Dreamf-15 明かされし嘘(C)
8
リサイブドの放射する炎熱線。
人間ではまともに受けられない。たとえバリアを張ったところでたやすく突破されるだろう。
「ハッ!」
だが円のシールドならばほぼ永久に防げる。
チーム・エイトの四人の前に踏みでる形で、
片手を突き出す。と、
コロナリングが出現。
そのリングの中に靄のような空気の揺らぎがある。
リサイブドの炎熱線はその靄へ、
円等へは届かない。
すると、色の薄かった靄は徐々に炎の様に赤みがかってきた。
「クッ……!」
だがこの状況がいつまで続くか。
エネルギーも永遠じゃない。
「撃て!」
当然分かっているチーム・エイトの四人は円の背後からリサイブドに向けてトリガーを引く。
連射された四人の銃弾はリサイブドを穿ち、炸裂し、
火花が大量に散る。
普通の銃弾では当然ダメージ等通る筈もないが、IAの防衛軍が使用する武器――ヴァルティカムユニットにはスピリットがビーストを相手に使っている者と同種類のエネルギーを内包した銃弾と火薬が使われ、その威力を最大限に生かす構造となっている。
故に、四人が連なり放つ弾丸は、間違いなくリサイブドを穿つ。
無数の弾丸に当てられ、炎熱戦を放射するリサイブドの攻撃が止まり、
悲鳴を上げ、
その弾丸から逃れるように後ずさりしていく。
「クッ――、ハァァァアッ!」
攻撃が止まったところを見計らい、円は、
張っていたシールドを引き寄せ、縮小させ、
すると、薄ら気味であった赤みは濃くなり、
「デアァアッ!!」
その光を球体にし、
リサイブドにめがけて投げ飛ばした。
攻撃を受け続けて、それをため込んで、さらに円自身のエネルギーを上乗せした力。
それはストレンジブレイズウェーブと互角以上のパワーを発揮、
リサイブドの身を溶かす。
散る強力な熱はもちろん、人の身では持たない。
チーム・エイトの四人を覆うように紫色のシールドが展開され保護する。
大きなダメージを受けたリサイブドは悲鳴を上げてその場で手足を振り回して、暴れる。
少々危ないが、追撃の好機ーー
「ハッーー!」
円は駆け、リサイブドの懐へと飛び込む。
自分の体に剣が当たらぬよう、リサイブドの腕を押さえ、
至近距離の斬撃をかわしながら、
「――ッ、
ゼアッ!」
拳をその身へと穿つ。
リサイブドの体、
拳を受けた部位には赤い光が滞留、
爆発し、肉を破壊する。
そのダメージで今度は正気に戻ったのか、
リサイブドは今自分の攻撃範囲に踏み込んできている円にめがけて炎熱を放とうと、
溜込みを一瞬――
「――ッ」
先ほど打ち出した球体のエネルギー。
一部をまだ残しておいて、正解だった。
そのエネルギーを拳に乗せ、さらにもう一度自分のエネルギーで威力をブーストさせ、
「オォリャァアッ!!」
リサイブドの顎下を殴った
すさまじい衝撃と撃音、
赤い光が散り飛ぶ。
口内のエネルギーは暴発し、ぷしゅんと目に見えぬ空となって吐き出され、
強烈な威力の一撃を受けたリサイブドは大きく後退り。
そのあとすぐに周囲からチーム・エイトの銃弾の幕を受け、
休む暇を与えない。
もう一撃、必殺技を叩き込む。
ストレンジブレイズウェーブでは耐えきられる。
それを超える技を叩き込む――
「ハァァ――ッ」
両拳を握って両腕を大きく広げる。
体全体にため込まれる強大なエネルギー
広げた両拳を縦に、前に突き出し、その両手に宿るは二つの太陽。
両手を大きく回しながら両手の上下の位置を逆にし、
「――ッ」
右手の拳を目いっぱいに引き込んで力を溜め込み――
そして左手にあった光も右手に引き込まれ、集められ――
右手に光が集中するとその右手を中心に巨大なコロナリングが現れる。
