬の神様のことを話した。
※脚色したのは新雪にジャンプしたことだ 話せば怒られるから
「安奈 馬の神様に感謝しなさいよ それと牧場前にある馬頭観音様に毎日
お礼参りするのよ」
「あんたって子は お母さん あれほど崖に近寄よると危ないと
注意したでしょ どうせ新雪に自分の足跡を残すんだと言いながら
飛び込んだんでしょ お母さんにはお見通しよ」
さすが母親です、 ばれていました。
「ごめんなさい お母さん 馬頭観音様には明日から毎日
お礼参りに行くから 大丈夫だよ
目標もできたし それにショコラとも会話ができるように
してくれたし 馬の神様大好きだよ」
馬の神様に助けられ怪我を治療してもらっただけだと
考えていた両親にサプライズな発言
「ちょっとまちなさい 安奈 あなた馬と会話できるの?
おじい様みたいに あれは伝説ではなかったのね」
「あ~そのことね ショコラに言わせると
会話じゃなく念話だっていっていたよ
馬たちはみな念話で話をしているみたいだよ」
「あの伝説の力をまさか娘が受け継ぐなんて
天翔牧場もあの子の代でまた昔のように
凄い記録を残す競走馬が出るわね」
サトシはその隣で自分の妻の顔に見惚れていた
詩織は隔世遺伝で山崎麗華の金髪を受け継いでいたが
娘の安奈にも受け継がれていたので
母娘で買い物へ出かけると
外国人と間違われることが多いとのこと
「さあ、サトシ 天翔牧場を昔のように盛り上げましょう」
「そうだな 頑張りますか 娘の未来のためにもな」
今のところ 安奈を主役にした小説を続編にすることはありませんが
オマケ話の番外編として登場する予定です。




