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サクラセイカツ~あなたと過ごすための妹生活~  作者: 八八八
5.続く、妹生活はいつまでも
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(1)戦う少女(ふて腐れ幼馴染・一色夏祭編)


「なっるほっどねー。ついにこの時が来ちゃったってわけねー」

「そんな他人事みたいな言い方しないでよ」

 昼休みのテラス席。一色夏祭は、親友の琴緑日和を誘って昼食を取っていた。

 もっとも昼食とはただの口実で、実際は朝のハルの件に関する相談を持ちかけていた。

「だって他人事だも~ん」

「ちょっと」

「にはは、怖い怖いっ。……でも実際、私とハルにゃんは知り合いでもなんでもないんだから、他人以外のなんでもないっしょ」

 それは確かにそうなのだが。だからと言ってそんな冷たい言い方はしなくても――

 と、口にしても何かが変わるでもない。

 夏祭は込み上げてくる憤りをそっと鎮める。

「まあ、ハルにゃんは他人だけど~…………にゅふふ~♪」

「……なによ、こっち見てにやにやして」

 やはり憤りを爆発させてやろうか、と考え直す夏祭。だが。

「私にとって、なつりーは無二の親友だかんね♪ 私でよければ知恵を貸して進ぜよう」

 琴緑日和という少女は、無意味に笑うやつではないことを思い出す。

 彼女が笑うときは、楽しい時か、心を隠す時か、本気になった時だと。

「今回は本気ってこと」

「にはは~、どうだろうね? なつりーが苦労している姿を見て悦んでいるだけかもよ?」

「ことひよはどちらかと言えばMでしょ。そんなS思考してるわけない」

「むぅ、否定できない所が悔しい……でも知恵は貸しちゃうの!」

 にはは~、と笑いながら日和は顎に人差し指を当てる。

「確かーに、ミスコン翌日からやーな噂は流れてたね」

「噂って?」

「もちろんはるにゃんの男疑惑だよ。ま、昼休み頃にはすでに確定してたみたいだけど。ま、あのアイドルを押しのけて優勝したのが男だって知ったら、良い思いはしないよねー。なんてったってみんな騙されてたわけだから」

「ハルは悪気があって騙してたわけじゃない! 秋姉を連れ戻すにはそうするしか……」

「分かってるよ。でも、分かってるのはハルにゃんの周りにいるなつりーたちや事情を知っている私くらいの極少数。大半は何も知らないし、知った所でハルにゃんは赤の他人。同情してもらえるなんて思わない方がいいと思うよ」

「そう……よね。そんな甘い考えは捨てたほうがいいよね……」

 でも、だったらどうすれば……。

 ハルを護る方法が何も思い浮かばず、夏祭は悔しさのあまり唇を噛みしめる。

「私ってばあんまし頭良くないから、絶対にハルにゃんを救う方法なんて分かんないけどさー」

「何かいい考えはあるの!?」

 勿体ぶった言い方をする日和に、夏祭は身を乗り出して尋ねる。

「要は全くの赤の他人じゃ無くなればいいんでしょ? 直接ハルにゃんと関係は無くても、私となつりーみたいな間柄なら、他人事でも全くの赤の他人じゃなくなる。だって親友の大切な人だもん。事情を知れば悪くなんて思わないさ。むしろ私はハルにゃん好きよ♪」

「他人事でも、全くの赤の他人じゃ無くなれば……」

 日和の言葉を反芻する。

 確かにハル一人に対しての味方は数える程度だ。

 だが、ハルの周りにいる自分たちの味方も合わせれば……。

「でも、全員がことひよのように考えてくれるとは……」

「そりゃ当然。むしろ、私みたいなのは少数派だぞい」

「知り合いに呼びかけて味方を増やしていっても、ハルを嫌う奴がいなくなるわけじゃない……」

「絶対に無くならないね。それが誰であっても、絶対にその人を嫌う人間は存在する。誰からも嫌われない人なんていやせんさ。――でも、現状で一番に味方になって欲しい子は、もうハルにゃんチームにいるじゃんよ」

「え、私?」

 少し照れながら夏祭は自分を指差す。

「いやいや、確かに親友としてはそう言ってあげたいけども。なつりーじゃなくて、あのアイドルちゃんだよん」

「……仙堂が? あ、そっか!」

 数秒考えた後に夏祭は理解した。

 生徒達はハルが愛乃の優勝を邪魔したと思っているが、その愛乃本人がハルを庇っている。

 生徒達からはまるで、悲劇のヒロインが諸悪の根源を助けているふうに見えただろう。

「だから今朝も、『彼女』がハルを庇ったから誰も何も言えなかったんだ……」

「でも、アイドルちゃんも生徒達を抑える抑止力でしかない。悲劇のヒロインじゃ、事件を解決させることはできんさ。今は『負』のハルにゃんと『正』のアイドルちゃんがセットになってるから中和できてるけど、ホントに中和しなくちゃいけないのは、外じゃなくて内。見えてるものより感じているものの方さね。みんなの掛けてる色眼鏡を外さないと、根本的なことはなーんも変わりやせんよ」

「なら、その色眼鏡を外させることができるのは誰なの?」

「知らん」

「ちょ――!」

「知らんけど、条件なら大体の想像は着くよん♪」

 食後のデザートにスプーンに乗せたショートケーキを銜えながら、日和はVサインをする。

「教えて」

 夏祭はさっ、と自分の分のショートケーキを日和の側へ置く。

 ここまで言ってくれたのだ。これぐらいの報酬はしなければ罰が当たる。

「にはは♪ 少なくともハルにゃん側の陣営じゃ無理だね。『アイツもあの変態の仲間だ』って思われてるだろうから」

「私達や、私に近いことひよもダメってことね」

 そうなると、考え付く人物がいなくなってしまう。

 ハルとそこまで親しい関係ではないが、好印象を持っている人物を探さなくてはいけなくなる。

 果たして、自分たちの周りに快くハルの助けになってくれる人物がいるのだろうか。

「かなり、厳しそうね……」

「それとミスコン入賞者はダメよん。優等生であることが絶対条件ね。あと人望があって発言力があれば二重丸」

「どうして入賞者はダメなの? 人望や発言力なら一般生徒よりも圧倒的じゃない」

「ん~、これは私らが言える立場じゃないんだけどさ。ミスコンの入賞者って入賞した後に『特権』がもらえるからミスコンの後はいろいろと態度が変化しちゃうんだよ。生活態度から授業態度、中には急に偉そうになる子もいるから、《ミス涼月》なら誰も悪くは思わないんだろうけど、今回の場合は在学中の《ミス涼月》の全員がハルちゃん陣営だからね。受賞者の発言力は零、下手したらマイナスになっちゃうんだよ」

「そ、そうなの……」

 内容よりも、これほどまでに日和が頭を使っていることに夏祭は驚きを隠せなかった。

「だから、真面目でクラスの中心人物な優等生がベストかな」

「真面目でクラスの中心にいる優等生……なるほど、そういう子がハルのクラス、あるいは同学年の中から探し出せってことね」

「あ、これは当然だけど、相手にハルにゃんの性癖を受け入れてもらわないとだめだからね?」

「分かってるわ……って、ハルにそんな性癖はないんだから!」

「にはは~♪」

 報酬代わりに差し出したショートケーキを取り上げようとするが、日和はショートケーキを持ち上げて立ち上がり、そのまま逃亡を図る。

「頑張れなつりー♪」

 逃げながらエールを送る日和を、夏祭は追いかけようとはしない。

「ありがと、ことひよ」

 親友の協力に感謝しながら、夏祭は放課後の約束までに考えを纏めることにした。


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