コロナリングの中にある光は左手に集まっていたエネルギーそのもの。
リングが小さくなるにつれ、右手に光が集まっていく。
そしてコロナリングのが円の手の中に――
そしてエネルギーが完全に溜め込まれ、
「距離を取れ!!」
円が放つ必殺技の威力をよく知っている本木が咄嗟に他のメンバーに指示をする。
それに反射するようにトリガーから指を離し、背負っているバックパックのブースターを起動、リサイブドから大きく距離を離す。
「ゼァァアアッ!!」
円は撃ち出す――
引き込んだ拳を真っ直ぐに突き出し、
そして突き出した拳から放たれる。
紅蓮色の光線は空を焼き、かろうじてチーム・エイトの四人へと熱線を当てることなく、
刹那の内にリサイブドへと直撃する。
――デュアルコロナバスター。
ストレンジブレイズウェーブの二乗以上の威力を誇る、
現時点で円が撃ち放つ、最強の必殺技。
先ほどストレンジブレイズウェーブでさえ仕留めきれなかった。
だが、おそらくこれならば――
と、思い描いた通り。
リサイブドを穿つ、
焼き尽くす、
潰す。
ジジジジッと熱で身を焼き尽くされる音と、
キィィイイッと言う金属を焼き切る音。
その中にリサイブドの悲鳴が混じり合っている。
円の拳にため込まれていたエネルギーが全て撃ち尽くされるまで数秒。
同時に、リサイブドは甲高い悲鳴を上げて両手をだらんと下げて倒れ――
その身を爆砕させた。
周囲にビーストの気配は無い。
「状況終了」
そして本木の合図。ビーストの完全消滅を正式に確認した事を示す。
戦闘の緊張から解かれ、ふぅ、と円は息を吐き出して構えを解き力を抜く。
「マドカ!」
名前を呼び、近づいてくるのはケイスだ。
「ほれ」
そして拳を差し出してくる。気も抜けた円は笑みを浮かべてそれに乗り、自分も拳を差しだしハイタッチ。
「力の使い方がうまくなってるみたいだな、円」
「ええ、まあ」
続いて円へと話しかけてきたのは雲川。
彼の言うとおり、戦いを重ねるたびに何となく出来ることが増えていっている。
得意不得意はあるものの、エネルギーがある限りだいたい何でも出来るようだ。
「本木キャップ!」
そして今気になっている事が一つ。本木が言っていた事だ。
「ん、何だ」
「さっき言ってたこと……」
「桐谷恵里衣の事か」
「エネルギーが感知されたって」
「ああ、その事についてはいま特捜チームが当たってーー」
と、言うところで通信が入ったようで耳に当てているインカムを押さえる本木。
通信の周波数をあわせ、円も自分のインカムを耳に当てて聞き取る。
相手は杉森であったようで、
『本木隊長』
「どうした」
『いません』
「何?」
『エネルギーが探知された場所にいるんですが、いないんですよ』
「桐谷恵里衣がか?」
『それだけじゃありません、もぬけの空です』
「何を言ってる?」
『病室だったんですよ。クリムゾンのエネルギーが探知された場所は。天ヶ瀬君の友人を眠らせてた』
「何だと!?」
杉森のその報告。
「ーーッ!」
そのとき、円の背筋に悪寒が走った。
戦闘が終わって、思考を回せるようになって考える。
問題は、恵里衣は何故力を放出したのか。
ヒントは、友里や里桜が何故いなくなっていたのか。
この二日間であった出来事。
「まさか!!」
整理して考え至った。
至ると、円は病院の方に振り向き駆け出す。
「――ッ、マドカ!?」
ケイスの呼び止めも聞かずーー
一瞬でチーム・エイトの四人の姿も見えなくなる。
そのときふと、エネルギーの流れを感じ取り、それどころか斬撃と銃撃の音が聞こえた。
あのときの感覚に、よく似ている。
誕生日、友里を助けた時と。
そのとき、円の瞳が一瞬だけ緑へと、変わった。
9
