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スピリットヘブン  作者: 嵩宮 シド
Infinite Hope(1st Season)Ⅲ
70/70

Dreamf-17 サクリファイス(A)


       3




「恵里衣ちゃん、さすがにやりすぎだって」

「……ッ」

 恵里衣に近より。もう一回分の一発目を打とうとしている彼女を諭す円。だが負けず嫌いである恵里衣がその言葉一つで聞くわけもなく引き金を引いた。

 コルクで出来た弾は恵里衣の狙った的に当たるもののグラッと揺れるだけで倒れることも台座から落ちることもない。

「~~~~~~ッッ!」

 ため息を吐く。

 無限に続けるし、止めようとしても止まらない。

「恵里衣ちゃん、貸してみ」

「えっ?」

「ほら、いいから」

「…………」

 と、恵里衣は少し落ち着きを取り戻すように目を伏せ、自分の持っている銃を円に渡した。

 コルク銃を取り、大きめのコルクを挿し込む。

 一回で三発。

 後二発。

 シュぅコッ、と引き金を引くと空気に打ち出されたコルクが恵里衣が狙っていた的に当たり、倒れることもなくほんの少し後ろへとズレ、もう一個、コルクを取って銃に込める。

 最後の一発。

 今度は的の左上辺りを、少し下から狙うようにしてーー

 引き金を引いて打ち出されたコルクが的に当たるとほんの少し的が回りそのままバランスを崩して倒れ、

 乗せられていた台座から落ちていった。

「おお、やるじゃん兄さん」

 屋台のおやじはそういいながら円が落とした的の景品を拾い、恵里衣に渡した。

「いい兄ちゃんをもったなお嬢ちゃん」

「え……っ」

 その言葉に言葉を失う恵里衣。

 考えてみると確かに恵里衣のこの背丈だと円と恵里衣の関係を兄妹と間違えてもおかしくはない。

「いや、妹じゃーー」

 円がおやじの勘違いに一言、入れようとしたときには次の列の人に当たっていったようで、

「ないんだけどなぁ……」

 ふと、恵里衣の方をちらりと見やる。

 円と違って全く言葉を返さないとは、恵里衣らしくもないと思ったからだ。その当人は手に入れたその景品の箱をうれしさを噛みしめているような表情でじっと見つめている。

「で、それって何なんだ?」

「え? えっと……」

 と箱を開け中から取り出したのは、赤い勾玉が吊されたネックレス。

 そこらのおみやげやでも普通に売られていそうなものである。だがそんなものよりもよっぽど価値のあるものになったのだと分かる。

「つけたらどうだ?」

「え?」

「きっと似合うよ、恵里衣ちゃんに」

「こんなちょっとしたのじゃ変わんないし」

「…………」

 気を遣ったのかと思わせたのかちょっと少しトーンの落ちた声で返された。

「つけたらいいと思うんだけどなぁ」

「もう、しつこい!」

「じゃあつけてあげようか?」

「な!?」

 ほんの、冗談のつもりで。だがその円の言葉に恵里衣の顔が真っ赤になった。

「セクハラ!? ま、円のくせに!」

 ポカポカと円の体を叩いてきた恵里衣。

 まだ本気で殴りには来ない辺り怒りを買った訳ではないようだ。ただ照れ隠し、恥ずかしさによるものだろう。

 何度も思うがこう言ったところは飼い猫がたまに見せる照れ隠しの所作に見えてかわいらしく見えてしまう。

 はたから見たらじゃれ合っている様。


「あのさ、私たち放っていちゃつくのやめてくれない?」


 そのいらついたような里桜の声。

 いつのまにか二人の意識の中から友里と里桜がはずれていた。

「嫁を差し置いてさ」

「だから嫁ってーーいぃっ!?」

 突き刺さる視線。

 というより悪意。今にも殴られそうである。

 その視線を向けてくる方を見ると、友里が円をじっと見つめ、

 目が合うとにっこりとーー

 満面の笑顔なのが寧ろ怖い。

 口元の片端に小さなしわが寄っているのが見える。選ぶ言葉一つでこれからの道がだいぶ変わる。

 弁明の余地はあるか。

 言い訳の言葉を選び取る。

 だが、おそらくどれを選び取っても間違いなく友里の苛つきを抑える事は出来ない。余計な口で取り返しのつかないことをするぐらいならば素直に謝った方がいいかーー

「なんて考えてるの分かってるって」

「いっーー!?」

 と、友里には円の考えていることが筒抜けのようだった。

 言い訳を考えていた円に呆れたかのようにため息を吐く。

「ま、別に良いけど私は」

「……?」

 明らかに不機嫌であることには変わりないだろうが、友里は怒られなかったことに呆気をとられているそんな円には目もくれず、

「恵里衣ちゃん、かけてあげよっか?」

「え、うん」

 と、恵里衣からネックレスを手渡され背中に回りこみ、彼女の首にかけてやると赤い勾玉のアクセサリが恵里衣の胸元に垂れさがった。

 また少し着飾った感じがはずかしいのか恵里衣は垂れ下がったアクセサリを指でいじっている。

「別に恥ずかしがらなくても良いじゃない。かわいいわよ」

「そ、そう?」

 恥ずかしがっている事か今の自分になのか自信がなっかたようだが、里桜にほめてもらったおかげで恥ずかしげな所は残っているがアクセサリをいじる指をはなした。

「うん、よく似合ってるよ恵里衣ちゃん」

「……ありがと」

 と恥ずかしげに言葉を漏らした恵里衣が円の方を上目遣いで、彼からも何かほしそうな目で見てきた。

「ほら、似合うって言ったじゃんか。似合ってるよ」

「~~~~~っ、うん……」

 その円の言葉がよほどうれしかったのか、もしくは止めになったのか、恵里衣は耳まで顔を赤くして俯いて、小さく頷いた。

「もて男の嫁は辛いねえ、友里」

「…………」

 里桜は面白がっているだけのようだが友里はまた、円と恵里衣の二人の距離感に不機嫌になったようだ。

「もういい。行こ、里桜」

「え、ちょっと友里!?」

「遊びまくっちゃえ……」

 円と恵里衣を置いて友里は里桜の腕を引いて人混みの奥の方へと歩き去っていく。

「あっ、友里!?」

 今の友里は少しやけっぱちのようで、里桜と一緒に円の財布を空にしかねない。今日空にされると次の給料日まで無一文で過ごすことになりそうだ。

 はぐれなら見つけられそうにない。

「恵里衣ちゃん、早く追いかけよう」

「えちょっと――!?」

 突然手を引かれて戸惑う恵里衣を連れて円は友里と里桜の背中を追いかけていく。


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