すさまじい閃光と爆音で衝突した赤と黒の光。
赤は恵里衣。
黒は鈴果。
二人、銃身と刃交わせている。
恵里衣の斬撃の力をまともに受けぬように、
鈴果は恵里衣と同様に間合いを詰め寄り、柄により近い所を銃身で押さえることで斬撃を止めた。
「クッ――」
「フン……」
互い、初撃を当て損じ、
今まさに次撃をどう当てようかと考えている所であろう。
だがその互いの表情を見合うに、余裕がある鈴果の方に分があるようだ。
「一つ聞いておこうかな。僕が念入りに感知されないように張ったこの空間、君はどうやって見つけたのかな」
「ふん、どうせ気づいてたんでしょ」
「さあ?」
「昨日のうちに、ウリエルでアンタにマーキングやってたのよ。もし、アンタが力を使った時、私がすぐ気づくようにね。ついでにワープポイントにもしておいて、どこに居ようとも私がアンタの所へすぐ飛んでいけるようにした。ま、それでも壁を突破するまで時間かかっちゃったけど、さッ!!」
答え様に、すぐそこにいる鈴果を前蹴りで蹴り飛ばす恵里衣。
咄嗟に半歩身を引かれた為かあまり強く当てることが出来なかった。
だがその隙、
ウリエルの刀身から鈴果の持つ銃の銃身が僅かに離れた、
それだけの隙間があれば十分。
「――ッ!
ハアッ!!」
そのままぶつけて思いっきり振り切った。
「クッ……!」
身体を弾き飛ばされ、体勢を崩される鈴果。
息つく暇も与えない。
恵里衣はウリエルで刺突――
「――ッ!」
とっさに銃でその軌道をずらす。
刀身は鈴果の頬を掠め、
「――ッ、
ハッ!」
地面に手を着く形となった鈴果はそれを軸に回し蹴り。
恵里衣の顎下を穿つ蹴撃であるが、
上半身をほんの少し引くことで躱す。
だがその隙に鈴果は恵里衣と大きく距離を離し空中に逃げ、
上空から恵里衣を銃撃。
今度は黒弾ではなく、見えない銃弾であるようで、
だが恵里衣にはそれが見えているように刀で弾き飛ばし、
「――ッ!」
恵里衣も同様、空中に。
そして刀で空を斬り、
「ハアアッ!」
刹那恵里衣の姿は鈴果の目前に、
縦一閃に斬撃、
鈴果は、とっさに刀身がふれる部分を黒い光のシールドでガード。
ガードが出来たその一瞬の隙に鈴果は恵里衣にめがけてゼロ距離でトリガーを引く。
「な――ッ!?
クッ!」
その寸前に動きを察知した恵里衣は引き下がり、
自分に向けられる銃口、恵里衣は横に逸れて銃弾を避けた。
お互いの距離が離れすぎていると余計に不利になる。
躱しつつも鈴果を離れさせないには、
「ハッ!」
休めない事。
次の銃弾が放たれる前に攻める。
致命傷を与えるまで無くとも気を逸らせる程度には――
手を地面と水平に切り、
赤い光刃を撃つ。
これもゼロ距離。
急所は外さない、
それを分かっている鈴果も距離を取る動きを一瞬止め、避ける。
「逃がすか!」
そこをさらに攻める。
捉えた――
恵里衣の刀は確実に、
再び、心地よい斬裂音と共に鈴果の体を斬った。
先ほどの様に体を真っ二つにすることが出来なくとも大きく、深い傷をつけられた。
「クッ!」
動きが鈍る。
足りていない。鈴果を倒すには、まだ足りない。
必殺の一撃を――
ダメージと言う概念では無い、もっと別の。
「――ッ!」
答え等、すでにある。持っている。
鈴果の体を別空間へ飛ばす。
顔面でも持っていければ一撃で終わる。
ウリエルに赤い光と、黒い稲妻が宿り、鈴果の首を斬る――
瞬間、恵里衣の背中に衝撃、
「――ッ!? ぐあっ!」
爆発した。
この感じ、背後から黒弾で撃たれたものだ。
空中から叩き落されることが無くとも、体勢を崩された恵里衣。
鈴果にとっての最適な距離を離させるには十分な時間を与えてしまった。
「くっ……!
これでいつでも鈴果は恵里衣に強襲を掛けられる。
いつの間にか、恵里衣がつけた傷も、無くなっている。
やはりダメージが無かったことにされている。
「なるほど、あの時僕を斬ったときにマーキングさせられていたって訳か」
「ええ。いい機会だったからね、そろそろ裏でこそこそ立ち回られるのも、鬱陶しいし」
「はあ、酷い言われようだ。それはつまりあれかな?」
「決着つけてやるって言ったのよ!」
まっすぐ、恵里衣は鈴果へと飛び向かう。
当然、近づかれては不利になるので鈴果は恵里衣に銃口を向けて、トリガーを引く、
「――ッ!」
トリガーを引いた瞬間だけ、隙が生まれる。
銃弾が恵里衣に着弾、
その際に生じた煙の中に姿を隠す。
「……ッ!?」
呆気を取られる鈴果。
突然、その煙の中から赤い光刃が数発飛び出してきた。
「クッ!」
一つ一つがウリエルで放たれたものであるかのように大きく、躱しきれないと判断したのか、
鈴果は自分の前方にシールドを展開、
無数の光刃を弾き飛ばした。
そして最後の一発――
弾き飛ばすのは容易に思えただろう。
むろんそうする。
そのとき同時に煙が取り払われ、姿が見えた――
「――ッ!?」
ウリエルを赤熱させ、膨大なエネルギーと共に赤い光と炎を纏わせて。
恵里衣が放つ最大の威力――クリムゾンフォトンレイ。
そのチャージが今まさに終わっていた。
鈴果は一度、消滅を無かったことにしている。
それもあってエネルギー自体の消費も大きいはず。
そしてもはや、止められない。
「――ッ、ハアアアァァッ!!」
ウリエルの刀身を下に向け、
峰に腕を当て――十字を作る。
と、ウリエルの赤熱する刀身、赤い光が強くなり光線となった。
空を焼き、刹那の間に鈴果へ。
「クッ!!」
鈴果に出来る事は、受けるダメージを軽減させる事。
それ以上の手は出せない。
とっさに一点に集中させるシールドを出現させ、クリムゾンフォトンレイを受け止める。
多少なりとも軽減は出来ただろうが、
ふれた瞬間、ジジッという焼き切る音が一瞬、
そしてバギンッという破砕音――
「グアアアッ――!」
その中に鈴果の悲鳴が聞こえたがそれもすぐに掻き消され、
「グアッ!」
地面に叩き落とされた。
全身が焼かれ火傷の跡があちこちにでき、ドレスも焦げ付いている。
ゆっくりと地に降りて鈴果の様子を伺う恵里衣。
クリムゾンフォトンレイを受け大きなダメージを受けた鈴果は両手を支えにして立ち上がろうとするも力が入らないためか地面に着く手を滑らせまるではいつくばっている様にも見える。
大きなダメージを与えられたようだがまだ消えてはいない。
「さすがにそれだけのダメージ食らってたらこの空間も持たないでしょ」
「くッ……、恵里衣……ッ!」
珍しく、鈴果が歯をむき出す悔しみが見える表情を見せ、恵里衣を睨んでくる。
「さあ、さっさとそのダメージも、お得意の幻術で無かったことにしなさいよ。そうした瞬間に終わらせてあげるから」
鈴果の方へと歩み寄る恵里衣。
その一歩一歩が死へのカウントダウン。
「恵里衣ちゃん! 友里!!」
そのとき、この空間にさっきまでいなかったはずである彼の声が聞こえた。
「円……」
鈴果は絞り出すようにその彼を呼んだ。
「ここが分かったって事は……そうか。もう、近いのか……ッ」
いまようやく立ち上がり、空を仰ぐように見上げため息を吐き出す。
「鈴果……」
先ほどまでから様子が変わった。
まるでこの時を待っていたと言わんばかり、
「くっ、くはははっ……」
笑う。
「はあ、ちょうどいいや。ここには全員そろっている。ねえ、恵里衣?」
「……!」
その言葉の意味。
分かった瞬間恵里衣の胸の奥が締め付けられた。これは、明確な恐怖。ビーストと対峙する以上の。
「円も知りたいだろ? 恵里衣が何で出来て、君に何をしたのか」
「鈴果……!」
「恵里衣が、君の何を知っているのか」
今すぐ始末しなければならない。
分かっているはずなのに、何故出来ない。目の前に円がいるからだ。
「なに……?」
「恵里衣、君の口から言わないと」
黙る。恵里衣は恐怖に手を震わせ、しかし尚も鈴果を睨む。それ以上口にするなと、釘を刺すように。
「恵里衣ちゃん」
「…………」
「何も隠してないんだろ? きっと、なんでもないんだよな?」
「黙って……」
「恵里衣ちゃん!」
「黙って!!」
「……ッ。じゃあ、恵里衣ちゃん……君は何を知ってるんだ? 僕の何を知ってるんだ」
円は今、箱の蓋に手を掛けた。恵里衣が絶対に開けてほしくなかった箱の蓋に。そして鍵――
「恵里衣がしゃべらないなら、僕が教えようかぁ」
そうして、鈴果は口元を大きく歪めた笑みを浮かべてゆっくりと円の方を向く。
「天ヶ瀬円ァ!!」
彼の名を呼び、指さし――
「君に聞こう!
何故君が最初に出会ったスピリットが彼女だったのか!
何故彼女が君の事を知っていたのか!
何故君を守ろうとするのか!」
「やめて……っ」
「でもそんな君自身の扱いは行ってきたこととはまるで逆だ。まるで君に嫌われようとしている! 遠ざけようとしている! それは何故か――。答えはただ一つ」
「――ッ、鈴果ァアッ!!」
気づけば、恵里衣は鈴果の名を叫び、足が動いた。
「天ヶ瀬円! 君が三年前死んだその理由! その理由になったのが桐谷恵里衣自身だからさァ!!」
そうして鈴果の胸ぐらをつかんで押し倒して黙らせようとした頃には全て口にされた所だった。
「あっははははっ……」
押し倒され、座り込むような形となりながらも漏らしだすように笑う鈴果を、今もう一度この手にかける所だった。
だがその思いすらもすぐに掻き消された。
知られた。
知られたくなかった。
絶対に知られたくなかった事。
「恵里衣ちゃん、まさかあの時の……」
円が答えに至った。
きっと、友里も至ったはずだ。鈴果の言う嘘つきが誰なのか。
ほんの一瞬の放心。
「フッ……」
「ぐっ……!」
その隙を取られたかのように恵里衣は鈴果の強く突き飛ばされた。
鈴果は立ち上がり、ため息を一つ。
「さあ、悪夢を一緒に楽しもう。
くっ、あっははははは――――!」
そうして後ろに振り向き歩き去る――
その後一瞬にして、鈴果は影のように姿を消した
「恵里衣ちゃん……」
円に悟られ、
そして友里にも知られた。
もはや恵里衣の心に、二人と共に居るという余裕は無かった。
「くッ、
うあぁっ!」
恵里衣はウリエルに赤い光を宿らせ、
円の方にめがけて巨大な光刃を放った。
それは地面に炸裂し大きな爆発を起こさせ、大きな土埃を立ち上げる。
「ぐあっ――!?」
円の身はたちまちに爆発の閃光の中へ。
10
「……ッ、円!!」
友里が自分の名前を叫んだ。
恵里衣の放った光刃。その爆発を咄嗟に腕でガードしたため何とかなった。
きっとワザと外したのだろう。
しばらくして土埃が晴れ、視界が明瞭になる。お互いの姿をようやく目に捉える事が出来、
「円……」
友里は安堵した様にもう一度円の名を呼ぶ。
円と友里、里桜の三人。その場で確認できるのは三人――。先ほどまでいたはずの彼女が、恵里衣がいない。姿を消したようだ。
「恵里衣ちゃん……」
呼べば姿を現すはず。
だが、恵里衣はもうそこにはいなかった。
鈴果の展開した空間が消滅するのはその後数十秒の頃であった。




